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ヒロインは辛いよ  作者: 葵行
プロローグ そして彼は舞台に上がる
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ゲームスタート

  理不尽なこと、というのは長い人生往往にしてあるものだ。青信号なのに車に轢かれるとか、唐突な株の暴落だとか。

  だからまぁ、それらの出来事に俺らが直面したとして出来ることといったら場合にもよるが許容できるかできないかだけだろう。

  許容、そう許容だ。

  理不尽なことといっても何かしらの因果関係はある。あなたはこうこうこういう理由で被害を被ったのですよ、と説明がつく。推測ができる。



  長々と前置きをしたがつまりはひどい目にあってもそこに至る理由があるんですよということだ。因果関係は物事の連続性によって成り立つ。

  では物事が不連続な場合はどうだろう。

  瞬きをしたら外国にいたとか、同時間帯の記憶が二つあるだとか。まぁ説明ができない、あるいは難しいそういった理不尽だ。

  不連続。言葉通りまるで前後が繋がらない。スイッチのオンオフのようにゲームの電源をいれる気安さで俺の理不尽は現れた。

  許容? 出来るわけねぇだろ。



 ◇ ◇ ◇



  気がつくと白いリノリウムの空間、パジャマ姿の少年や看護師の姿も見える。鼻の奥に広がる独特の匂い。有り体に言えば病院の一角のようだった。目の前に受付があることからここは待合室のようだ。

  は? という疑問符で頭が一杯になる。直前まで自室で大学の実験レポートを仕上げていて、休憩にコーヒーでも淹れようと立ち上がった瞬間にこの光景だ。

  半ばパニックの所に隣に座っていた女性から声がかかってきた。

「凛ちゃん? どうしたのぼーっとして。 何かおもしろいもの見つけた?」

  反射的に横を見上げると20代ほどの品のいい美女が笑顔を向けている。

  いや、あなた誰ですか。つーか、ここどこよ。と言葉が口から滑り出す前に女性の奥にあるガラスに映る己の姿が目に移る。



 そこには、薄く青みがかった髪を肩口まで伸ばした、少し戸惑った表情の美幼女の姿が映っていた。



「ええええええぇぇぇ……」

  切羽詰まったような、どこか脱力したような声が自分の口から漏れる。鈴のなるような可愛らしい声の悲鳴はそこまで大きくなかったようで隣の女性もそこまで気にしなかったようだ。



  大野雄二、20才、男、職業:大学生。

  気がつくと幼女になっていました。




 ◇ ◇ ◇




  未知の情報に囲まれた時、人はパニックに陥るか、思考を放棄しやすい。この時俺のとった行動はひたすら観察しながら状況に流されるというものだった。

  あまりにぶっとんだ状況であったため、かえって冷静になれたのは幸運だった。自身の姿も客観的、俯瞰的に見れた。

  凛というのは俺の名前らしい。現在分かっていることがこれのみのため、どうアクションを起こしたものかと考えあぐねる。すると受付から声がかかる。

「姫咲凛さん、診察室へ」

「あら、順番ね。凛ちゃん、行きましょうか」

  もの思いに耽る間に時間が経ったようだ。ここにはどうやら凛って子の診察に来ているらしい。

  隣に座っていた母親らしき女性に手を引かれ診察室へと向かった。

  姫咲凛という言葉にどこか引っかかりを覚えながら。




 ◇ ◇ ◇




「こんにちは、凛ちゃん」

  診察室に入ると30代前半ほどの男性が笑顔で迎え入れた。

「……こんにちは」

  ぼそぼそと蚊の鳴くような声でようやく挨拶に応えた。思っていた以上に自分は緊張していたらしい。

「あら、緊張しちゃってるのかしら。大丈夫よ、凛ちゃん。注射はしないってお家で言ったでしょう?」

「ははは、どの子どもも病院は嫌がりますからね。今日は簡単な診察だけだから心配いらないよ」

  と母親(仮)と医者が安心させるような声をかける。

  いやあんたの娘さん、内面男になってるよ。むしろ精密検査が必要だよ、とは口が裂けても言えない。

「さてお話を伺いましたところ、凛ちゃんにギフトの刻印が現れたとか」

「ええ、背中の肩甲骨のちょうど真ん中あたりに」

  なんかまた新たなワードがでてきた。ギフト?刻印?

「それじゃあ凛ちゃん、後ろを向いて上着を上げてくれるかな」

  母親(仮)に促され言われるがまま後ろを向き、首元まで服を上げる。

「……見たことのない刻印ですね。ここまで複雑な紋様は初めて見ました」

「そうなのですか? 私たち夫婦や親戚筋の方々もギフト持ちはいなかったので、このようなことには疎くて」

「おや、珍しいですね。 大抵のギフト持ちの子は両親の両方、あるいは片方がギフト持ちの場合が殆どなのですが。

  ああいえ、だからと言って凛ちゃんがおかしいということはありません。偶にあるんです、まるで先祖返りのように近親にギフト持ちの方がいなくてもギフトが発現することが」

「はぁ……そうなのですか」

  母親(仮)のほうは医者の説明にあまり理解が進んでいないらしい。 疎いというより殆ど知らないといった感じだ。

  ん?

  いやまて、姫咲凛、ギフト、刻印、ギフト持ち。

  俺の頭の中で乱雑に散らばったパズルのピースが埋まっていく。想定された答えに顔が青ざめていくのを感じながら最後のピースをはめる。そうして完成した絵は、



 原罪のクオリア 〜ココロ重ねて〜

 限定版:8,800円(税抜)

 通常版:6,800円(税抜)



  5人のきらびやかな女の子が特徴的なパッケージイラストだった。その中には姫咲凛の姿も見れる。というかど真ん中にいるし。

  えーと、つまり、これは、この状況は………




「ギャルゲーじゃねぇか‼‼‼」

  あまりの状況からの心からの叫びに脳が許容情報量を超えたらしい。ゆっくりと意識が薄くなっていく。

  母親(仮)の戸惑った表情を最後に完全に意識は途絶えた。




  これが元大野雄二、現姫咲凛に降りかかった理不尽だ。

  ああ願わくは次に目が覚めたらやり残しの実験レポートのある自室でありますように、勿論大野雄二の姿で。

  俺はそう切に願った。

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