綾城識と死なない彼女②
先日の一件から、3日が経とうとしていた。 ・・・彼女は死ねたのだろうか。いや、あんな高さから飛び降りたら死ぬに決まっているのだが。
しかしながらあの一軒以降、このあたりで飛び降りがあった、なんていう話を全く聞かないのが不思議である。どうやらニュースにもなってないみたいだし。まあ僕には関係ないが。
結局友達になってくれなかったな、なんて思いながら、朝の支度をしていると、ふと、テレビの星座占いが目に入ったので、何となく見ることにした。
僕の順位は・・・11位
うん。下手したら最下位よりも悲惨だ。最悪にもなりきれないのか僕ってやつは。
そもそも最下位にはラッキーアイテムとかいう救済措置があること自体謎であるが、この際そんなことはどうでもいい。
僕が今、この上なく不幸であることに間違いはないのだから。
そして僕はテレビを消し、家を後にした。
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結果から言うと、昨日の学校は最悪だった。彼女と友達なることもできずに一時間ちょっとを無駄にした挙句、電車の遅延が重なって結果的に2時間近い遅刻となってしまった。
当然もう式は始まっており、なんとなく入ることが気まずかった僕は、あろうことか近くの公園でさらに数十分つぶすという蛮行に出た。
その結果として入学式を受けることなく、さりげなく教室で合流しようとしたところを当然見つかり、その後数人の先生からの説教を受けた。
入学式から説教を受けたのは、僕くらいじゃなかろうか。
教室に入ってからも、そんな危ない奴と友達になりたい奴なんているわけもなかった。頑張って話しかけようともしてみたが、肝心の皆は、さながら爆弾処理班のように接してくるので、ああこれは終わったなと感じた。
なにか挽回する策はないか・・・よし。今日は、笑顔多めで行こう。なんか話しかけにくいという雰囲気を払拭するには笑顔しかない。僕はそう決意し、電車に乗った。
軽く笑顔のシュミレーションをしつつ、窓の外を見た。この景色をあと3年は見ることになるのか。東京らしからぬ山、川、少女、山、川、少女。
ん?少女?・・・またしても僕は、遠くの立体駐車場に見つけてしまった。その少女を。飛び降りたはずの彼女を。
僕はドアが開く音を合図に、ダッシュで駐車場へ向かった。
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『・・・来たわね』
そういって彼女はこちらを向く。まるで僕が来ることなんて知っていたみたいな口ぶりだった。
「山川少女、死ななかったんだね。」
「は?山川って誰?」
「こっちの話。気にしないで。」
『なんでもいいけど。てかかなた、驚かないの?なんで死んでないんだって。』
「だって、今生きてるから」
『ふふ。やっぱりあなたっておかしい。でもちょっと違う私は生きてない。』
そういう彼女は、愉快そうだった。彼女のツボはわからない。
「あ、そうだこの前の友達の件だけど、どうなった?」
『友達ね・・・。いいわよ。ただし条件がある。前にも言ったかもしれないけど。私を殺すのを手伝って。』
またしても真剣な眼だ。
「そんなのできるわけないじゃん。獄中生活はごめんだからね。」
『まだ少年院で済むわよ。』
そういう問題じゃない。
『勘違いしないで。今言ってるのは、この前みたいに直接殺してって意味じゃないの。ただ、あなたの近くにいて、何を出会って、何をするのか知りたいの。』
・・・それと彼女が死ぬことに何の関係が有るのだろう。なんだか話がかみ合ってないような気もするが、僕は了承した。
「あなた名前はなんていうの」
「綾城識。あやとりの綾にお城の城って書いて綾城。」
『綾城織。いい名前ね。両親に感謝しなさい』
「別に僕は、山田太郎でもよかったけどね」
『・・・あなたらしいわね。』
そういって彼女は、呆れた様子で僕を見ていたが、突然何かを思い出したようだった。
『そいうえば大事なことを聞き忘れてたんだけど、どうしてあなたは私が視えたの?」
「・・・なにそれ、実は幽霊でしたってオチ?」
『真剣に答えて。あなたは数日前、電車私の事が見えたと言っていた。でもそれってあり得ないのよ。だって駅からこの立体駐車場は数百メート以上離れれているんだから。ましてやその屋上。《少女》がいるなんて分かるわけがないのよ。』
「・・・眼がいいんだよ。暗いとこで本は読むなって、お母さんの言いつけを守ってたからね。」
『死のうとしてる人を助けろとは習わなかったのね。』
それは習わなかった。
『まあ、あとでわかるからいいけど。そんなことより、私の名前は気にならないの?』
「友達以外の名前は、あんまり興味ないんだ。」
『・・・・あーもうめんどくさいわね。分かったわよ。はい友達友達。はい、これで友達になったんだから、ちゃんと覚えなさいよ。私の名前は
久遠 冥 (ひさとお めい) よ。
僕は柄にもなく、いい名前だと思ってしまった。
「ところで、なんで僕の事を知りたいわけ?何の得にもならないと思うけど。」
『なんででしょうね。ただ・・・そうね。あなたといるとなんだか死ねそうな気がするのよ。』
何だその新手の悪口は、人を死神みたいに言いやがって。
そう思ったのも束の間、彼女はサッと塀を軽やかに上ると、僕に向かって丁寧にお辞儀をした。さながらダンスパーティーの誘いをうけたお姫様のようだった。
『じゃあ、そういうことで、これからよろしく。改めて自己紹介させてもらうわね。私は、久遠冥。不死身のバケモノよ』