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図書委員戦記 芝浜の決闘

作者: 三鷹 板吉
掲載日:2025/12/24

挿絵(By みてみん)


 突然だが、舞台は板橋区仲宿商店街の「板橋演芸場」。架空の寄席であるが、上野「鈴本演芸場」や新宿「末廣亭」に準じる「それなり」を想像してくれたまえ。


 平日の12時50分。「昼の部」の前座が終わったところだ。客席の入りは半分より少し多いか、というところ。


炎上亭明之輔えんじょうていみんのすけ」という、あからさまに怪しい「めくり」。出囃子は映画「ストリート・オブ・ファイヤー」のメインテーマで、三味線と太鼓で、ペンペン、ペンポコペン、と、たどたどしく演奏される。


 皆様お馴染みの「図書委員戦記」のメインヒロイン穂村明が、向かって左の下手袖から登場。ピンクの着物に赤い帯という、いっぱしの女噺家っぷりで、前座を卒業した二つ目スタイル。髪はツインテールにして赤いリボンで結んでいる。なかなかに可愛らしい。でも着慣れない着物と帯で動作がギクシャクしてる。手と同時に出した足袋足が板の間で滑って盛大にすっ転んでしまう。床を這って、かろうじて座布団に収まる。着物の裾を整えて正座して、客席に向かって深々とお辞儀する。


 パチ、パチパチ、パチと、まばらな拍手。さて、ここからしばし「落語モード」に入る。明の「噺」主体で、状況説明は基本的に無いのでよろしく。


 明之輔と申すハンチクでございます。亭号の「炎上亭」についてはスルーをお願いいたします。


 えー、世の中に、鬱陶しいもの数あるに、おまわり、税務署、図書委員、と申します。とりわけが図書委員。中学高校生の女子の分際で、図書館の本に宿る「マナ」なる力を引き出し、異能の力を発現します。その一つが「アクア」。水を自在に操り、雷雲を作り上げて雷を落としたりもします。くわばらくわばら。次なるは「イグナ」。他ならぬあたしがそれなんですが。火の力を我がものとし、ひとたび変身すれば体温七〇〇度の炎のファイター。ちょいと、一一九番回して消防車呼んどくれ! さらなるは「ウェンタ」。風の力を駆使する図書委員。空を自由自在に飛びまわります。交通費がかからないんでとっても便利。


 おい、八っあん。


 何ですかご隠居、じゃなかった町内会長。


 今日は図書委員がいらっしゃる日だろう。


 そうでしたっけ。


 イグナだ。火属性だから、座布団を十分に水で濡らしとけ。ボヤ出されちゃかなわねえからな。


 ええ、ごめんなさい。図書委員でございます。


 さっそく来たよ。なんでえ、女子中学生じゃねえか。紺のジャンパースカートに臙脂の紐ネクタイ。区立の沙村二中かい。それにしてもちっこいね。小学生がJCのコスプレしてるみてえだ。


 ちっこくて悪うございました。板橋区図書委員・穂村明と申します。よろしくお願い申し上げます。


 青筋を浮かべながら、それでも愛想笑いを欠かさない明さんでございます。


 で、後ろの兄いは? 高校生だね。その制服は私立中高一貫男子校の城玄高校。さぞかし秀才とお見受けした。


 天沢一郎です。明の侍を勤めさせていただいてます。


 ぺこりと頭を下げる一郎さん。す・て・き!


 これはまた、イナセなおにいさんだねえ。まずは現場だ。細けえ話はそこで。行くぜ。


 …ホント、江戸っ子はせっかちでいけません。町内会長に先導され、明と一郎さんが訪ねたのは、商店街の中にある一軒の魚屋。魚屋っていっても、でっかいビルで、中はお客さんでごったがえしています。上野御徒町の「吉池」みたいな感じ。看板にはでかでかと「芝浜水産」と屋号が書かれてます。


 店の真ん中を突っ切って、大勢の職人が出刃包丁や柳刃をふるって魚を捌いているバックヤードを抜けて、事務所とおぼしき一角のドアを叩く町内会長。


 おい、大将、じゃねえや社長! 連れてきたぜ。図書委員さまだ。


 ああ、ご隠居、じゃなかった町内会長。ご足労おかけして申し訳ない。


 迎え入れたのは、芝浦水産社長の芝浦大輔五八歳。グレーの作業着姿の恰幅のよろしいおっさんです。


 板橋区図書委員・穂村明です。お見知りおきを。こちらは「侍」の天沢一郎。


 二人揃って挨拶します。と、一郎さんが不正規発言。


 御社の屋号は「芝浦水産」ですよね?


