表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
NOISE.3  作者: 坂津狂鬼
31/36

歪む空間

隼綛が一歩踏み込む。それと同時にオトアも一歩踏み込み、隼綛が振り下ろそうとする拳に振り下ろされた《処刑刃》が衝突する。

二つの斬撃はその勢いを逃がすため、横に弾かれるように逸れ、隼綛にもオトアにも同等に隙を生み出す。

「いいなァ、おい。良くなッてきたなァ!!」

歓声を上げる隼綛。さらに攻撃に力を入れ、オトアに手を伸ばす。

それに対応するようにオトアは、点対称の場所から《処刑刃》を繰り出す。

同等の速度で、同格の威力の、同種類の斬撃が幾度となくぶつかり合い、その軌道を互いに弾かれる。

相殺。

もはやオトアと隼綛の攻防は一進一退すら拒絶し、互いに互いを殺して死ぬだけに成り果てた。全ての一撃は、同等の一撃に掻き消されていく。

同位置から放たれた同等で同種類の攻撃は互いに互いを殺していく。

そうしてオトアは隼綛と同格に成り上がった。

「けどさ、物足りねェだろ。この程度なら」

「あァ! オレが生きてる限りは、満ち足りねェよ!!」

振り放たれた蹴りに同様に蹴りを放ち、貫くような鋭い拳に貫手を繰り出し、すべての斬撃にすべての斬撃を食らわせる。

オトアも隼綛も一歩も退こうとはしない。退くことは死から逃れようとすること。

それはこの敵を殺すことを諦めてしまうこと同じことだから。

死は恐ろしい。それは当然だ。

そして生きるもの全てに、いずれ死は来る。善良な人間であれ、どうしようもない悪党であれ、何の変哲もない一般人であれ、怪物や化物と呼称される者であれ。それも当然だ。

生きる者は死を恐れ、抗うように生き、そして飲み込まれるように死ぬ。

死は運命であり、死は絶対であり、死は結末だ。

殺すという行為は、運命を、絶対を、結末を与えるということ。

自らを殺すにしろ、他者を殺すにしろ、その事実は変わりはしない。

だからこそ、オトアは隼綛から退くことはできない。

隼綛白兎という人物は、結末を望んでいる。

そしてオトアは結末を与えることを望んでいる。

だから両者の望みが叶うまで、彼らは殺し合う。拳を突き出し、脚を振り上げ、相手の心臓や首を狙い続ける。

そうでなければ殺せない。そうでなければ死ぬことなどできない。

自らの死を、他者の死を望むのならばどちらも退いてはならないのだ。

「ッ!」

死に溺れていく両者の均衡はオトアの手によって崩れ去った。

相殺されていた二人の同等の攻撃が、同等では無くなった。オトアの《処刑刃》が隼綛の拳を押し返した。

単純な力技で隼綛がオトアに敗北した。

(……高速移動の際に使ってた空気の球を、攻撃の加速装置として使用したのか。こいつは少し厄介だなァ)

隼綛はすぐに原因に思い至る。違和感はすでにあったためだ。

オトアが相殺という手段を取ったことがすでにおかしい。誰だって、相手と同等の力では殺しきれるとは思わない。相討ちを狙うのならば同等の力でも納得はできただろうが、相殺してしまうのでは殺すどころか余計に事態を停滞させる。

