第1話 転生先はまたもや地獄なようです。
私、リリル・カトラーヌは今日。死にました。
リリル・カトラーヌ。
ここカトラーヌ・エイドゥナ国の第3後継者であり、王家の長女。つまり、皇女である。
この日。この国の1人の王族は、いつものベッドの上で、黒い禍々しいオーラを放つ槍に、心臓を貫かれて死んでいた。
「これで多分6回目よね。」
私は転生を繰り返している。
金髪のエルフの姫がいて、その子を英雄が救う世界。
雑魚モンスターのスライムが世界の覇権を握る世界。
ピンクのなんでも食べちゃう悪魔がいる世界。
魔物と人間が居て、魔物が負け地下に閉じ込められてしまった世界。
魔法ではなく科学が発展し、人間が社会を作った世界。
私は転生を繰り返している。さまざまな世界を。
例えば、さまざまな国が地球という星にあって、確か…日本という国で2回死に、2回産まれたこともあった。
同じ世界に産まれることもあるのだと私はその時始めて知った。
ただ、そのどれもが一般的に見れば不幸な人生だった。
「また生まれ変わるのか。いつになったら終わりが来るの。」
そう問いかけても、返事は無かった。
ピカッと視界が眩しくなる。
音が聞こえる。
ざぁざぁと。水の音か?いや、これは。
雨の音だ。冷たい。寒い。
いろんな足音がする。
今度はどんな不幸が待ってるんだ。
というか、赤子だから視界がぼやけてよく見えない。
でもこれは外だ。雨に打たれている。
おぎゃぁぁ。おぎゃぁぁ。
赤子の鳴き声がする。いや、これは私のか。
もしかして、生まれて早々、雨の中捨てられたのか。
…。なんてことだ。今までで一番クソかもしれない。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
私はサーカスの子だ。
産まれたときからずっとそうだ。
ライオンっぽい魔獣の世話をして、そしてたまにステージに上り、火の輪っかを通らされる。
世話を怠ればピエロに殴られ、真面目に世話をすれば魔獣に食われるかもしれない。
そんな日々を11年続けていた。
ご飯はなんとか貰えたが、ステージや、仕事で出来た傷は治療してくれなかった。
ご飯もサーカスで飼っているヤギのメェンと同じ草だ。
なんで私がこんな生活で生きているかって?
簡単だ。私は29歳で死ぬ。逆に29までは死ねないのだ。ある悪魔との契約のせいで。
「おい!ペイン!!」
私は呼ばれた方に振り向く。こいつはしっぽと耳があって、体も少し毛が生えている。こいつは私をよく殴る。私はこいつが嫌いだ。
「…はぃ」
「お前、ドヌラプの世話してねぇだろ!!」
私はここではペインと呼ばれる。
ペインとはこの世界で邪魔者や、無駄飯くらい、穀潰しみたいな意味らしい。
ドヌラプはライオンのような魔獣の名前だ。
「…。はぃ…やる」
「さっさとしろ!!ステージが始まるだろ!!!」
そう言って一発叩かれた。
頭ではどう言い返すか言葉がたくさん出てくるのに、この体はそれを言えなかった。
いくら私の体といえど、幼い頃からの習慣のせいで、自由に喋れないし、食事が足らぬせいで体も弱かった。
さっさと29が来て次の人生に行きたい。
そう考えていると、ある日。
彼はやってきた。
この世界にも警察と似たようなものがあるらしい。
「王立治安維持隊だ。全員その場に伏せろ。」
長身で、ベージュ色の髪をした長髪の男性がそう言った。
すると半分以上の者(サーカスの者)が言う通りに動いた。
「囚われて働かされているであろう保護対象は絶対に傷をつけるな。」
長身の男性が部下らしき人にそう言った。
するとあいつがドヌラプを檻から出した。
今日はまだ餌をやっていない。腹をすかせたであろうその魔獣は目の前に大量にある生きた肉に飛びついた。
場は大混乱だ。その隙に乗じてあいつが逃げる。私の嫌いなあいつが。
動け。動け私の体。
きっとこの世界でもこういうことは犯罪なのだろう。
そして、嫌いなあいつはきっと捕まって苦しむ。
動け、私の体。
あいつを捕まえて、私がやられた分をやり返してやろう。
痛かった分を、苦しかった分を。
食事に飢えていた分を
うごけぇぇ!!わたしのぉ!からだぁぁぁ!!
