当日
クリスマスパーティー当日。
今日は12月24日。クリスマス・イブであり、きっと外では用事がある奴もない奴も、彼氏彼女がいる奴もいない奴も慌ただしく動いていることであろう日。
しかしまあ結局三人でパーティーをすることになるとは……。
俺は静かだからいいけど、この面子ならパーティーする必要も無いんじゃないかな。
「だめだぞ小月! そしたら秋音がケーキ作ってくれなくなる!!」
シキの言い分では、どうやらパーティー故に秋音がクリスマスケーキを作るらしい。
そんなもの買えばいいじゃん、なんて台詞を言いたいが、残念ながらどこかの死神が俺の財布を気づかぬうちに殺しにかかっているため言えない。
「……暇だ」
たった三人のクリスマスパーティーの開催は、夕方。というか夜。
それまでの待ち時間、俺はどこかへ行く気などまったくない……というか外に一歩たりとも足を向けたくない。目を向けたくない。
シキもわざわざ一人でどこかに遊びに行く気もないようで、俺の部屋でどこからか持ってきた漫画を読んでいる。というか何故俺の部屋で?
「……なあ、小月」
俺の呟きに反応し、シキが話しかけてきた。
「なんだよ」
「小月は……アタシのこと、嫌いか?」
「好きだよ」
直後、シキの読んでいる漫画が蒼く燃えた。
「なな、なんで嫌いかって訊いてるのに好きって答えるんだっ!?」
「嫌いじゃないから]
「だからって、他の答え方があるだろっ!」
「ああ、ごめん。シキ。大好きだ」
「小月、お前アタシをからかってるだろっ!!」
「バレたか」
まあ俺は本心から答えてるのには変わりないんだが。
それにしても何でいきなりそんな事を訊いてきたんだ?
「まあ、いい。小月がアタシのこと嫌いじゃなかったらいいんだ……」
「……シキ。俺からも一つ質問いいか?」
「ああ、いいぞ」
「愛する者を救うために愛する者を裏切るしかなかったら、シキならどうする」
「…………小月の質問は難しすぎてよく分からん」
多分、シキはこの言葉の意味は分かっている。
でも答え方がわからない。自分ならどうするかを答えるのか、それとも、俺が求めてる答えを予想して言うべきか。または理想論。または現実論。
そういった場面でどうするかを聞きたいのか、それともこの質問自体に意味はなくシキがいう回答に意味が詰まっているのか。
俺が一体どういう回答を望んでいるのか。
シキはそこが分からないと言っているんだろう。
でもシキが予想できるそれらではない。俺がしたこの質問に、それに対する回答に……もはや意味などない。
これはただ、シキが質問してきたから俺も質問するという形式だけのもの。
もはや、これに対する俺の回答は決まっており、シキがどう答えたところで何も変わることはできない。
そういった質問なんだ。
「……でも」
シキに対する罪悪感に見舞われそうになった時、シキの口が唐突に開き、言った。
「裏切っても、裏切られても、傷つけられて、傷つけることになっても……愛する人と一緒にいることが許されるんなら一緒にいたい」
「………………単純だな」
だからこそ純粋で無垢で正直な答えだ。
「な、なんだとっ! アタシが一生懸命考えて答えた言葉だっていうのに!!」
「ごめん。思わず言っちゃった」
「本心からバカだと思っているってことかっ!?」
それは違う。
俺の口から出た、その単純という言葉は羨望にしかならない。
もし俺もその答えが出せたのなら、もう少し幸せな終わりが見えるかもしれないのに。
もし俺がその答えを出せる人間だったなら、もう少しだけでもシキの傍にいられたかもしれないのに。
俺の答えは違う。違うんだ。俺はそんな答えを出せる人間ではなかった。
複雑で虚実すら混じり薄汚れたような俺の回答。それを変えられるのならば今すぐ変えたい。
でももう今は無理だ。もうすべてを知ってしまったから。俺はこの答えを自身の意志として動かなければいけない。
義務として権利として願いとして責任として俺はこの答えで心を隠して動かなければいけない。
ごめん。シキ。
俺はお前を裏切ることになる。
ごめん。シキ。
俺はお前を傷つけることになる。
ごめん。シキ。
俺はもうお前と一緒にいられない。
ごめん。シキ。
この答えが、この意志が、この義務が、この権利が、この願いが、この責任が。
この全てが終わった時に―――俺はお前と二度と会うことはできないと思う。