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NOISE.3  作者: 坂津狂鬼
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怪物

痛みが脳を占める。感覚が薄れ、何もかもが空白になる。

きっとこれが"死"なのだろう。最後に何もかもが無くなって、人は死ぬんだ。

隼綛白兎を殺せないまま、オレは死ぬ。結局オレは届かないものを8年間も追って、届かずに死んでいくのだ。

なんてバカらしい。これならば、最初から、8年前のあの場で、唯音を庇って死ねばよかった。

そうすれば、オレは必要以上に何かを失わずに、死ねたというのに。

そうすれば、オレは……唯音との約束も…………。

「音にぃ」

唯音の声。

唐突に思い出した、これはいつだったか。

「最後にキスさせて」

唯音とのくだらない会話。これはいつの事だったか。

「オレとテメェはまた会うよ。だから嫌だね」

唯音の言葉にそう返した。そんなこともあった。

それはいつだったか。

「嘘つき。全て終わらせる気なんでしょ、隼綛白兎のことも自分のことも」

唯音に嘘を吐いたところで意味などないのに、オレはらしくもない嘘を吐いた。

「オレはお前を愛してる。だから信じてくれ」

何のための嘘だったか。覚えてすらいない。つい最近のことだった気がするというのに、思い出せない。

「やだ」

唯音は笑いながら拒絶した。

「だって、私との約束は絶対に破るんだもん。音にぃは」

否定できない。どんなに大事な約束でも、唯音を裏切ってきたオレには、否定できない言葉だ。

「だからさ、キスしてよ。そのくらいいいじゃん」

「嫌だ」

それでも否定する。今振り返れば、別にそのくらいの事をしてもよかった気がする。どうせ、オレは、オトアは死ぬんだから。

でも否定した。それは何故だったか。

「それしたら、オレがここに帰ってくる理由がなくなるだろ」

なんて、なんてくだらない理由。

いつの時だったかは思い出せないが、きっと自嘲してた。こんなくだらい言葉が本心だったかすら忘れたというのに、今でも、内心で嘲笑してしまう。

だというのに。

「分かった。じゃ、今はお預けでいいよ」

唯音は心から、笑いながら受け入れた。

……本当にバカだ…………どうしようもないくらいバカだ。こんな事を思い出すなんて。

「だから。音にぃは必ず、戻ってくるんだよね」

あぁ。そうだ。

思い出した。これはオレが、宿敵と決着をつける前。ほんの少し前。

唯音との最後の会話。

いや、最後じゃダメだ。それじゃ、また唯音を勝手に独りにしてしまう。

そんなことをする自分は、今、ここで…………。

ココで殺す。


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「ュィ……ェェェェェエエエエエエッ!!」

オトアが叫ぶ。獣のように、誰かの名を呼ぶように、呑み込もうとする空間すらも喰らうように、叫びを上げる。

隼綛は目を見開く。死んだと思った怪物は再び息吹を返し、自らの命を大きく燃やす。

アレは不死身ではないはずだ。自分と同じ、人の身をした怪物もどきのはずだ。

いや、自分と同じだというのならば……死ぬ保証はないのではないか?

隼綛自身がいくら死を望んでも、死なないように。

「ァァァァアアアアアアアッ!!」

引き摺る。自分を飲み込もうとする空間ごと、オトアは右手を無理矢理に引き摺る。

不可能だ。空間を持って、どこか別の場所にずらすなど不可能だ。

通常の人間ならば。

しかしオトアならば、《不可視の鎧》という空間を遮り歪める雑音拒絶を持つオトアならば、無理矢理にやってみせるだろう。

それは彼が怪物であるから。

「グッ……ァァァァアアアアアアア!!」

空間に異音が響き、オトアの右手が背中の方へと流れていく。

やってのけたる。自身を遮った障害すらも手中に収め、理性を失った瞳は一刻も標的から逸らされない。

論理や才能や経験などは必要ない。唯一無傷の左手に全てを込めた《処刑刃》を纏わせ、隼綛に向かって死を放つ。

その狂気に満ちた姿は、隼綛をその場に縫い付けるかのように止まらせ、初めての感情を抱かせる。

初めて、彼は、死を恐怖した。

心の底から、死を拒絶した。

この死は、今まで隼綛白兎が経験した何物とも合致しない。

回避できない。本能的に、それを悟った。

空間を裂いて異空間へと逃げるには遅すぎる。他の小細工すらも今のオトアなら全て弾いてしまうだろう。

この回避できない死を悟り、理解し、隼綛白兎は恐怖した。

そして。

(……これだ)

そして思い至る。走馬灯のように自身の人生が流れ、自身が求めていたものに思い至る。

(……この"震え"なんだ。これが"死"なんだ)

死の恐怖は、隼綛を震えさせ、そして歓喜させる。

人が、生命が、生まれて一度しか得ることができない死の震え。

簡潔に言えば、隼綛白兎は刺激が欲しかっただけなのだ。とてつもなく大きな刺激が。

たった一回、たった一瞬。その時のためだけに、この時のためだけに隼綛白兎は生きてきた。

このどうしようもない大きな刺激のために、多くの人間を殺し、多くの時間を無為に過ごしてきた。

たった一度の刺激に溺れるためだけに生きてきた。死ぬためだけに生きてきた。

それが隼綛白兎の全て。

故に彼は手を伸ばす。迫る死に向かって、求めたものに向かって、自身の手を伸ばす。

死を具現したオトアに向かって、手を伸ばす。

殺すために生きた者。死ぬために生きた者。

二人の怪物の手は交差し、自身への終着を一撃を受け入れる。

授業のほうで短編書くんで、しばらく更新しません

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