3.姫様、初クエストに行く
「採取するのはレスペ草。森の奥の方にあって、一般人でも採れないことはないけど、魔獣や動物がいることも多く、危険。だからこうして冒険者に依頼が来るのね」
とはいえその獣どもも魔法やら剣やらが使えるなら対して脅威ではない。私も少し攻撃魔法は使えるし、アルカはバリバリの武闘派だし、楽勝と言っていいだろう。
……と思っていたのだが。
「きっつ……」
目的地の中間地点あたり。私は近くの木に手をついて項垂れていた。
森、舐めてたわ。視界は悪いわ足元も悪いわでもうすでにヘトヘトだった。対するアルカは余裕の表情。いや、これは呆れてるな。思ったより私の体力がなくてびっくりしてるな。
「も、森なんて行ったことないのよ……というかこんなに歩くこともないわ……初めからかっ飛ばしすぎたかしら」
「え、ええ……?」
これからは毎日体力づくりしよう……これから街と街を移動するってなったら馬車だけでなく徒歩も使うし、森も山も移動することもあるだろうし、そうなった場合私はパーティーメンバーの足をとんでもなく引っ張ることになるだろう。嫌だ。そんなの嫌すぎる。
「……よし、ごめんなさいねアルカ、いきましょう」
「だ、大丈夫、なの……?」
「余裕よ余裕」
嘘だ。私の足は今生まれたての子鹿のように震えている。アルカもそれを見て「本当に大丈夫かなこの人」という目をしている。大丈夫よ、多分……。
さっきまでよりローペースになりながらもとことこ森の中を歩く。先頭のアルカが時折気遣うようにちらちらこっちを見てくる。年下の女の子に気遣われて恥ずかしい……。
それからは特に動物と遭遇することもなく順調に森の奥まで行くことができ、あっさりと目的の薬草を見つけることができたので、指定量を採取して袋に詰めて、さっさと帰ることにした。
また同じ道を通るのか……明日は絶対筋肉痛だな……。
と、明日のことを考えて憂鬱になっている、そんなときだった。
急に、地面が揺れた。
木々に止まっていた鳥たちは羽ばたいていく。枝や葉が揺れる音と地鳴りの大合唱。アルカは何かが起こってもすぐ対応できるように拳を構え、私も手に嵌めた指輪を体の前に構えた。
何事もなく地鳴りも揺れもすぐに収まった。
「……ひ、姫様、なんか、いる……!」
すぐに行動を再開したのはアルカだった。
「えっ?」
「い、今、ど、どさって、聞こえた! なん、なんか落ちた、みたい……!」
「こ、こっち!」とアルカが駆け出す。その後ろを、体の疲れを無視して走る。
どさって、よく聞こえたわね、あの地鳴りの中で。
アルカの足が止まる。その横に立って、膝に手を置いて、ぜえはあと息をしながら、前を――いや、地面を見る。
「え?」
そこには、見慣れない服を着た、黒髪の少年が倒れていた。