 それがどうかしたか?


 ちょっと疑問に思ってしまって。芝浜って港区ですよね。ここは板橋区赤塚なのに。どうして?


 あ、帰国子女でKY全開の一郎さんが、また余計なことを…


 明が突っ込む瞬間すら許さずに、よくぞ訊いてくれました、と、社長は店名の由来を語り始めます。


 元々は芝の魚屋だったのよ。初代は酒飲みの怠け者だったが、ある年の師走の早朝に、かみさんにたたき起こされて、魚を仕入れに芝の浜に行くと、水に浸かった古財布が…


 そこまで! もう分かりました、分かりましたから、と明が制止したにも関わらず、一郎さんは、


 せっかくですから、伺いましょうよ、明。


 それで「芝浜」の立川談志ヴァージョンを一時間たっぷりと聞かされます。


 よそう、また夢になるといけねえ、と下げる社長。


 いい話ですねえ、と一郎さん。


 その四十二両を資本もとでに店を広げ、さらに支店まで出して、芝一番の魚屋になったってわけさね。


 それがどうして板橋区へ? 板橋は浜も何も無い「海無し区」ですよね。


 よくぞ訊いてくれました。戦後は昭和三〇年…


 社長が再度語り始めたところで、


 残念ながらお時間です!と、明が張り扇で机をパンと叩きます。


 ここから先のお話は、次の機会のお楽しみ! パンパン! 講談式に切り上げます。


 おんや、明でねえか。それに一郎どんも。


 登場したのは、アナザー女子中学生。ですが、紺のスクール水着に裸足サンダルという、珍妙なスタイルでございます。背丈は明より少し高いが小柄。でも、むっちり充実したボディで、それが日に焼けて小麦色…というか、麦茶色になっています。髪も潮焼けしまくった金髪に近い茶髪で、どこか南の島の原住民の酋長の娘、という風情。


挿絵(By みてみん)


 キャ、キャシーじゃないですか。なんでここに? それに三郎さんも。


 おひさです。穂村の姐御!


 スク水少女の後ろに控えますのは、巨大な身体を浴衣に収めて、下駄履き、髪はちょんまげ結いかけの、どこからどう見ても相撲取り。


 何でもかんでもねえだよ。図書委員のお仕事でやってきただよ。と、明もだか?


 彼女こそが、キャシーこと水原多香子。明のタメで属性はアクア。マナを水の力に変える図書委員でございます。


 おひさしぶりです。お二がた。


 一郎さんがふかぶかと頭を下げます。


 三郎さん、先場所は幕下完全優勝おめでとうございました。来場所は十両昇進。絵に描いたようなスピード出世ですね。


 いや、まあ。ははは、と照れ笑いする三郎さん。


 三郎どんはおらの理想の侍だ。相撲取りとしても出世がしら。両国界隈じゃ、皆おらのこと「あげまん」と呼ぶだよ。


 あげま…って、キャシー、ちょっと言葉を慎みなさい。と、赤面の明です。


 何のことだ? 揚げた饅頭はうまいだど。


 そうだった。こいつはそういう女だった。


 なあに、お父さん。お父さんも図書委員呼んだの? わたしに言ってくれなきゃ困るんですけど。


 登場したパンツスーツ姿の女性。年の頃はミドサー。


 なんだ、久美子じゃねえか、と社長。


 芝浦水産社長の一人娘・芝浦久美子三八歳。一橋の経済学部を卒業後、大手総合商社で十年ほどキャリアを積んでから、一昨年ホームカミングして芝浦水産の専務となった、見かけどおりのバリバリのキャリアウーマンでいらっしゃいます。


 えーと、つまり、同じお仕事に図書委員が二人。いわゆるダブル・ブッキング? と明。


 一緒にやっていただけるんなら別にいいけど「寸志」は一件分しか出さないわよ。


 噂に違わぬドケチだなや。


 キャシーが小声でボソッとつぶやいたのに、すかさず、


 聞こえたわよ。ドケチでけっこう。江戸っ子の魚屋で宵越しの銭は持たねえ、なんて、一心太助じゃあるまいし、そういうのとウチは違うの。お父さんの時代とは違うのよ。


 おめえはこんなとこで身内の恥をさらそうってか。もう我慢できねえ、勘当でえ!


 勘当けっこう! 上等よ!


 まあまあ、社長さんも専務さんも落ち着いてくださいよ。あたしもキャシーも共同作戦オケーオケーで、ちうか、共同作戦が必要な案件である可能性大です。寸志も専務さんのおっしゃる通りにしてください。そもそもが「お気持ち」ですから。


 んん? 話が早いじゃないの。気に入ったわ。図書委員さん、お名前は?


