参加者
シキが殺される。それは嫌だ。でも自分には何もできない。
そう、今日も何もできなかった。
オトアに証明しろと言葉を叩きつけられたとき、俺は何も出来なかった。
……もしもオトアの言ってる事が、推測が、言葉が全て正しければ、俺が答えを決めなければいけない時間はそう無い。
何度も何度も、シキを助けられる奇跡が起こるわけじゃない。
夏休みの時はたまたま状況が揃っていたからそこ起きた奇跡だった。だから勝てた。
でも常に同じような状況が起こるとは限らない。いや起こらない。
オトアの言う通り、俺がシキの傍にいたところで傷付けるだけになるかもしれない。
「小月」
シキの声で、意識が戻る。
辺りは暗かったが、ここが自分の部屋である事、自分の布団で寝ていることがすぐに分かった。
「……シキ、今何時?」
「夜の6時」
寝惚け眼を擦りながら、シキに時刻を問う。その結果状況はよく分かった。
買い出しから帰ってすぐ自分の布団にもぐりこんで寝て、夕飯の時間になったからシキが起こしに来た。
おおよそこんなところだろう。
「…………シキ。俺、弱いか?」
「弱いと思う」
即答だった。自分でもこの答えが返ってくると予想はついていた。
自分自身もそうだと思っているんだ。だからシキの答えは何も間違えちゃいない。
「でも、強くもある」
シキの回答に苦笑いしようとする前、続けてシキはそう答えた。
これに関しては何も言えない。まったく言ってる意味が分からない。
同情したから追加で答えたのか、それとも、本当にそう思っているのか。
シキならば後者だろう。こいつが俺に同情なんてするとは思えないし、なにより、正直だ。
だから俺も正直に感情を向ける。
「ありがとな、シキ」
頭を撫でると、くすぐったそうにしながらシキはそれを拒絶しなかった。
何も言ってこないシキに思わず拍子抜けしてしまう。抵抗しないにしろ何かしら言ってくると思ったから。
十秒も経たないうちに撫でるのを止めてシキに問い掛ける。
「で、お前は何で俺の部屋に来たんだ?」
「…………秋音が料理できたから呼べって」
どうしてか機嫌が悪くなったシキを連れて部屋を出る。
あれか。やっぱり頭撫でられるのは嫌だったのか。それなら言ってくれれば止めたのに。
女の子の取り扱いは難しい。そんな事を思いながら夕飯を食べていると、秋音がまた酔狂なことを言い出した。
「……クリスマスパーティー、参加者が三人だけなんだけど」
「それを俺に相談してどうする」
やはり女の子の取り扱いは難しい。義妹なんて特に。
「……どうにかしろ」
命令形かよ。兄としての威厳は無いだろうけどさ。
まあここは、どうにかしとく、と言っといて当日に、どうにもならなかったと言えばいいだろ。
それに俺の知り合いには何故か変態が多いから、俺は誰も誘わないのが妥当だ。
「秋音、小月は誰も誘わない気だぞ」
想定していなかったシキの密告に、俺の計画は発案から3秒で頓挫した。
シキ、なんで言いやがった。というより何故分かった。
俺は結局一言も発してないのに。
「そもそも誰も引き受けると言ってないからな」
とりあえず意味のない言い訳をして、誤魔化す。
シキが密告した時点でどう転んでも義妹は俺に牙を剥くが、肯定するより否定した方がいいだろう。
「……とりあえず愚兄は処刑するとして」
やっぱり無駄だった。もしかしたら、なんて淡い希望も抱いてなかったけど。
「……どうしよう。別に3人だけでも構わないけど、証人はもう少し欲しいわね」
…………え、証人?
どういうことだよ。何をする気なんだよ。
証人が必要なことって……何かとてつもない屈辱を味わう予感しかしない。
「秋音、今その話は……っ」
「……それもそうね」
シキの合図に秋音が頷き、その話題は終了した。
しかしまあ、今度は一体どんな不幸がクリスマスに降り注ぐのか。
俺が祈るのはただ一つ。血の雨が降り注ぐレッドクリスマスとかにならないように。
クリスマスに画面の前で一人ニヤニヤしながらマウスをクリックしてギャルゲをやるなんて……
なんて充実してるクリスマスなんだ!!