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NOISE.3  作者: 坂津狂鬼
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乖離

実に許しがたい結果だった。

自分に彼を裁ける権利があるのだとしたら、今すぐにでもそれを行使しているであろう。

しかしそれは許されない。自分が先にそちら側の領域へ足を踏み入れているから。

忘れられない過去のために自分はもう罪人となっているから、怪物になっているから。

彼の判断を間違いとして裁くことはできない。

愛する者を守るために愛する者を裏切るその選択を裁くことはできない。

「篠守君。随分と機嫌悪そうだね」

名前も知らない自らの雇い主(オーナー)の言葉を聞くが、返答する気が起きない。

それほどにオトアの気持ちは苛立っていた。

せめて裏切るにしろ、もう少しまともな選択があったのではないか。

そう思えてならない。小月の判断は確実に間違っていると、オトアは思っていた。

だがそれを口に出すことはない。出すことはできない。自分も間違った選択をした一人なのだから。

「……それにしても、魔神と張空君の乖離は中々かかるねぇー」

「8年間も住み着いた場所だ、手間が掛かるのは仕方ねェ」

それに魔神は何かを小月に与えるようだしな。

その言葉は確信がなかったため口には出さなかった。だが魔神ならばやりかねない。

今、オトアと雇い主がいる部屋の隣には張空小月と張空秋音が放置されている。

秋音と小月を浚った後、魔神が小月の体を乗っ取り、自ら元の体に戻るために一部屋用意してと頼んできたのだ。

魔神が率先してオトアたちに協力するとは思えない。そもそもオトアたちが何も伝えていないのに元の肉体に戻ることを口にした。

あの魔神が。篠守唯音がそんなことを言い出すなど何か必ず裏がある。

思い当たるのはただ一つ。張空小月に協力している。

何をするかは知らないが、今この自分たちの部屋の隣で何かが行われている。おそらく与えられている。

「まあ、とりあえず魔神がいれば狐狩りを起こすことも簡単になるね」

魔神の力は、事象の有無の決定。いわゆる事象の変更。

無い事を有る事にして、有った事を無かった事にする力。それを持つのが魔神。

有る事、無い事でっち上げて狐狩りが起こらざる得ない状況を作り出すなど造作もない。

ただ不安なのは、魔神がそれに協力するのかという点。

彼女がそれに興味を持てば、協力するだろうが……オトアが何をするのかを理解したのならば協力を拒むかもしれない。

「どォあれ、魔神を自分の駒としては考えるな。アレは誰かの飼い犬になるよォな性格じャない」

「篠守君より性質悪いね」

魔神を押さえるのは簡単だが、抑制はオトアにも無理だ。

あれは爆弾。暴走特急。一度方向性が決まれば相手の損得など無視して進むはた迷惑なもの。

駒として考えるにはあまりにも猛進すぎる点がある。


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


「起きて、小月君。終わったよ」

「…………うげぇ、吐きそう」

誰かに促され、目を擦りながら上体を起こす。

見たこともない部屋だった。起こした声もシキのでも秋音のでもない。

記憶が曖昧だ。何かをしていたような気がする。

何か大切なものを壊した気がする。何か。大切な何かを裏切ったような気がする。

「お目覚めかな」

「……あぁ。思い出した」

何を壊したか。誰を裏切ったか。何を失うのか。

全部思い出した。

「これから大事な説明するけどいい?」

「説明……? 何の?」

「貴方の武器。貴方の鎧。貴方を支援する力について」

頭がまだ回り切っていない。言ってる意味が所々分からない。

「悪い……今は無理だ」

「そう。じゃあ私は音にぃとじゃれてくるから、よくなったら言って」

そういって、魔神はどこかへと行った。

しばらく茫然と、何もせずにいると段々と後悔の波が押し寄せ俺を潰そうとする。

