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双貌の魔女  作者: 漣 連
第一章 魔女の生まれた村
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旅路の会話

 投稿するのが遅れてしまいました。申し訳ないです……。今回から数話は説明が多くなると思います。世界観を固める大切なところですのでなるべくきれいに話を収めたい所です。


 ヘキサブルグを出て東に進むと、しばらく平坦な道のりになる。ヘキサブルグはシュバリツォリネ最北の街であり、海に面しているが、実はこの国で港のある街はヘキサブルグにしかない。


 この国を真上から見ると菱形に――ダイヤモンドの形に例えられることが多い。ヘキサブルグは真上に

ある頂点の辺りだと考えると分かりやすいだろうか。その菱形をさらに四つの菱形に分割した形がこの国を構成する地方の大まかな形だと思って貰っていい。


 上の菱形は平坦な地面が広がっており、かねてより貿易の拠点となってきた。一方、他の地方を眺めてみると菱形の辺に当たる部分はそれぞれ山や森によって阻まれている。かつての群雄割拠の時代、すぐそこに大国があったにもかかわらず侵攻を受けなかったのはひとえに天然の防壁があったが故である。


 しかし、この壁は同時に牢獄の檻にもなっており戦争中、人々は他国へ逃げることも叶わなかった。大量の死者を出した理由もここにある。


 この戦争を終結へと導いたのは黄金の騎士と呼ばれる、この国の騎士像の原形である人物である。諸説あるが、彼は幼き日に選定の剣を引き抜き王と認められ、多くの従者と共に戦場を駆け抜けたというのが最も事実に即した歴史であるとされる。


 この昔物語りは様々なパターンがあるとされるが、そのどれもにとある人物が登場する。彼女は黄金の騎士に時に助言を与え、時に共に力を合わし、そして共に戦場を駆けた。彼女の名前は一切記録に残っておらず、存在自体疑われていたが近年見つかった黄金の騎士に最も近かったとされる騎士の手記が見つかり、ようやくその存在が公認されることとなる。


 その手記には、残念ながら彼女の名前は載っていなかったが確かに実在していたらしく、この騎士はこう記述していた――〝双貌の魔女〟と。



 この世界での移動手段は現在の所三つである。

一つ目は、もちろん徒歩。時間はかかるがたとえどんな悪路でも踏破できる、昔より行われてきた移動手段である。


二つ目に馬、もしくは馬車での移動。最も移動スピードが速い手段ではあるが、この国ではあまり利用されない。これは、この国の地形が起伏にとんだものであるからである。無論、平坦で舗装された街道や切り開かれた林道では多く利用される。


三つ目は船である。しかし、この手段は他国へ渡る時くらいしか利用されない。何せ北以外は囲い込むように障害物があり、接岸が難しいためである。

アイン達一向は話し合った結果、基本的に徒歩で移動し、所により馬を使うことに決めた。馬を使うより徒歩の方が速く到着できる、という場所が多いためである。


馬を借りるのにも金がかかるので、今は多少懐に余裕はあるアインだがこの決定は嬉しいものだった。馬を使わないのはサックスが歩く方が好きという理由もあるが。


行先を決め、指針も定めたアイン達は翌朝になるとすぐに街を出た。そうして歩き始めて三日目――北のマリアン地方から東のカーム地方のちょうど境目、ハプス林道に差し掛かった所であった。


林道と呼ばれているが、この国の森林面積は非常に大きくどの森も鬱蒼としたものであった。それはハプス林道も例外ではなく、空を見上げようとしても頭上を覆う枝葉が視界を遮る。

逆に天然のドームにもなっており、土砂降りの雨が降っても完全に防いでくれるほどだった。この森だけに限った話ではないが、ここでは時計が必須である。何故かというと、ここにいると時間の感覚が狂ってしまうからだ。陽の光も差さない森の中で歩いていると、時間の感覚が分からずに歩き通しになってしまい、最後には体力が尽き果てて倒れてしまう、という難所である。


深い森の中を歩きながら時間を確かめると、すっかり夜になっていたことに気が付き、一行は森の中で野宿することに決めた。数日内に先にここを通った人がいたのだろう。幸い、森の中に作られた休憩所の中には焚火がたかれた跡があった。


それをありがたく利用させてもらうことにし、手早く火を起こすと夕飯の用意を始めた。食料はあらか

じめ街で買っておいたこともあり、長持ちしやすいものを多く買っておいた。干し肉と干した豆、途中の川で汲んだ水を簡易鍋に入れ調味料を少々投下。簡単なスープが完成すると三人(内猫一匹)は焚火を囲んで食事を採った。


「そう言えばサックスさんは観光で大祭を見る為に来た、と言ってましたけど大祭って何ですか?」


「え? 知らないの?」


 意外と言うよりは驚きを込めて聞き返す。アインは六年間森の中で過ごしていたことを簡単に話した。


「はぁん、なるほど。その前はこの国に居なかった訳ね」


「いえ、分からないんです」


「分からない?」


「森の中で住んでいた以前の記憶って、あんまり無いんですよね。どこに住んでいたのか、家族はいるのか、そもそも自分は何者なのか……覚えてないんです、何も」


 知らないことだらけですね、と苦笑するアインは、サックスから見るとまるで親とはぐれてしまった子供のようだった。独りでいるというのは、思ったより難しい。寂しさに囚われて身動きできない辛さ――かつて自分が住んでいた場所のことを思い出して、思わずサックスはアインに声をかけた。


「それだったら、これから知って行けばいい。今アインが居る所は住んでいた森の仲じゃなくて、その外だ。まだまだ多くの出会いが、お前を待っているはずさ」


「サックスさん……」


「かく言う俺も、かつては独りだった。だけど、恩人と出会って仲間も増えて――お前とも出会えた。それでいいんじゃね?」


 そう言うと、サックスは一気にスープを飲み干した。そっぽを向いた横顔は、よく見ると赤く染まっている。そのように見えるのは火の灯りの所為だけではないだろう。


「はい」


 アインは嬉しそうに返事をして、横に寝転がる黒猫の背を撫でた。


「それで、大祭の話だったな」


 話しを変えるように空咳をするとサックスは大祭について説明を始めた。


「――大祭ってのは、この国で言う建国記念パーティみたいなもんだ。露店を開いたり、騎士団によるパレードをしたりする。で、今回は毎年される中でも特別でな。何でも、今まで一度も表舞台に出てこなかった王女サマのお披露目があるんだ」


「一度も出てないんですか? その王女様は」


 サックスはアインの質問に大仰に頷き、話を続けた。


「ああ。何でも已むを得ない事情があったらしくてな――でも、今回の大祭で立太子礼の代わりにするんだと。だから今年は、例年より多くの人が来ているのさ」


 港でも人が多かっただろう? と、サックスは言った。アインとしては初めての街だったが、あれは特別多かったらしい。街に入った時のはしゃぎ様を思いだして、アインは通りで周囲の目が集まっていたのか、と納得し少し恥ずかしく思った。


 その後いくつか話題を出し合ったが、明日の為に二人は早めに床に就くことにして寝袋に入ったのだった。


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