制淫薬
私は知り合いに紹介してもらったネットサイトのオークションに参加し、薬を手に入れていた──男性器を不能にする薬だ。
本来なら、医者に許可を得て使用するものだが、特定のオークションで売っていた物は足がつかないと聞いていた。
私は薬が入った小瓶をポケットから取り出すと、キッチンの棚にある籠へ入れた。
それからは、朝早くキッチンへ行っては、毎日ラベルを見て棚に戻すという、意味不明な行動を繰り返していた。
そんなある日、料理人が風邪をこじらせて入院することになり、代わりに使用人達が交替で、私達の食事を作ってくれることになった。
私は、絶好のチャンスだと思ってしまった。使用人達を手伝うフリをして、夫の食事に、この間ネットオークションで買った薬を入れようと思った。
夫のいる書斎へ昼食用のスープとサンドイッチを持って行く役を買って出た私は、部屋へ向かう途中、階段の踊り場で袖の下に隠した薬をこっそり取り出し、スープの上に振りかけた。
罪悪感に苛まされながらも、夫のいる執務室へ食事を運ぶと、夫は私に礼を言って食事を始めた。
私は平然としている夫を見て、愕然とした。偽物を売りつけられたのか──それとも、夫に効かなかったのか。
暫くの間、混乱していた私だったが、平然と食事をしている夫を見ている内に、何だか馬鹿らしくなってきて、私は心の中で溜め息をついた。
「うっ……」
「?!」
帰ろうとして後ろから聞こえた夫の呻き声に振り返ると、夫は椅子に座りながら空を仰ぐように天井を見つめていた。
「あなた?」
「うっ」
「う?」
「うまいな、このスープ」
戸惑いを隠せなかった私は、冷汗をかきながら頷いた。
「作ったのは、家で雇っている留学生のポリーナですわ。後で褒めておきましょう」
「そうか、ありがとう」
私は手に汗握る思いをしながら、ゆっくりと部屋の外へ出た。