そう心で強く念じると、私の体は思い通りに動いた。
その場にあった酒瓶を持って、あいつに向かって、逃げるあいつに向かって全速力で走る。
混乱する人の間を縫って、時に人の頭の上を踏んで。
後少し、後少し。
後少しで嫌いなあいつの頭を殴れる!!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
セルフィアは今日、違法サーカスの取り締まりの任務にあたっていた。普段なら隊長の横につき、何かあった時戦闘要員として、医療班として、司令塔として隊長を助ける立場であるはずだ。
しかし、今日は違っていた。
まさか魔獣を放つとは思っていなかった。魔獣は腹が減れば敵味方関係なく食い尽くす。
結果、治安隊も、サーカスの人員も大混乱となった。この混乱に乗じて主要人物が逃げるのが容易に想像できた。
しかし、隊長は何の命令も下さない。
ただ、1点を見つめていた。
私や、隊長ならあんな魔獣仕留めることもできるだろうに。ただ、1点を見つめていた。
「セルフィア、今だ。魔獣を止めろ。」
隊長から命令が下された。
魔獣を止めろ。それは殺すのではなく無力化しろという意味だろう。だから私はなんの躊躇いもなく、魔獣を眠らす魔法を使った。
魔獣を眠らしたことで、それに気がついた周りがストンッと腰が抜けたように座り込む。
そして、10秒ほどして、だんだんと落ち着いていく中、1人外へ逃げようとする者がいた。
この混乱の中、的確に出口へ向かうもの。
それは主要人物だろう。咄嗟にその人物を止めるため、駆け出そうとしたが、隊長に「止まれ。」と命令された。
何事かと、思えば。
パリンッッとガラスが割れる音がした。
音の方を見ると、酒瓶で人物を殴る少女の姿があった。
「あっはははははは!!」
やったまずは一発だ。敵が驚いている間に仕留めろ。何度も何度も尖っている部分で殴れ。
痛めつけろぉぉ!!あはははは!!
滑稽だ!滑稽だ!
小さな少女が笑いながら何度も頭を酒瓶で殴っていた。少女に返り血が飛ぶ。
その狂気的な姿に誰もが驚き、恐怖した。
しかし、私はその姿になぜか、「美しい…」と思ってしまった。
私は最初の人生以来の殺生に、返り血に高揚し、当たり前ながら「楽しい…!!」と感じていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
その後から記憶がない。
なぜ私はベッドの上で寝かされている。
ここはどこだ。また変な場所に拾われたわけじゃないな。
しかし、傷だらけだった体は手当てされ、血塗れなはずの汚れはなく、汚れていたはずの服は着心地の良いものに変わっていた。
数十分ぼーっとしながら現状を確認していると男が入ってきた。
人間よりも身長が高い。細身でも筋骨隆々って感じでもない。これ、おそらく人間ではない。
今までの世界にも人間じゃなくても言葉を交わす種族はいた。だが、目の前の男のようなやつは見たことがない。エルフのようだがなにか違う。エルフはもっと…なんというか…。自然っぽい。目の前の男は神々しい。
「おや、起きたんですね。体調はどうです?」
ベージュ色の髪の男じゃない。黄金色というのだろうか、宝石のように輝く長髪の髪を下の方で一つにまとめている。
「どこ…ここ」
そう問うと、男は
「ここは私の家です。」
そう言った。
私の家です…?????違う。そんなことが聞きたいんじゃなくて…。いや、うーん?
なんで私は知らない男の家に居るんだ。
「…やっぱり」
そう言うと男は。
「色々混乱してますね。少しづつ慣れるので大丈夫ですよ。」
「あ、え…?」
「幼いあなたには理解できないですか…。簡単に言えばここは安全だということです。」
安全?知らない男の家が?
何を言ってるんだこいつ。
あぁ、でもなんだろう。この優しそうな声。
落ち着く…n
「眠ってしまいましたか。」
私は目の前で眠る幼い少女の頭を軽く撫で、部屋を出た。
保護した後、彼女について色々調べた。しかし、彼女は戸籍に無かった。
何歳かも、誕生日も分からぬ少女。
ただ一つ分かることは、種族がハイエルフだということ。
普通のエルフではなくハイエルフだった。
普通の人には区別できないだろうが、魔力を一定以上鍛えた魔法使い達なら一目でわかる。
あの独特な魔力。甘ったるいような、優しい、ふわふわの魔力。あれはハイエルフの特徴だ。
サーカスのやつらは気が付いていないようだった。それが幸いだ。ハイエルフは奴隷商で高く売れるのだから。
厨房へ行き、メルナに話しかける。
メルナとはここの料理長だ。
「メルナ、今日の食事は?」
すると胸元に花の刺繍がついた白いエプロンを着ている彼女がこちらを見て、こう言った。
「今日は鹿肉のソテーに、季節の野菜のスープ、後はハーブを使ったサラダに……、、」
今日もいつも通り豪勢な食事だ。
一汁一菜でいいと言っているのに、そう言うとメルナはいつも「王立治安維持隊の副団長様の食事がそんなものでは料理長のプライドに反します!!」そう言われてしまう。
「メルナ、スープを2人前。他の食事も少しづつで良いので用意してほしい。後…ゼリーを一つ。」
「まぁ!お客様がいらっしゃるんですか?!!」
メルナが目を輝かせて言う。
「お客様…というより、これから一緒に暮らす。うーん、家族になる子です。」
そう言うとメルナが次は瞳孔を大きくして、驚いた様子で、
「奥様になる方ですか?!!!」
「違う。子供だ。事情があって胃がもたれるような物と、あまり量も食べられない。」
「…、分かりました。胃に優しい物を…ですね!」
メルナはなにか察したかのようにおとなしくなった。きっと子供と聞いて、サーカスの関係だと察したのだろう。
…やはり妹と同じで勘が鋭い。
その時だ。バァンっと厨房のドアが開かれた。
厨房のドアは鉄製だぞ…?そんなドアを軽々と開けて、ドアが歪むようなパワーがあるのは…。
「メリナ、ドアが壊れたじゃないですか」
「あ!すみません!って、それどころじゃなくて!!」
???なにがあったのだろうか。
「ご主人様が連れてきた子供が!!」