綾城織と幽霊な彼女
なんと1人友達ができた。山川少女改め、久遠冥である。
詳しくは教えてくれなかったが、不死身のバケモノである彼女は、かれこれ40年以上はあの姿のまま生きているらしい。
まあそれはともかくとして、あの日は僕に友達が記念すべき日だったが、肝心なことを忘れていることに僕は気がついたのであった。
・・・学校遅刻じゃん。
高校初日から2日連続で1時間以上の遅刻。もはや貼られてしまったやばい奴のレッテルは張り付いて離れない。
僕はこの失態を取り戻そうと、必死で笑顔を作ったのだが、作戦は失敗したのか。裏でスマイルサイコと呼ばれているのを聞いてしまった。笑顔は僕が考えているほど万能ではないらしい。いやまて、スマイル最高の可能性もあるか。いや・・ないか。
そして友達が出来ないまま、数日が過ぎようとしていた。
昼休み、当然僕は話せる人もいないので、机に突っ伏していた。
久遠冥もあんなに僕を知りたいと言っておきながらあれ以降姿を現さないし、僕は最高に退屈な日々を過ごしていた。
あと10分間も硬い机に突っ伏していなければならないことに絶望していた僕だったが、突然肩を叩かれた。
「なんか、綾城くんの妹さんが来てるよ。」
・・・僕に妹いたっけ。一瞬僕の家族関係を思い出して、妹がいないことを確認してから、ドアの方を見た。
そこには、可愛らしい服を着た、久遠冥の姿があった。
「おにいちゃーん。忘れ物だよー。うっかりさんなんだから〜」
久遠は僕の頭を掴んで、自分の口元に寄せる。
「なんで、最近全く顔を出さないの?毎日座ってるのに」
ああ、あそこにいたのか
「自転車通学に変えたんだよね。」
『そういうことはさっさと言いなさい』
そう言えば言ってなかった。通りで会えなかったわけだ。
そうして久遠の手から解放された僕は、彼女を改めてじっくり観察した。
うん。こうやってみると服といい顔といい、ただの可愛い女子中学生だな。中身がババアなのを除いて。
『今中身ババアなのにそんな服着てるんだって思ったでしょ』
エスパーかこいつ。ここは一つ謝っておこう。
「すまん」
強めのヘッドロックをかけられた。どうやら格闘タイプだったらしい。ノーマルタイプの僕では部が悪い。
『それよりちょっと向こうで話さない?周りに聞かれても困るし。』
「どんな厄介ごとなんだよそれは」
『最近この辺りで出るらしいのよ。人間の形をした幽霊が。』
彼女は愉快にそうに話す。
「幽霊ね・・・祟られたら死ねるかもってわけ?」
「もちろんそれも考えなかったわけじゃないけど、そういうことじゃないの。ほら、幽霊って死んでる存在でしょ。だから彼らに会ったら、何かヒントがもらえる気がするの。
「・・・死んでる存在ねえ。」
もし本当に幽霊が存在するとして、死んでまで現世に残り続けている彼らの運命を想像すると、なんだか気の毒に感じてしまう。
「なんだか君みたいだよね」
『そうね・・』
言っていることとは裏腹に、彼女はあんまり納得していなそうだった。
「あ、思い出した。あの、前に私は生きたことがないとか言ってたけど、あれってなんだったの?」
『そのままの意味よ・・・って言っても分からなそうだから分かりやすくいうと、生きるっていうのは死ぬから意味をなすのよ。だから、死ぬことのない私は、生きたこともないのよ。』
「なんだか難しいね」
どうやら僕には難しい話になりそうなので、僕は教室に戻ろうとする。
『待って、まだ話は終わってない』
「終わってようとなかろうと、もう10分休み終わるから。」
『分かったわよ・・。放課後駐車場で。」
そういうと彼女はさっさと歩いて行ったが、忘れてた、と言って突然くるりとこちらを振り向いた。
「おにいちゃん学校がんばってね!!」
余計なお世話だ。
その後教室に戻った僕だったが、そこには衝撃の展開が待っていた。なんと数人のクラスメイトから話しかけられたのである。話題の半分以上が妹の話であったが、何はともあれ、僕はついに、クラスの人間と話すことに成功したのだ。
サンキュー妹よ