 板橋区立沙村第二中学図書委員、穂村明です。属性はイグナ。番付は序二段。


 わたしからも、あらためてお願いするわ。


 久美子はふかぶかと頭を下げます。


 ああ、いえ、こちらこそ、と明も頭を下げます。


 ウチの倉庫を何とかしてちょうだい。DQ素汚染されたなんて風評が立っただけでも、魚屋どころか、ネットビジネスこそ被害甚大なんだから。


 おめえは、まだそんなことを!


 社長が激昂するのを明が「まあまあまあ」と。


 何はともあれ、ご依頼をお受けした以上、ここから先の現場は図書委員の専権事項となります。あたしとキャシーとそれに侍二人で作戦を実行しますので、ご安心ください。で、現場は第1倉庫でしたっけ?


 はい、ご案内いたします、と番頭さん。


 その間にも、父社長と娘専務は毒づきあいます。


 郵便で魚を売るなんてとんでもねえこと始めやがって。


 郵便じゃないわよ。クール宅急便を使ったネット通販よ。


 同じことじゃねえか。干物や冷凍もんは売れるかもしれねえが、鮮魚が売れるか? 朝一番に寺泊に上がった魚を、昼前にお客さんに買っていただけるのか?


 そうやって頑固な商売してるから、大手のスーパーに負け続けてきたんじゃないの。お父さんのやり方は古いのよ。


 古くて結構。魚屋は魚が新しけりゃいいんでえ!


 ここが第1倉庫ですか。なんか、がらーんとしてますね。


 開業当初から使ってる古い倉庫だ。設備は冷凍庫と生け簀水槽。手狭になったんで、新造の倉庫に切り替えて閉鎖してたんだが、一週間ほど前から、妙な音や気配がしてな。夜中に水を流す音が聞こえたり、それに、妙に金臭い匂いがして…。


 あら。さっそくご本尊がご登場ですよ。


 はーい、ボクがサカナくんでーす。はーい、拍手拍手。サカナのことならボクに何でも聞いてくださいね。全部お答えしちゃいまーす。


 何か魚類っぽい奴が出てきましたね。全身真っ黒でDQ素コーティングされたDQNなのは確定。目一杯お目めを見開いてキョロキョロして。まぶたがあるんだか無いんだか分からない感じで。全体の印象としては、黒出目金。コードネームは「クロデメ」としましょうか。


 失礼ですよ、明。向こうにも聞こえてますよ。


 聞こえるように言ってますから。それで直に反応してきやがるんでしたら「敵」確定です。反応しないなら、とりあえずは「様子見」と。


 あ、あれは孫のマサユキじゃないか、と社長。


 そうよ、わたしの一人息子の、小学六年生のマサユキよ。なんであんな姿に?


 ご丁寧なご説明ありがとうございます。えー、ご家族なんですか? それなら一旦退却して仕切り直しということで。案件処理には事前情報確認と整理が重要ですので。


 そんなあ、せっかくバトルの準備して待ってたのに、とサカナくん。


 カモーン、おサカナさんたち!


 サカナくんの言葉に応じて、水槽からDQ獣が出現いたします。黒いのがあれこれ複数ピチピチしてますね。


 海産物のDQ獣ってのは初めてですね。ちっこいのはアジ、中くらいのはサバ、おっきいのはカツオですか。甲殻類もいるのか。シバエビ、イセエビ、それにズワイガニ! …というと美味しそうですが、どれも原油浴びたみたいに真っ黒で、金臭い匂いがしやがる。とてもとても食えません。とっとと、ちゃっちゃと退治ってしまいましょう。


 ここはおらの出番だなや。


 キャシーがずいと前に出て、口からぷーっと青霧を吹きます。と、DQ魚たちはDQ素を中和されて消滅します。文字通りの瞬殺!


 意外と…じゃありません。予想通りにチョロかったですね。残ったのはクロデメ…いえ、マサユキさんのみ。彼のDQ素を抜いてあげれば業務完了です。ん? 何かつぶやいてますよ。グチですか? と言っても小田原名物のカマボコ用の高級魚じゃないですよ。愚痴。英語で言えば、こんぷれいん。


 ボクはサカナが大好きで、でも、その大好きなサカナを食べるなんて、それでいいのだろうか?とこどもの頃から悩んでいて。そこで「あらしのよるに」という本を読んだら、羊と狼が友達になる話で、だったら、ボクもサカナたちを食べずに友達になれるんじゃないかと思って、そうしたら…


 ブツブツとつぶやいてるマサユキをみて、一郎さんは、


 明、ここは戦いではなく「話し合い」で解決しましょう。


 え?


