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川辺での戦闘

川辺での戦闘


 その日のうちに、僕とトートは携帯電話を購入しに行くことになった。連絡をするだけだから、スマホのような高機能な端末はいらない。必要最低限の電話ができれば良いだろう。僕は既にスマホを持っているけれど、二台目ということで、かなり割安に端末を購入できた。ほとんどゼロ円で折りたたみ式の携帯電話を手にいられたのだ。貧乏な学生にはこれは嬉しい。仕送りだけではやはり辛いものがある。アルバイトをするべきなんだろう。何かを始めた方が良いかもしれない。だけど、敵がどこにいるのか分からない。そうなると、普通にアルバイトをしているだけでも結構危険になる。

 幸い、僕の祖父がある程度の仕送りを送ってくれるから、僕は働かなくてもやっていける。これは非常にありがたい。質素に暮らしていけば、携帯代くらい払えるだろう。スマホとは違い、ガラケーは維持費が安いから、僕でも払っていける。トートに携帯電話の使い方を教える。電話がかかってきたら、ボタンを押して電話に出る。それを試しにやってみて、その後トートに実際にやらしてみる。覚えが良いのか、トートは直ぐに携帯に慣れたようだ。電話をするのは難しいかもしれないが、電話を出るのは問題がないようだ。

「電話には出られるな?」

 と、僕は確認する。

 トートは買ってもらったばかりの携帯を大事そうに抱えると、次のように言った。

「うむ。出るだけなら問題ない。これで栄太郎から連絡が来たら、窮地というわけだな」

「そう、なるべくなら、窮地なってほしくないけどね。仮に電話が来たら、学校まで来てほしい。もちろん、戦う場所が学校でないケースも考えられる。その時は、改めて居場所を伝えるよ」

「色々と便利ではあるが、面倒だな。妾ががっこうとやらに行ければ一番良いのだが、行けぬのなら、仕方ない。このけいたいとやらで連絡が来るのを待とう」

「そうだな。そうしてくれるとありがたい」

 僕とトートは、夕闇が広がる河川敷を歩いた。

 犬の散歩をしている人たちや、部活動でトレーニングとしてランニングをしている人たちがいる。穏やかな空気だ。昨日のような雨はなく、すっきり晴れ渡っている。遠くで夕焼けが見える。もうすぐ日が沈み、闇が訪れるだろう。そんな時だった。不意に歩いていたトートが止まった。

 僕も合わせて立ち止まる。トートを見つめると、何か真剣な表情を浮かべている。何かあったのだろうか?

「どうか、したのか?」

 と、僕は問うてみる。トートはスッと視線を素早く動かすと、川辺の方へ体を向けた。

「いる……」

 と、トートは言う。

 いる? 何がいるのか? 否、決まっている。この状況でいると言ったら、神々のことだろう。きっと神々が近くにいるのだ。それをトートは察している。トートが察したのならば、恐らく向こうも気づいているだろう。ガーディアンも近くにいるのかもしれない。

「神か?」

 僕も真剣になる。忽ち、辺りに緊張感のある空気が流れる。ピンと張り詰めた空気。痛いくらいだ。川辺に向かって、トートの視線は注がれている。川辺には、一人の男性の姿があった。年齢は不詳だ、若くも見えるし、ある程度歳を重ねているようにも見える。スーツを着用しているから、恐らくは社会人だろう。そして、その男性のそばには、長身の男性が立っている。かなり恰好がおかしい。ウエットスーツのようなぴったりとした衣類に身を包み、手には、長い槍を持っている。あれはきっと闘神だろう。

