それぞれのギフト
「凛ちゃんのギフトは『鎮圧』ね」
亜矢子さんが手元にある書類を見ながらそういった。
「ま、そうなりますよね」
私と亜矢子さんがいるこの場所はアイリスから車で十分ほどの場所にあるギフト使用用に建てられた屋内の演習場である。
ちらりと周りを伺うと2名のギフト持ちの職員が苦しそうに座り込んでいる。
私とバトった時の疲れがまだ抜けていないようだ。
「大丈夫ですか?」
彼らに駆け寄りそう問う。
「あ、ああ、大丈夫だよ。しかし驚いたな手も足も出なかったよ」
「それが私のギフトの特性らしいので」
にっこりと笑顔を向ける。すると相手も緊張が解け穏やかな顔つきになる。
「いやはや、将来有望だな。これからの君の活躍に期待させてもらうよ」
「ええ、みんなのためになるように頑張ります!」
ふんすっと可愛らしく力こぶをつくりながら、まるで黒木のようなことを言う。心の中では舌をだしながら。
「おーい、凛ちゃん!ようやく凛ちゃんのギフトについても分かったし、そろそろ帰ろうか」
職員と話していた私に亜矢子さんの声がかかる。
それでは、と職員に断りをいれ、亜矢子さんの元に向かう。
私がアイリスに入居して半年、ようやく私のギフトが判明したのだった。
◇ ◇ ◇
「それでその『鎮圧』ってどんなギフトなんだよ」
「問答無用で私に跪かせる女王様系のギフトだな。やれやれ、心強いがか弱く虫も殺せないような私には不釣合いなギフトだろう」
「……ありえない単語が幾つか混じってるが、恐ろしいほどお前にぴったりなギフトだな」
時刻は夜8時、我々子ども組の4人は談話室に集まっていた。
「すごい能力なんだね、凛ちゃんのギフト!いいなあ僕のギフトもすごい能力だったらいいなあ」
「……悠人、なんでいつもお前、凛を全肯定なのかは知らないが、こいつがすごく恐ろしいやつだってことだけは分かるぞ」
恭弥は呆れの混じった視線を私に向ける。
「なんだい?まだ半年前、自慢の『烈火』が私に通用しなかったことを根にもっているのかね?
狭量な男だな、君は。黒木、君はこんな男になっちゃいけないよ?」
「うるせえな!……半年前は俺が悪かったよ」
恭弥がばつが悪そうにそっぽを向く。
「ふふ、悪かったね恭弥。君がそんな男ではないとちゃんと私は知ってるよ」
からかいすぎてしまったためフォローを入れる。恭弥はまだそっぽを向いていたが、ここから見える横顔は微かに赤くなっている。
「お姉ちゃんはお兄ちゃんと同じ、第二等級のギフトなんだよね?やっぱり大きくなったらギフトの仕事をするの?」
それまで沈黙していた茜が私に問う。
「さて、どうだろうね。多少の義務付けはされるだろうがある程度の選択の自由はあるからね」
こうは言ったが、本来の私の等級は第一等級だ。選択出来る自由はさらに狭まるだろう。
「そうだな、お嫁さんとかどうだろう?」
私の言葉にこの場の空気が固まる。
「凛ちゃん、結婚するの!?」
黒木が慌てたように私に迫る。
「落ち着け、そういう未来もあるという話だ」
まあ、今のところ恋愛なんぞするつもりはサラサラないが。
「ハッ!こいつの場合、嫁になるっつっても結婚詐欺か保険金目当てだろ…うおっ!」
そういった恭弥の身体が椅子から崩れ落ちる。
「おやぁ?どうしたんだい恭弥、そんな無様な格好をして?自分の身体で床を掃除してるのかい?」
私のギフトに恭弥はうまく身動きがとれず、床をモゾモゾと動く。
「ク、クソッ!この性悪女!さっさとギフトを解きやがれ!」
「さて、私のギフト?君がザザムシの如く床掃除をしているのは自主的に行ってることじゃないか。
見上げた奉仕精神だ、賛辞を送るよ」
と私は手元にあるココアを優雅に飲む。
「よくわからないけど、恭弥くん。凛ちゃんに謝ったらほうがいいと思うよ!」
笑顔で的確に核心をつく黒木。
「だ、誰がこんな奴に!」
そして蠢くザザムシ。
「……思っていても言っちゃだめだよ、お兄ちゃん」
喧騒に紛れるような茜の呟き。
一度、茜とはじっくり話をする必要がありそうだ。
◇ ◇ ◇
就職直前、床に就いた私に黒木が話かけてきた。
私たちの部屋にあるのは2段ベットだ。1段目を私、2段目を黒木が使用している。
「ねえ、凛ちゃん?」
黒木が上から覗き込むように語りかけてくる。
「なんだい?」
「僕と凛ちゃんは第一等級のギフト持ちだけど、第一等級のギフトってすごいものばっかりなんだよね?」
「ああ、そうらしいな」
絶対数こそ少ないが第一等級のギフト持ちは個人で国を相手どれる化物ばかりだ。それゆえギフトも相応のものになる。
「……その中には人を殺しちゃうような怖いものもあるよね?」
「……ああ」
それを気に病んでいたのか。戦闘系のギフトには物騒な能力もある。それが第一等級ともなればなおさらだ。
「そんなギフトだったら嫌だなあ。みんなが幸せになれるようなギフトだったらいいな」
「………」
言ってしまいたかった。君のギフトは素晴らしい、どんな人や物も助けられるギフトなんだよ、と。
この優しい少年に教えてあげたかった。だが、
「凛ちゃん、寝ちゃった?」
「……いいや、起きてるよ」
まだ早い。知ってしまったらギフトの重みに潰れてしまう。そのくらい彼のギフトは破格なのだ。
「大丈夫だ」
だからせめて、
「君ほど真摯にギフトと向き合う者などおるまい。だから大丈夫だ、信じ続ける限りギフトは君の思いに応えてくれるよ」
祈りを送る。この少年の未来に光あれと。
「うん、ありがとう凛ちゃん」
黒木の声が微睡みを帯る。
「では寝ようか、明日もいい1日になるよ」
「……うん、おやすみ……凛ちゃん」
そうして黒木の声は途絶え、規則正しい寝息が聞こえる。
「おやすみ、黒木」
そうして私も、
自身のギフトについて考える。
「『鎮圧』か」
収まりとしてはこの辺りがちょうどいいだろう。
警戒するほど強くはなく、かといってもちろん弱くもない。まさにちょうどいいギフトだ。
うまく誤認してくれて助かった。「鎮圧」は私の本来のギフトの能力の一端にすぎない。
黒木同様、私のギフトも知られるわけにはいかなかったのだ。
ともあれ「鎮圧」を私のギフトとして認知させることができた。
なぜそのようなことをしたのか?
原罪のクオリアはギャルゲーのなかでもバトルパートが多い作品だ。多いということは敵キャラも多い。
そして敵キャラは外からくるだけではなく内にもいるということだ。




