旅へ
その後――騒ぎを聞きつけた衛兵たちがやって来て、詐欺師の逮捕に協力したということでアインはそのまま捕らえられた商人(偽)と共に連れられ、一日中事情を聴かれることとなった。
どのようなことがあったかのか、どうして気が付くことができたのかを事細かに聞かれ、対人能力の無い彼は目を回すような一日になったのだった。結局解放されたのは夜も更けた頃合いで、宿に帰ったアイン重いため息を付きながらベッドにダイブした。
「……一人にするなんてヒドイじゃないか、キャシー…………」
『しょうがないじゃない。喋る猫が同伴なんかしたら、逆に私達が疑われるような事態になったと思うのだけれど?』
「そりゃあ分かってるけどさぁ……」
重たい吐息交じりに嘆息するアイン。あの時の、衛兵に一人で連行されることになった時は本当に泣くかと思ったのだ。いや、確実に半泣きは入っていたと思う。軽い倦怠感のせいかはたまた気疲れか。キャシーと会話しながらでもうつらうつらとし始める。
『……今日はもう疲れたでしょう。もう寝ておきなさい。依頼人の件は、また明日にすればいいんだから』
「うん……、そう、す……る」
本格的に睡魔に襲われたアインは衝動のまま瞼を閉じる。
『今日はお疲れ様……ゆっくり休みなさい、アイン』
◆ ◆ ◆
次の日、朝食を取っていると旅人協会から召集がかかった。どうやらあの詐欺師のことらしい。流石に無視する訳にもいかず、朝食を終えると依頼人探しの前に彼らは港の入口近くにある支部を訪ねた。
建物の前まで来ると扉からはひっきりなしに人が出入りし、馬車に荷物を載せている人もいれば依頼人を送り届けた人物もいる。
アインはその独特の熱気に押されながらもそっと支部の中に入った。見れば中は中も人がごった返しており、複数いる受付が素早く確実に捌いていた。
彼も列の後ろに並んで順番を待つ。キャシーはというと、われ関せずといった風にアインの頭の上で高みの見物をしていた。十分ほど待ってようやくアインは先頭に立つことが出来、昨日の事件について受付嬢に事情を話して今日の呼ばれた用事について尋ねた。
そこで聞いた話はこうだ――先日捕まった詐欺師は今までも悪さを働いており、被害もそこそこ出ていたらしい。用意周到なことに変装を繰り返していたらしく捕まえようにも情報が錯綜して現行犯を見つけるしか仕方がなかったとのこと。
しかもこの街から出られたら厄介な事になると、早く対処しなければいけないと話が上がっていたところ、偶然にも捕まえたとの報せが入ったのだ。
街の衛兵が捕まえたかったところだが、これ以上の被害を防いだこともあってアインにお礼の金を渡して欲しい、というのが街長からの伝言であり、彼の目の前にはそこそこの金額が入った袋が用意されたのだ。
しかし。
「いえ、あの、そんなの正直、恐れ多いというか。大したことはしてないというか……」
小心者の彼はその礼金を受け取らなかった。しかし組合としても本人に渡さなかったら外聞に悪い。キャシーは彼の頭の上でニヤニヤしながら頃合いを見て受け取るように言おうと、アインの必死の懇願の念を知らないふりをしてやり過ごす。
結局、受付との受け取り合戦が五回を数えてそろそろ口を挟むかとキャシーが動こうとした時、新たに支部の扉が開いた。
受付嬢がそっちに気を取られた隙に一気に外へ出ようとアインもそちらへ向くと、そこには一人の青年が立っていた。
「おー、君は昨日の!」
中に入ってきた彼は受け付けの前で固まっている二人を見ておおよその状況を理解したらしい。彼――サックスは受付に顔を向け、「彼を雇いたいんだけど」と告げた。
◆ ◆ ◆
最終的にお金はアインが受け取ることになった。この先、旅人として仕事をするなら金は要りようになる、と依頼主――になるかもしれない青年に言われ渋々受け入れたのだ。
「いやー、奇遇だなぁ。まさか昨日の少年がちょうどここにいたなんてさ。運がいいぜ」
そう言って喜色満面の笑みを浮かべるサックスに、アインは恐る恐る問いを投げ掛けた。
「はぁ。そ、それで、依頼のないようは……?」
「そう固くならなくていいって。行先は首都までかな。できれば、大祭までに間に合うようにしたいんだけど」
支部のソファに相対するかたちで座った両者は依頼内容のすり合わせを行っていた。お互いが交渉しながら内容を詰めていく、というのが基本的なプロセスだ。
直接依頼をするのならこれが普通であり、この時お互いの人柄を見ながら依頼を受けるか、または依頼を任せるかを見極めることになる。
しかし、今回に限っては事情が違う。アインには依頼を受けないといけない事情があり、内容を聞くに彼らの目的にも合致していたため、二つ返事で交渉成立することになった。
受付に依頼の内容を書いた紙を渡し、その瞬間から依頼はスタートということになる。建物から出た一行は取り敢えずアインの荷物を引き取る為『木こりの斧亭』に足を運んだ。
「それで、首都まで行くのなら西の道を行けば直ぐですけど……」
「いやいや、俺はこの国に来たのは半分は観光の為でね。大祭まで時間もあるし、ある程度の遠回りはむしろ望む所だぜ?」
「それだったら、東――カーム方面に、行きましょう。だいたい二か月もあれば、軽く一周するのに十分、だと思いますよ」
サックスはアインの詰まりつまりの会話に軽く苦笑しながらも右手を差し出した。
「?」
「握手だよ、握手。それと俺のことは好きに呼んでくれていいぜ」
目の前に差し出された手におずおずと自らも手を差し出すと、ぎこちないながらも笑顔で握手を交わした。
「はい……、それじゃあ、よろしくお願いします。サックスさん」
こうして、物語は静かに動き出した――向かうはカーム方面、通称『魔女の生まれた地』へと、彼らは足を踏み出した。
これで序章は終了です。それと同時に書きだめはこれで無くなってしまいました……。
一章のほうもある程度の量が書けたら投下したいと思います。
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旧作もよろしくお願いします。※基本的に読まなくても分かる様に書くつもりですが、読めばより面白くなると思います。
『転生先のサーカス団は傭兵団!?』
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