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08 田所くんと放課後、の話。



 放課後、ファーストフード店での勉強会。

 それは、選ばれし民にのみ与えられた特権である。そして言わずもがな、私にその権利はない。あるわけがない。


 というか、そもそも勉強を会合化する意味がどこにあるのだろうか?

 確かに、頭の良い人を誘うのは分かる。効率の良い勉強法だったり、テストに出やすい問題を知っているだろうから、そういう人に教われば非常に効果的である。

 しかしその法則で考えると、私が誘われた意味が分からない。

 もちろん、今のところ学生の本分を忘れずにいられているため、まあそんなに悪い成績ではないと自負しているが、しかし上位グループに入れたことない。まあ、間違って入ってしまった日には成績上位者として掲示板に張り出され、晒し者にされてしまうのでありがたい限りではあるが。


 して、そんな特に取り柄のない私を、ドーナツ二個とドリンク一杯という対価を支払ってまで、どうして和泉くんは勉強会に誘いたいのだろうか?


 可能性として考えられるのは、頭数を揃える必要性。もしかしたら選ばれし民の勉強会は、塾の講師のような方をお招きしているのかもしれない。そして、そのためには一定数の受講生が必要で、私はそのために声を掛けられたのかもしれない。


 だけどその場合、疑問と問題が一つずつ浮上する。


 疑問の方は、人員として何故私が選ばれたのか。教室内外で不特定多数の人物と交流している和泉くんなら、人員の確保は容易かったはずだ。なのにどうして、こんな〇・三人分くらいにしかカウントされないであろう私をチョイスしたのか、甚だ疑問でならない。まあかろうじて、近所のスーパーで母さんの背後霊のように歩いていても、お一人様一パックのたまごを二パック買えてはいるが。


 だが続く問題に関しては、それが逆効果となる。いくら影が極薄スリムな私でも一人としてカウントされるなら、そこには一人分の受講料が発生するからだ。

 講師を招く以上、まさか無料というわけにはいくまい。ボランティアでない限り、そこにお金が発生するのはこの世の理である。

 しかし、そうなると私のお財布事情が問題となってくる。というか財布自体、学校に持ってきてないのだ。不慮の事態を想定して、学生手帳に英世を二人忍ばせているだけなのである。

 はたして、双子忍者・英世で講師に勝てるだろうか……。一度、家に帰って財布を持ってきた方が良いだろうか……。

 というか根本的に、私なんかが参加して良いのだろうか……。


 といったことを和泉くんに尋ねようとしたが、休み時間はクラスメイトと談笑しているし、昼休みはチャイムと同時に、まるで何か恐ろしいものから逃げるように教室からいなくなってしまったので、結局聞けず仕舞い。その上、帰りのHR終了後は、


「ごめん。先生に呼び出しくらってるから、先に行ってて! すぐ追いつくから!」


 と、やはり校内法定速度を無視したスピードで走り去ってしまったので、今ここに至る。

 ここ――つまり、ドーナツショップの前である。

 だが、できることなら今すぐにでも帰りたい!


 ――ああああ、女子高生がいっぱいいるよおおお! 若さが眩しいよおおお!


 駅前という立地と放課後という時間帯が、ガラスの向こうを女子高生の巣窟にしている。それも、ウチの高校はもちろん近隣二校の学生も入り混じり、その様はまさにカオス。そんな中に私のような不審者が入り込んだら、「え? 何コイツ気持ち悪い」と炎上確定である。というか入った瞬間、人体自然発火現象を起こす自信がある。


 ……うん、これは無理だ。諦めよう。

 アドレスを知らないので連絡が取れないから、ここで和泉くんがやってくるのを待ち、伯母の友人のペットの親戚に不幸があったということで、今日のところは辞退させ――


「あれ、田所くん?」


 女子高生にエンカウントした。

 それも、かなりレベルの高そうな女子高生である。

 これはもう、アレだな。逃げようとしても、しかし回り込まれてしまうパターンだな。『すばやさ』を重点的に上げなかったことが悔やまれるばかりだ。

 それに、名前まで押さえられている。こうなっては挙動不審の変質者として、お巡りさんの到着を静かに待つしか……ん?


「……綾野、さん?」

「あれ、ごめん、驚かしちゃった?」

「あ、いや、あの……だ、大丈夫、です」

「どうしたの、こんなところで? 田所くんチ、確か逆方向じゃなかった?」

「あ、の……い、和泉くんに、誘われて……」

「明良に? ――って、もしかして、勉強会とか言ってなかった?」

「う、うん……」


 だけどどうしてそれを、と訊こうとした時には、綾野さんはまたも大きなため息を吐いていた。そして続いてその口から、


「……あのバカ、姑息な手を……」


 と、恨み言。


「いや、実は今日、ここで明良に勉強させることになってるのよ。ちょうどそっちのクラス、明日小テストあるっていうし、昨日の昼、帰って来なかった罰も兼ねて。そうじゃなきゃアイツ、ろくに勉強なんかしないし。だから田所くん、その緩衝材にされたってわけ」

「かん、しょうざい?」

「アイツの集中力、幼稚園児並みなのよ。だから、何かにつけてサボろうとする。そして、そのたびに私が怒る。だから、それを避けるために田所くんを利用したのよ、あのバカ。ホントごめんね、どうせまた、まともな説明もなかったでしょ」

「あ、う……うん」

「はぁ~……ま、せっかく来たんだし、一緒に食べてってよ。お金は、あとでアイツに払わせるから」


 そう言って、堂々とした足取りで店内へと入っていく綾野さん。


 一瞬どうしようかと躊躇ったが、慌てて私もその後ろに。コバンザメの如くついていかねば、この女子高生の大海を泳ぐことはままならないと、常時省エネモードの本能でも何とか察知できたからだ。

 そして綾野さんと共に、モチュモチュ食感が奇跡的なドーナツと昔ながらのガッシリ系ドーナツ、さらに、あまり注文したら経営危機に陥るんじゃないかと不安になるおかわり自由のコーヒーを手に、着席。四方八方から感じる視線にハチの巣になりながらも、かろうじて綾野さんの言葉に相槌を打って、


「……えっと、和泉に誘われて来たんだけど……」


 しばらくして現れたのは、その眼力で私にとどめを刺さんとするかのような人物だった。




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