誰も声を発していないのに、何故かどこからか声が聞こえる。

どうしてこちらを選んだ。何故裏切った。誰かを悲しめてまでも選ばれるべきものだったのか。お前の判断は。

『小月……ヤダっ! 行かないで! 傍にいて! ずっとアタシの傍にいて!!』

シキの声が耳にこびりついて離れない。

シキの悲鳴のような叫びが忘れることを許さない。

許されない。逃げ出しても、追いかけてくる。

それ故か。思い出していた。裏切ることを決めた日のことを。

魔神から聞かされた真実を。




0(クロ)1(シロ)の世界で、普段と違う雰囲気の魔神から真実を語られる

「8年前からすべて始まったの。8年前、張空兄弟の体にある者たちが乗り移った時から」

その語られた真実はその原点から始まった。

「張空小月には魔神であるこの私、篠守唯音が。張空陽介には【虚無の王】が乗り移った。そこから貴方の人生は定まった方向へ動き始めた」

「【虚無の王】……?」

「簡単に言えば、呪いだよ……まあ、物事の始まりを突き詰めればもっと前から遡ることになるけどね。貴方の人生が狂い始めたとしたそれは8年前の夏からになる」

8年前。確かにその頃から俺は毎日毎日悪夢を見るようになっていた。それは魔神が体の中に乗り移っていたためと前にも聞いたが。

「【虚無の王】は世界の浄化を計画しているの」

「世界の浄化?」

「世界を、この星を、この宇宙を、この時、この場所、この全てを成り立たせるすべてをゼロに戻す計画ね。簡単に言えば、生命体の全滅って処かな」

「はぁ!?」

「生命体を全て消し、そうした後で成したいことがあるみたい」

「なんでそこ曖昧なんだ」

「だって理由を知って同情なんてしたくないもの。殺人犯の動機がどうしようもない不条理を終わらせるために人を殺した、なんてオチに同情してこの世の何かに疑問を抱くなんてバカバカしいもの」

考えたくない。悩みたくない。

それが彼女が【虚無の王】が求める結果を知ろうとしない理由だろう。

そして彼女からしてみれば求める結果の過程で生命体を全滅させる事のほうがより重要に見れたというだけの話だ。

「【虚無の王】は生命体を全滅させるため、まず、死神と魔神を殺すことを決定した。でもそれを中々実行には移せなかった」

「……なんで?」

「小月君は知らないと思うけど、この世には鬼神っていう最強がいてね。そいつを死神と魔神を殺すってことはそれとも戦うってことなの。それで戦う準備ができなくて実行には移せなかった」

「鬼神って相当強いのか?」

「うん、めちゃ強い。ってか勝てない。誰も勝てない。誰にでも勝つ。それが鬼神っていう存在なの」

「…………何そのチート」

「まあ世界そのものっていうか、正義そのものっていうか、この世にある善そのものっていうか……運命の擬人化みたいなものかな」

「うわぁ…………」

そもそも宗教的には、運命を擬人化したものが神様じゃないのかよ。いや鬼神って言ってるから神だろうけどさ。

「だからその鬼神のせいで【虚無の王】の計画はドン詰まりになったの」

そりゃドン詰まりにもなる。なにせ倒せないものを倒さなければ求める結果は手に入らないんだから。

「そこで【虚無の王】は鬼神を数分だけでも抑えられる強い人間を探した。そこで見つけたのが、隼綛白兎」

隼綛白兎。8年前に魔神を殺し、次の狐狩りでシキを殺すかもしれない人物。

いや殺す。鬼神を相手にする気である人物なんだから。

生半可な強さじゃない。オトアと同等か、それ以上のはずだ。

「隼綛白兎が話に乗っかったのを転機に8年前、【虚無の王】はようやく行動を始めた。手始めに魔神を殺すことに決めて……そこで計画にまた狂いがでたの」

「狂い……?」

「篠守音亜。魔神殺害の計画最中に雑音拒絶を得た彼の暴走によって滅茶苦茶になった。っていうか端的に言えば殺された」

「……音亜…………?」

「あのオトアだよ。小月君をボコボコにしたあの」

そうか。魔神を殺す計画に巻き込まれて、妹を亡くして雑音拒絶を得て、裏の世界に関わってしまったのか…………あれ?

