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リリアの郵便局  作者: 黒川 月夜
1/1

大切な手紙達

   プロローグ

 

 何処の郵便局で聞いてもそんな支店は無いと言われる郵便局が有った。

何処に有るのか分からない。

明治初期の洋館の様な二階建ての郵便局、局員はリリアと云う女性一人だけで二階に住んで居ると聞く。

服装は昔のメイドの様な格好をして居るそうだ。

見た目は十代後半位、白い肌、茶色い目、茶色い髪。

名前も住所も過去、未来、郵便局内に有る便箋と封筒を使えばその人に届くと云う。

とても不思議な郵便局、只の噂か、都市伝説か、本当に有るのか誰も知らない。

手紙を誰かに届けたいと強く思うとふと近くに有ると云う。

局員のリリアは手紙を受け取ると胸に抱き祈る様に手紙を届けてくれると云う。



  第一話 大人に成った子供達へ


 佐々木美里二十七歳、夫の武史と三歳の娘恵梨香、二歳の息子充、家族四人仲良く暮らしていた。

夫とは社内恋愛で結婚し、次の年には子供が出来た。

美里は幸せに暮らし、忙しい毎日を過ごしていた。

有る時、風呂上がりでふと触った胸に違和感を覚え産婦人科に行き検査をした。

「佐々木さん、落ち着いて聞いて下さい、乳ガンです、転移も見られますステージ4です。転移の範囲も広く長くて一年位だと思います」

突然の宣告だった、まるで自分の事では無い様に感じていた。

「あの、本当なのでしょうか?」

「はい、申し上げにくい事ですが」

まだ受け入れられないが涙が出て来た。

子供はまだ小さい、成長を見られない、幸せから一転谷に落とされた気持ちに成った。

「治療をしていきましょう、長く成る事も有りますし、ガンが小さく成る事もありますから」

「はい、宜しくお願いします」

そう言うしか無かった、少しでも子供達、夫と一緒に居たいと思った。

家に帰り、茫然としていると

「ママ、今日の夜のご飯はカレーが良い」

我に返り子供達を見る

「そうね、じゃあカレーにしようか?」

「やったー」

無邪気に喜ぶ子供達を見てまた宣告を思い出す。

夕方、夫が帰って来て夕食を食べた後、子供達を風呂に入れてくれる。

「出るよ~」

タオルを持って子供達を拭き髪を乾かし、歯磨きをして寝かしつける。

「どうしたの?今日は何だか元気が無いけど」

夫に言われ、云う決心をした。

「胸に違和感が有って病院で検査したんだけど乳ガンのステージ4だって、長くて一年って言われた」

夫は突然の事に言葉を失った。

「治療はする事に成ったの、だから」

「無理だけはしないで、俺に出来る事はするから」

次の日、夫の事や子供の事を考えながら近くのスーパーに行く途中洋館の様な郵便局を見つけた。

導かれる様に中に入る、中には四人掛けのテーブルと椅子が有った。

テーブルの上には便箋と封筒が有った。

何故か美里は当たり前の様に便箋を取り手紙を書き始めた。


 「大人に成った子供達と夫へ」

私は昨日乳ガンのステージ4と宣告されました。

まだ三歳の恵梨香、二歳の充、大きくなった彼方達を見る事が出来ない様です。

武史さんごめんなさい、武史さんには迷惑を掛けてしまいますね。

新しい奥さんを貰って下さいね。

次は幸せに成って下さいね。

でも、私の事は覚えていて欲しいと思ってしまう。

沢山写真を撮ります、きっと子供達は私の事を覚えてはいないでしょうから。

元気に育ちどんな大人に成って居るのでしょう?

