理由
そもそも何の話を聞いてたか忘れちまったよ。
本題って何だっけ?
「次、狐狩りが起こった時に何が起こるかについて説明するよ。メモの用意はいい?」
引き続き魔神が説明しようとしてくる。
その前に一つだけ重要な問いかけを俺はしなくてはならない。
「すいません、トイレタイムは無いんですか?」
「ありません」
案外魔神は厳しかった。校長先生の話くらいだぞ、トイレタイムが無い話は。
でも魔神が本題を最初から語らなかったということは、今まで説明してきたことが全て重要だからだろう。
そしてそれについて俺が何も知らなかったからだ。
「まずシキが殺される。【虚無の王】たちの計画によって。隼綛によって」
オトアも言っていた。隼綛白兎は死神を殺すというようなことを。
魔神も言うということは、おそらくほぼ確定なんだろう。避けては通れない道なのかもしれない。
それでも俺は…………。
「そしてオトアと隼綛が殺し合って、どちらかが死ぬ。まあここまでは被害が予期できるんだけど……問題は、鬼神が出てくるってこと」
「……あれ? 魔神はまだ生きてるから、鬼神は出てこないんじゃ?」
「魔神を瀕死まで追い込んで、死神を殺した。条件的には鬼神が来ても全然おかしくない。問題はその時の被害よ」
「被害って……絶対鬼神が勝つんだろ。だったら【虚無の王】と隼綛ってやつが死ぬだけ――――」
「国一個無くなる程度ならいいんだけど……大陸一つ無くなったら、さすがに被害がヤバいでしょ?」
……ヤバい。色々とヤバい。
とんでもない事になってる。俺が知らない間に、あと少しでとんでもない事が起こる。
「【虚無の王】って今、兄貴の体にいるのか……?」
俺の問いかけに魔神はすぐに答えてくれた。
「ええ。張空陽介の中に、【虚無の王】はいる」
「じゃあさ……もし、鬼神とやらが出てきて【虚無の王】を殺すとなったらさ」
「そうね。張空陽介も殺すことになるでしょうね」
……おいおい待てよ、鬼才。
まさかアンタは鬼神とやらに、運命の擬人化とやらに殺されるのか。
そりゃ2年前にアンタが死んだ時、俺は喜んだよ。
でもいつもそうだと思うなよ。今はシキと出会って、俺にも守りたいものがあって……兄貴の婚約者とか言ってる奴にまで会ってんだぞこっちは。
【虚無の王】の体を乗っ取られる前に何か企んでるんだろ。
予言なんてもの残して、死んだ後も電話なんてものを掛けてきて、それで何も手を打ってないなんて言われたって信じられるか。
俺にはまったく分からないけど、お前には今の現状すべてが理解できてるんだろ。
なのにこのままだと、【虚無の王】の好き放題やられて鬼神を出すことになっちまうじゃねぇーか。
そしたらお前は死ぬだろ。シキも死ぬし、挙句の果てには大陸一つ無くなるそうじゃないか。
また俺は何もかも失くすのかよ。兄貴がいなくなることで、また。
また大切に思ってる場所を奪われるのかよ。誰かに。
「さてさて、小月君」
俺が事態を把握したと思ったんだろう。
魔神は問いかけてくる。
「シキを裏切ってでも、シキを守りたい? 大切なものを裏切ってでも、大切なものを守りたい?」
兄貴が死ねば、また俺の大切な場所はすべて奪われる。
シキと出会う前と同じになる。何も無い状態になる。
でも、俺が裏切ったところで意味などあるのか。
裏切っても力はない。守る力も、傷つける力も、変える力も何も持っていない。
「力なら与えてあげるよ。ただし時間がかかる」
魔神にはどうやら俺の考えが読めているようだ。
だがその誘いには乗れそうにない。
どうせ魔神に力を借りたところで、暴走するのがオチ。
どうやったって、俺に力は――――。
「だからさ、力を与えるって言ってるじゃん。その形は私にもわからないけど、貴方に適切な力を与えてあげる。でもそれには―――」
「時間が掛かる。でもそれなら、シキを裏切る必要は無いんじゃないか?」
「あるよ。シキには知られちゃいけないだろうから。小月君が変えたいもの全てを」
……最悪だ。
この変態魔神、どうやら俺の心は全てわかるらしい。長年、俺の心の中にいたからだろうか。
でもだとしたら、一つだけ最後に問わねばならない。
「魔神。お前はさ……俺が変えたいもの全てを変えられる力を、俺に与えるのか?」
「与えてやってもいいよ。シキを守ると約束するのならば」
即答だった。確認作業のようなものだった。
最初から答えが決まっているものだった。
だったら……答えてやろう。
「ああ。俺は何を失っても、シキを守る」
だから俺は裏切った。
所詮は自分のエゴのため。
所詮は自分が失ってしまうのが怖いから。
所詮は力を欲したから。
所詮はただ守りたかったから。
だから裏切った。だからもう戻ることは許されない。
せめて全て終わるまでは、許されない。
まあ、どうせこの程度の理由で裏切る主人公ですけどね




