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戦闘は公園で繰り広げられる

戦闘は公園で繰り広げられる


 僕の手を掴み、走るトート。手は熱い。熱を感じる。どこへ向かっているのだろう。雨が降る中、僕は傘もささずに、一心不乱になって走る。僕らがたどり着いたのは、僕がトートと出会った場所。そう、公園だった。雨が降っているので、周りには誰もない。ひっそりと静まり返っている。静かな空間の中、僕はトートに声をかけた。

「一体、あいつは何者なんだ?」

 トートはくるっと身を反転させると、次のように言った。

「セクメト。彼女は神だ」

「神? 神ってなんなんだよ。君は一体?」

「言ったでしょ。妾は魔術の神。トート。お前をガーディアンにしたい。そうしなければ、セクメトには勝てない」

 またガーディアンという単語が出た。これはどういう話なんだろうか? 僕がガーディアンになると、どうやら、トートは戦闘ができるようだけど、こんなバカみたいな話に、僕は足を踏み入れる気持ちはない。なぜ、平和だった生活が、このように急激に脅かされることになっているのか、理解に苦しむ。

 ガシャン……ガシャン……。

 鎖を擦る音が聞こえてくる。雨の降りしきる寂しい公園の中、セクメトがニヤッと不気味な笑みを浮かべながら、歩いてきた。どう考えてもまともではない武器。あんな鎖が体に直撃すれば、どのようなダメージを負うか、それを想像するのは難しくない。もしかしたら、死ぬかもしれない。

 死ぬ。僕はここで死ぬのか? まぁ生きていても仕方ないと思った時期はあった。家族を失い、失意の底にいた僕は、確かに生きる意志が希薄だった。それは間違いない。だけど、祖父の力添えもあり、生きる希望を得たんだ。僕が死ねば、残された祖父は悲しむだろう。もう、誰かが悲しむのは見たくない。例え、自分が死んだから、何も分からなくなるとしても、そんな無責任なことはできないのだ。

「逃げても無駄よ。トート。あなたはここで終わり。今回の闘争の敗者になるの」

 と、セクメトが言い放つ。

 トートはキッとセクメトを睨みつける。熱い瞳だ。とても少女の放つ視線とは思えない。

「妾はまだ負けたわけではない。確かにガーディアンはいない。しかし、敗者にはなっていない」

「もう残り火だけのエネルギーで、私に勝てると思うの? やってごらんなさい。直ぐに葬り去ってあげる」

 そう言うと、セクメトは持っていた鎖をビュンビュンと古い、それをあろうことか、トートに向かって振るってきた。鋭い攻撃がトートを襲う。攻撃が直撃する! そう思った瞬間、トートの前に見えない壁のようなものが現れ、セクメトの攻撃を防いだ。

「ガキィィィン」

 鋭い炸裂音が、界隈に鳴り響く。一体、何が起きているのか。僕は状況を把握するだけで精一杯だった。ただ、僕の背丈の三分の二程度しかない少女が、戦っているという、異様な状況が繰り広げられている。トートは攻撃を防いだように思えた。だが、それは誤りだったようだ。セクメトの攻撃は、めりめりとトートの防御を突き破り、やがて、攻撃はトートの体にヒットした。

「ぐはぁ……」

 トートが勢いよく後方に吹き飛ぶ。

 僕は迷わず叫ぶ。

「ト、トート!」

 慌てて駆け寄るが、トートはよろよろと立ちあがり、

「危険だ。栄太郎は下がっているのだ」

「何言ってんだよ。逃げるんだ。あいつは頭がおかしい」

「無駄だ。逃げても追いかけてくるだろう。それに、妾は負けるわけにはいかぬのだ」

「でも、そんな身体じゃ」

「ガーディアンがいないため、龍刻に力が残っていないのだ。力さえあれば、奴に打ち勝てるのに……」

 と、トートは唇をグッと噛みしめる。その表情は、本当に悔しそうに見えた。

 確か、トートは僕に言った。ガーディアンになってほしいと。なら、この場で僕にできるのは……、トートを救うためには、僕がガーディアンとやらになる必要があるのではないか? だけど、危険はないのか。セクメトはどう考えてもトチ狂っている。あんな凶器を幼女に向かって降り注ぐ時点で、真っ当ではない。頭がおかしいと言わざるを得ない。

「トート、諦めなさい」

 セクメトが目の前に立っていた。いつの間に間合いを詰めたのだろう。僕はトートの前に立ちはだかる。これ以上、トートが傷つくのを見たくない。例え、合ったばかりだとしても、トートは幼い少女だ。そんな少女を目の前に高校生の僕が逃げるなんてできない。でも、武器なんか持っていない。直ぐにやられるだろう。だけど、逃げられない。戦うんだ。

「どきなさい。人間」

 冷たく言い放つセクメト。

「嫌だと言ったらどうする?」

「一般人を巻き込むのは、本当はよろしくないんだけどね、邪魔をするなら容赦はしないわ」

「どうして戦う?」

「それはあなたには関係ないわ。この闘争は、神同士の戦いだからね。さぁ人間は下がっていないさい」

 セクメトは、鎖を持つと、それを振るった。

 シュン!