見たかったです、出来れば彼方達の子供、私の孫を抱きたかった。

まだまだ先の話ですね、私も突然の出来事で何を書いて良いのかわかりません。

まだ動ける間に色んな所に行こうね。

動けなく成ったらきっと病院から出られないと思うので。

もう少しだけ、もう少しだけ、一緒に居たいと願ってしまいます。

武史さん、家族で居た時間は短かったけど、幸せでした、ありがとう。

私は皆が大好きです。

母親らしい事を出来なくてごめんね。

手紙を書いて居たら何だかまだ死にたく無いと思う。

里美は封筒に手紙を入れ泣きながら封をした。

窓口に持って行くとリリアと書かれた名札を付けた女性が

「お手紙大切にお預かりします」

そう言って受け取り胸に抱いていた。

里美が郵便局を出て数歩歩き後ろを見ると郵便局は無くなって居た。

その後、里美は身体が動く限り、家の事や家族で出かけ沢山の写真を撮った。

そして入院が決まり、自分の物を売りに出したり通帳、保険証書、家の権利書などを大きな封筒に入れ夫の机の上に置いた。

入院してからは治療はしていても病状は悪化するばかりだった。

「父さん、姉さん、大変だ母さんから手紙が来てる」

充は走って家の中に入って来た。

「馬鹿言わないで充、母さんは三十年前に亡くなって居るのよ」

「充見せてくれ」

武史は充から手紙を受け取り読み始めた。

「里美からだ、里美の字だ」

三人は里美の手紙を読んだ。

「私達は余り母さんの事、覚えて無いけど、写真がいっぱい有ったのはそのせだったのね?」

子供二人は泣き始め、武史も涙を目いっぱいに溜めた。

「母さんに返事を出したいな」

充が言うと三人はあても無く町まで歩いていた。

すると洋風の古い郵便局が有った。

中に入り自然と机に座り手紙を書き始めた。


 「里美へ、母さんへ」

君が亡くなってから机の上に色んな書類を用意してくれていてくれたから助かったよ。

里美が自分の物を処分していたなんて気が付かなかった。

何も出来なくてすまなかった。

あれから俺は結婚しなかった。

友達や上司の勧めで見合いはしたが君意外とは結婚出来なかった。

俺なりに懸命に子供達を育てたが寂しい思いをさせ済まないと思って居る。

君の様に出来なくて良く食事を焦がしていた。

すまない、もっと里美を手伝って居たら上手く作れたのにと後悔ばかりだった。

里美を失って初めて君の大きさに気が付いた。

お母さん、恵梨香です。

一度結婚したけど、お父さんとお母さんの様には行かなくて離婚して実家に帰って来ました。

何で写真のお母さんの様に笑顔で夫に接する事が出来なかったんだろうと思います。

それでも息子が出来ました、お母さんに抱いて欲しかった。名前は里史、歳は三歳です。

お父さん、お母さんの字を貰ったよ。

お父さんと充が手伝ってくれて皆で育てていますお母さんも居たら良かったのにと思ってしまう。

でも、本当に有難いと思って居ます。

母さん、充です。

俺はまだ結婚出来ないで居ます。

良い人に出会えない感じですが、里史が居るので毎日大変です。

出来れば俺も結婚したよって報告したかったけど、駄目だね、

仕事は毎日忙しくしている。

父さんが僕等の為に結婚しようと考えた時に姉さんと僕は、要らないって言って泣いたんだって。

父さんも子育ての為に結婚するのは違うって思って男手一つで僕等を育ててくれた。

俺も結婚出来たら、父さんの様に愛する人と一途に成れる人と結婚するよ。

きっとまだ先の話だね。

最後に里美、本当にありがとう、余り言えなかったけど、愛しているよ武史

三人は便箋を封筒に入れた所で恵梨香がリリアに

「写真は入れて良いですか?」

と、聞いた、リリアは考えて

「人に見せると二度と見られなくなりますが良いですか?」

「はい」

「それでしたら、入れて見せて上げて下さい」

写真を入れ封をした、窓口に手紙を出すと

「お手紙大切にお預かりします」

リリアは手紙を胸に抱きしめた。

三人が郵便局を出て息を吐き後ろを振り返ると其処は空き地に成って居た。

「佐々木さんお手紙が届いてますよ」

看護師に言われやっと起き上がり手紙を受け取った。

差出人が無い封筒、見覚えが有る、急いで開けると夫、恵梨香、充からだった。

「武史さん結婚しなかったのね、一人で仕事、子育て、家事をこなして本当に優しい人、大変だったでしょうに、恵梨香は結婚して子供が居るのね、離婚してしまって大変だったでしょうに居られなくてごめんね、里史って恵梨香ありがとう、充はまだ結婚して居ないのね、良いのよ良い人が必ずいるわ、これは?里史?まあ何て可愛い子、私の初孫ね、武史さん私も愛してします」

里美は封をして封筒に一緒に焼いて欲しいと書き枕元に置いた。

里美に手紙が届いて三日後に里美は帰らぬ人に成った。

「大切な手紙を届けられて良かった」

リリアはそう言って郵便局の掃除と便箋を足して居た。


  第二話 知りたい


 「歩行者専用道路で通り魔が女性を切りつけている様です、まだ犯人は捕まっていません」

テレビから流れる異様な光景、道路は血に染まり、救急隊を待って居る人、人工呼吸をされている人などが映し出されていた。

「危ない」

犯人は女性だけを切りつけて行った。

近くの女性を傷付けない為に女性の腕を強く引っ張った。

女性は勢い良く倒れてしまった。

「ごめんなさい大丈夫ですか?」

肇は女性に近づくと犯人が女性を上から刺そうとしていた。

肇は女性に覆いかぶさった。

「痛」

肇が刺された、そしてその後の記憶が無かった。

現場は混乱し、警察も沢山の人を導入しやっとの事で逮捕したのだった。

死亡者が十人、軽症者三十人、重傷者十六人の大きな事件だった。

意識が戻り、やっと座ったり歩いたり出来る様に成ったがその後のニュースでもあの女性がどうなったのか分からなかった。

女性の名前も知らず、亡くなった女性の名前が出ても分からなかった。

そんな事件から二年が経ち、ふと事件が有った道路を通った時に思い出した。

「あの人は大丈夫だったのだろうか?」

と、心配に成った。

現場を見ると洋館の様な郵便局が有った。

導かれるままに郵便局に入り手紙を書いた。


 「無事だったのか知りたい」

あの時、犯人から守ろうと貴女を引っ張り転ばせてしまい申し訳ありません。

僕が覆いかぶさり重かったでしょう。

怪我をさせてしまったのでは無いかと心配しています。

犯人にその後刺されたり、切られたりしていませんか?

もしかしたら亡くなってしまったのでは無いかと思うと、僕は助けられず怪我をさせてしまっただけに成ってしまい本当にすいません。

ただ、無事だったかが知りたいだけで手紙を書いてしまいました。

あの事件では沢山の犠牲者が出てしまい、名前が分からず貴女がどうなったのか心配しています。

只々無事に生きて居て欲しいだけです。

突然の手紙申し訳ありません。

肇は封筒に入れ窓口に持って行った。

「お手紙大切にお預かりします」

リリアと書かれた名札を付けた女性が胸に手紙を抱きそう言った。

「葵、手紙が届いているわよ」

「手紙?」

差出人が無い手紙、ちょっと怖いが葵は封を開けた。

「あの時、助けてくれた人から」

文面を読み葵はその手紙を抱き締めた。

その手紙を持って近くの郵便局に行こうとしたが途中、住所も分からないと気が付いた。

どうしようかとキョロキョロしていると洋館の様な郵便局が有った。

中に入り便箋を取り手紙を書き始めた。


 「助けてくれた貴方へ」

あの時、助けて下さりありがとうございました。

私はかすり傷だけで直ぐに治り、痕も残りませんでした。

あの時、引っ張ってくれ、その後覆いかぶさり守って下さりありがとうございます。

其処までして助けてくれた優しく強い貴方が死んで居ないか心配していました。

私は貴方の事を探していました、ですが、大きな事件で混乱し貴方が何処の病院に運ばれたのか、無事でいてくれているのか?とても心配でした。

亡くなった方の男性の名前を見ても貴方の名前すら知らず色々な病院に連絡しましたが分かりませんでした。

貴方が助けてくれなかったら私は確実に死んでいました。

命の恩人です、私からお礼の手紙を出さなければいけないのに、すいません。

貴方が無事で良かった。

今、本当に心からありがとうと言えます。

きっと貴方の身体には傷痕が残って居る事でしょう。

申しわけない気持ちでいっぱいです。

本当にありがとう、そしてごめんなさい

葵は封をして窓口に持って行くとリリアはその手紙を胸に抱き

「お手紙大切にお預かりします」

葵は郵便局を後にしふと振り返ると其処には誰も住んで居ない家が有った。

「肇、手紙が届いているわよ」

「誰からだろう?」

肇は封を開け手紙を読んだ。

「あの人無事だったんだ、良かった、本当に良かった、俺の傷の事も気にしてくれて色々な病院に連絡してくれてたんだ、同じ様に心配だったんだな、本当に無事で良かった」

肇は手紙を大切に封をして大事な物を入れる引き出しにしまった。

「良かったですね、二人の現状が分かって」

リリアはそう言って郵便局の掃除をしていた。


  第三話 リリアへ


 ある時、老人が郵便局に入って来た。

そしてリリアに会釈し微笑んだ、リリアも老人に微笑み返した。

この郵便局の事を知っているかの様にテーブルの方に行き老人は手紙を書き始めた。


 「リリア様」

今も何も変わらずに窓口に居るリリア様、昔、此処で手紙を書きました。

戦争が終わり、敵地から帰って来た時、待って居ると言ってくれた女性に手紙を書いた。

そして返って来た手紙はその人が亡くなる少し前に書いた手紙だった。

悲しい出来事だった。戦地に居た時、彼女の写真が私の生きる希望だった。

彼女に会う為に生き残りたいと思って居た。

本当はそんな事を考えてはいけないのに、皆が命を懸け戦っていた最中に思って居た。

その手紙を大切に預かると言って胸に抱いた貴女を女神を見た気がした。

戦いの最中と云う事を忘れてしまいそうになった。

やっと見つけた郵便局、貴女は何も変わらずに其処に居る。

私はこんなに老いてもう直ぐ彼女の元に行くのだろう。

あの後、私はずっと独身だった。

彼女の事も有った、そしてリリアさんの事も有った。

何故貴女は変わらないで居るのだろうか?

しかし、それは知ってはいけない事なのでしょう?

死ぬ前にまた貴女に会えて良かった。

リリアさん色々な手紙を今も届けているのでしょうね?

私が行く所にリリアさんは来ないのでしょうね?

