回想
「何をしているんだい?」
十年前、母を亡くした私の前に現れたのは、後妻のミアだった。
滝川ミア副社長──それが、彼女を表す名前であり、身分だった。
彼女は、滝川家に来る前は別の家で暮らしていたらしい。以前に居た家で問題を起こし、東京へ出てきた時に、たまたま私のお父様とパーティーで出会って、そのまま再婚してしまった。
以前にいた家で何が起こったのか、私には分からない。でも、使用人達が私のいない場所で、ミアの良くない話をしているのが、それとなく分かった。
滝川家は、父のお祖父様が発明家で、いくつもの発明品を作った功績が認められて、お祖父様が紫綬褒章を賜っていた。
しかしながら、父や私に才能は無く、借金返済の為に、家の取り潰しが噂されるようになっていた。
お父様が再婚したミアには、商才があった。やり方は薄汚く、娼婦のようなやり方でお金を稼いでいたが、誰も文句は言えなかった。人の良すぎるお父様では、商売なんて出来るはずもなかった。
彼女の連れ子である義理の妹が、いつも本邸から離れにある私の部屋まで来ては、私を罵りながら、部屋をめちゃくちゃにしていた。
何が気に入らないのか分からなくて、彼女に理由を聞いたが、彼女が私に何かを話してくれる事は無かった。
そんなある日、義母から呼び出しがあった。
「マリア、お前にいい縁談話を持ってきたよ」
呼び出されて執務室へ行くと、机の前に放り投げるようにして釣書を渡された。
「西園寺家から、成人したお前に婚約の打診だ。お前の顔は見るのも嫌だから、今週中に荷物を纏めて出て行ってくれ」
私は床に落ちていた釣書を拾うと、中身を見ずに机の上へ置いた。
「今までお世話になりました」
そんなことは1ミリも思っていなかったが、滝川家を助けてくれたことに対して、私は頭を下げた。