 まったく攻撃が見えない。僕の脇にフッと風が吹いた。

 次の瞬間、トートがいた場所に大きな穴が開いていると分かった。

 僕はフッと翻る。

 目線の先に、血に濡れるトートの姿が映る。

 過去の映像がフラッシュバックする。あの空港でのテロ、その映像が僕の脳内に映り込み。

「うわぁぁぁぁ!」

 僕はセクメトに向かって突進していく。何かこう、このままではダメなような気がしたのだ。とにかく行動する。それしかないように思える。しかし、僕は今まで喧嘩だってろくにした経験がない。だから、こんな鎖の武器を持った、自称神と名乗る女に対応できるはずがないのだ。セクメトは、フンと鼻を鳴らすと、鎖ではなく、素手で僕を殴り飛ばした。圧倒的な攻撃力。僕は雨の降りしきる公園の中で派手に吹っ飛んだ。

(い、痛い……)

 そう思うのは当たり前だ。手をよく見ると、血が滲んでいる。当然だ。僕にはあの女には勝てない。逆立ちしたって不可能だろう。つまり、トートを守れないのだ。トートは吹き飛ばされた僕の元までやって来て、僕を助け起こす。

「何をしているのだ。栄太郎。正気か?」

 わずかだが、トートの目には涙が浮かんでいるよう見えた。なぜ、トートが泣いているのか? 吹き飛ばされたのは僕なのに……。まだ、考える余裕がある。痛みはあるけれど、立ちあがれないほどではない。僕はトートの手を掴み、ゆっくりと立ちあがる。

「逃げよう。あいつはまともじゃない」

「無駄だ。逃げ切れない。戦うしかないのだ」

「だけど、勝てないよ。あいつは強い」

「妾に力があれば良いのだ。そして、栄太郎なら、妾に力を与えることができる。頼む、栄太郎、妾に協力してくれ」

「協力って、ガーディアンになるって意味か?」

「そうだ。妾のガーディアンになってくれ。そうすれば、妾は力を得られる」

 ガーディアンか……。

 一体、それがどんな存在なのか分からない。だけど、迷っている時間はあまりないようである。もう、どうなっても良い。この場を打開するためには、僕がガーディアンになる必要があるようだ。その結果、どうなるかは不明だ。いずれにしても、トートを救うためには、ガーディアンになる必要があるようだ。

「分かった。ガーディアンになるよ」

「本当か? なら、さっそく契約を」

 契約と言っても、何をするのか分からない。トートは静かに目を閉じると、何やらぶつぶつと呟いた。その言葉は聞いた経験のない言語で、不思議な力が感じられる。体の中で力なの高鳴りが感じられる。不意に目の前が真っ暗になり、何も見えなくなる。すると、ポンと光が見えた。徐々にその光は大きくなっていって、僕を包み込んでいく。目の前に、トートが立っている。しかし、全裸だ。胸に龍刻と呼ばれる刻印が刻まれ、僕の手を優しく掴むと、その手を刻印に押し当てる。冷たい印象があったけれど、やがて燃えるように手が熱くなっていく。

「な、何をしているんだ」

 幼女の胸に手を当て、俺は不覚にも混乱している。まだ、膨らみのない胸。その胸に手を当てていると、何か鼓動音のようなものが感じられて、不思議と落ち着きを取り戻す。まるで、母親のお腹の中にいるような気持ちになる。

「栄太郎の力と妾の龍刻を融合させているのだ、もう少しだ。しばし待て」

 やがて、トートが僕の手を放す。次の瞬間、目の前が真っ白になる。白いゲレンデのような場面が広がったと思うと、すぐに風景に色がつき、ビデオの逆回しのように、公園の景色が形作られる。僕は、雨が降りしきる公園の中にいた。隣にはトートの姿がある。その姿が、凛としており、先ほどまでの弱々しい感じがまるでなくっている。戦士としての顔。そんな風に形容できるかもしれない。