あの時、手紙を届けてくれてありがとう、そしてさようなら

手紙を書き終わり封をして窓口に持って行く

「お手紙大切にお預かりします」

そう言ってリリアは胸に手紙を抱いた。

老人は郵便局を出たが振り返らなかった。

其処には何も無い事を知って居るから。

「智彦さんお手紙が届いてますよ」

老人はホームに入ったが其処に手紙が届いた。

封を開け手紙を読む


 「智彦様へ」

貴方の事は覚えています。

悲しい手紙をお届けしなければいけなかったのが辛かったです。

私の事を覚えている人が居たなんて思いませんでした。

私は女神などそんな素晴らしい人では無いのです。

年月は経ちましたが、その優しい目は変わって居なかった。

ご結婚されなかったのですね。

思いを寄せていた女性を一途に愛し抜いた貴方を、この国の為に戦った貴方を素晴らしい方と思って居ます。

その様な方に出会えた事をとても嬉しく思って居ます。

正直に云えばまだ逝って欲しくは在りません。

まだまだ元気に過ごして欲しいと思ってしまいます。

私に手紙を書いて下さりありがとうございました。

初めて頂いたお手紙大切に致します。

その手紙を読み、老人は

「私の名前も知って居たのか、リリアさんは何者なんだろうな?何も変わらずそのままで居続け、手紙を届け続け大変だろうな?彼女にも申し訳無いな、彼女の他に一人だけ心を奪われた人が居た事が有ると知ったら、リリアさん」

手紙を読んだ数日後、老人は帰らぬ人に成った。

「彼女は怒って居ないと思いますよ、二人が天で結ばれます様に」

リリアはそう言って窓口の拭き掃除をしていた。


  第四話 幼い我が子


 「それは本当ですか?」

「はい、残念ですが、長くて後半年です」

「それでは、花見をしないといけませんね、次の桜は見られない」

「勿論、全力で治療は致します」

「はい、お願いします」

徹は病院から出てため息を付いた。

会社には休暇届を出していたが、上司に電話で報告した。

「相川、これからは会社は有給を全部使って置くから」

「ありがとうございます、宜しくお願いします」

家に帰り妻の真理を呼んだ。

「お帰りなさい徹さんこんなに早くどうしたの?」

「真理、話が有る、座ってくれないか?」

真理は徹の前に座り緊張していた。

「実は今日、ずっと頭痛がしていたから病院に行って来たんだ」

「それで?」

「長くて後半年だそうだ」

真理は泣き始めた。

「嘘でしょ?ねえ何かの間違いでしょ?」

徹には二人の子供が居た、晶一歳とまだ産まれたばかりの美子だった。

「俺が死んだら、新しい人と結婚してくれ子供達の為にもそれが良い」

真理は泣くばかりで徹の急な話に付いて行けなかった。

最初は薬を飲めば頭痛は収まったが、最近は薬を飲んでも収まらない。

「春まで持たないかもしれない」

そんな思いが徹の中に芽生えた。

ふと目に入った郵便局に入り便箋を取り手紙を書いた。


 「幼い我が子、晶、美子、そして妻真理へ」

まだ真理と結婚して三年だが、お別れが近付いている様だ。

検査して結婚したのにこんな事に成って本当にすまない。

ごめんな、短い時間しか一緒に居られずにもっと一緒に居たかった。

晶は二歳に成ったかな?美子は一歳、俺の事なんて覚える間も無く俺は死ぬんだね。

最近は頭痛が酷く成り、半年持たない気がする。

だから手紙を書こうと思った。

真理、この間言った通り、新しい人と結婚して今度こそ幸せに成って欲しい。

晶、美子、新しいお父さんと仲良くして下さい。

父親らしい事を何も出来ずにお別れに成るのが辛い。

君達はどんな大人に成って居るのだろうか?

真理、苦労を掛けてすまない、子供達を頼む。

きっと真理の子供だからしっかりとした大人に成るんだろうな?

見たかったよ。

もしかしたら孫も居るのかもしれないね。

何とか頑張るが君達が大人に成るまでは無理だからせめてパパと呼ぶ姿が見たいな。

短い間だったけど幸せな家庭をありがとう、だけど、さようなら

封筒に手紙を入れ封をして窓口に持って行った。

「お手紙大切にお預かりします」

リリアは胸に手紙を抱き締めて言った。

徹は郵便局の外に出て少し歩き郵便局を見た。

其処はコインパーキングだった。

「お母さん、手紙が来てる、差出人が分からない」

「誰からかしら?」

真理が手紙を開けると徹からだった。

「晶、美子、おいでお父さんからの手紙よ」

「嘘だろ?だってお父さんって二十五年前に死んだんだよ?」

「本当よ、読んで見て」

晶と美子はその手紙を読んで泣いていた、全く覚えが無い父親からの手紙。

「本当にお父さんからだ、俺達の事を心配していてくれてる」

読んだ後、手紙を真理に渡す。

「本当に優しい人だったのよ」

真理は手紙を抱き締めた。

そしてある日、三人で買い物に出かけた時だった。

スーパーに隣接するように郵便局が有った。

三人は中に入り自然と手紙を書いた。


 「徹さんへ、お父さんへ」

徹さん、ごめんなさい、貴方の言って居た新しい夫と結婚して欲しいと願いを破り私は独り身です。

徹さんが亡くなって二十五年が経ちました。

貴方が何か有った時の為にって掛けて置いてくれた保険金で暮らす事が出来ました、ありがとう。

子供達は大きく成りました、徹さんと一緒に見たかった。

もっと一緒に子供が育つ所を見たかった。

お父さん晶です、パパと云えたか覚えていませんが俺は二十六歳に成り、高校卒業して働きました。

二十四歳の時に結婚し今は母親と暮らしています。

子供も出来、男の子です、名前は光です、二歳に成りました。

お父さんにも抱いて欲しかった。

お父さんの写真を見ると光はじいじと呼んでます。

お父さん美子です。

ごめんなさい、写真しか知らないお父さん、会いたかった。

私も高校を卒業して働きました。

その会社の人と結婚して今、一歳の女の子、咲が産まれました。

兄さんと兄さんの奥さん、私の夫皆で話し合って二世帯にして皆で住んでいます。

お父さんが残した家を改築しました。

お母さんは結婚しないで保険の外交員をして私達を育ててくれました。

お父さんが居てくれたらもっと楽しい大家族が出来たと思うと、やっぱり生きていて欲しかった。

書き終えた後、美子がリリアに

「写真は入れて良いですか?」

と聞いた。

「はい、他の人に見せると見えなくなりますがそれでも良ければ」

リリアが言うと、晶と美子は全員が映って居る写真を同封して封を閉じた。

窓口に持って行くとリリアは手紙を抱き締め

「お手紙大切お預かりします」

三人は郵便局を出てから買い物をして帰りに郵便局が有った場所を見ると其処はクリーニング店だった

「相川さん、お手紙が届いていますよ」

看護師が徹の元に手紙を持って来た。

「誰からだろう?」

徹はもう起き上がる事が出来なくなって居た。

寝たまま封を開けて読むと其処には二十五年後の子供達と妻からだった。

「真理は結婚しなかったのか?何故?苦労したんだろうな、すまない真理、二人の子供も結婚したのか、生きて居たら大学に行けたのにすまない、あの家を二世帯にして皆で住んで居るのか、ああ可愛い孫達だ、会いたかったな」

