表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
NOISE.3  作者: 坂津狂鬼
23/36

思惑

「上手く躱せよ……ッ!!」

その声に反応し、回避行動を取ろうとする少女。

それが意図的に行われたのかそれとも反射的なものかは知らないが、少年にとっては思惑通り動いてくれたというところだった。

彼女の蒼い炎には死なすこととは反対の、生かす使い方もできる。

所謂、生き残れるように運命を変えてしまうというもの。

とても無茶苦茶で、一体何が起こるか予想もできないまさしく神の力といったもの。

それを行われてしまえば、少年にとって不利益になることは間違いなかった。

故にわざわざ注意を引き付けるように声を出し、彼女の体を動かしてしまおうと考えたのだ。

少しでも動こうとすれば、少年の異能でどうとにもなる。

そう例えば。

「えっ…………?」

自由が奪われた彼女の体に向かって、鋼鉄の弾丸は放たれた。

そして少女は、自分がその弾丸を回避できたことに驚愕のあまり声を出してしまう。

少しでも動こうとすれば、彼女の体を自由に動かすことができる。彼女からほんの一瞬だが自由を奪える。

そして彼女の体を思惑通りに動かすことができる。

例えば、尻餅をつくように体勢を崩させて回避行動を取らせること。

小月が発したその言葉の意味は、皮肉などではなくそのままの意味だった。

彼女にはしっかりと躱してもらわなければ困るのだ。

しかし蒼い炎によって運命を書き換えられることも困る。

だから声を出し、シキを動かせ、強制的に回避行動を取らせたのだ。

その後ろにいる敵を撃つために。

「……ッぶねェなァ、おい」

「手首痛ぇ……」

自身に向かってきた弾丸を裂く、隼綛白兎。

銃の反動が想像以上で手首を上下に振る、張空小月。

自身が置かれた状況を理解できずにいる、シキ。

三者三様。敵と味方が区別できない状況が作られる。

「……隼綛白兎。お早いご登場だな。もう死神を殺しに来たのか?」

「オメェは……張空弟かな。少し前に見た時よりも随分と立派になッたみてェだな」

「少し前? 俺はお前と初対面のはずなんだが?」

「あァ、そうか。あの時オレは姿を見せていないし、喋り方も変えてたからなァ」

「…………あぁ、そうか。夏のあの時の声はお前だったのか」

小月の思考が過去と言葉を自然と繋いでいく。

シキと出逢った日。あの時、聞こえた言葉。あれは隼綛のものだった。

妙に片言だったのは独特の喋りを隠すためだったのだろう。言い換えれば、紳士的に振る舞ったといったところだろうか。

だとしたら、こいつは知っているのだろうか。

「おい隼綛。あの時の言葉でまだ分からないのがあるんだけどさ……駒ってどういう事なんだ?」

「別に大した意味じァないさ。ただこうやってオレと対峙している時点で、オメェはもう立派な駒なんだよ」

「ふーん……つまりは戦うことを選ぶか、知らずに死ぬかって意味だったのか。なるほど。すっきりした」

手に持つ、白銀の銃をさらに握りしめながら小月は呟く。

別にそこまで気掛かりになっていたわけではない。ただきっとこの先、アレと会うことになるんだろうから聞きたかったのだ。それの意味を。正しい意味を。

「隼綛白兎。頼むから引いてくれないかな。俺はお前を殺せない、俺じゃお前を殺せない。無意味な戦いは避けたいんだ」

「ならそこで静かに見てろよ張空小月。オレはそこで茫然としている死神を殺しに来ただけだ……と言ッても、オメェが奇襲を妨害したせいでもォ殺せないだォうけどな」

「だったらここにいるだけ無意味だろ。本当に、お前とだけは戦いを避けたいんだ。偶然お前を殺せたとしても今度はオトアに殺されるだろうからな」

「まァ、その案に乗ッてもいいが……タダで帰るわけにはいかないんだなァ」

隼綛がここに来た目的を、小月は正確には知らない。

小月が知っていることは隼綛はシキを殺しに来るということだけ。

つまり自分も隼綛の標的になっていることを彼は知らない。

「ッ!?」

最初の奇襲すら防げば、隼綛は自然と引くことになると小月は思っていた。

故に一瞬で隼綛と自分との距離が詰められた時、小月は反射的に身を引くことしかできなかった。

空間を裂き、距離を詰めた隼綛は大きく自らの腕を横に振る。

当然これに当たれば、小月の体は裂かれ……最悪はたった一撃で死に至るだろう。

(…………黑鴉、《外界放出》……ッ!!)

