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双貌の魔女  作者: 漣 連
第一章 魔女の生まれた村
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『概念魔法』


 概念魔法とは――魔法の奥義、秘奥として半ば伝説として語られる存在である。例えば、ここに魔法で出した炎があるとする。炎とは一般に「熱い」「燃える」といった特徴がある。


 これは炎が熱の塊であり、空気中の魔素が発火していると説明出来るわけだが――もしも概念魔法で炎を作り出した場合、少し事情が変わってくる。


 概念魔法とはその名の通り“概念”を抽出して魔法を行使する。つまり、概念魔法で炎を出す場合「熱い」炎や「燃える」炎といった選択肢が生まれる。


 当然、「熱い」だけの炎は「燃え」ないし、「燃える」だけでは「熱い」訳がない。そういった特殊な魔法を使えたとしたら、現実での応用力は議論するまでもないだろう。


 概念魔法については、長くから魔法使いたちにとって往年の夢であり悲願でもある。長年研究が続けられているが、残念ながら現在ではその熱意は冷めつつあり、永遠に成立することのない「机上の空論」という意見が大勢を占めていた。


 しかし、彼女はどうやら数少ない探究者のようだった。ただでさえ魔女(または魔法使い)という存在は周囲からの理解を得にくい。


 その上、半ば以上見捨てられた分野を研究し続けるのは、いったいどれ程の冷たい視線に晒されてきたのだろうか。その答えは、案外近くから得ることができた。


 二人は厄介者のように彼女に追い出された後、すぐ近くにあった小村に厄介になることになった。


 見た目通り片田舎といった風情の村で、魔導器の普及も遅れているようだった。灯りは篝火が主で、魔法の存在を探すほうが難しい程だ。


「この辺りは魔法があまり使われてないみたいですね」


「あぁ、まあそうだろうな」


 サックスは頷きながら、アインに簡単な説明を始めた。


「まず前提として――シュバリツォリネは魔法発祥国であるけどもその実、魔法行進国ではない、という事実がある」


「……、え?」


「まあ意外だよな。魔法が生まれた国でありながら、魔法があまり使われていないんだからな」


 サックスはそう言って苦笑した。アインの呆けたような表情が面白かったらしい。アインは頬を膨らませて、サックスはまた笑いながらも話を続けた。


「もともと、シュバリツォリネは騎士の国だからな。魔法みたいな胡散臭いものに言うほど魅力を感じなかったんだろう」


「だから、他の人たちも魔法を使わない。使おうとしないっていうことですか?」


「それも理由の一つだな。理由はまだあるんだが……ま、そのうち教えてやるよ」


 サックスはそう言って布団にもぐりこんだ。どうやら話はここまで、ということらしい。アインはもう少し話を聞いていたかったが、明日もあることだしサックスに倣ってアインも横になって眠りについた。


 ――――二人は宿がわりに通された部屋で眠っていた。こういう、交流自体が少ない村では旅人――この場合普通の旅人のことだ――は重要な存在である。


 宿代金として落とされる硬貨や旅人の知る旅物語といった物は、変化の乏しい寒村では日々を過ごすのに大切な物だ。

 そして、こういう時に村人が最も嫌がる事は――知られたくない村の汚点を、旅人に知られることである。 


 村の朝は早い。アインは外からする微かな気配を感じて目を覚ました。隣を見るとサックスは寝息を立てて寝ている。


 久しぶりに濡れる心配のない、屋根の下だったからなのだろう、いつもよりも深く寝入っているようだ。


 アインはサックスを起こさないようにゆっくりした動作で着替えを済ませると、音を立てないように部屋を出た。


 外に出ると、視界に幾人か何かの作業をしている村人たちの姿が見えた。道行く途中とちゅうに挨拶をしながら軽く辺りを散策する。


 まるでこの村だけ時間の流れが遅くなっているかのような長閑な空気に和んでいると、今まで何処にいたのか、キャシーがひょっこりと現れた。


「あれ、キャシー今まで何処にいたのさ。突然いなくなるから少し心配してたんだよ?」


「あらそれはごめんなさい。でもアイン、猫の気まぐれはよくある事よ?」


 キャシーは惚けたようにそう言ってアインの腕を伝って肩に乗り掛かった。


 アインはやれやれと溜め息をついて「で、何をしていたのさ」と問い掛けると「見物よ」と返事があった。


 アインと出会うまでは色々な場所にいた、と聞いていたから彼は少し疑問に思ったがまぁこれも彼女の気まぐれなのだろう、と思い直して、キャシーに何か変わったところはなかったか尋ねてみた。


 すると彼女は、ある程度質問が来るのを察していたのだろう、尻尾を器用に動かしてアインの視線の先を指した。


「あれは……教会?」


 彼の先にあったのは白い壁が眩しい、比較的小さな教会だった。


「教会が何で変わったところなのさ」


 そうアインが問うと、キャシーはもう諦めたとばかり溜め息をついて、出来の悪い生徒に教え含めるように説明を始めた。


「いいこと? 教会は魔法が生活の場に普及し始めた頃から台頭してきたわ。今でこそ生活に深く根を下ろしているけど、これはかなり異例な事なの。たった数百年っていう短い時間はね」