徹は泣きながらその手紙を何度も読んだ。

封筒に一緒に焼いて欲しいと書いた。

手紙が来た翌日徹は帰らぬ人に成った。

「お預かりした手紙が間に合って良かった」

リリアはそう言って便箋や封筒の補充をしていた。


  第五話 謝りたかった


 三浦颯太十九歳は大学に入りふと思い出した事が有った。

幼稚園から小学校中学年まで一緒だった、女の子の事を思い出していた。

本当は出会った時からその少女、橘南の事が大好きだった。

でも、南は可愛い女の子で男子に人気が有り、颯太は好きだと言えないで居た。

そして恥ずかしくて揶揄っては泣かせていたのだった。

好きだと云えなかった事を後悔していた、振られても云えば良かったと

それから颯太は女性に告白をされても付き合事は無かった。

そんな事を考えていると大学内の隅に郵便局が有った。

郵便局に入り便箋を手に取る。


 「橘南様へ」

僕の事は嫌いな人物として覚えているかもしれません。

それか嫌いで思い出したくも無いかもしれません。

僕は南さんと出会ったその日から一目惚れしていました。

しかし君は美しすぎて他の男子に告白や手紙を沢山貰って居ましたね。

そんな君を僕は揶揄って泣かせていました。

僕も好きだよって言えなかった。

ごめんなさい、謝っても許されないと分かって居ますが、謝らずにはいられない。

ごめんなさい、そして君が転校してしまうと聞いた時、好きだと言いたかった。

でも、僕はそんな時でさえ君を泣かせてしまった。

君が転校してしまった時は僕が泣きました。

悔やんでも悔やみきれない、ごめんなさい。

あれから大学生に成り、告白をされる様に成っても君の事を思い出しお付き合い出来ない様に成りました、しかし君のせいでは有りません。

君は誰かと付き合って君の事を大切にしてくれる人と幸せに成って要る事だけを願っています。

ごめんなさい。

でも、本当にずっと好きだったんだそれだけを言いたかった。

告白の手紙を封筒に入れ窓口に持って行きリリアに渡した。

「お願いします」

頭を下げお願いするとリリアは

「お手紙大切お預かりします」

胸の手紙を抱きリリアは言った。

郵便局から出て不思議に思って振り返ると其処には何も無かった。

南は一人暮らしのアパートのポストを開けると手紙が入って居た。

不思議に思い部屋に帰り封を開け手紙を読んだ。

「あの三浦颯太さんからだ。」

颯太の手紙には謝ってばかりで南の幸せを願って居た。

南はフフッと笑い

「知って居ましたよ、貴方の気持ち」

その手紙を持って郵便局を探す。

すると、元銀行が有った場所に古い郵便局が有った。

中に入り手紙を書いた。


 「三浦颯太様へ」

きっと颯太さんは知らないと思いますが、いつも私を泣かせに来て居た時、貴方は私を助けていたのを覚えていますか?

本当に嫌いな人にちょっかいを出され嫌で嫌で仕方なかった時、貴方が来て私を揶揄って居ました。

変な大人の男の人が声を掛けて来た時も、貴方は私を助けてくれた。

私も、出会って直ぐに颯太さんを好きに成りました。

貴方が揶揄って私を泣かせたと思って居るのでしょうが、私はいつも貴方に助けられて居たのです。

転校が決まった時、私は告白をしようとしましたが、他の男子に邪魔をされ告白できないまま転校してしまいました。

今、私も貴方と同じ様に誰ともお付き合いして居ません。

心の中に初恋の貴方が居るからです。

お手紙ありがとう。

本当に大好きでした。

封筒に入れ窓口に持って行くと

「お手紙大切にお預かりします」

と言って胸に抱き締めた。

次の日颯太の元に手紙が届いた。

「南さんからだ」

その手紙を読むとお礼と本当の気持ちが書かれて有った。

「気が付かなかった、僕は少しは役に立ってたのかな?良かった、嫌われていなかったんだ。本当に良かった」

嫌われて居ないと知り颯太はホッとしていた。

手紙を貰ってから二・三日後の事だった。

大学で南に会った、偶然同じ大学だった。

初めて大きくなった南を見てまた恋心が蘇った。

「今度は揶揄って泣かせない、だから僕とお付き合いして下さい」

皆が見ている前で颯太は南に告白をしたのだ。

冷やかしの声が大きく成ったが颯太は気にせず手を出して頭を下げていた。

その手に南の手が乗り

「宜しくお願いします」

と、恥ずかしそうな声が聞こえた。

颯太は南を見ると赤く成り少し目に涙を貯めていた。

思わず南を抱き締めた。

「南、ありがとう絶対幸せにするから」

耳元で囁く様に約束した。

「一目惚れ同士幸せに成る事を心から祈って居ます」

リリアはそう言って郵便局の掃除をしていた。


  第六話 伝えられなかった君へ


 大井聡は二十六歳に成って居た。

昔、バイクに乗り暴走して居た過去が有る、その時、女性がチームの中に数人居た。

一つ年上の順子、奇麗でしかし強く、憧れと恋心が有った。

誰かの後ろに女性が乗るとお付き合いしていますと云う合図だった。

しかし正月の暴走の時、警察が多数出ていて追いかけられた聡は上手くすり抜けたが後ろを見ると順子の乗ったバイクが勢いよく倒れ後ろに乗って居た順子は投げ飛ばされ死亡してしまった。