オトアもただ相殺していただけではない。同位置から同等で同種類の攻撃を放つことで相殺していた。

つまり、隼綛の攻撃パターンを体に覚えこませるための行為。同位置から同種類でありながら上等の威力を持つ攻撃を放つ、予行練習。

いくら隼綛白兎という人間が死に精通している化物だとしても、単純に力で抑え込まれれば、殺される。

―――このまま、殺す―――

その一言がオトアの脳裏に過り、それを体現する。

隼綛の拳も蹴りもすべてを弾き、押し込むように進撃する。

暴風よりも激しく、雷光よりも速く、豪雨のように連なる攻撃を隼綛へと叩き込む。

これで死ぬ。自らの死を望ながら、他者へ死を与えてきた怪物に、ようやく死を下すことができる。

できるはずだというのに。

《処刑刃》の一撃を相殺しきれないことを察した隼綛は、オトアの攻撃を弾くのではなく受け止めることにした。

そうしたところで、隼綛が押されることに変わりはない。

事実、《処刑刃》の一撃を受け止めようとした隼綛の体は、足摺りをするように後ろへと押し込まれた。

その当然の中に、隼綛は死から免れる術を見出した。

「ッ!?」

足摺りをすると共に空間を裂き、オトアと自分との間に、異空間への入り口が開かれる。

一歩踏み込もうとしたオトアは異空間へと呑まれるように姿を消す。

一瞬のうちに天上から叩き落とされるように放り出されたオトアに、隼綛は追撃を行う。

体勢を立て直す隙がないと判断し、隼綛が繰り出す拳に、全力で《処刑刃》を叩きつけ、自らの体を後方へと飛ばす。

水切りをするように体を弾ませながら、どうにか体勢を直したオトアだったが、その時、自身のミスに気付く。

隼綛の姿を見失った。

本能が危機を感じ、背筋に悪寒が走る。

8年前、手を抜かれいたあの時とは違う。

あんな単調な攻撃はこない。殺す一撃か、殺すための布石。それが次に隼綛が打ってくる一手。

全身の神経が研ぎ澄まされる。何秒後に死が迫るのかを探り当てようと躍起になる。

それが仇となる。

足元から右手だけを出した隼綛に左足の腱を裂かれる。

身体全てが出てくると思い込んでいたオトアはバランスを崩しながら飛び出ている隼綛の右手を繰り出すが、反応が遅く、切断に至らない。

それどころか、その隙を隼綛に襲われる。

注意が散漫したオトアの右側から飛び出すように現れた隼綛は、そのままオトア右足の大腿筋を抉りとるように裂く。

一瞬のうちに両足に損傷を負い、オトアは立つことを許されなくなった。

姿勢が崩れ、大の字に寝転がるように地へと落ち始める。

死に向かって、落ち始める。

それを拒絶をするように《不可視の鎧》を破裂させ、自身を空中へと叩き上げる。

死に落ちるにはまだ、まだアレを、隼綛白兎を殺していない。

その意志がオトアの死を数秒先へと遅らせた。

探す。自身を殺そうとする相手を、自身が殺さなければいけない相手を。

見つける。立っている。隼綛白兎は立って、醜く宙へと浮いたオトアを諦めの眼差しで見ている。

関係ない。

もう一度、《不可視の鎧》を破裂させ、隼綛に向かって、右手の突きを放つ。

これで届く。今度こそ殺せる。今しか殺せない。最後の機会、最後の一撃。

「届かねェよ」

それを自らの手で払う仕草をすると共に、隼綛は拒絶する。

体が止まる。思考が止まる。オトアの全てが止まった。

「あっ……?」

「空間を歪ませ続ければ、その皺寄せがどこかに来る」

隼綛の言葉が響く。

「それが今、お前の右手に集中した。空間を使う者が、空間に食い尽くされる。皮肉な末路だな」

隼綛の言葉の意味を考える必要は無かった。

右手が独りでに潰され、皮膚は吹き飛び、血管は裂かれ、骨は歪められた。

「――――――ァッ!!」

右手から痛みが這うように、全身をソレは呑み込もうとする。

つまり二つの空間を歪める雑音拒絶が激しくぶつかり合った結果、空間が耐えられず、本来の形状を保てなくなった場所にオトアは手を突っ込んでしまった。そして隼綛はそのトリガーを引いた。

異空間へ行ける隼綛だからこそ、この状況を知れたのだろう。空間の歪みが一点に集まっている状況を。

オトアの声にならない悲鳴を聞きながら、隼綛は全てを諦めたよいに呟く。

「結局、お前でもオレは殺せないか」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