さっき篠守いってたよな。たしか魔神が自分の名前を言った時に……それで、オトアの苗字は篠守なんだよな。

魔神の性別って、多分だけど、女だよな……。

「……もしかしてお二人、ご兄妹?」

「そうだけど」

「ぇぇえぇ…………っ!?」

「小月君って本当に何も知らなすぎなんだよ。裏の世界も知っているのに、今起こってる事の1割も理解できてない」

たしかに今、知らなすぎだと実感した。

兄貴の体に【虚無の王】と呼ばれる呪いが乗り移っていたこと。鬼神と呼ばれる最強の存在がこの世界にいること。魔神とオトアの関係。

俺は色々と知らなすぎだ。あまりにも無知。

ただでさえ無力だというのに無知まで加われば、もうどうしようもない。

「話を続けるよ。オトアによって殺された【虚無の王】。でも呪いだから実際、死んだのは乗り移っていた体だけなの。だからまた乗り移ることを決めた。でも乗り移るにも条件があった」

「条件……?」

「周りにいた人間が少なかったんだよ。その時【虚無の王】の周りにいた人間はオトア、隼綛、小月君、そして陽介。その四人だけだった」

「なんでそんな場所に俺と兄貴がいるんだよ……ってか俺、そんな人殺された場面に出くわした記憶ねぇーぞ」

「その時にはもう私が体に乗り移ってたからね。記憶ないのは当たり前だよ」

乗り移っていきなり、人の体を勝手に動かしたのか。この変態魔神は。

「オトアは乗り移るとしては雑音拒絶が邪魔だった。隼綛に乗り移れば、鬼神と対峙する人間がいなくなる。小月君にはもう私が乗り移ってたから定員オーバー。だから必然的に張空陽介の体に乗り移ったの」

「……あのさ」

「何?」

「思うんだけど、兄貴の体を選ばなくてもその隼綛って奴の体に乗り移って、後で他の誰かに乗り移ればよかったんじゃないの?」

「実際、隼綛もそのことを提案したわ。でも【虚無の王】はすぐさまに死神を殺す気だったみたいなの。シキも歩いて数十分の距離にいたし」

「え、それかなりヤバかったんじゃ」

「いやそれがね、小月君のお兄さんがハッスルしちゃって乗り移っちゃってきた【虚無の王】を抑え込んじゃったの」

言い方に不満はあるが、さすがはウチの兄貴だ。

俺は乗り移ってきたものに成されるがままに操られ、兄貴は乗り移ってきたものを見事に抑え込んだ。

鬼才は幼きときから、素晴らしい結果を残すんだな。

「まあ、本当は張空陽介も命の危機だったんだけどねぇ」

「……えっ?」

「【虚無の王】に命狙われてたみたい。いつもの場所にいなかったとかで殺されるのは免れたみたいだけど……あの時、なんであの場所に君たち兄弟はいたんだろうね。運命ってやつかね」

「……何の話だ?」

8年前の夏……たしか叔父さんの家に行ってた気がする。

でも、ほとんど覚えてない。なんか緊張感があったっていうか……居心地が悪くて早く家に帰りたくて堪らなかった記憶がある。

本当、何故かそこの部分だけ記憶が曖昧なんだよな……。

「まあいいや。ともかく張空陽介に抑え込まれたことによって【虚無の王】の計画はもう破綻寸前にすら追い込まれてた。それでも諦めきれなかった【虚無の王】は2年前に張空陽介の体をとうとう乗っ取った……はずなんだけど」

魔神の語りは急に自信を無くし、歯切れが悪い言葉を発する。

「2年前にもう一回だけ私は小月君の体を乗っ取った。張空陽介の偽造死体を作るためにね」

「……なんでそんなものを?」

「頼まれたから。わざわざ小月君の中で眠ってた私を呼び起こしてまで頼み込んできたから、貴方のお兄さんが」

兄貴が頼んだ。偽造死体を作るように。

何故? というかどうやって頼んだ。

そりゃ解読者と言われるくらいの才能を持つ兄貴なら、方法はすぐに分かったんだろうけどさ。

「さてここまではプロローグ。まだ寝ちゃダメだからね」

……………………。

話なげぇ!

この主人公、主人公なのに事情知らなすぎでしょ

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