享年十七歳早い最後だった。

そんな事を考えて墓参りを済ませ家に帰る途中郵便局が有った。

吸い込まれる様に中に入り手紙を書く、手紙を書くのは初めてだった。


 「順子様へ」

貴女が俺の前から居なく成り十年が経ってしまいました。

順子さんは俺の憧れで恋しいと思った人でした。

しかし貴女は強く美しい人だった、チームの殆どの男が貴女に恋をしていたと思います。

俺もその中の一人でした。

貴女が亡くなってから月命日にはお墓に行って居ます。

出来る事なら貴女に死んで欲しくなかった。

しかし、この手紙で過去を変える事は出来ないのでしょうね。

変えられるなら、貴女をそのバイクから降ろしたかった。

俺の後ろに乗って欲しかった。

ずっと続くとずっと一緒だと思って居ました。

貴女が亡くなって俺はバイクを降りました。

きっと貴女には心に決めた方が居たと思って居ます。

貴女となら他チームとの喧嘩も、暴走も楽しかった。

今でも貴女は俺の光、俺の大切な女性です。

封筒に入れ封をして窓口に持って行った。

名札を見て聡は

「リリアさんお願いします」

と言って手紙を渡した。

「お手紙大切お預かりします」

リリアは胸に手紙を抱き締めそう言った。

「順子、手紙が来てるよ?」

「はあ?手紙?果たし状かな?」

順子は手紙を読む、そして驚いた。

「未来からの手紙?それも聡から、あいつ・・・」

順子はその手紙を手に郵便局を探す。

何処にも無い郵便局だったがやっと見つけたのが古い郵便局だった。

順子も初めて手紙を書いた。


 「大井聡様へ」

お手紙ありがとう、初めて手紙を書くから可笑しな事を書くかもしれない。

聡の事は知って居た、私も素敵だと思って居たが私は年上だから言えなかった。

他の男のバイクの後ろに乗ったのはそいつが好きだったわけでは無い。

聡が誘ってくれるのを待って居たからだったの。

でも、それを言ったら恰好悪いと思われる、何時でも格好の良い順子で無いとと思ってしまった。

私は死ぬんだね、聡、もう良いよ、ありがとう。

聡は良い彼女を見つけて幸せに成って欲しい。

最後に格好悪いけど、愛してる。

短いその手紙が届いた時、聡は嬉しかった。

順子も同じ気持ちだったと知れたから、愛してると言って貰えた。

しかし返事は十六歳の聡に届けられて居た。

正月の暴走は聡の提案で無くなり、前日の暴走に変わって居た。

聡は勇気を出して告白した。

「順子さん、俺はずっと順子さんが好きです、俺のバイクの後ろに乗ってくれませんか?」

順子は真っ赤に成りながら頷き聡のバイクの後ろに乗った。

そして順子は死を免れた、二人は順子が十九歳の時、結婚し、子供も産まれた。

手紙のお陰で幸せに成れたのだった。

しかし、これはしてはいけない事だった。

リリアはまた郵便局に勤め続ける事に成ってしまったのだった。

「でも、お互いが好きでお幸せに成れたのなら私は良いのです」

リリアはそう言って郵便局の窓を拭いて居た。


  第七話 長い間幸せでした


 一人の老婆が郵便局に入って来た。

「こんにちわ」

「こんにちわ」

老婆は知っているかの様にテーブルに座り手紙を書き始めた。


 「一郎さまへ」

初めてお会いしたのは戦争が終わり軍の方達が日本に返って来始めた頃でしたね。

一郎さんは二十四歳、私は十八歳の時にお見合いでした。

無口な貴方が緊張で下を向いてばかりの私に庭を見に行きませんか?

と声を掛けて下さり、手を取って歩いてくださいましたね。

何て優しい人なんだと思った事を今でもハッキリ覚えています。

余り気持ちを表情に出さない一郎さんにどうしたら良いのか、私で良いのか分かりませんでした。

しかし、二・三日経ってから一郎さんが私で良いと手紙を下さり読んでとても嬉しかった。

あれから何年たってのでしょうね?

子供も三人出来巣立って行きました。

貴方は懸命に働き家を、私達を守ってくれた。

歳を取ってもその優しさは変わらず、一緒に買い物に行ってくれ荷物を持ってくれたりしましたね。

そのちょっと分かりずらい優しさがとても好きでした。

私も後何年生きられるか分かりません。

何十年と一緒に生きられた事は奇跡に近いと感じています。

もしかしたら同じ位に逝ければ良いのですが、天のみが知る所。

貴方と居られた日々はとても楽しく、喧嘩もしたけど幸せでした。

孫も大きく成り、その速さに驚きと共に自分の衰えが分かる。

今だから言える、一郎様、愛しています。

もっと共に居られます様に、心を込めて

手紙を封筒に入れその封筒をリリアに渡した。

「お手紙大切お預かりします」

リリアは手紙を胸に抱きそう言った。

そんなリリアに老婆はお辞儀し

「どうかお願いします」

と、郵便局を出て行った。

「あの方は確か戦時中にご家族に手紙を出しに来た人ですね」

リリアは言った。

「お父さん、手紙が来ているわ」

「おや、だれからだろうね」

家の介護ベッドに寝ていた老人が手紙を開けた。

「美香子からだ」

「お母さんは一年前に亡くなって居るのに?」

「そうだね、でも間違えなく美香子の字だ」

そう言いながら手紙を読み始める。

一郎は涙を零しながら読み終えた手紙を抱き締め写真を見て

「美香子、ありがとう」

と言った。

「千賀子、悪いのだが郵便局に行きたい、車いすに乗せてくれないか?」

「お父さん、危ないわ、駄目よ、何か出すなら行って来るから」

「俺が行かないと駄目なんだ、頼む今回だけだ」

介護の人が丁度来ている時だった、娘と介護の人で車椅子に乗せ外に出る。

「お父さんどこ行くの?」

「そこの角に行ってくれ」

家から百メートル先の角まで行くと古い郵便局が有った。

「此処で待てってくれ」

そう言って老人は郵便局の中に入って行く。

「こんにちわ」

リリアが言うと老人は会釈して手紙を書き始めた。


 「美香子様へ」

俺も良く覚えている、君が赤く成りながら俺の手を取った事を

女性と接するのが始めててどうしたら良いのか、でも俺は年上だしなどと考えていた。

他に見合いの話が有りどうしても会わないといけなく、会ってみたが君が目に焼き付いて他の女性では駄目だった。

美香子と結婚してからは子供が出来賑やかに成ったね。

君の明るい笑顔で家族が仲良く過ごせた。

子供が巣立ってからはまた二人に成ったが、君との時間は早く過ぎて何十年も一緒に居たのに、まだ新婚の様な気持ちに成る事が有った。

仕事ばかりで家の事は全部任せてしまってすまない。

美香子が居なくなってからもう直ぐ一年に成る、悲しくて一人で生きる事が嫌に成った。

苦労を掛けてすまない、本当に結婚したのが美香子で良かったと思って居る。

あの時代には云えなかった言葉を今云う

愛している美香子

そう書いて封をして窓口に来た。

「お手紙大切お預かりします」

胸に手紙を抱き締め言った。

老人は

「リリアさんまたお願いします」

と言って出て行った。

「あの方は、結婚して欲しいと美香子さんに手紙を出した人だわ」

リリアは覚えていた、恥ずかしそうに手紙を書いて居たのを。

その数日後、一郎は亡くなった。

妻が亡くなった日に一郎は亡くなった。

「本当に仲が良かったから丁度一年後の同じ日に亡くなるなんてね」

親戚たちはそう言って居た。

「美香子さんお手紙よ」

その手紙を受け取り手紙を読む。

「良かった、一郎さんも同じ気持ちだったって知る事が出来て嬉しいわ」

美香子は手紙を抱き締めてそのまま亡くなって居た。

手紙の返事を待つ様に。

「一年後の同じ日にお亡くなりに成るなんて本当に仲が良かったのですね、天に行ってもお幸せに」

リリアはそう言って郵便局の便箋を補充した。


  第八話 忘れる事


 高坂美恵二十八歳は結婚間近だった男性君島俊哉と別れる事に成った。

結婚式場は予約して有り色んな事を決め後はその日を待つだけだった。

大学生の時から八年付き合った。

二十八歳に成りプロポーズされ美恵は本当に幸せの絶頂だった。

やっとと友達にも親にも言われた。

しかし、俊哉は同じ会社の女性と一夜を共にし子供が出来てしまい責任を取ると言った。

美恵と両親、俊哉と両親、女性と両親で話会った。

「俊哉君、美恵と八年付き合っていて美恵の一番良い時を君と共に居たのに何故だ?」

「申し訳ございません、本当に一夜の事なのですが、子供が出来たと聞いたら堕胎させる事は出来ず、彼女も産みたいと」

「俊哉さんに長くお付き合いしている人が居る事は知って居ました、でも、私も俊哉さんが好きだった、本当にすいません」

「ありさの事は一夜の過ちだと云うのか俊哉君」

ありさの親も過ちと言われ憤慨していた。

「私は別れたくない、何で?私よりその人を選ぶの?子供が出来たから?俊哉の気持ちが全然分からない、愛してるって、結婚しようって言ってくれたじゃない、私の時は子供が出来ない様にしてたじゃない?どうして?」

美恵は泣きじゃくって居た。

「美恵本当にすまない、酒に酔って記憶が無いんだ、それに俺は子供を殺す事は出来ないよ」

長い話し会いは美恵が身を引く事で決まってしまった。

もうどうでも良く成りでも忘れられず泣きながらフラフラと道を無気力で歩いていると古い郵便局を見つけた。

中に入ると窓口の女性が

「こんにちわ」

と、言って来た、美恵はただ会釈した。

便箋を取り手紙を書き始めた。


 「俊哉様へ」

一昨日皆で話し合いをしましたね。

俊哉が責任感の有る男だと知って居ました。

でも、その責任感は違う方へ向かい私は式場のキャンセルをしました。

恥ずかしかった、会社も辞めました。

もうどうでも良く成りました。

俊哉が一夜の出来事だったと云いましたが、私とは避妊していましたよね?

