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NOISE.3  作者: 坂津狂鬼
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閑話

シキの元から小月が去ってから2週間が経った。

見るまでも聞くまでもなく、表の世界が裏の世界に呑まれていっているのが感じられた。

本来、世界にある不可思議をしらない人間がそれを知り始めていた。

一体どこから情報が漏れているのか。探し切れていないらしい。

このままでは当然、狐狩りが行われる。

裏の世界が知られすぎてしまったのだ。裏の世界の住人を大量に消すしか方法はない。

前回、夏に行われた狐狩りからそう経っていないというのにまた殺し合わなくてはならない。

今までのシキならばそのことを(うれ)いただろう。

しかし今はそうではない。むしろ自ら戦場に出ていくことを望んでいる。

小月に裏切られて独りになってしまったから、死に場所を求めて戦場に出ていく。

そんな理由ではない。

離れていってしまった小月を取り戻すために、小月を求めて戦場に出ていく。

そういった理由だ。それ以外の理由など何もない。何も必要ない。

狐狩りが行われるのはもう避けられない。情報を漏らしている者も狐狩りが行われることを望んでいるのだろう。

正直なところ、シキには誰が情報を漏らしているか分かっていた。

秋音がいなくなり、小月もいなくなった。この二人に共通するのは魔神という点。

おおよそ魔神が元の体に戻ったのだろう。そして情報を漏らしている。

つまり、秋音はもうこの世には存在しない。元の形へと戻ってしまったから、仮の姿である秋音がいる意味が無くなってしまったのだ。

なら小月だけでも……アタシの元に…………。

シキの思いは日々を重ねるたびに強まっていく。もはや執念や執着、依存といってもいいくらいに。

でもどんな形になろうとシキは構わなかった。どんなに醜い形の思いになっても小月は取り戻す。

それだけが彼女の生きる支えであり、彼女が自ら命を絶たない理由だった。


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


隼綛白兎。

雑音拒絶(パーソナルノイズ)の最初の発現者。魔神を殺した者。オトアの敵。

彼はオトアと同じ怪物であり、オトアのように殺すためだけの存在ではない。

言ってしまえば、ただ誰よりも多く人を殺しているだけの凡才。

殺す才能などはなく、殺す力を与えられただけの人間。

元々を辿れば一般人。家族と一緒の家に暮し、家族と喧嘩をしたり家族と笑い合うただの子供。

それがほんの一つ歯車が噛み合わなかっただけで異常の頂点に立つような化物に成り果ててしまった。

魔神は雑音拒絶の性質の例えの時に、隼綛白兎の性質は裂くことだと言っていたが、彼の人生はどちらかと言えば裂かれるばかりの人生だった。

まず家族との関係を裂かれた。

別に大きな事故があったわけでも強盗殺人犯に襲われるような犯罪に巻き込まれたわけでもない。

ただの一家心中。隼綛の父親が会社を首にされ、さらには多重債務に陥り、そして両親がそれを決めたのだ。

隼綛白兎はこれに対して、勝手なことだとは思っていない。

父親が再就職にどれだけ苦労してるかも、母親が泣く姿を見てもう暮らしていくには辛すぎることも子供ながらに重々理解してしまっていたから。両親が死を決め込んだその時、抵抗することはなかった。

だが、生き残ってしまった。不幸中の幸いに隼綛白兎は生き残ってしまった。

どうしてそうなったか今だに思い出せない。思い出したくもない。自分を助ける原因になったものに恨みしか向けられないのだから、思い出す必要が無い。

こうして不幸な少年になった隼綛は、孤児院にすら送られることなく露頭を迷い、気付けば奴隷として他国に売り飛ばされていた。助かった際に必要になった医療費を払うためだったと隼綛は記憶している。

とんでもない話だと今でも思う。これならば教会の前で倒れでもして引き取られた方がマシだった。

他国へ売り飛ばされた隼綛は少年兵として育てられた。

食事もロクに取れず、重い武器を持たされて、人を殺せと命令されて、命令に逆らった子供は殺される。

生きる意味もここに来たらないのだからいっそ命令に逆らって死ねばよかったと思っている。

しかしもう隼綛白兎には何かに逆らう気など微塵も無くなっていた。

故、人を殺すしかなくなった。だから隼綛はこう考えた。

人を殺せば、自分もいずれ殺される。いわゆる因果応報。自分を殺させるために人を殺した。

殺した。朝も昼も夜も殺した。夢の中でも現実でも人を殺す光景が彼の視界には常に存在した。

殺して殺して殺して殺した。だが殺されることはなかった。何故か隼綛は生き残ってしまった。

生存本能というやつなのだろうか。偶然なのか元から殺すことに長けていたのかは分からないが、生き残ってしまったのは事実だ。

いずれ隼綛が少年兵として所属していた場所も敗け、どこかの国のいらぬ同情によって元に住んでいた国に戻された。

正直、隼綛はバカかと感じていた。

散々人を殺してきた少年兵を元の国に戻したところで、今更正常に戻れるわけがないだろ。

そう感じていた。だがそう感じていたものはすぐに無くなる。

元の国に戻された彼に接触してきた、邪神によって。

死神は命を司り、魔神は夢を司り、邪神は心を司る。

邪神の力の詳細は知らないが、心や精神に関することだというのは本人が言っていた。

もはやその邪神の顔すら思い出せないが……いや能力によって思い出せないようにさせられているだけだろうが。

ともかく邪神は隼綛に一つの誘惑をした。あることをすれば貴方の望みが叶うと。

それは"他人の女性の血を飲む"という事だった。

隼綛はまず邪神に頼んだ。お前の血を飲ませろ、と。そうすれば手っ取り早く終わる。

だが邪神は断った。そして一つ隼綛に提案した。そして隼綛はその提案を承諾した。

女性を殺してその血を啜る。そういったもの。

散々戦場でも人を殺してきた身だ。そう難しい話ではなかった。

多くの女性を殺し、多くの女性の血を飲んで、そして望んだ。ある一つのことを。

血を飲むごとに自分の願いがようやく叶うと興奮し、歓喜した。

しかし当然、邪神がいうようなことは起こらなかった。

そしてもう一度、邪神に会った時に隼綛白兎は問い詰めた。

どういうことだと。望むものなど手に入らないではないかと。

そして邪神はこう返した。

血を飲むときに強く、強く何かを拒絶しなければ得られないのだと。

さらに邪神は自らの指の先を切り、隼綛白兎にさあ実行しろと言わんばかりに血を垂らし始めた。

こうして隼綛白兎は強く世界を拒絶し、空間を歪める雑音拒絶を得てしまった。

望むものとは逆の形のものを。

簡単に言ってしまえば、不幸に塗れていた隼綛白兎を見つけた邪神が嘲るように弄んでいただけなのだ。

隼綛白兎は遊ばれていただけ。化物に成り果て、そして邪神に見限られた隼綛のその後は単純だ。

【虚無の王】に出会い、ある計画に参加するように勧められた。

ある条件をだし、隼綛と【虚無の王】との間の交渉は成立し、魔神を殺した。オトアと出会った。

そして計画が頓挫しかけ、8年もの間、あるものを望み続けながら待ち続けた。

2年前に【虚無の王】が復帰し、計画がまた再開された。

そして―――――。


――――1月26日。

オトアたちの計画にも、隼綛たちの計画にも含まれている狐狩りが勃発した。

え、もう終わりは始まりますよ。

そもそも、このNOISE.3は早く終わりますから。

今までの半分以下で終わりますから

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