言葉を発する暇すらない。左手に掴んだ黒い拳銃を隼綛の腕に当てると共に引き金を引く。

無力化は発動した。しかし黑鴉の銃身は辛うじて影響を受け、蕾が花を咲かせるように裂かれてしまった。

すぐさま右手に持っていた白烏にて反撃の体勢をとる。

さすがに近距離で銃弾を受けるのは不利と感じたのか、一瞬にして隼綛は距離を空け、回避行動をとる。

(……白烏はリボルバー。装弾数は5発だったけどさっき一発撃ったから4発。再装填は時間が掛かるからこいつ相手じゃ無理。黑鴉の無力化はどうにか通じるけど、無力化と同時に黑鴉が大破して使いものにならなくなる。何よりこいつの移動速度、オトアよりも早い。悪夢の展開も間に合うとは思えないし、シキと同じで展開できてもすぐに裂かれて無駄になる……これじゃ魔神が負けるわけだ…………)

今の小月は魔神から強化を受けている状態だ。つまり言い換えれば、魔神を弱体化させた状態で小月は戦っているのだ。

全力だった魔神が負けた相手に、小月が叶う通りはない。

いや先程と同じく、小月の雑音拒絶によって状況を逆転できるかもしれないが一体何を欠けさせて何を満たせば逆転できるのか、小月の発想が追い付いていない。

「中々、大した反応速度してるじァねェか」

「怪物に鍛えて貰ってたんでね、自然と体が動いただけさ」

シキから離れた約一ヶ月。魔神から強化を受けた後、オトアに手合せをお願いしていた。

隼綛の奇襲を防ぐには同じタイプの雑音拒絶を持つオトアを相手にして策を考えるのが適当だと思ったからだ。

その結果、隼綛の攻撃に反応はできた。

だが、それも偶然に近い。たまたま追いつけた。これを何度もできるかと問われれば小月は首を横に振るだろう。

空間を裂いて歪める雑音拒絶。世界を拒絶したものが得た力。

小月の想定なんてものは全く届かない領域のものだった。

「まったく……勝利条件とか欲しくなるなぁ、チクショウ」

先程のシキとの対決は、隼綛が来れば終わるのだと、隼綛の奇襲を防げば終わるのだと知っていたから頭が働いた。

だが隼綛とのこの対決は、一体どうすれば終わるのか。どうすれば勝ちとなるのか。

全く見えてこない。

「勝利条件だァ? 面白い提案だな、それ」

小月が愚痴としてこぼした言葉を聞いた隼綛は、意外なことに乗ってきた。

そのことに驚愕しながらも、機会を逃すまいと小月は口を開く。

「なんだよ。ハンデとかくれるのか?」

「あァ、別にいいぜェ。どうせこれは前哨戦みたいなもんだ。途中で引いたって問題ない」

「ならどうしたら、引いてくれるんだよ隼綛?」

「そォだな……オレに一撃でも当てれたら引いてやろォか」

どんな攻撃でもいい。とにかく隼綛に一撃でも当てればいいのだ。

石をぶつけるでも、銃弾を当てるでも、燃やすでも、潰すでも、殴るでも。

なんでもいいから一撃を当てれば、隼綛は引いてくれるというのだ。

「こういう時はタイムアタックが良かったな……まったく」

小月は溜息交じりに呟くと、壊れた黑鴉を捨て、また新たな黑鴉を左手に握る。

かなり難しいことだ。たった一撃すら当てるのが困難な相手だ。

かつて子供だったとはいえ、オトアは一撃たりとも隼綛に当てることができなかった。

それなのに小月がそれをできるだろうか。不安があり、恐れがある。

「でもいいぜ。その条件を……俺達で達成すればいいんだな、隼綛?」

そうです。ご都合展開です。

なのに主人公は常に死にかけたりするってどういう事なんだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