「…………。?」


 彼女の説明に首を傾げるアイン。どうやら理解できていないようである。


 キャシーはアインの理解の遅さに多少イライラしながらも辛抱強く話を続ける。


「つまり、文化や組織として新参の教会が、こんな辺鄙な寒村にまで勢力が伸びている事はかなり珍しいって言っているのよ」


 そこまで言って、アインもようやく理解できた。教会は今でこそ基礎的な教養――算術や歴史、魔法についての知識等だ――や治療、信仰を広める場所として有数の勢力と見られているが、その歴史自体は非常に浅いのだ。


 それなりの大きさの町ならば、教会はさほど珍しいものではない。しかし、普段から他の町との交流が少ない村に教会があるというのは、少々考え難いことなのだ。


 そうして見ると目の前にある小さな建物に、アインはどこか歪な、言いようにない違和感を覚えずにはいられなかった。


 何か、あってはいけないものがあるような感覚に襲われて白亜の建物を見上げていると、ドン、と背中に衝撃が走った。


「きゃ、」


 軽い悲鳴と、倒れた音がする。アインは慌てて振り向いてぶつかった人物を助け起こした。


「だ、大丈夫!?」


「……うん」


 アインにぶつかったのは、どうやらこの村の子供らしかった。手には子供の拳二つ分程の小袋を持っている。


 子供はコクン、と頭を下げるとそのまま走り去っていった。


「……いったい何だったろう?」


 アインは首を傾げながら、去っていった子供の後ろ姿を見送った。

 部屋に戻ると、サックスは目を覚ましていた。


「おうアイン、散歩にでも行ってたのか?」


 欠伸混じりに質問するサックスに暢気だなぁ、と思いつつアイン「はい」、と頷いた。「静かでいい所でしたよ。やっぱり、人がいるっていいですね」


 そう笑顔で応えるアインに、サックスは脳裏に昔の思い出がよぎった。


 一瞬黙ったサックスにアインは疑問の表情を浮かべながらも朝食を食べよう、と話しかけて、二人は部屋を出ていった。


 出された朝食を食べた二人はそれぞれ別の場所にいた。村人に手伝いを頼まれたからだ。


 アインは子供たちの遊び相手に、サックスは畑仕事をしていた。鬼遊びをしていると、村人から昼食の準備が出来たと呼び声がかかる。


「はーい。ほらみんな、行こう」


 子供たちを後ろ姿を眺めていると、最初に言われた子供の数と合わない事にアインは気が付いた。


「ねぇ、誰かここにいないお友達に心当たりはないかな?」


 すると何人かが顔を見合わせ、一人が口を開いた。


「レンちゃんのこと?」


「そう、そのレンちゃん? が何処に居るか知らない?」


「レンちゃんはね、いつも一人でどこかにいっちゃうの。あそびましょ、っていってもあそんでくれないし……」


 そう言って目の前の子供はじわり、と目に涙を浮かべた。それを見て慌てたアインは、「よし、それじゃあお兄ちゃんがレンちゃんに君と遊んでくれるように頼んであげよう」と安請け合いをしてしまった。


「ほんとに!?」


 目の前ではしゃぐ子供に苦笑いを浮かべ、(これは早まったかな……)と背に当たるキャシーの冷たい視線にアインは冷や汗をかかずにはいられなかった。


 サックスに一言行ってそのレンという子供がよく向かう方向を探しに足を向けた。


「……怒ってる?」


「そう思うのなら、さっさとその子供を見つけなさい。まったく、この村に来てからあんまり良い事がないわ」


「? それってどういう……」


 話を続けようとしたが、アインの視線の先に地面にしゃがんでいる女の子の姿が見えた。それは朝方アインにぶつかった子供だった。


「えーと、レンちゃん……だよね?」


 恐る恐ると言った感じで少女の背中に声をかけると、女の子の肩がびくりと跳ねて振り返った。


 よっぽど集中していたのだろう。彼女は邪魔をされたことを恨むようにアインを睨んでいる。


「……誰…………?」


「あ、えーと怪しい者じゃないよ、うん!」


 ……我ながら根拠も何もない言葉だった。少女もそう思ったのだろう、ますます彼女は視線を強くした。


「(アイン……流石にそれはないと思うわ)」


「(し、しょうがないじゃないか! 小さい子と面と向かって話すなんてさっきのを含めてまだ二回なんだよ!? どう話しかけたらいいかなんて分かるわけ無いじゃないか!!?)」


 思わず頭を抱え込みたくなったが、その時、アインの頭に妙案が浮かんだ。この方法なら何とかなるのではないか。リスクはあるけれども不信感を払拭するには今はこれしか方法がないだろう。


 アインは肩に乗ったキャシーを両手で抱え込むと、そっとレンの方に手を伸ばした。


 レンはキャシーの方に熱心な視線を注いでいる。心なしか少し頬が上気しているようにキャシーは見えた。アインの突然の行動に、そこはかと無い悪寒を感じ、キャシーは泣きそうになった。


「(……ちょっとアイン。まさか、)」


「(ごめん、キャシー。もうこれしか思いつかなかったんだ……)」


 その後、しばしの間森の中から悲哀に満ちた悲鳴が村の方まで聞こえてきたという……。


 取り敢えず一気に三話上げました。ちまちまと日にちを跨いで書きだめをしているので文章に変なところがあるかもしれません。その時は一言感想などで言って頂けると幸いです。


 次回は……なるべく早く書きます^^;


 執筆に割ける時間も増えたので次回はもう少し早く上げれたら……いいなと思います。

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