武器
「私は貴方に力を与える上で悩んだことがある。なにせ貴方は弱いというか……しょぼい」
前に進もうと決心した俺に、いきなり魔神が痛烈な一言を浴びせてきた。
出た杭は打たれる。まさしくこういう事なのだろう。
「弱い者には能力強化してやればいいと思ったんだけど、しょぼいものは強化してもしょぼいから……本当に悩んだ。苦労した。多分、私史上一番考えたと思う」
どれだけ俺は魔神に苦労をかけたっていうんだ。それとも普段魔神が何も考えていないという事なのか?
とりあえず魔神が言葉を発するたびに折れそうになる心を必死に支えながら、本題に入るのを待つ。
「そして私は、貴方が持ってる唯一のものを強化して貴方に与えることにした」
「唯一のもの?」
「まあ三つくらいあるんだけどね」
「唯一じゃねぇ!!」
まあ俺以外の人物が持っていないという意味の唯一だろうから、決して三つあっても間違いではないんだが。
しかし俺しか持ってない物なんて三つもあるか? まず第一にしょぼさしか思いつかないからどうしようもないけど。
「一つは武装。一つは異能。一つは体質。それぞれ貴方にしかない唯一……だと思うものを強化して貴方に与えてあるの」
どうやら魔神の言い様だと実装は終わってるらしい。もうその三つの力は使えるみたいだ。
まるで実感がないんだが、本当に俺に使えるものなのか?
「まず体質から生み出した力について説明するね。概要的には、悪夢の具現化」
「悪夢の具現化……俺が見た夢でも再現するのか?」
そりゃ俺は8年間ぶっ続けで自分が色んな方法で死ぬ悪夢を見続けてるし、俺の唯一のものだろうけど。
結局、そんなものを具現化したところで死ぬのは俺じゃないか。
「勘がいいね、調子出てきた? まさしくこの力は小月君が8年前から今日まで見続けた悪夢を現実に再現する力だよ。でも死ぬのは君じゃない。対象だ」
「まあそうじゃなきゃ、力として意味ないけどな」
「方法としてはまず悪夢の検索、そして再現する悪夢の番号を口にしてエンターすれば再現されるよ。対象の定め方は自由。まあでも大体、誰に使うかわかってから検索始めると思う」
ネットみたいな能力だな。ってか動画投稿サイトとかか。
検索して、クリックして、再生。
手順としてはそんな感じなんだろう。対象の定めかたは適当だけど。
「ちなみにこれ、現実であれ夢であれ自分が経験した死を再現する力だから。一発で瀕死になるような攻撃をくらってあればそれを再現することもできるよ。例えば……シキの腕力とかね」
「身体能力もこれで強めることができるってことか」
「そういうこと。これ一つだけで小月くんには、えぇーと…………3000以上もの攻撃パターンができたわけ」
なんだろう。数だけ聞くと自分がとんでもなく強くなった気がする。
でもきっとその悪夢の具現化とやらも使いようによって、有能にも無能にもなるのだろう。
「次に武器。さすがにこれも何を強化したかは小月君も分かってると思う」
「黑鴉だろ」
僕が持ってる唯一の武器といったら、もうそれしかない。
それ以外には何も武器らしいものは持っていない。
「そう、黑鴉は新しく二丁作り出したの。名前は、右翼と左翼」
「なんか派閥みたいになってるぞ」
「単純に右手用と左手用の違いだけなんだけどね。鴉だけじゃ寂しいし、翼って響きがカッコいいじゃん」
さっきオトアに中二病なんたら言っていたが、魔神も大概だと思う。
まあ黑鴉右翼とか黑鴉ver.左翼とかついたらカッコいいと俺も思うけどね。
「機能としては最初から啄みを使えるようにして、あと実弾も発射できるようにした」
「実弾も!?」
「鑑の武器は一貫して殺傷能力が皆無に等しいから、それくらい付けないと」
本物かよ。とうとう本物の銃を握ることになるのかよ。
なんか急に悪者じみた感じがしてきたぜ。
「全長198㎜、重さ1㎏、口径9㎜×19、装弾数17、コンベンショナル・ダブルアクション――――」
「ごめん。何言ってるか分からない」
「うん。正直、私も自分で何言ってるか分からない」
だったら始めから簡単に説明してください。
「大型自動拳銃で、一つの弾倉で9㎜弾丸を17発まで撃てる。安全装置のところをカチカチすれば今まで使ってきた黑鴉の機能と実弾発射モードを切り替えできるから。分かった小月君」
「なんとなくでも理解できた自分が憎いくらいには」
まあでも分かり難くて専門的な言葉よりも、俺にはこういった言葉の方がまだ分かり易くはある。
若干バカにされたような感じはあったが。
「あと秘密兵器として武器がもう一つあるんだけど……異能の方とまとめて話をしちゃうね」
異能。多分、俺が持ってる異能というのはしょぼいアレだろう。
「雑音拒絶。それを強化して与えたんだけど、少し説明が長いよ。覚悟できてる?」
「一旦休憩したいです、先生」
「仕方ない。30分休憩しようか」
というわけで少しの間、休憩することになった。
今度は休憩タイムをいれてくれるそうだ。魔神に何かいいことでもあったのかもしれない。
だらだら説明面倒だなって文章から感じられる