「アータル。火の神だな」

 と、トートは言う。火の神。

 ここも再び戦場になるのだろうか? こんな人気が多い場所で戦闘になれば、甚大な被害が出るだろう。一般人への被害は避けなければならない。

「トート、ここじゃ戦闘はできない。一般の人が多すぎる」

「なぜだ。戦闘はどこでも始まる可能性がある。否めない」

「一般人を巻き込むのはダメだ。僕は誰かが傷つくのを見たくない」

「栄太郎は優しいのだな。よろしい。戦う場所は人気がない場所に移そう」

「闘うのか、向こうは戦闘をする気がないようだけど」

「否、向こうも気づいている。先ほどから、闘気を飛ばしている。戦闘する気は満々のようだな」

「そうなのか」

 僕の言葉が終わるのを待たず、トートはアータルという神々に近づいていく。

 二人の距離が縮まる。

 僕もトートの後を追う。戦闘が始まるなら、その行く末を見つめなければならない。

「これはこれは、トートではないか」

 と、アータルという神は言った。声は低く、とても渋い声だ。

 短く整った赤い髪の毛が印象的だった。炎の神と言うことだから、きっと炎を武器にした攻撃が得意なのかもしれない。だとすると、なぜ槍を持っているのかが不可解だ。

「アータル。この子は誰だ?」

 と、スーツを着た男性が告げる。

「トート。魔術神だ。俺と同じ神々の一人」

「なら、戦う必要があるな」

「そのようだな」

 アータルは槍をトートに向ける。穏やかだった顔に力が入る。戦闘する気は満々のようだ。

「アータル。戦闘は良い」と、トートが言う。「しかし場所を移動させたい。ここでは一般人が多すぎる。戦闘の余波をさけるため、人家がない場所にしたいのだが良いか?」

「構わねぇよ。俺は。どこが良いんだ?」

「栄太郎、この近くで人気がない場所はないか?」

 急に問われる。

 河川敷を進んでいくと、背の高いススキに囲まれた一帯があったはずだ。そこなら、人がほとんど来ないから戦闘をするのには適しているかもしれない。しかし、戦うのか。なるべくなら避けたい。けれど、それは無理のようだ。神々は戦いを宿命づけられている。戦いは避けられないのだ。

「こっちだよ、案内しよう」

 と、僕は言い、三名を引き連れ歩き始める。時間にして五分ほど歩くと、人気の少ない一帯に入り込んだ。トートの背丈ほどのススキが鬱蒼と茂っている。トートにとっては戦いにくいかもしれない。

「ここでやるのかい? 兄さん」

 と、アータルが僕に向かって言った。僕は速やかに頷く。すると、アータルは槍をトートに向けて、姿を消した。一瞬の出来事だったため、僕は面を食らった。

(消えた……)

 そう僕が思うのもつかの間、アータルがトートの頭上に現れた。トートは決して慌ててはいない。こうなるのを予期していたかのように思える。スッと上を向けると、何やら呪文を呟いた。

 アータルの槍の一撃がトートに向かって注がれる。トートに攻撃が直撃するという時、トートの前に、透明のバリアが発生した。

「ガガガガガガ!」

 鋭い炸裂音が鳴り響く。

 槍の一撃がバリアによって、封殺される。

「ほう、なかなか力の高いガーディアンのようだな。トート、良いガーディアンを手にしたな」

 そう言うと、アータルはスッとトートから距離を取り、槍に向かって力を注いだ。そして、その槍に炎に渦を纏わせた。炎の神と言ったからには、やはり炎が武器なんだろう。これからが本番である。僕は汗ばんだ手を握りしめた。その後、戦闘を見つめているスーツ姿の男性に視線を注いだ。男性は戦闘に慣れているのか、それとも余程アータルを信頼しているのか、微動だにしない。動かざること山のごとし。そんな形容ができる。

 アータルの炎の一撃が再びトートを襲う。今度は先ほどの炎とは比べものにならないくらい大きい。周りのススキを焼き、草木の焼ける臭いが立ち込める。槍の周りに炎の渦が生まれ、圧倒的な炎の爆炎を作り出す。厄介な炎の使い手、非常に面倒だな。まぁ僕が考えても仕方ないことなんだけど。今は、トートを信じるほかない。信じる力がトートの力を上げるなら、やはり、僕にできるのは、トートを信じることだけだ。

 トートは相変わらず冷静だ。しっかりとアータルの剣戟を見つめ、次の対策を練っているようだ。体だけを向け、口元だけを素早く動かすと、再び透明の膜のようなバリアが発生した。槍の一撃がバリアに突撃する。

「ズガガガガ!」

 削岩機でコンクリートを砕くような音が鳴り響く。少しずつだけど、トートの作り出したバリアに亀裂が入っていく。余程、強い衝撃なのかもしれない。

「貫け! ファイガランス!」

 アータルが叫ぶ。すると、さらに槍を包んでいた爆炎が大きくなる。遠くから見たら、家事に見えるかもしれない。いくら人気がないからといっても、これだけ大きな惨状になれば、誰かモノ好きが来るかもしれない。一般人を巻き込むのはダメだ。僕はそう考えた。

「なかなかやるな。アータル。もう、このバリアでは防ぎ切れるぬか……」

 と、トートはあっさりと言う。しかし、余裕じみた表情は消えない。まだ、何か奥の手が隠されているのか? この余裕の正体が分からない。次の瞬間、アータルの槍がトートのバリアを貫いた。そして、槍は内部にいたトートを串刺しにする。

「ザン!」

「ト、トート!」

 僕は叫ぶ。トートがやられてしまったと思ったのだ。けれど、それは違うようだった。アータルがゆっくりと口を開いた。

「残像魔法か。面倒なことを」

「こっちだ、アータル」

 トートの声が頭上から聞こえる。いつの間にか、トートがアータルの頭上に瞬間移動していた。否、元から、頭上にいたのかもしれない。バリアに包まれていた方が、偽物だったのだ。その可能性はある。胸が激しく苦しい。何故だろうか。胸が締め付けられるように苦しい。

