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NOISE.3  作者: 坂津狂鬼
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回答

「予想より来るのが遅かったな、小月」

「急いで来る必要は無いからな。それにどうせ今更逃げ出したりはしないだろ、兄貴」

誰かが死ぬまで出ることのできない迷宮の中。ようやく張空兄弟は対面した。

「いいや、急いで来るべきだった。もうそろそろ隼綛白兎とオトアの決着がつくぞ」

「兄貴との決着は10秒あれば十分だから、オトアが決着つける前に来れればいいんだよ」

「随分と自信があるようだな。小月、お前にしては珍しい」

「まあ、好きな奴に応援されたし……これはただの通過点にしか過ぎないからな」

小月は自嘲気味に笑う。

最後に見た、シキの笑顔を思い出しながら。

そしてその笑顔を脳裏から振り払い、再び口を開く。

「兄貴の体に憑いてる【虚無の王】への対策を発動するのは簡単だけど、その前にいくつか聞きたいことがある。答えろよ、兄貴」

「答えられる範囲ならな」

小月の言葉遣いに違和感を覚えながら、陽介はその要望に応える。

「まず、シキと俺が出会ったのは偶然か」

「いいや、俺が仕掛けた。張空小月の中に潜んだ魔神を引きずり出すにはシキとの接触が一番だと思ったからな」

「オトアが襲ってきたのは」

「当然、俺が仕掛けた。いきなりシキとお前を襲わせるわけにもいかなかったからな。まずはそれなりの理由をつけてお前とオトアと接触させて、次に狐狩りの時に小月を襲わせる。ここまでは上手く段取りできたんだがな」

「それじゃあ、俺がオトアに殺されかけた時に電話をかけて邪魔したのは兄貴の差し金だな」

「ああ。お前を殺させるのが目的では無かったからな」

夏の日の一連の騒動。

小月がシキと出会ってから、オトアと対峙し、魔神に体を奪われ暴走した一連のこと。

その全てが、張空陽介によって仕組まれたこと。

目的は魔神の力を暴走させて、そのまま、魔神である篠守唯音に小月の体を乗っ取らせること。

それが可能なことは、すでに小月自身が体験済みだ。

しかしその目的が果たされることはなかった。

あの日、鑑優斗から渡された黑鴉によって魔神の力の暴走による乗っ取りは防がれた。

「8月22日以降の事件は全てお前が原因だな、兄貴」

「ああ、そうだよ。本来なら夏の時点で目的は達成されるはずだったけど、雪崩のようにどんどんと目的から遠ざかっていって、挙句の果てには頓挫した」

オトアをもう一度、小月たちと戦わせるが、魔神の力の暴走どころかオトアが敗北する結果となった。

秋音をさらい、魔神を元の体に戻らせない計画もオトアの介入により失敗。

シキを傷つけることによって魔神の力を暴走させ、小月の体を乗っ取るも、魔神本人の意思により、何事も無かったことにされた。

そしてクリスマスに小月は失踪。魔神と乖離し、こうして張空陽介の前へと現れた。

「なんで俺を、俺の体をそこまで魔神に渡したかった」

陽介の目的は一貫して、小月の肉体を魔神のものにする、というものだった。

しかし何故、そこまで小月の体にこだわったのか見当がつかない。魔神自身を復活させたかったのならば秋音を使えばいいだけである。

それとも小月にいられては困る理由でもあったというのか。

「それはお前が何をしでかすか俺には分からないからだよ、小月」

「は?」

小月は反射的にそう口に出してしまった。

張空陽介という男は、解読者と呼ばれ、何でもできて何でも分かる鬼才だ。最低限、小月にとってはそうである。

その張空陽介が、わからない、ものがあるという事が小月には信じられなかった。

まして、それが小月のことだとなればなおさら。

「欠けて満ちる。お前のその性質のせいだろうけど、時々、まったく想定外のことをしでかしてくれる。例えば、8年前。お前が魔神に憑かれたこと、とかな」

「それで、想定外のことをする俺を削除しようとしたわけか」

「いいや、消そうとしたわけじゃない。できれば魔神にその性質を得て欲しかった。お前の体があれば性質を受け継げると考えていたんだよ」

「受け継いで、どうするんだ」

「そうすれば【虚無の王】が俺の頭を勝手に使おうと、魔神の行動を読み切れない。もしかしたら隼綛に対してもある程度、効果があったかもしれない」

「そうか。それじゃ、最後の質問だ」

確認として、小月はこの質問を最後とした。

「シキが俺を想う気持ちと、俺がシキを想う気持ちって同じだったのか?」

小月の最後の質問に、陽介は一瞬呆気にとられたような顔をした後、すこし笑いながら答えた。

「形としては同じだが、シキはお前よりも深く想っているぞ」

「そっか……それは悪いことをしたな」

「俺からもお前に一つ質問していいか」

「何だよ」

「小月、お前は何でここに来た」

陽介の質問に、小月は驚いた顔をした後、すこし笑いながら答えた。

「理由は色々あった気がするけど、多分それは全部言い訳で、俺は逃げるために来たんじゃないかって思ってるんだ」

自分の気持ちが嘘か本当かなんて、ここまで来てしまえばどうでもいい。

どうせ全部が嘘になる。全部を嘘にしてしまうことをこれから自分はしでかすのだから。

「俺は、平穏で平凡で平和な日常に逃げ込むためにここに来たんじゃないかな」

どうせ全ては他人事になるんだから、こんな質問、適当に答えておけばいいんだ。

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