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NOISE.3  作者: 坂津狂鬼
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警告

飛びかかってきた小月の腕を掴み、そのまま強引に地面に叩きつけ、足で頭を押さえ付ける。

この言葉を口にすれば小月が襲い掛かってくるのは目に見えていたが、あまりにも憐れな少年を放っておくことはオトアにはできなかった。

まるで8年前の自分を見ているかのようで。

「いいか張空小月。実際こォなる。死神が殺されたところで、お前はこうやッて地面に叩きつけられ、何もできないままだ。何の脅威にもならずに朽ち果てるのがオチだ」

「テメェ、シキを殺すって―――」

「言ッただろォが、オレは【蒼い死神】を殺す気はない。それにオレは【蒼い死神】が殺されると言ッた。オレが以外の奴が、お前の想定もオレの予想も届かないような奴らが死神を殺すと言ッたんだ」

「それって、どういう……」

「まァ気にするな。オレが考えるに奴なら9割以上の確率で【蒼い死神】を殺すと思ッただけだ。実証があるわけじャない」

「だから! 一体どういうことなんだよッ!!」

「隼綛白兎。8年前、魔神を殺した男。もしも狐狩りが起これば、その混乱に乗じて【蒼い死神】を殺すだろォという話だ」

オトアがそう判断する理由がしっかりとある。

シキの蒼い炎は、隼綛にとっては驚異的なのだ。

一撃にして人の命を奪える。それも炎を広範囲に広めることもできるし、発動の時間など一瞬。シキの認識速度と同じスピードだ。

それは隼綛の雑音拒絶(パーソナルノイズ)とは相性が良い。

いくら空間を裂こうとも蒼い炎は無制限。それも炎が一撃でも当たれば敗北する。

瞬間移動で逃げ続けても、広範囲に燃え盛ることができる蒼い炎の前では一旦の回避など無意味。

隼綛にとって【蒼い死神】の力は天敵だ。真正面から戦えば、隼綛が負けるだろう。

だから狐狩りという機会を使い、その混乱に乗じてシキに奇襲をしかける。

いくら蒼い炎が死だけではなく生についても万能だとしても、奇襲によって確実に即死する攻撃をされれば死ぬ。

その証拠に前回のクーデター。あれでシキは傷を負った。

奇襲によって一度でも傷を負ったのだとしたら、それはすなわち隼綛にとっては絶対に殺せる保障となる。

「良ィ事教えてやる張空小月。人じャ神の傍らにいることすら許されない。子供も老人も男も女も凡人も天才も強者も弱者も意志のある者も関係無い。人じャ神の傍にいられない、人じャ神に近付けない、人じャ神を守れない。人の身である限り、神との約束なんて……守れやしない」

「そんな事―――っ!!」

「あるさ。オレがそォだった、オレは守れず破ッた。アイツと誓ッたことも、アイツに対する愛情も、アイツを抱きしめていた体も全て投げ出した。全て投げ出して怪物になッた。怪物に成らなければ……保てなかッた」

果たしてこの言葉は本当に、張空小月に向かって言っている言葉なのか。それはオトア自身分からなくなっていた。

まるで言い訳だ。自分が怪物になった事に対しての言い訳だ。

これではまるで小月に言ってるのではなく昔の自分に、篠守音亜に言っているかのようだった。

あまりにも憐れな、神の傍に居続けられると信じた潜在的殺人鬼に対しての言葉だ。

しかし……今の小月も大して変わらない。

クーデターの時、シキが傷付けられ、魔神に殺す力を求め、そして殺した小月も大して変わらない。

「違うなら証明してみせろ張空小月。今この場で、神を殺せるこのオレを倒してみせろ。オレを倒して、怪物を倒せる力が自分にはあると証明しろ。自分ならば神の傍に居られると、自分なら神を守れると、自分なら神に愛情を注ぎ続けられると証明しろッ!!」

そのオトアの願いを叶えることは、小月には不可能だった。

8月22日。オトアが敗北した日。シキと小月がオトアに勝った日。

小月一人では倒しきれなかった。シキが居なければ、小月は負けていた。死んでいた。

オトアに敵うことなど、怪物を倒すことなど、小月には不可能だった。

「無理なら諦めろッ! 逃げ出せッ! お前が死んででも傍に居たいと願ッたところで、悲劇しか生まないッ! 死神を、シキを悲しませる事がお前の望みか? 答えろ張空小月ッ!!」

怒涛のようにぶつけられた言葉に小月が返せる言葉などありはしなかった。

それは小月には体験したことのない部分。大切なものを失った、オトアにしか分からないもの。

だからこそ返す言葉もなければ、その意味すら正しく伝わっているのか疑わしかった。

「…………そォだよな、お前に返す義務はない。この問いに正解も意味もありはしない」

小月に対する拘束を解きながら、オトアは虚空に呟く。

静かに立ち上がりながら、小月は去るオトアを見ていた。

「諦めろ、とは言ッたがな……それでも諦めきれないのならお前はシキを裏切り、傷付けることになる」

一々小月に振り返り言うような台詞ですらない。そう判断したオトアはそのまま背中を向けて最後に話す。

「逃げ出したくないというのならば……どんなになッてでもシキの傍にいたいのならば、怪物になるしか方法はないぞ。だから逃げろ。シキも……【蒼い死神】もお前が怪物になることを望んではいないだろうからなァ」

自分のどこかが8年前に戻っているのを自覚し、自嘲的に笑いながら、オトアはその場を去る。

小月はその背中が見えなくなるまで、見るしかなかった。そうでもしなければ理解できそうになかった。

オトアが何故、自分に言葉をぶつけたのかを。

クリスマスが楽しいのは子供の時だけだ

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