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NOISE.3  作者: 坂津狂鬼
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別れ

何が起こったかを簡潔に説明すれば。

俺がわざと買ったものを隠し、秋音が買出しに行かなければならない状況を作り出した。

そして秋音をオトアの雇い主(オーナー)の部下……あの薄ら笑いを浮かべる不気味な人間が誘拐する。

いつまで経っても帰ってこない秋音を探すため、俺は家を出て、そのまま帰らず消息を絶つ。

そういう計画だった。

最後の段階である俺が消息を絶つ部分は、オトアがわざわざ手引きをしてくださるようで時間になるまで俺は暇だった。

だから本当はもう少し経ってから家を出て、消息を絶てばよかったんだが……あれ以上、シキの目の前にいることができなかった。

『本当にこれでよかったのかな、小月君』

視界は良好。白と黒に世界が別れてもいないというのに魔神の声がどこかから聞こえる。

それはすでにこの体にそうとう浸食してるという意味を指すのか。

それとも俺がこう決めたから、当然の結果として、浸食が激化していってるのか。

まあどちらにしろ俺の返答は「いいんだ」しかないんだが。

『後悔は……聞くまでもないか』

ああ、そうだ。聞くまでもない。というか訊くな。

そんなことの回答を聞いたところで、誰も何も得をしない。

『今ならまだ戻れるけど―――』

ふざけるな。今更戻れるか。

ここで戻ったところで、何も解決しやしない。そう教えたのはお前だろ。

今更シキの元に戻ったって、あるのは悲劇だけだ。

『戻っても悲劇。戻らなくても悲劇。どっちの悲劇を選ぶかだけの話だと思うけど……』

なら俺に降りかかる悲劇を選ぼう。

……ってどちらも俺に降りかかるのは悲劇だけだけど。

やっぱり、俺はカッコつけるとかそういうのが出来ない性質なんだな。

『だねぇ……シキもそう言うと思うよ』

でもまあ、シキの前ではカッコつけたいよな。

カッコ悪い自分なら散々見られたけど、カッコいい俺の姿なんてシキは一度も見てないんじゃないか。

俺もそんな姿をした記憶ないし。

『……そろそろ時間だよ。覚悟は?』

――――――できてる。

自分の中に何かが混ざっていく感覚がする。

魔神の力。魔神の精神。魔神の魂。魔神の存在。

それらが混ざっていく感覚がする。きっとそれは俺の外見にすら表れ、今の俺の姿は中途半端な状態になってるだろう。

「小月……?」

……………………最悪だ。

だが仕方が無い。これは自分が招いた結果だ。

罪悪感から逃げ出した結果、その罪は俺を追いかけてきた。ただそれだけの事だ。

彼女に対して意志を言葉にして伝えることは無理だ。俺の心が持たない。

だからこの醜い中途半端な姿を晒して、それで意志を伝えるしか俺には手段がない。

「……どういう事だ、小月。わかんない。何で…………」

シキの動揺が目に見てとれる。

当たり前だ。そうなるのは当たり前だ。俺は裏切ったんだ。

シキが動揺するのは当たり前だ。俺はあいつに一生傍にいると約束したのに、裏切るから。

「アタシは、お前、何で……何でなんだ小月っ!!」

「シキ、ごめん…………」

俺の心が耐えられなかった。思わず謝罪の言葉が口から漏れ出してしまった。

シキはそれを聞いて、さらに動揺する。

いや……あの表情はもはや動揺だけじゃない。絶望にも近い、何かだ。

俺は、シキの望みすらも絶ったのか…………。

「小月……戻ってきて。お願い…………」

「無理だ。それは」

「お願いっ!」

「…………」

「お願いだから、小月ぃ……アタシを一人にしないで。助けて…………」

無理だ。その言葉を言うには辛すぎる。

その言葉を口にすれば、まっさきに俺の心は意志は崩れ去る。

だから何の返答もしてはいけない。耐えなければならない。

まだ人間である俺には辛いことだけど、これに耐えられないようならばシキを殺すことになるのは目に見えてる。

これに耐えられなければ俺は同じステージに立つことすらできない。

『もう来た。お別れの言葉は』

シキには聞こえない耳打ちを魔神がしてくる。どうやらオトアが到着したらしい。

俺からシキに言える言葉なんて何もない。何を言っても、俺が裏切り者になることには変わりない。

だけどせめて。だからこそ。嘘だと思われてもいい真実を。

「シキ。俺はお前のこと―――――」

「小月……ヤダっ! 行かないで! 傍にいて! ずっとアタシの傍にいて!!」

「         」


彼女が手を伸ばす。届かない。

彼が言葉を発する。届かない。

互いに互いの気持ちを伝えたというのに、彼らの思いが届くことはなかった。

彼女の意思は彼の意志に掻き消され、彼の言葉は彼女の叫びに掻き消された。

直後。刹那、光が断たれ、気づけばもう彼の姿はどこにもなく彼女の伸ばした手は空を切る。

そのまま彼女は崩れるように膝をつき、空は彼女の涙とともに雪を降らし始めた。

「アタシの傍にいるって……一生いるって、言ったじゃないか…………小月ぃ………………小月ぃ……っ」

その言葉は誰に言うのでもなく虚空に呑まれ、そして彼女は独りになった。

あ、やっぱり作者がクソ野郎だと主人公もクソ野郎ですね

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