 変わった……。確実に……。

「待たせたな。セクメト。相手になろう」

 と、トートは高らかに宣言した。黒の鎧の身を包み立っている。

「ち、契約したか。さっさとやられれば良いものを」

 セクメトは悔しそうに歯を噛みしめる。それでも攻撃をやめようとはしない。鎖を振るうと、トートに向けて攻撃を放った。

 鋭利な鎖の一撃がトートを襲う。しかし、トートはいたって冷静だ。しっかりとセクメトを見据え、動こうとしない。辛うじて動いたとすれば、手を軽く持ち上げた点か? ステッキから風が放出される。その風は、鎖を包み込み、攻撃を無効化させる。鎖はガチャンと音を立て、粉々に砕け散る。

「【ウイングライザー】。次は妾の番だな」

 そう言うと、トートは手を振るった。途端、巨大な竜巻のような風が巻き起こり、セクメトを襲う。セクメトは、攻撃を器用に避けると、再び鎖を顕現させた。どうやら、武器は自在に消したり出したりができるようだ。トートの竜巻の攻撃を掻い潜ると、一瞬の隙を突き、鎖で攻撃を放ってくる。トートの後方から巻き込むように鎖の一撃が飛んでくる。トートはその場から動かない。ただ、黙って立っていると、手を一振るいして、風の盾を作り、鎖の攻撃を止める。流れるような防御だった。勝てる! 僕は楽観的かもしれないけれど、そのように考えた。今のトートは強い。セクメトを倒せるはずだ。鎖は再び粉々になり粉砕される。

「無駄だ。妾は今、龍刻の力を手に入れた。お前には負けない」

 セクメトは、唖然としている。

「なぜだ。なぜ、ただの少年にそこまでの力が……」

「覚悟は良いか。セクメト」

「ち、ここは一旦退散するよ。ガーディアンが遠くにいると、力が高まらないからね。勝負はまたの機会にしようか。それまで元気でやりな、トート」

 そのように言うと、セクメトは後方に下がり、そのままスッと消えて行った。トートは追わなかった。追っても無駄だと言わんばかりの姿勢だ。ただ、呆けっと立ち尽くす僕の前まで足を進めると、次のように言った。

「栄太郎のおかけだ。感謝するぞ」

 感謝すると言われても、僕は何もしていない。ただ吹き飛ばされて、契約だと言って目をつむっていただけだ。それ以外は特に主だった行動はしていない。

「何が起きているんだ」

 そう。わけが分からなかった。ただ、目の前で起きた奇跡のような事象を、まざまざと感じるだけだ。何かが起きたのは間違いない。特に、戦闘の途中まで、トートは絶対の劣勢状態だった。それがどういうマジックを使ったのか、力を得てセクメトを追い詰めた。そこには秘密があるのだ。確か、契約と言っていたはずだ。俺はガーディアンとやらになってしまったのだろうか?

「ガーディアンって何なんだ?」

 と、僕は言った。

 トートはフッとため息をついた。すると、今まで黒の鎧に包まれていた体が、僕が渡したロングTシャツになっている。ぶかぶかの装い。雨に打たれ、僕はくしゃみをした。

「ここは冷えるな。栄太郎、部屋に戻るぞ。そこですべてを説明する」

 そう言うと、トートはゆっくりと歩き始める。

 僕はそれを見て、ただ漠然と立ち尽くした。すると、それを見ていたトートが、不満そうに、

「何をしている。家に戻るぞ。栄太郎、案内しろ」

「わ、分かったよ」

 仕方なく、僕はトート共に自宅へ戻った。


 自宅は荒れ果てた状況になっていた。セクメトが狭い部屋で鎖を振り回したから、壁中に傷が走り、後は、窓ガラスが割れている。これを何とかしないとならない。窓が割れたままだと、防犯性も心配だし、何より風が入って寒い。

