依頼主探し
翌日。彼らは街の至る所を渡り歩いた。旅人協会支部、酒場、港等など――しかし、どんなに真剣に話しても一笑に付されるだけだった。話しかけた相手は冗談と受け取って聞き流すだけだったり、子供相手に信用できないと言われたり。
昼時も過ぎて日が傾き始めたころには二人ともぐったりとして宿屋に戻った。アインは疲れ切った体をベッドに投げ出して、恨めしそうにキャシーを睨む。
「……全然相手にされなかったじゃないか」
『そうねぇ。ま、半分は貴方の口下手が原因だとは思うけど』
「そ、それは言わないでよ! これでも頑張ったんだからさ」
必死に抗議するアインはしかし、すぐに口を閉じて俯いてしまう。
『どうしたの?』
「だって……」
彼は気まずそうに視線を彷徨わせて言う。
「キャシーの為に頑張ろうって決めたのに、全然役に立てなかった。もう少し僕が大人だったら良かったのに……」
こんなの、友達失格だよ、と呟く。その姿にキャシーは、この少年はどこまでお人好しなのだ、と溜息をつかざるを得ない。彼は〝関係〟について異常なまでに拘る。それこそ、彼女の意味も分からなければ目的も分からない旅路に「友達だから」という理由で着いて従っているのがいい証拠だ。
どこまで盲目なのだろう、この無垢な少年は。自分を怪しいと思わないのだろうか? 喋る猫など、不気味がって近づかないのが普通だろうに。そうして呆れると同時に嬉しくもある。
悠久と言っていい長い間、ずっと独りだった彼女にとって、アインという少年の存在はとても貴重だ。出来ることなら、この不思議と心地のいい関係を崩すことなく続けていきたい――だからこそ、今だけは一緒に。
その感情に名前を付けることは今はせず、彼女は静かにアインを慰めた。
◆ ◆ ◆
それから、三日。あちこちを回ったが、彼らは未だに依頼人を見つけることが出来ないでいた。そもそもとして、旅人を護衛に付けるような人間はアインのような子供を選んだりはしない。それも当然で見た目からして頼りなさそうな少年なのに、さらにまだ成人にも至っていないような子供を護衛にするなど論外である。
彼の人見知りも関係あるが、彼の年相応とは思えない肩書が相手を不審がらせている原因だと言えよう。ならばどうするか。自分が〝使える〟旅人だとアピールすればいい。彼らの行動指針は、依頼主を探すことから荒事探しへとシフトしつつあった。
ヘキサブルグの街は、港を有していることもあって日がな一日中喧騒に満ち溢れている。店の軒先での商人たちの怒鳴り声、売り子の呼びかけに道行く人の楽しそうな話声。もし今この瞬間を切り取って額縁に入れて飾るとしたら、題名は『活気ある港町』と言ったところか。
アインは宿から出るたびに圧倒されつつも、今日も目的の為に道を歩き出す。しかも、今日改めて気が付いたが、宿の駄賃を払うのにも限界があるのにようやく頭が回った。自分はどうしてこう世間知らずなのだろう……と、反省して今日の探索は今までよりいっそう気を張っている。
キャシーとは二手に分かれ、それぞれ喧嘩の火種になりそうなものを探すことになった。彼女は最後までいい顔をしなかったが、「効率を考えるとそうした方がいい」と、アインが強硬に主張した為この流れとなった。
「とにかく、汚名返上だね」
拳を握りしめて、まだ慣れない人ごみを前に気合を入れる。自分が怖気ついていては、友の足を引っ張ることになる。震える足に鞭打って、少年は一人で未知の世界へ足を一歩踏み出した。
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旧作もよろしくお願いします。※基本的に読まなくても分かる様に書くつもりですが、読めばより面白くなると思います。
『転生先のサーカス団は傭兵団!?』
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