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自分にしか聞こえない

作者: 微睡

「今の音ってなに」


ふと口から漏れるその声。


「音って、車の音じゃねぇの。」


「いや、そんな音じゃなくて、もっと澄んだ、そうピアノの音。」


「ピアノ、ってそこに置いてある電子ピアノじゃね。つっても、2,3年は壊れたまま放置されてるから違うだろうけど。」


知ってんだろ、ってかそんなことより、外行こうぜ。

そういわれ、それもそうかと思う。


教室から出る際、振り向いてみる。


そこには、一台の電子ピアノが隅っこにおいてある、そんないつもの光景だった。








とーん


ふと、今日も振り替える。







電子ピアノを意識してから教室の後ろで時折、とーん、とピアノを弾く(はじく)音が聞こえる気がする。


授業中、休み時間、放課後、例えどんな時間であろうと時々聞こえてくる。


何人かいる友達に聞いてみるも聞こえないって言われる。


なので、僕は早朝に調べてみようと思う。








とーん


ふと、今日も聞こえてくる。






早朝、教室の鍵を空け電子ピアノの前に立つ。


そして、蓋をあける。


古く、いろんな人に触れられたであろうピアノは黄ばんでいる。


これも歴史があると言ってしまえばあるんだろうなぁと思う。


そして、電源を入れてみる。


すると仄かに電源が入ったことを示す赤いランプが灯る。


時たま明滅するそのランプを見て電源が入ったことに驚く。


壊れて音が鳴らないと言われてきて、なんとなく電源すら入らないものだと思っていた。


ゆっくりと鍵盤の上に指を置き、押す。


とーん


音がなる。


いや、なった。


この教室にいて鳴らないと言われていたソレがなったことに驚く。


連続して音を出してみると小気味良く、とととーんと音がなる。


気のせいじゃなかった。


そう思うと嬉しくなる。


放課後誰かにも聞いてもらおう、そう思った。







とーん


今日も振り替える。





「鳴らないじゃねぇか。」


そう言われる。


「鳴ってるじゃない。」


そう言い返す。


乱雑に叩かれる鍵盤からは確かに荒々しいながらも音が聞こえてくる。


「どこがだよ。」


そういって叩くのを辞めた彼に変わりピアノに触れる。


指が動きたいように動くように任せて動かす。


「お前、ピアノ弾けたのか。」


「弾けないよ。」


そう返す。でも、お前、そう言われて指を見る。


確かに弾いている。とても自分が弾いているとは思えないほど美しい旋律が聞こえてくる。


もっと聞き続けていたいそう思うがまま旋律に身を委ねる。


一楽章引き終え、満足する。


その時には友人もいなくなっていた。




あぁ、まだ続きが弾きたいなそう思えたが我慢した。


今は指が動かない。


けど、明日になれば弾ける気がする。


後八楽章、早く弾ききりたいな、とそう思い帰る。







とーん


ふと、今日も振り替える。あぁ、早く弾きたい。

コレガカキタカッタンジャナイ

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