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NOISE.3  作者: 坂津狂鬼
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他人事

張空小月の元々の雑音拒絶《不協和音(カオスツイスト)》は、自身や相手の行動を歪める、というものであった。

それを魔神により強化されたものが雑音拒絶《他人事(ノイズ)》。

張空小月自身の性質とでもいうべき二つの要素、欠けさせて満ちさせる、ということを自分自身の全ての範疇で行うもの。

元々の雑音拒絶《不協和音》の進化系が《他人事》であって、つまり、《他人事》は《不協和音》でできる範囲を拡大しただけのものである。

ならばどの程度、範囲を拡大したのか。

自分自身だけという制限は付くが、小月の雑音拒絶は、過去すら歪められる。

「俺は弱いから、シキを守ることもできないし、当然、兄貴と戦って勝てるわけがない。だから俺は兄貴と戦わないで済む道を選んだ上で【虚無の王】と戦わなきゃいけない。だからそのためには【虚無の王】が取り憑いてる兄貴が邪魔だった」

小月の兄である張空陽介は解読者と呼ばれる鬼才である。

【虚無の王】がどういう人格をしていて、憑いた人間の体をどの程度使うことができるかは知らないが、もしも張空陽介の頭脳を使われれば、小月にとってみれば勝ち目はなくなる。

だから張空陽介を除去するために、除去できる力が必要であった。

その力が《他人事》。

小月の過去を歪めて、張空陽介が【虚無の王】に取り憑かれないようにする。

「そんな事が可能なのか。いやそもそも、そんなことをすれば」

「俺は兄貴みたいに頭良くないから自分が今、どのくらいヤバいことをしてるか分かってないんだ」

過去を歪められる回数は一回。

範囲は現在から8年前、魔神が小月に取り憑いた時まで。

その範囲で起こった小月が経験した出来事を歪める。

小月は自身が今まで経験した人生全てを改変され、その周りの人物も影響を受ける。

例えば、まず小月の体に魔神が取り憑く事が無くなる。

そうすれば小月はあの時、屋上に行くことはなくなり、陽介が屋上へと行く理由が消失する。

最悪は、【虚無の王】は8年前のあの夏の日、オトアの一撃を受けて、そのまま死ぬ。

生き残ったとしても【虚無の王】が張空陽介の体に取り憑くことはできない。

「待て。そうだとしたら魔神は俺に憑いて屋上に行き、小月、お前が【虚無の王】に憑かれることになるかもしれないんだぞ。そして後日、俺の体に憑き直す可能性が」

「それなら問題ない。そもそも俺が屋上に行くことができなんだよ」

陽介の発言を小月はすぐさま否定する。

小月はあの日、屋上に行った。魔神が憑いていたかどうかは問題ではなく、屋上に行く経験をしている。

経験しているのならば改変される対象となる。だからそもそも小月はあの日に【虚無の王】を目にすることはない。

「まあ、実は俺にもどういう風に歪むかは分からないんだ。一回しかできないもんだから。でも俺の行動が変われば、多少は世界も歴史も誰かの人生も、変わるだろ」

張空小月は同じ人生を歩めない。今まで経験した記憶を引き継いだまま、全く知らない世界へと投げ出される。

張空小月がしてきた多くのことは他の人間がするだろう。あの日あの時トイレに行った、などという小さな事も。あの日あの時、シキと夏祭りに行った、などという事も。

裏の世界と関わることもないだろう。そうなればシキと面識ができる可能性すら、無いかもしれない。

それはいつかしたシキとの約束を破るということ。一緒にいるどころか、一生出会うことすらないかもしれない。

いや、そもそも、シキとした約束すら他の誰かが小月の代わりにする可能性がある。

守る必要も、覚えておく必要もない。他人事になってしまうかもしれない。

「《他人事》の効果は、俺の過去の改変によって影響を受ける奴から始まって、最後に俺自身が効果を受ける。そろそろバイバイだぜ、兄貴」

「本当に、何をしでかすか分からない弟だよ」

「昔から、あまり良い子じゃなかったからな。仕方が無いんだよ」

そういうと小月は懐から銀色の拳銃を取り出す。

白烏。魔神が渡してきたリボルバー。もうすでに三つの特別な銃弾が込められている。

これが放たれて、ようやく決着がつく。

だが、その前に一つの決着がついてしまった。

「……崩壊が始まったな。隼綛が負けたんだろう。だがオトアもそうとう傷を負ったはずだ」

「その前に決着はつける」

小月は両手でリボルバーを持ち、その銃口を陽介の胸へと向けた。

「何のつもりだ。お前が経験したことは全て改変させるというのに、その前に【虚無の王】を殺すっていうのか。無意味な」

「《魔王の棺》。当たれば絶対殺す魔弾だ」

当たれば絶対の殺傷能力を発揮する。そういって魔神が小月に渡した銃弾。

これも結局のところ、小月の雑音拒絶を弾丸という形に仕立てただけのものである。

効果としては被弾者の能力欠如のみである。

ありとあらゆる能力、自然治癒や歩行や思考などの普通なもの、雑音拒絶などの特殊なもの、他者の能力による回復などすら全て欠如させる。

例えば、シキの蒼い炎による蘇生や魔神の事象の有無を操作する力を使った修復でも、傷を修復することは不可能になる。一度その弾丸が脳や心臓を破壊しようものなら、その者はすべてを欠けさせられて命を失う。

命を欠けさせ、死を満たす。それが《魔王の棺》。

例え、過去が変わろうとも、その傷は直ることはない。一度閉じた棺は、死者を逃がすことはない。

どんな修復も回復も受けつけない。当たったことが無かったことにされようとも、傷が無くなることはない。

絶対に殺す、とはそういうこと。

「逃げられはしないぞ、俺の雑音拒絶がお前を逃がさない」

張空陽介からの返答はない。《他人事》の影響によっていなくなったのだろう。

今、目の前にいる人間がどこの誰だかは分からないが【虚無の王】が憑いていることは確定している。

逃走しようとした【虚無の王】を《不協和音》によってその場に縛り付ける。

そして、二度の銃声が崩壊の音に紛れながら鳴った。

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