何故こんな事に成ったのか、俊哉は本当は彼女の事が好きだったのでは?

プロポーズされた時は本当に嬉しくて、皆にもやっとだねって言われて

有頂天に成って居たのでしょうね。

天国から地獄に落ちるって気持ちを初めて知りました。

頑張って忘れるね、俊哉今までありがとう八年間幸せでした。

俊哉も私の事は忘れて下さい。

俊哉が幸せで居られます様に。

封筒に手紙を入れリリアに渡した。

「お手紙大切にお預かりします」

リリアは手紙を胸に抱きそう言った。

「ねえ、俊哉さん手紙が届いて居るよ」

妻に成ったありさが手紙を持って来た。

「ありがとう」

受け取って中を開けて見る。

俊哉は驚いて居た、まさか美恵が手紙くれるとは思って居なかった。

本当に悪い事をしたと後悔していた。

結婚した後、ありさは妊娠して居ないと云い始め、一夜の事はありさの仕組んだ事で本当は何も無かったので有った。

酔って朦朧としていた俊哉をホテルに連れて行き洋服を脱がせて何かが有ったかの様にされただけだった。

俊哉はフラッと外に出て見渡すと郵便局が有った。

俊哉は中に入り便箋を取り手紙を書き始めた。


 「美恵様へ」

美恵、君の事を好きだったのは本当なんだ。

やっと仕事が上手く行き始めやっとプロポーズ出来て結婚式が待ち遠しかった。

君との毎日は楽しかった、本当なんだ。

今の妻の事を悪く云うのはいけない事だけど、あの一夜の出来事は無かったんだ。

嘘を付かれたんだ、妊娠もして居なかった。

俺は何て事をしたんだろうか?

君にちゃんと話をして、彼女とは何も無かったと言って復縁したかった。

会いに行って土下座して謝って君と結婚したかった。

傷つけて本当にごめんなさい、今は後悔ばかりで生きている。

封をして手紙を窓口に持って行くとリリアはその手紙を受け取った。

次の日、俊哉にまた手紙が届いた。

それは自分が書いた手紙だった。

その手紙に新しい手紙が入って居た。


 「俊哉様へ」

誠に申し訳有りませんが、美恵様は手紙を書いたその日に自殺なされました。

貴方様が何に責任を感じたのかは分かりません。

妊娠させてしまったと責任を感じ、今の奥様とご結婚なされたのでは無いのですか?

美恵様とお付き合いした八年間に責任を感じなかったのでしょうか?

私はどんな事が有っても大切なお手紙を届けていましたが

今回のお手紙を美恵様にお届け出来ません。

ボロボロに成って手紙を書いていた美恵様を思うと俊哉様の手紙を届けるのは嫌です。

貴方が傷つけて殺したのです。

子供を殺したくないと言って別れたのですよね?

でも貴方は美恵さんを殺したのです。

その新しいリリアが書いた手紙を読み俊哉は身体の力が抜け跪いた。

「美恵自殺したんだ、本当にごめんなさい、俺も行くよ君の元へ」

美恵のお墓にごめん俺も行くとメモを残し俊哉も自殺した。

長い間手紙を届け続けたリリアが初めて手紙を届けなかった人だった。

「本当は届けないといけないのですが、私は許せません」

リリアはそう言って入り口の窓を拭いていた。

  