 お悩み相談ですよ。


 異形と化したマサユキの悩みは、「サカナを愛する自分」と「サカナを売る魚屋を継がねばならない自分」との葛藤。明が熱弁いたします。


 遅くとも一万六五〇〇年前の縄文時代以来、あたしら日本人は日本列島近海の魚介類をさんざんに食いまくってきたんですよ。マサユキさんが「反省」したところで、何の意味もありません。英語で言えば、わーすれすあとーる!


 そもそも、サカナって、めっちゃ美味しいじゃありませんか?


 と、北大路魯山人から池波正太郎まで博覧強記に引用しつつ、図書委員的に明はとことんマサユキを論破します。論破されるごとに、マサユキの身体からDQ素がシューッと抜けていきます。


「愛するが故に食う、食うが故に愛する」。それでいいじゃないですか。とっても美味しいんですから。マサユキさんも食べてきたでしょ? 美味しかったでしょ? 「美味しいから愛してる」んです。それが「あらしのよるに」の真実です!


 マサユキは、全身からDQ素を抜かれて、その場に崩れ落ちます。


 これで一件落着だか?


 そうですねえ。「説得」で案件を解決したのは、あたしは初体験です。


 んー、こんなんで片付いてもらっちゃ困るんですよねえ。


 黒幕登場。ダークスーツに身を固めた、年の頃は四〇代後半。銀座のクラブあたりじゃモテモテっぽいおじさまですよ。こいつは久美子の離婚した元夫のヒデオで、マサユキの父。


 DQ獣騒動で芝浦水産を左前にしたところで、チャイナ系外資の大資本を背景に店を乗っ取り、巨大回転寿司チェーンを全国展開してインバウンド需要を独り占めしようという野望の王国。と、バックグラウンドもイッキに説明しちゃいました。


 右腕が真っ黒ですが他はフツーです。「LEON」の読モ親父みたいでかっこいい。明は鋭く分析します。


 日本人はホント視野が狭くていけない。魚を売るなら、より広く、より高く、世界をマーケットにしなきゃ。


 それで、それで密漁物に手を出しんたんでしょ? ヤクザや不良外人と組むなんて外道やらかして! 伝統ある芝浜水産の看板に泥を塗るなんて!


 大層な物言いだ。あいかわらずのお嬢様ぶりですね。幕末以来の伝統を誇る、老舗の「芝浦水産」を仕切るお父上に逆らって新事業を起こそうって時に、正道も外道も無いでしょうに。はいはい。わたしは外道ですよ。久美子さんに離婚され、会社からもたたき出されましたが、こうやって戻って参りました。外道を止められるもんなら、やってごらんなさい!


 ヒデオが真っ黒な右手の指をパチンと鳴らすと、水槽から巨大ロブスター型DQ獣出現。さらに巨大タコ型も。


 頭は人間のまんま、腕だけDQN。ニュータイプだなや。その腕でDQ獣を操ってるのなら、警戒レベルマックスだでよ。


 分かってますよ、キャシー。マナは足りてますよね?


 十分だで。


 だったら無問題! まるでハリウッド版怪獣映画ですね。って、あたしとタコの絡みは無いですから、皆様あらかじめご了解くださいね。葛飾北斎的な。「蛸と海女」的な。「そこはダメ。ダメー」てな。そういうのは『前』にやっちまってますので。同じネタを二度売りしたんじゃ、明さんの女がすたりますけん。


 タコ型DQ獣がぷーっとスミを吐く。説明中で油断してた明は、スミを正面から食らってしまいます。全身真っ黒の影絵人形状態です。


 こんのぉ! 糞タコがぁ!


 明はヒートアップして、全身のマナを荒ぶらせ、イグナの戦闘形態に変身してしまいます。ガタイが二回り大きくなって、超人ハルクのように制服が破ける。黒人女子レスラーのような漆黒のボディで、タコに組み付く。タコは八本の手足を駆使して、明の身体に巻き付く。


 あ、そこは…そこはダメ! ダメだったら!


 身もだえする明。「蛸と海女」の再現です。ただし黒塗り状態。


 だったら検閲済みで大丈夫ですね。って、昔の海外ポルノ雑誌ですか!


 明は全身の体温を上げます。摂氏七百度! 服が焦げて煙を発します。タコも鉄板焼き状態で焼かれて、真っ黒な蒸気を吹き上げます。


 これで、こうやって! のしダコですよ!