「大分、傷めてしまったな」

 トートはそう言うと、目を閉じて、何やら呟いた。「このくらいなら妾にもできる」

 短い呪文を詠唱すると、傷んだ壁や、割れた窓が元通りに戻っていく。これはもう、奇跡というか、魔術が行われていると思うしかないだろう。どういう力が働いているのか。

「うむ、これで元通りだ。回復の呪文は得意ではないのだが、まずまずだろう」

 確かに、苦手のようだ。良く見ると、傷は走っているし、窓にも少しひびが入っていた。完全に修復しているわけではないようだ。

「それで、君は何者なんだ?」

 俺は座り込むとそのように告げる。

「うむ、当然の疑問だ。まずはそれに答える必要があるだろう」

 トートはそのように言うと、狭い部屋の中央に立ち、演説を始めるかのように語った。

「まず、栄太郎、神々の闘争を知っているか?」

 神々の闘争? そんなもの知っているはずがない。僕は首を左右に振った。

「まぁそうだろうな。栄太郎は一般生活を送っていたはずだ。神々の闘争を知らぬのも無理はないか」

「何なんだ、その闘争って?」

「それぞれの神が、王神になるために、繰り広げる闘争だ。通称、王神の闘争ともいう」

「王神? って神様の王様って意味か?」

「まぁそう言っても良いだろう。神の頂点を決める。それが王神の闘争だ。神の頂点になると、願いが叶うのだ」

 願いが叶う? なんというか、かなり突飛な話だな。まるで少年漫画だ。世界を掌握して何がしたいんだろう。そもそも、こんな少女の体で、世界を手に入れたとしても、その先に待っているものは、大したものではないのではないか。僕はそんな風に考える。ただ、一つ言えるのは、僕は確かに巻き込まれた。王神の闘争に……。面倒だとは思うけれど、巻き込まれてしまったのだから、今更後には引けない。情報が必要になるだろう。

「君は、何がしたいんだ?」

 と、僕はトートに尋ねる。トートは意外そうな顔でこちらを見つめる。吸い込まれるような青い瞳、西洋のアンティークドールのような瞳をしている。このまま黙っていれば、成功に作られた人形としても通用するかもしれない。高名な人形師が作ったような完成された人形。そんな感じがする。

 トートは静かに笑みを浮かべると、僕に向かって言った。

「手に入れたい世界があるのだ……」

 決意のこもった声だった。手に入れたい世界。そもそも、トートは何歳なんだろう。見た目が少女なだけで、実はかなり長生きなのではないか。神話の世界の神様は、普通に何千年と生きているし。だとすると、世界を手にしたいと考えても、何ら不思議はないのかもしれない。

「手に入れたい世界?」

 僕は繰り返す。どんな世界が手にしたいのだろうか?

「ある人間を蘇らせたいのだ」

「トート。君は蘇らせたい人がいるのか?」

 神様なのだから、人の一人くらい蘇らせても不思議ではないが、神はそこまでの腕はないようだ。それはそうだ。死んだら人は蘇らない。この事実は、小学生の低学年だって知っている。人は死ぬから尊い。命はそれくらい重たいのだ。僕だって、どれだけ家族の再生を願ってきたのか分からない。あのテロで、僕の家族は失われた。幸い、祖父が僕を育ててくれたけれど、暗黒の日常が始まったのは、事実なのだ。あんな悲しい思いはもうしたくない。人が死ぬのは見たくないのだ。

 故に、窮地に陥ったトートを救ったのかもしれない。セクメトとの戦闘。僕が契約とやらをしなければ、トートは恐らく負けていただろう。神々との戦いで敗者がどうなるのかは、知らないのだけれど、多分ただじゃすまない。消えてなくなるのかもしれない。それは死ぬよりも寂しいことだと思えた。

「妾らには蘇らせたい人間がいるのだ」

 と、トートは言う。

 人間? 神様じゃないだろうか。

「人間って誰なのさ?」

「ダグラス・アークライト。妾の最初のガーディアンだ。しかし、王神の闘争に巻き込まれ、命を落とした。妾の責任なのだ。妾がガーディアンを守り切れなかった。それが、後悔として今も残っている」

「ちょっと待ってくれ。王神の闘争っていうのは、いつから行われているんだ? 誰か勝ち残ったものはいるのか?」

「勝ち残ったものはいない。皆、敗北している。そもそも王神の闘争というのは、七名の神々が行う戦争だ。その七名が殺し合う。そして、最後の一人が残ると、そこで闘神が現れるのだ。闘神の審判が下される。その審判に打ち勝つと、王神の闘争の覇者として、世界を掌握し、力を手に入れられる」

「闘神の審判?」

「うむ。即ち、闘神との戦闘だ。しかし、今まで幾度となく戦い続けた中で、この闘神に勝った神々は一人もない。皆、敗れているのだ」

「敗れるとどうなるんだ?」

「戦いが振出しに戻る。闘神に挑戦した神以外はシャッフルされる。それ故に、再び王神の闘争に参加する場合もあれば、そうでない時もある。王神の闘争に選ばれると、神は再び最後の一人になるまで戦い続けるのだ。期間が空く時もあれば、直ぐに王神の闘争が始まる場合もある。こればかりは始まってみないと分からない」

