男たちの戦場
―――私の体は既に限界であった。
たび重なる酷使により、筋肉はとっくの昔に悲鳴をあげている。それでも前に進むことが出来ていたのは、理想でも信念でも、あるいは金銭欲のおかげでも無い。ただ単に、私にはこの戦いを乗り越えない限り、帰る場所がないという焦燥感故なのだ。
しかし、それでもついに肉体の限界が来た。低い体勢を維持するために負担をかけ続けた腰は既に感覚が無くなり、忌々しい緑の植物を除去するために使用した両腕は既に胸のあたりまで持ち上げる事さえ億劫になっている。
私は、今の自分の状態を生み出した上官に対する怨嗟の声をあげた。もちろん心の中だけで、である。この怨嗟の声を実際に口にすることが出来たならば、私の心は天にも昇るような爽快感を味わう事が出来るであろうが、その直後に地獄の底まで一気に叩き落とされると事もまた、火を見るより明らかである。
―――あぁ神よ、私が一体どのような悪行を積んだというのでしょうか?私は真面目に生きてきたつまらない男です。そんな男に与える罰としては、いささか重過ぎるのではないでしょうか?
そんなどこにいるかも分からない神に語りかけていた私に向かって
「あなた、庭の草むしりは終わったの?あら、ここまでしか終わってないの……しょうがないわねぇ、草むしりは明日に回すとして、これから買い物に行くから車の運転と荷物持ちをお願いね?」
との声が投げかけられた。私は思わず、恐るべき上官に向かって文句を言おうと口を開こうとしたが、こちらに向けられた視線に真っ向から向き合った瞬間、全ての抵抗を諦め、無条件降伏を宣言することを決意するのだった。
―――どうか、私と同じ境遇にいる同胞達よ……君達が一刻も早くこの苦しみから逃れられるようになることを祈る
by 某ブログに掲載された家庭内兵士Sさんの魂の叫び
その後、Sさんの行方を知る者はいない……