  第九話 結婚する娘へ


 三浦康太は病弱で寝たきりに成る事が多く妻に苦労を掛けていた。

やっと出来た一人娘が今度結婚する事に成った、康太は嬉しかった、娘の幸せそうな顔を見るのが。

「お義父さん、麻衣子さんと結婚させて下さい、お願いします」

土下座をして結婚させてくれと云う娘の彼氏は川上淳、二十五歳、娘と同い年だった。

康太はベッドから降り同じく土下座をして

「娘をお願いします」

と言うと娘は涙を流しながら喜んで居た。

妻にベッドに戻して貰い淳と麻衣子、妻が椅子に座り話をしていた。

「お義父さん、麻衣子さんと話をして僕が婿に入る事にしたいのですが良いでしょうか?」

突然の言葉に康太は驚きを隠せなかった。

「でも、それでは」

「康太は三男だから婿に行っても良いって康太のご両親が言ってくれたの」

娘が言い母親と顔を合わせて

「此処でお父さんと一緒に暮らしたいんだって」

そんな事を言われ嬉しくなった。

週に一度介護ステーションに世話に成って居た。

その時に洋館の様な郵便局が有った。

止めて貰い車椅子で郵便局の中に入ると

「こんにちわ」

「こんにちわ」

そう返事をして、手紙を書き始めた。


 「麻衣子、淳君、妻へ」

麻衣子、淳君もしかしたら俺は結婚式に出られないかもしれない、すまない。

心から二人の結婚を喜んで居る。

幸せに成って欲しい、その姿を見たいと思って居る。

しかし、余り時間が無い気がする、身体が弱いせいで妻にも苦労を掛けた。

働きっぱなしで、育児、家事そして介護本当にすまない。

もっと普通の家庭が作れたらと思ってしまう。

俺がちゃんと働き、りさ子は家で家事と育児で三人で幸せに成って居る家庭にしたかった。

麻衣子にも介護を手伝わせてしまい謝るしか出来ない。

せめて俺が居なく成ったら三人で幸せに成って欲しい。

しかし、もう少し、もう少しと思って居る自分も居る。

きっと仲良く喧嘩をしない夫婦に成ってくれると信じている。

りさ子も俺が居なく成ったらもう少し自分の時間を楽しんで欲しい。

りさ子、麻衣子ありがとう幸せだった。

淳君、麻衣子を頼みます。

封筒に手紙を入れ窓口に持って行くと

「お手紙大切お預かりします」

リリアは胸に抱きそう言った。

康太は車に乗り後ろを見ると、郵便局は無かった。

結婚式は延期に成った、康太が亡くなったからだった。

一年伸ばして結婚式の当日に手紙が届いた。

中を見ると父親からだった。

三人でその手紙を読み泣いていた。

「お父さん、ありがとう」

式が終わり、周りを見た時郵便局が見えた。

三人でその郵便局に行き、手紙を書いた。


 「お父さんへ」

お父さん私はお父さんと結婚出来て本当に幸せでした。

身体が弱いから結婚は辞めようと言った時、とても悲しかった。

無理に結婚した様な感じになってしまいましたね。

私は康太さんが大好きで仕事、家事、育児、介護何も辛いと感じた事は有りません。

とても幸せでした、そんな時間をくれてありがとうございました。

お父さん麻衣子です。

お父さんの亡くなる前に結婚式を見せたかった。

見て欲しかった、介護も辛くなかったし、お父さんが大好きです。

ずっと、ずっと生きていて欲しかった、孫も抱いて欲しかった。

お義父さん淳です。

プロポーズが遅く成りお義父さんに結婚式に出席してもらうのに間に合わず申し訳ございません。

僕は麻衣子さんを大切にします。

これだけは絶対に約束します。

そう書いてドレスの写真を入れ封をした。

窓口に持って行き渡すと

「お手紙大切お預かりします」

リリアは胸に抱きそう言った。

「お父さん、手紙よ、誰からかしら?」

妻が持って来た手紙を見て直ぐに分かった。

手紙を開けて読んだ後、写真を見て

「麻衣子、奇麗だ、幸せそうだ良かった」

封筒に一緒に燃やしてくれと書き枕元に置いた。

手紙が返って来てから三日後に康太は亡くなった。

「結婚式は無理でしたが、ウエディングドレス姿見られて良かったですね」

リリアはそう言いながら封筒を補充していた。


  第十話 初恋


 もう何年経っただろうか?貴方に初めて会った時から智子は浩二に恋心を抱いていた。

ずっと友達で良いと思って居た、告白して関係が壊れるのが怖かった。

同じ幼稚園から同じ学校で高校も大学も何故か同じだった。

ずっと一緒に皆で遊んで居た、浩二が他の女の子に告白されたり、付き合ったりを見て来た。

それでも良いと思って居た、離れるのが怖くて、怖くて何も言えなかった。

もう大学三年に成ってしまった、就職しても友達で居られるのだろうか?