 明は身体をひねって、タコをコンクリートの上に押しつぶし、全体を蒸発させます。すさまじい勢いで黒い蒸気が吹き上げ、タコの身体が扁平になっていきます。


 五〇%、六〇%、八〇%! これで一〇〇パーセントです!


 タコ型DQ獣を完全に消滅させて、明は仁王立ちして、雄叫びを上げます。


 タコ焼きの、タコが無いとは、これいかに! ってイカじゃないんですよ。タコですよ。


 そんで、おらの相手はロブスターだってか? 「レッドロブスター」はアメリカ本家が倒産しただが、日本のお店は健在だってよ。


 大型犬ほどの大きさの巨大な海ザリガニ型DQ獣が、二本のはさみを振りかざしてキャシーに迫ります。三郎がキャシーをかばって前に出て、張り手の連発ではさみを退けます。


 ナイスだで、三郎どん!


 その間にキャシーは念をためます。青白い光を放ち始めた両腕をクロスさせます。


 あくあ こんへらど ばすたんて!


 キャシーがリンガ・ビブリアを唱えて、ウルトラマンのスペシウム光線のように両腕から冷気を噴出させます。液体窒素並みの冷却力で、ロブスターを凍結させ、動きを止めます。


 ぬぶら らじょす!


 キャシーの頭上に黒雲が湧きあがり、雷光がきらめきます。


 とるえな あくあ!


 何本もの雷光がロブスターに命中し、凍結した甲殻がガラスのように爆砕されます。


 うぬぬ…


 うめく黒幕親父に、明が中条流の足さばきで一瞬に距離を詰めます。


 あんた、背中がDQ素で煤けてるよ。心もずいぶんと黒く染まっているみたいだし。


 能條先生ありがとう!なニヒルな台詞をサクっと述べて、明は両手の平を並べて黒幕の身体を突きます。中国拳法八極拳の双掌底。DQ素をイッキに吹き飛ばします。


 くずおれる黒幕親父。これにて一件落着!


 マサユキさんはすでに人間に戻ってます。失神状態のヒデオは、かけつけた板橋警察に確保されます。


 いやあ、図書委員の凄さを目の当たりにしたよ。本当にありがとう。ありがとう! 感激の社長と専務父娘。ダブル「寸志」に加えて、「魚は欲しいだけ持ってけ!」と社長さんの太っ腹。


 ホントにええだか? 遠慮すんな! 倉庫丸ごと全部持ってけ! とのやりとりで、キャシーは徳丸部屋に電話して、軽トラを手配。海産物を山盛りちょうだいしちゃいます。


 これで部屋の皆に、旨いちゃんこを腹いっぱい食わせてやれるだよ。


 明がもらったのは、目の下三尺の天然モノの真鯛と、三キロはあろうかというメジマグロ。ごく控えめながら、合わせて時価一〇万円くらい?


 都営アパートの台所で、出刃包丁を振るいつつ、明が熱弁します。


 これはあたしの特技なんですが、丸ごとのお魚をおろせるんです。お父さんにもお母さんにもできません。あたしだけ。これって、うちみたいな経済的にチャレンジドな家には必須テクなんですよ。新鮮なお刺身が食えますからね。


 こんな大物をおろすなんざ、初めての体験ですが、大きくても魚の構造は一緒。ちゃんと研いだ出刃包丁と刺身包丁があれば楽勝ですよ。


 で、お刺身を大量に作って、お母さんと双子の弟たちと、一郎さんとあたしの五人ではりきって食いまくったんですが、さすがにこればっかじゃ飽きてくる。箸の動きが緩慢になったところで、一郎さんが、冷蔵庫にあったケチャップとマヨネーズを持ってきたんです。


 マヨネーズにお醤油を混ぜて、これでマグロを食べてみてください。ケチャップにはちょっとタバスコを入れて、タイのお刺身を食べると美味しいですよ。


 なんちゅうド外道なんでしょうか。やっぱ帰国子女のアメ公は(以下自粛)


 なのに双子は「旨い!旨い!」と食いまくってるし、お母さんも「うーん、これはこれで美味しいね。一郎さんは食通だねえ」なんてのんきなこと言ってソーマ(八海山本醸造)を飲んでる。ほーんとうちの家族は「下流」全開なんです。レベル低いんです。


 あたしは? 躊躇してましたが、「明、何事も経験ですよ」と一郎さんに言われて。 一郎さんに言われたら「嫁」として従わざるを得ませんし、恐る恐る食ってみたら…意外に、いえ、なるほど、とっても旨かった!


 海無しの板橋なのにうみゃかった。…お後がよろしいようで。


<劇終>


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