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NOISE.3  作者: 坂津狂鬼
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現状

不安になる話題が上がった夕食が終わり、部屋に戻り布団に横になる。

しばらく天井をぼんやりと眺めたり、まぶたを閉じて眠ろうとしたがどうにも眠れない。

シキと秋音が何を企んでいるか心配ということもあるが、それよりも重大なオトアの言葉が頭の中にぐるぐると回っていた。

近いうちに狐狩りを起こす。そうオトアは言っていた。

狐狩り。夏休みに俺もシキに無理矢理参加させられた。その時、オトアに痛めつけられ俺はその時も魔神の力を借りた。

それがもう一度起こる。その時、また前回のようなシキも俺もやられてどうしようもなくなり魔神の力を借りるしかなくなった時、俺は―――また魔神の力を借りて暴走するだろう。そうするしかシキを助けられないのだとしたら俺は迷うことなくそうする。

だからこそオトアはシキから離れろと言ったのだろう。また魔神の力を借りて暴走しようものなら、今度は俺の体が魔神に乗っ取られたまま戻ってこないかもしれない。もう俺は俺でなくなる、俺の存在がこの世から居なくなる。そうなる前にシキから離れろ。

俺は自分自身の存在が無くなってもシキが守れるのならそれでいいと思っている。だがシキはどうだ?

とてもじゃないが俺にはシキの気持ちは推測できない。シキが俺をどう思っているのか、俺には察することができない。

だって今まで俺は、俺の気持ちだけでシキの傍に居たんだから。だからシキの気持ちを知れる機会なんて無い。機会があったんだとしても、俺は気付けなかった。

だからもし俺の存在が無くなった時、シキがどう思うか俺には分かれない。

オトアは他にも言っていた。俺がシキの傍にいる限り、シキは傷付く一方だと。

どういう意味だか分からない。俺がシキを傷付けているってことなのか?

いやそれならオトアはもっとはっきり言ったはずだ。ややこしい言い方をするとは思えない。

ならば、どういう意味なんだ。まったく分からない。

何より一番頭にこびりついてる言葉は、もっとも理解したくない。

人じゃ神の傍にいられない。人じゃ神に近付けない。人じゃ神を守れない。

こんな言葉、いちいち考えなくたって意味は分かる。弱い俺には言っている意味がよく分かる。

でもこれって、独りで寂しそうにしている神様は放っておけてって言ってるようなもんじゃないか。

触らぬ神に祟りなし。でもそれって、どれだけ神様が悲しく思っていても言葉を掛けるなって事じゃないか。

自分たちは神に祈りを押し付けてるってのに、いざその神様が悲しみ出したら放っておくって……。

前の俺ならできたかもしれない。シキと会う前の俺なら。

でも強大な力を持って、独りで寂しそうにしてる少女を放っておくなんて……もう出来ない。

今の俺じゃどんなに自分が無力でも放っておくことなんてできない。

…………だから傷付けるのか?

俺が俺の我儘で動くから、シキを傷付けるのか。魔神によって暴走した俺が、シキを傷付けるのか。

魔神という爆弾を内に秘め、それを持ちながらシキの傍にいる俺。

その爆弾の爆発が近いから、だからオトアは俺がシキの傍にいると傷つけてしまうと忠告したのか?

なら俺がシキの傍にいることは……間違いなのか?

傍にいることを諦め、逃げ出し、そして壊れずにいることが正解か?

そうすればシキを爆発に巻き込むことはない。そもそも爆発なんてしなくなるかもしれない。シキも悲しまない……?

でも、それは……それは…………ッ!!

「お悩みのようね」

0(クロ)と1(シロ)の世界。透明な鏡を境にして別れている世界の、俺と対面するようにして存在する腰まで伸びた白髪で顔が隠れている少女。

紛れも無い。ここは俺の心の中の世界。いつの間に紛れ込んだのか。

「この私がズバッと全ての疑問の答えを教えてあげましょうか?」

「いや、遠慮しときます」

白髪の少女……魔神の誘いをすぐさまに断る。

俺は知っている。魔神の力が強いとか、そういう問題以前に、この魔神が変態であることを。

どうせ疑問を答えるとか言っておいてロクな回答は返さない気でいるんだろう。

すべてふざけた様な回答。それか変な、というか変態な条件をつけてくるに決まってる。

「え、ちょ、私が出てきた意味がなくなるんですけど……」

「形式だけ登場ってことで。それじゃ」

「あ、ちょっと、待って! 真面目に答えますから、変な条件つけないから! ちょっと話を聞くくらいいいじゃん! 暇なんでしょ?」

「……帰っていいですか」

「うわっ冷たいなぁ……この前、体乗っ取っちゃたこと怒ってるの? それなら謝るからさ、すこし話聞いてよ。か弱き(?)少女からのお願いだよ。聞いてやってよー」

自分で疑問詞つけるんなら、最初からか弱いなんて言わなきゃいいのに。

いつになく魔神が粘ってくるので仕方が無く、その話とやらを聞く事にした。

「実はさ、私、色んなとこから狙われてるんだよね」

「は?」

「私の力を利用とする奴がいたり、私の存在を殺そうとする奴がいたり、はたまた私を元の状態に戻そうとする奴もいたり……色んな所の色んな奴から色々と狙われてるんだよね。どちらにしろ今の私は張空小月の中。さてここで問題。張空小月の中から引っ張り出すために一番楽な方法は何でしょうか?」

