欠けて満ちる
雑音拒絶。他人の女性の血を飲む際、強く拒絶したことが間接的に能力になる一種の契約のようなもの。
元々は邪神の企みに魔神が多少手を貸して完成されたものらしく、他人の女性の血を飲むことをトリガーとした性質の具現化が雑音拒絶の正体らしい。
魔神はそこからの詳細をあまり知らないが、初めて発現した者である隼綛白兎は空間を歪める力を手に入れたという。
それが魔神自身が殺されたのだから、一種の因果応報とも言えるかもしれない。
「でも魔神が関わったってと言っても篠守唯音の前の魔神が関わっただけだから、とんだとばっちりよ」
魔神は不機嫌そうにため息交じりにそう呟いていた。というか神様にも前の代とかがあるらしい。
それはともかく。
隼綛白兎が手に入れた空間を歪める力。それは実際に空間を歪めているのではなく、空間を裂くことによって歪めることができるというものらしい。
断たれてしまった空間が、自然と埋め合わせで周りから掻き集められて歪められるということらしいが俺には少し理解し難い。アリジゴクとかそんな感じかな。
まあ重要なのはそこじゃない。隼綛白兎の力が空間を歪めるものではなく、空間を裂く力であるという事が今は重要らしい。
「オトアの力だって空間を歪める力。でもあっちは遮ることで空間を歪める。オトアと隼綛では同じ空間を歪める力だというのに、その性質がまったく違うの。理解できてる小月君?」
「……つまりあれだろ。隼綛ってのは鋏でオトアは壁なんだろ、力の形が」
「そう。どちらも世界を拒絶したというのに性質が似て非なる力になってしまった。そこに性質の具現化が表されてるの」
性質。それは遺伝子や育った環境、感じ方、性格などの細かい情報の集まりであり傾向といってもいいもの。
その個人しか出ないほどの細かい傾向。それを具現化させたら、隼綛は裂くという形で、オトアは遮るという形で現れてきたのだ。
器は元々その形を決められている。その器に注がれる水の量は、能力が与えられる時に決まる。
ようは拒絶の度合いによって能力の強弱が決定される。
弱い拒絶であれば弱い力。強い拒絶であれば強い力。
何を拒絶したのかではなく、どのくらい拒絶したのかによって決まってしまう。
「そして小月君。貴方の雑音拒絶の力は何?」
「相手の行動を歪める力。外側であれ内側であれ、その行動を歪めることができる。能力は一人に対して一日六回までしか使えなくて、行動を歪めた場所以外のところを動かされると能力が解除される」
「まあ解除しやすさや回数制限は無視して……その元々の性質は何だったと思う?」
相手の行動を歪める力の元々の形……阻害や静止だろうか。
もしもそれを強化して、例えば、オトアと同じくらいに強大になったとしたら時とか止められるかもしれない。
まあ俺に限ってそれはないけど。
「阻害とか静止とか、抑制とかじゃないか?」
「チッ、チッ、チッ」
考えたものを言った俺に対して、舌打ちに合わせて指を振る魔神。
うわ、凄くムカつく。地味にイラッてくる。
「貴方の性質の形は、欠けること。そして満ちること。まるで貴方の名前のような性質ね」
欠けること。満たすこと。その二つが俺の性質。
いや、二つで一つなのだ。欠けて満ちる。月と同じ。徐々に満ちて、徐々に欠けていく。それの繰り返し。
それが俺の性質。
おおよそ行動を歪めるという力は、相手の行動というものを欠けさせるという事だったのだろう。
そして一日経てば、満ちる。使用回数が元のカウントに戻るのだ。
「貴方の人生でもそうじゃない? 2年前お兄さんの死で欠けて、今年の夏にシキに出逢って満ちた。そしてまた貴方は欠けていっている」
「それじゃ……守れれば、きっと満ちるな」
「性質という器の形を二つも持つ貴方の雑音拒絶を強化してあげたの。つまりは弱すぎた拒絶を強めた段階にしたっていうわけ。当然、元々の相手の行動を歪める力も使えるけど……その力とかに名前ない? 一々力の概要言うのが面倒なの」
「……《不協和音》とか名付けてはみたけど」
「そう。それじゃその《不協和音》は引き続き使えるけど、さらにその上の段階の形も使えるようにしてあげたわ。こんどのその力は制限なんてないわよ。自分や自身の武装だけに影響するだけだけど、欠けて満ちる力を使えるようになるわ」
「それも補助ってわけか」
「さあ……能力名は私が名付けたものを使ってね。カッコよく名付けたから」
自分自身にしか影響は出せないが、欠けて満ちるその性質が無限に使えるようになる。
どれくらいかは分からないが、多様できそうな力だ。
「そしてまだあるんだけど……これ」
魔神は懐から、銀色の大きなリボルバーを取り出して渡してきた。
「これは……黑鴉の説明なら一気にしてくれればよかったのに」
「別にそれは強度とかが高いだけで、ほとんどただの拳銃と変わらないよ。ただ火力増強のために渡すだけで」
「火力増強って……ってかかなり重いなこれ」
「重量は2㎏、全長は381㎜……まあ大体40㎝。それでマグナムとか撃てるよ。反動は滅茶苦茶凄いけど、それで人の頭撃ったらスイカが弾け飛ぶみたいになるから」
「どえらい火力だな! 人の頭吹っ飛ばす武器なんて必要になるのか!?」
「決着をつけるには、その位の火力があった方がいいと思って。さっきの強化された雑音拒絶と合わせて使って貰うためにも用意したし」
決着をつける。
その言葉に少しばかり息を呑む。
俺がこれから戦うのは、シキのためだけではない。もしもシキを守るためだけに戦うのだとしたら悪夢の具現化を得たり、雑音拒絶の強化するまでの必要がない。
黑鴉の強化と、体の強化。それだけで最悪はことが足りるからだ。
でもそれだけじゃない。だからこれだけ手数を用意して戦いに行くのだ。
だからシキを裏切ったのだ。
「そのリボルバーの名前は白烏。正直、名前つけるのが面倒だった」
「もう少し、ましな言い訳を考えてくれ」
「あと、これ。私からの餞別」
魔神の手から出されたのは三つの大きな銃弾。
おおよそ今渡されたリボルバー、白烏に装填できる銃弾。
「《魔王の棺》。これは三発だけ。いつ使うかは自分で決めていいよ、当たれば絶対の殺傷能力を発揮するだろうから」
「絶対……なんだな?」
「絶対だよ。頭に当たれば、絶対に相手を殺す。それだけは保障する」
「そうか。ありがたく貰っておくよ……あとさ」
おおよそ、この最終兵器ともいっていい《魔王の棺》の説明をしたということは武器の説明はこれで終わりなのだろう。
だけど俺はまだ一つだけ聞いていないことがあった。
「俺の強化された雑音拒絶の名前はなんていうんだ?」
たった一つ。それだけは最後の武器の説明に流されてしまって聞けなかった。
問われた魔神は、悪そうに口を歪めてその能力の名を言う。
相当自信のある名前なのか、それとも皮肉を込めた名前なのか。
それは聞かない限り、聞いたとしても判別できるものではなかった。
「……《他人事》」
これ書いてて思った。
絶対、最終的に矛盾が生まれる。作者が何も覚えてないから