「残像は著しい魔力を消費する。あまり使えんだろう」

 アータルは言う。そして、直ぐに頭上に向かって槍を放つ。

 トートは槍の一撃をかわすと、次に手のひらを上にあげ、竜巻を作る。

 あれは確か、ウイングライザー。トートの得意技の一つだ。あの攻撃で、セクメトを葬り去ったのだ。ならば、アータルにも有効かもしれない。アータルの腹部に、ウイングライザーが直撃する。激しい爆風が辺りを包み込み、アータルは近くを流れる川まで吹き飛ばされる。だが、それほどダメージは受けていないようだ。それに、スーツの男性もそれほど慌てていない。ただ、黙って戦闘を見つめている。

「なかなかやるな。だが、それだけじゃ俺には勝てないぜ」

 アータルは吹き飛ばされながらも体勢を整えると、くるっと反転し、ウイングライザーの攻撃から抜け出していく。そして、水面をまるで地上でも歩くかのように反動をつけて、一足飛びにトートの前までやってくる。再び槍の一撃。炎に包まれた槍の攻撃がトートを襲う。トートは、後方に飛び、攻撃をかわしながら、次の攻撃に放つ。ウイングライザーの連続攻撃。風の高鳴りを感じる。アータルはウイングライザーを槍で切り落とすと、そのままの勢いで、トートの顔面を殴り飛ばした。

「ガツ!」

 鈍い音が聞こえ、今度はトートが吹っ飛ぶ。水面に打ち付けられ、ブクブクと水中に沈んでいく。まだ、気を失ったようではないが、ある程度のダメージを受けたはずだ。僕はトートを追うために、川辺へ走しろうとする。すると、ここでスーツの男がようやく動いた。

「少年、これは神々の戦いだ。ガーディアンが入ることは許されない」

 と、スーツの男は言った。

「だけどトートが」

 僕はそう言い、男を振り払い、冷たい水の中に入っていく。トートが落下した場所に行くと、直ぐにトートが水中から現れた。顔に酷い切り傷ができている。血が滲み、ポタポタと水面に落ちる。

「ト、トート大丈夫か?」

 僕がトートの手を掴み、身を案じると、トートは「問題ない」と一言告げる。そして、その後、「栄太郎、危険だから下がっていろ」

「だけど、あいつは強いぞ」

「大丈夫だ。栄太郎が信じてくれれば妾は負けぬ」

「そ、それでも……」

 僕がすべてを言う前に、トートは駆け出していく。手を伸ばし、トートを掴もうとしたけれど、無駄だった。トートは傷ついている。それでもダグラスを救うために戦いを止めないだろう。僕は何をしているんだろう。あんなに傷ついているトートを見ているだけで、何もできない。歯がゆい。けれど、僕がアータルの間に入ったところで、何もできないだろう。人間と神々に間には、如何ともしがたい戦力差がある。それは決して埋まらない。

 トートが再びウイングライザーを放つ。風の一撃が、アータルを捉えた。しかし、その攻撃は、小さく、アータルは気合だけでそれをかき消した。驚くトート。きっと、僕の信じる力が弱まっているのだ。怖い。逃げ出したい。その思いが溢れ出してくる。そうなると、途端に胸が縮み上がるように痛くなる。本当はトートを信じなければならないのに、それができないのだ。アータルのニヤッという笑みが浮かび上がる。

「え、栄太郎……」

 トートが愕然としながら言う。きっと、トートも気づいたはずだ。「妾を信じぬのか?」

「どうした、トート。やらなければ、こっちから行くぞ」

 アータルの炎の攻撃がトートを焼く。

 爆炎に包まれて、トートが苦悶の表情を浮かべる。懸命にバリアを放つが、その力は弱い。あっという間にバリアは貫かれ、トートをさらに痛めつける。勢いよく爆炎に包まれ、傷だらけのトートがよろよろと煙の中から現れる。もはや、勝負はあった。もう、トートは勝てない。何とかして逃げなくてはならない。だけど、恐怖で身が縮こまっている。アータルの最後の一撃がトートに向かって放たれようとしている。

 まさに攻撃が放たれようとした時、僕は重い体を動かした。なんというか、勝手に身体が動いたという感じだ。放たれた炎の一撃がトートに当たる前に、僕はその前に飛び出し、トートの体を守った。

 圧倒的な炎に包まれ、僕は焼かれる。気を失う前、トートの「栄太郎!」という声が虚しく聞こえた――。

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