「……シキを傷付けて、俺を暴走させる…………?」

「だぁーいせぇかぁい。お見事、案外頭いいんだね」

バカにしている魔神は無視して。

オトアの言っている、俺がシキの傍にいるとシキが傷付く一方という言葉の意味はこれだったのか。

俺の中の魔神を引き出す、その引き(トリガー)としてシキは傷付く事になる。

俺が想えば想うほど、それは確定事項になっていく。俺の中から魔神がいなくならない限り、それは避けられない運命だ。

だからオトアはシキから離れろと言ったのか。俺が傍にいる限り、俺の望まぬ結果が現れるから離れろと逃げ出せと言ったのか。

でも、それでも俺は。

「あ、それとシキを守るの無理だから」

「軽く言うな!」

オトアは随分と感情を込めて警告するように言ったが、魔神はその逆。雑談をしてる最中に話題を変えるために言った言葉のように軽く口にした。

さすがにオトアの時には何の反論もできなかったが、これには言葉を返さなければいけない気がした。

「えぇー、だって無理だもん。雑音拒絶(パーソナルノイズ)しょぼいし、私の力を全て貸してもシロウサギには敵わないし。無理。絶対に無理。無理無理無理無理」

「シロウサギ……?」

「隼綛白兎のこと。名前が白い兎って書いて白兎(はくと)って読むからシロウサギなの。あぁー、名前言いたくなかったのに、口が穢れる。ぺっぺっ」

……おい、ここ俺の心の中だぞ。勝手に唾吐くな。

オトアも言っていた名前。隼綛白兎。8年前に魔神を殺した男。

といってもその殺した魔神は何故かこの俺の中にいるわけなんだが……まあ元の肉体に壊滅的なダメージを負わせたのは間違いないんだろう。

魔神の力を全て借りて、暴走しても、魔神に体を乗っ取られても勝てない相手。

そんなのを敵にするなんて……オトアの比じゃない。そんな所の騒ぎじゃない。

軽い調子でシキを守るのは無理だと魔神は言った。実際そうなのかもしれない。

俺の力では守りきれない。魔神の力を借りても倒せない。ならどうすればいいんだよ。

オトアが言った通り、逃げ出すしかないのかよ。シキの元から。離れるしかないのかよ……。

「いやなの?」

「当たり前だろ」

「どの位嫌なの?」

「どの位って…………例えが思いつかないほど」

「シキを裏切っても、シキを守りたい?」

「何じゃそれ?」

シキを裏切ってもシキを守るって……なんか矛盾してないか?

そういやオトアも、諦めきれなきゃシキを裏切って傷付けるとか言ってたような。

どいつもこいつも何で俺が裏切ると思ってるんだよ。そこまで信頼性が無いのか?

「そうか、知らないもんね。次の狐狩りが起こった時に何が起こるか。なら全て教えてあげるよ」

「……何なんだよ、その深刻そうな雰囲気は」

魔神が纏う雰囲気が、最初に出会った時のものになる。

なんとなくふざけた感じが抜けて、本当に全てを教えるようなそんな意気を感じる。

そして俺は、魔神からこれから起こることの真相を全て聞かされた。


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


「驚いたぁ……篠守君が料理作れたなんて。似合わない。それに美味しいし、なおさら似合わない」

「文句言ゥなら食わなくていい」

雇い(オーナー)の頼み通りに買い物に行った後、料理を作り食べさせた。

その感想がこれだ。本人としてはどうでもいい感想だが、さっさと出て行ってほしいというのがオトアの気持ちだった。

食べた後もしばらく居座り続けている。一体いつ去るのか。それとも今日はここに泊まるのか。

まったく何事も話さない雇い主に半ば呆れかえっていると、着信音が室内に鳴り響いた。

オトアの携帯には雇い主以外のアドレスなど存在しないため、必然的に雇い主の携帯に着信があったことになる。

携帯を取り出し操作しているうちに雇い主の口元は不気味に歪み、何かよくない事が起こりそうな予兆をオトアに感じさせる。

操作し終わり、携帯をポケットにしまうと雇い主は立ち上がる。

「じゃあねぇ、仕事あるから帰るわ」

「それはいいが……誰からの連絡だッたんだ?」

玄関で靴を履く雇い主は、オトアの問いに対して邪悪な笑みと共にこう返す。

「ダークホースから。きっと面白いことになるわ……兄弟対決なんて」

どこの誰か、というオトアの疑問は一瞬にして晴れた。

ただそれはあまりオトア個人としては望んでいなかった結果でもあった。

気付けば、話が進んでいる気がする

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