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NOISE.3  作者: 坂津狂鬼
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衝突

「……張空小月」

「シキ……久し振りだな」

屍が溢れる地などには目もくれず、少年と少女は互いの顔から視線を背けない。

少女は逸らさず少年は逸らせず、数秒の無音の後、否定の言葉とともに少年が口を開いた。

「いや、名前で呼ぶのは悪いな。久し振りだな【蒼い死神】」

少年にとっては敵対を意図して放った言葉。

少女もそれを感じ取れないほどに鈍くは無かった。

そして彼女はそれを感じ取ると共に、泣きそうになる感情を抑え込んで、言葉を返す。

「今まで、どこで何をしていたんだ……張空」

「教える必要があるのか? そして、知る必要があるのか【蒼い死神】さん?」

「……そうか。言ってはくれないのか」

少女にとってはそれが降伏しろと暗に示した言葉であったが、少年には届かなかった。

頭の隅では少女も理解はしていた。

襲撃班を全滅させたのはこの少年。

つまりこの少年は先程、人を殺している。罪を犯したのだ。道を外れたのだ。

彼がいくら罪を犯そうとも償う意思があるのならば、彼女は庇いその罪を無くしてしまおうと懸命になるだろう。

だが彼が道を外れたままだとしたら、償う意思が無かったとしたら、彼女がいくら庇いその罪を無くそうとも同じ事を繰り返すだけだ。

きっと彼は、償う意思など無いのだろう。そんなものは捨ててしまったのだろう。

「降伏しろ張空。そうすれば殺しはしない」

「断る。そんなことをしている時間の余裕は無いんだ」

少女の儚い希望はいとも簡単に潰された。

初めから潰されるとは分かっていた。だけど彼女は捨てきれなかったのだ、彼とは違って。

「頼むから……張空、降伏してくれ。アタシはお前を殺したくない」

「そんな気持ちで戦場に立ってたら、アンタ死ぬぜ」

「アタシは、多分もう抑えきれないから……この寂しい気持ちを抑える事なんてできないから……お前を傷つけてでも取り戻したいって思っちゃうから…………頼むから、降伏して。傷つけたくない。殺したくないんだ、お前を」

言葉は重かった。少年の元へ届く時には、その重みをさらに増して彼を押し潰さんほどのものとなっていた。

呑まれそうになる。

今すぐ少女の言葉通りに降伏し、彼女の痛みを和らげた方がいいのではないのだろうか。

世界がどうなろうと構わないではないか。自分が想い、想われてる相手を助けるのが優先ではないか。

その選択の数日後に滅びが待っていたとしても、それが最善ではないのか。

「…………通過点だ……」

覚悟を忘れないように、躊躇を忘れるように、小さな声で少年は言葉を返した。

少年が迷っている時に言われた言葉を、自身の中で反芻し、自分の意志として放つ。

自分の中へと刻み込む。例え、この世界から自分が消え去ってしまってもここに立った証明として。

「死神。俺にとってはお前から離れたことも、敵を殺したのも、ここでお前と再会しちまったのも全て通過点なんだ。俺はお前に目を向けているが、俺が見ているのはお前じゃない。さらにその先だ。俺が見てるのはあの時からゴールだけなんだよ。今更、誰かに降伏することはできないさ」

彼の覚悟。彼の御託。彼の戯言。この言葉は一体どれに当て嵌まるのだろうか。

どれにしろ彼女にとっては悲痛のものだった。痛くて痛くて堪らない。泣き出しそうなほど傷み痛む言葉だった。

彼は道を外れたのではない。彼は道を変えたのだ。彼女とは別の道を、歩み進む道として選んだのだ。

故に彼は止まらない。別方向の彼女では止められない。傷つけずには止められない。

傷付けるしか他に手は、ない。

「……なら、死なせてでもお前をアタシの物にするしかないな」

少女は涙を自身の中へ封じ込めながら言う。

「なら……お前を殺して前に進まなくちゃいけなくなるな」

少年は過去を自身の中へ封じ込めながら言う。

再会した少年と少女は反発した。その先にあるのはどちらかの死だけだ。

彼としては穏便に事を済ませたかった。彼女を死なせないために力をつけたというのに、彼女を殺すためにその力を振るうことになるとは夢にも思わなかった。

彼女としては穏便に事を済ませたかった。彼に人を守って助けてやれる力と言われ嬉しかったこの炎を、彼を殺すために振るうことになるとは夢にも思いたくなかった。

だが現実にそうなってしまうのならば仕方が無い。

現実に呑まれ、互いの想い人に刃を向けるしかない。

「アタシのために死んでくれ小月」

「俺のために死んでくれ【蒼い死神】」

想いを燃やし、想いを欠けさせ、愛は満ちず、殺意が煌めく。

蒼い火炎はうねりを上げて、黒き拳銃は乾いた音を鳴らす。

死神と悪夢の使いは、殺し合う。

案外ここ短かった。もうちょっと自分の中では長いかと思ってたのに。

今回はちょっと丁寧に作ったから、次から文章がまた雑になっていくという悪夢が待っています。

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