プロローグ
再び戻ってまいりました。序章は書き溜めがあるのでテンポよく更新できますが、一章からはこれから書くところです。
できるだけ早く書いていきますのでよろしくお願いします。
凍えるような寒い日のことだった。アインは森の中を歩きながら薪になる枝を探していた。静まり返った冬の森には生物の気配がほとんどなく、時折聞こえてくる鳥の音以外は、風に揺れる木の葉の擦れる音しかない。
ほとんど人の寄り付かないこの森で、唯一生活しているのはアインだけだった。彼は常に孤独だった。人と交わらず、森の生き物たちと戯れもせず、毎日をただ消費する。そうした月日が積もり積もって6年が経っていた。
今日も黙々とその日を凌ぐ為に森の中をうろつくだけ――しかし、その日だけは今までの日常ではない非日常であり、彼の運命の舵を切る大きな転換点となる。
――――その日、彼は一匹の双貌の魔女と出会った。
◆ ◆ ◆
シュバリツォリネ聖騎士王国。この国の成り立ちは戦乱の歴史と言っていい。各地では血で血を洗う戦争が巻き起こり、人が死に、町は廃れ、血霞に濡れた空が暗く覆っていたという。
その戦乱に終止符を打ったのが一人の騎士である。黄金に輝く剣を振り、屈強な部下達と共に戦火を駆け抜け続けた。『黄金の騎士』と謳われたかの騎士は、世が平定されると共に何処かに去って行ったと語り継がれている。
その英雄にちなんで今でも騎士の位は国民にとって憧れであり、同時にこの国の最強の守護者であった。ちなみに『騎士道精神』はこの国から生まれた文化である。
紀元前から存在する数少ない国家の一つであり、また同時に魔玉技術の発祥地でもある。島国ながらも列強の国々に見劣りしない国であった。
シュバリツォリネはその国土の半分以上が森で覆われている。必然、旅路も自然と見通しの悪い森を通らざるを得ない機会は増えてくる。大きな街へ行くには、通る道に一回は森を抜けなければいけないと言えばその森林の広さを実感してもらえるだろう。
もちろん、主要な街道上にあるとはいえ盗賊や獰猛な獣などの見えない危険性があることは言わずもがなだ。自然と街から街へ移動する商人たちは商隊を組むようになっていった。
しかし、ただ人数を増やしたからといってそれだけで危険がなくなるわけではない。かえって目を着けられることだってある。
そこで重要性が増したのが、いわゆる『旅の道連れ』という存在だ。たとえ一人でも武器を持つ同行者が居てくれれば、それだけで心強いし何より一人ではない、ということが非常に嬉しく思う者が多かった。
旅人と呼ばれる彼等は基本的に一般人と何ら変わりはない。しかし、彼等は自衛の為に武器を持ち、旅慣れているため危険にも敏い者が多い。技術の発展に伴って市場は専門性が増し、組合が作られるようになったのはそう遅い話ではなかった。
旅人協会は組合が乱立するようになった時代の中生まれた組織である。どんな旅人でも先立つものは物入り、しかし職に就いていないから収入が無い。
そんな彼等に『旅の道連れ』の斡旋を始めたのが協会だった。
ちなみに腕に覚えのある血気盛んな者たちは、旅人とはまた違ったコロニーを形成したのだがそれはまた別の話。
今ではすっかり職として『旅人』が定着したあたり、これまでも一定の需要があったのだろう。その持ちつ持たれつの関係は人から人へ、クモの巣のように広がってゆき現代において大陸の中でも最も広い情報ネットワークを持つ組織の一つへと成長することとなる。
道を行く少年――――アインもその旅人の一人だった。年は16、共に旅をする猫と同じ黒い髪をしている。くせ毛のない髪と年に反して幼い感じのする顔から、服装によっては性別を間違われてしまいそうな感じがする。
要するに非常に細身な体をしている彼だが、その足取りは見た目と違ってまだまだ余裕をのぞかせている。
一方、彼の肩に乗っている黒猫は非常に目立つ見た目をしていた。パッと見ただけではそれこそ普通の猫と何ら変わりはない。しかし、この猫の正面に立てば普通の猫との大きな違いに気が付くだろう。
金目銀目。左右の眼の色が違う猫。時として目の色に異変が生じる猫が生まれる時がある。この猫もどうやらその一匹のようだったが、このような場合、聴覚に異常があるケースが多い。
しかし、周囲の物音に不足無く反応している様子から、そのような傷害があるようには窺えない。
年若い少年と、不思議なモノを感じさせる猫。この組み合わせは、目立っていた。非常に目立っていた。悪目立ちと言うほどではないが、何せ組み合わせが組み合わせである。道行く人々はすれ違うたび珍しそうにチラチラと視線の矢を飛ばす。
少年はその視線を涼しげに流し、一人黙々と歩いく――ように見えた。あくまで、表面上は。
(あ~~~! もう、もう無理だよ! 限界だよ! 人目が多すぎるよ!)
アインはそう心の中で絶叫しながらひたすら足を動かす。彼の足取りがまだまだ余裕に見えたのは、ただここから早く去りたい一心でせかせかと動かしているからであった。
6年間、一人でひっそりと生きていたのだ。こうして衆目に晒されるのは初めての経験と言っていい彼にとって、今の状況は針のむしろになった気分だった。
『何言ってるの。人目が多いって、道にいるのは精々十数人くらいじゃない。シャキッとしなさい、男でしょう?』
と、熟れた年頃の女性の声が聞こえた。しかし、通り過ぎていく人たちはその声が聞こえていないように一人と一匹を追い抜き、追い抜かされていく。
アインはなるべく声を小さくして彼の肩に乗っている黒猫に話しかけた。
「(そんなこと言ったって、あの森から出たのは初めてなんだよ? 話しをしたことがあるのは君を入れ
てせいぜい3人が良い所なのに……)」
『今からそんなことを言っていたらこの先苦労するのは確実ね――まぁ今のところはいいわ。実害はまだ出てきてないし。それより、見えてきたわよ』
アインは彼女に促されて視線を遠くに移した。薄っすらと高いレンガ積みの塀が見える。道の先、塀の下にある門から活気の良い人の通りが確認できた。
「あれが、最初の街――」
『そうよ。あれが最初の目的地、《ヘキサブルグ》。この国の流通の拠点よ』
旧作もよろしくお願いします。※基本的に読まなくても分かる様に書くつもりですが、読めばより面白くなると思います。
『転生先のサーカス団は傭兵団!?』
http://ncode.syosetu.com/n3367x/