「ちなみに、前の王神の闘争はいつだったんだ?」

「十年前。その前は二百年程前だったかな。最後の一人に残っても、闘神に勝てないと意味がないのだ」

「まるで無限の戦いだな。トートは最後まで残ったことがあるのか?」

「ない。実は、闘神に敗れると、神は消滅する。つまり、闘神に挑戦できるチャンスは一度しかないのだ。前回、闘神に挑んだ神で、エヌルタという神がいたのだが、闘神に敗れ、消滅してしまった。もう、エヌルタはこの世界に現れることはないだろう。神々が一人失われると、新しい神が一人補充される。妾は二百年前の王神の闘争より、戦いに参加しているのだが、未だに最後まで残った経験はない。戦いの過程の中で、ガーディアンを失うと敗北になるのだが、妾は最初の王神の闘争で、ダグラスというガーディアンを失ってしまった。二度目の参加の際は、妾が戦闘に敗れた」

「つまり、今回が三回目の王神の闘争というわけか?」

「その通り。三度目の正直というが、今回は勝ち残り、闘神を打ち倒したいのだ」

 しかし、その闘神を倒せる保証はあるのか?

 今まで、どれくらい長い間、王神の闘争が繰り広げられてきたのか分からない。だけど、長い歴史があるのだろう。その長い歴史の中で、ただの一人も闘神に勝てていない事実を感が見えると、トートにいくら高い戦闘力があったとしても、勝ち残るのは難しいのではないかと思えた。

「怖くないのか?」

 僕は核心を突く質問を飛ばす。

 そう、王神の闘争は戦いだ。戦闘なのだ。人が人と戦う。まぁこの場合は神々が戦うケースなのだろうけれど、戦闘であるには変わりない。そこに恐怖はないのか? 僕が同じ立場ったら、怖くてやっていられない。元々好戦的なタイプじゃないのだ。だから戦闘なんてしたくない。できれば穏便に暮らしていたいのだから……。

「怖くはない。たが、闘神を倒せるのかが問題だ。負ければ、待っているのは完全な無。妾の希望である、ダグラスの再生は叶わない。そうなれば妾はダグラスに顔向けができぬ」

「ダグラスが大切なんだね」

「その通りだ。妾にとってダグラスは非常に大切な人間だ。なんとしても蘇らせなければならない」

「だけどさ、ダグラスって人は二百年前の人なんだろ。その人が、今の時代に蘇っても、やっぱり迷うんじゃないのか? 人は死んだら蘇らない。僕の両親も死んだけれど、やっぱり蘇らないよ。仕方のないことなんだ。それくらい、人が死ぬのは大きな問題だ」

「それは分かっている。しかし、妾はもう一度ダグラスに会いたいのだ。そのためなら、妾は何だってする」

 決意のこもった声だった。トートとダグラスの間に、何があったのかはあえて聞かない。だけど深い絆が合ったのは分かる。だからこそ、ここまで必死になるのだろう。何故、死んだのだろう。この王神の闘争は、ガーディアンが死ぬ可能性もあるのだろう。そう考えると、途端恐怖に包まれる。死は怖い。……死にたくはない。

「協力はするよ。具体的に、僕は何をしたら良いんだ?」

「栄太郎には、妾の力の供給源になってもらう。栄太郎の力が、妾の力になるのだ」

「力って言っても、僕には大した力はないよ」僕はそこで手をふらふらと振った。「この通り、ほとんど力だってないし、はっきり言って役に立つとは思えない」

「その点は心配ない。魔力の高さは、筋力の高さとは比例しない。そもそも、栄太郎には高い力があるのだ」

「ん? なんでそう言えるんだ。僕に力がある根拠でもあるのか?」

 すると、トートは強い瞳を僕に向けた。青い瞳が煌々と光り輝いている。

「根拠はある。それは、妾の姿が見えると点だ。契約前、普通の人間には神々の姿は見えない。一分の特殊な人間でないと、神々の姿は見えないのだ。契約すると、神は魔力供給を受け、一般人にも見えるようになる。契約前だというのに、神々の姿が見える人間は、高い魔力を宿している。事実、栄太郎の力は強い。セクメトを圧倒したことを覚えているだろう」

「あれは、僕の力じゃないよ。トートが戦ったんじゃないか」

「確かに戦ったのは妾だ。しかし、その力の根源は、栄太郎。お前の力なのだ。お前の力が高かったからこそ、セクメトを圧倒できた。これは誇るべき点だ。栄太郎。お前は強い。否、強くなれる。妾に力を貸してほしい」

「まぁ良いけどさ。自分に力があるなんて、どうしても思えないんだよ。だって、ただの高校生だぜ。それに自慢じゃないけど、人だって殴った経験がない。何もできない少年さ」

「そう言うな。高い力があるのは事実だ。妾はそう確信している」

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