不安に成りながら通学路を通ると洋館の様な郵便局が有った。

吸い込まれる様に中に入り便箋を取り手紙を書いた。


 「浩二様へ」

こんな事を書くと嫌われてしまうかもしれない。

幼稚園で初めて会った時から私は浩二の事を好きに成りました。

仲良くなって、ずっと一緒に居られて嬉しい気持ちと浩二が告白されたり付き合ったりすると私は心が揺れました。

好きだと告白してしまうと関係が壊れてしまうのが怖かった。

でも、好きです、ずっと前から。

私は誰とも付き合った事が無く、女の子らしくは無いのかもしれない。

貴方と居られるならそれでも良いと思って居ました。

卒業が近付いて来ると不安に成ります。

もう友達でも無くなってしまうのでは無いかと。

会えなくなるのでは無いかと、それでも友達で居られるのならそれでも良い。

ストーカーじゃないから安心してね。

手紙を封筒に入れ窓口に持って行くとリリアは手紙を抱き締め

「お手紙大切お預かりします」

と言った。

浩二は部屋に戻る途中にポストを見た。

「あれ?誰からだろう」

部屋に戻り封筒を開け手紙を読む。

「智子から?嘘だろ?」

手紙を持ち外に出た、智子が自分のマンションのポストに入れたのかと思って。

でも外には誰も居なかった。

その代わり不思議に郵便局が有った。

其処に入り手紙を書いた。


 「智子へ」

手紙ありがとう、俺も初めて会った時から智子が好きだった。

同じ学校に進学して偶々だけど嬉しかった。

智子は俺に興味が無いと云うか友達だと思って居るだけだと思い告白してくれた女性と付き合った。

でも、智子との時間が楽しくて幸せで直ぐに別れてしまった。

嫌な奴だと思うかもしれない。

俺も告白して関係が壊れるのが怖かった。

智子を失うのは怖かった、だから何も言わずに友達で居ようと思った。

今度会ったら勇気を出してちゃんと本心を伝えるからね。

封をして窓口に持って行く

「お願いします」

「お手紙大切にお預かりします」

リリアは胸に抱きそう言った。

智子がバイトから帰って来て郵便物を見た。

見覚えの有る封筒にドキドキしながら部屋に帰り封を開ける。

「嘘、浩二からの返事?」

読みながら智子は涙ぐんでいた。

同じ気持ちだったと分かったから嬉しくて嬉しくて手紙を抱いて泣いた。

次の日、大学内でバッタリ智子と浩二は会った。

「智子、初めて会った幼稚園の時からずっとずっと智子が好きだった、俺と付き合って下さい」

周りは冷やかしや憧れの眼差しでいっぱいだった。

「浩二、私も幼稚園の時からずっと好きでした、お付き合いお願いします」

智子は涙が出ていたその顔を隠す様に浩二は智子を抱き締めた。

「長い片思いが両想いに成りましたね、二人が幸せで有ります様に」

リリアは便箋と封筒を作りながら祈った。


  第十一話 もしもあの時君が


 真は少し前までバイクに乗り友達を走り回って居た。

それが楽しくて仕方がなかったが、ある時友達が運転するバイクが凍結した道路で滑り倒れてすのまま滑って勢い良く人にぶつかってしまった。

真は警察と救急車を呼ぼうとスマホを出したが、友達が警察に売るのか?と言われ電話を掛けられなかった。

しかし、ぶつかってしまった女性を病院に連れて行かないといけないと思い救急車だけと言ったが友達はそれすら許さなかった。

バイクを立て怒って走り去ってしまった。

残された真は女性を自分のバイクの後ろに乗せ離れない様にロープで固定し病院に連れて行った。

走りながらずっとゴメンと言い続けていた。

それからその友達とは疎遠に成り真はバイクを売った。

バイクを見るとその事が思い出された。

バイクが横を通り過ぎた時バイクを見ると奥に郵便局が有るのが目に入った。

中に入ると

「こんにちわ」

と、言われ会釈して手紙を書き始めた。


 「名前も分からない貴女へ」

少し前に貴女にバイクをぶつけ逃げた友達の相方です。

警察も救急車も呼べず、ロープで縛って病院に行きましたがすいませんでした。

あの時、警察と救急車を呼ぶべきでした、今でも後悔しています。

友達関係が壊れるのが嫌で友達の言う通りにしてしまいましたが、貴女をそのままにして置く事は出来なくて、俺が出来る事はそうやって病院に連れて行く事でした。

ですがあの後、貴女を病院に連れて行ったと喧嘩に成って友達と疎遠に成り俺はバイクと売りました。

もしもあの時君が暴れたりして居たらもっと怪我が酷くなっていたかもしれない。

身動きが取れない位に怪我をさせて本当に申し訳ありません。

傷は残ってしまったでしょうね、俺には謝る事しか出来ず、後遺症が出ていたらと考えてしまう。

気を失って居た貴女を無理やりバイクに乗せきっと痛かったと思います。

只々ごめんなさい、申し訳ありませんでした。

そう書いて封をして窓口に持って行く

「お手紙大切お預かりします」

リリアはそう言って手紙を抱き締めた。

「美咲手紙が届いて要るよ、此処に置いておくから」

「ありがとう」

美咲は階段を下りて手紙を受け取り自室に戻り封を開けた。

「あの時のバイクの人からだ」

手紙を読み美咲は何が有ったかを知って居た。

意識が有ったのだった。

「この人が病院に連れて行ってくれなかったら私は本当に危なかった、ありがとう」

そして返事がどうしても書きたくて郵便局を探した。

「あれ?此処って郵便局だったんだ」

見慣れない洋館の郵便局が有った、美咲は中に入りテーブルに行き手紙を書いた。


 「ずっと気にしていました」

事故を起こした人じゃ無いのに病院に連れて行ってくれた貴方。

あの時私は意識が有りました、貴方達が喧嘩をしているのも聞いて居ました。

ですが貴方はバイクの後ろに乗せて私が落ちない様に固定してくれそして病院に連れて行ってくれた。

貴方が居なければ、もう少し遅ければ私は死んでいたと言われました。

ありがとうございました。

そんなに謝らないで下さい、貴方が悪いのでは無いのだから。

傷は残りましたが、後遺症は無いので安心して下さいね。

バイクを売ってしまう程に気を使って頂き本当に優しい人なんだと思いました。

罪はお友達の方です、貴方は命の恩人です。

傷も薄くなっていくと言われたので余り心配しないで下さいね。

本当にありがとうございました。

貴方が居てくれて良かったと思って居ます。

書き終わり封筒に入れ窓口に持って来た。

「お手紙大切お預かりします」

リリアは胸に抱きそう言った。

「真、手紙が来ているよ」

母親に言われ手紙を取りに行く

「あれ?何処かで見たような?」

自分の部屋に行き手紙を読む

「あの人からだ、後遺症は無いんだな、良かった、本当に良かった。でも傷が残るのか申し訳ない。命の恩人何て俺にそんな言葉を何て優しい人なんだろうありがとう」

真はその後の美咲の事を知る事が出来安心したのと同時に申し訳ない気持ちに成った。

「お互いのその後が知れて良かったですね」

リリアはそう言って窓口の掃除をしていた。


  第十二話 傷付けた君へ


 森光一、二十四歳、大学を出て社会人に成った。

彼の心に残って居るのは好きだった女性との別れだった。

光一の家は大きな会社を経営していた、勿論光一の就職先もモリエステート祖父が会長で父親が社長、二人の兄も役職に就く同族経営だった。

光一は平社員から始まるが、他の社員は少し光一との接し方は違って居た。

祖父が一代で築き上げた会社、勿論、祖母は元華族出身、母の家は会社を経営しているお嬢様育ちだった、しかし光一が高校から大学卒業近くまで付き合って居たのは普通の会社員の娘だった。

それでも大好きで親や祖父母の反対を無視して付き合って居た。

大学を卒業する事に成った時、光一は振られた。

何が有ったのか聞いても彼女は話してくれなかった。

祖父がお金を渡して別れさせたと母親から聞かされた、お金はその場で返されたと言って居た。

会社にも馴染めない光一は仕事が終わり一人でネクタイを買いに行って居た。

その時、古い郵便局を見つけ中に入る。

「こんにちわ」

「どうも」

光一は少し頭を下げテーブルの便箋で手紙を書いた。


 「傷付けた君へ」

雪乃、本当にごめん、祖父が君にお金を渡し別れる様に言った事、僕は知らなかった。

雪乃から別れを告げられてショックで部屋に籠っていた僕に母が教えてくれたんだ。

君を傷付けた、本当にごめん、まるで雪乃が金目当てで僕と付き合って居ると思われて辛い思いをさせてしまった。

僕は、本当に雪乃が好きだった、このままずっと続くと思って居た。

雪乃がそんな目に合ったと知った時、何がいけないのかを聞いたんだ。

祖父は家柄、父はお嬢様で無いといけないと言った。

反抗しようとしたら兄二人に反対された、二人も同じ目に合っていたんだ。

雪乃に会いたい、君の微笑みは僕を癒してくれる。

僕の勝手な思いだね、傷付けて置いて会いたい何て言ってはいけないのにね。

雪乃が幸せに成ってくれる事を心から祈って居る。

傷付けてごめん、今までありがとう、本当に愛していた。

光一は封筒に手紙を入れ封をしてリリアに渡した。

「お手紙大切お預かりします」

リリアは手紙を胸に抱きそう言った。

光一は郵便局から出てネクタイを買いさっき在った郵便局を見た。

しかしそこには閉店した店が有った。

「雪乃、手紙が来ているわよ、ドアを開けて良い?」

「うん」

雪乃は母親から手紙を渡された。

開けて読むと光一からだった。

またあの時、お金を出された時を思い出し悔しくて泣いた。

自分達ではどうにもならない事だと分かって居ても悔しかった。

「少し出かけて来るね」

母親にそう告げて家を出た。

少し歩きふと見ると古い郵便局が有った。

中に入りテーブルに着き手紙を書いた。


 「光一様へ」

お手紙ありがとう、光一も知らなかったって初めて知りました。

光一のお爺さんのお使いの人がテーブルの上にお金を置いて光一と別れてくれと言われた時は何が起こっているのか分からなかったしショックだった。

何故と聞いたら家柄と家の事情と言われ普通の家の子は駄目なんだと思った。

今でもまだ立ち直れていません。

でも、何処かで分かってたのかもしれない。

しかし、夢を見たのかもしれない。

光一も幸せに成ってね、恋愛結婚じゃないかもしれないけど幸せに成って。

私もきっと幸せに成れると思って居る。

だから私の事はどうか忘れて下さいね。

書きながら雪乃は泣いていた。

封をして手紙をリリアへ渡す。

「お手紙大切お預かりします」

手紙を胸に抱きそう言った。

光一に手紙が届き手紙を読んで泣いていた。

傷が大きすぎて立ち直れないで居るのは自分だけじゃないと思った。

只々雪乃が幸せに成ってくれる事を願って居た。

「今は令和ですよ、時代が違うと私は思うのですがね?」

リリアは窓の外を見て言った。


  第十三話 大好きだった


 佐藤望、十六歳はずっと好きだった男の子が居た。

彼の名前は香川悟十六歳同じ歳だった。

幼馴染でいつも一緒だった、好きだと告白したら関係が壊れると思って気持ちを言えないで居た。

中学の時から悟は女子にモテていた。

告白して泣いて帰る娘や、付き合う娘も居た。

望はただそれを見ているだけだった。

女の子と付き合うと、途端に望とは距離を取った。

彼女に心配を掛けたく無いのだろうと思って居た。

それでも望は悟の事が好きだった。

そんな気持ちのまま学校帰りにふと郵便局を見つけた。

導かれる様に中に入り手紙を書いた。

 

 「悟様へ」

直接言えなく手紙でごめんね、本当の事言うと悟が好きだった。

小さな時からずっと好きだった。

悟に彼女が出来ると気持ちが沈んだ。

でも、楽しそうに笑う悟が素敵だと思って居ました。

悟はモテるから沢山の女の子が泣いて去って行ったのを見た。

告白したらきっと私も同じ様に成ると思ってた。

だから言えなかった。

きっともうこの手紙で最後に成るかもしれない。

だけど本気で書きます。

悟、大好きです。

望は封筒に入れ窓口のリリアに渡す。

「お手紙大切お預かりします」

胸に抱きそう言った。

望は暫く歩いて振り返ると其処には何も無かった。

「悟、手紙が来てるわよ」

そう言われ二階から降りて来て手紙を持って部屋に行き中身を読んだ。

「嘘だろ?望が?」

全く考えて居なかった様だった。

どうして良いのか分からず、何回も読んでいた。

そして外に出て手紙を書こうとして書店に行った。

其処は郵便局に成って居た。

中に入りテーブルまで行く、そして暫く考えてから書き始めた。


 「望様へ」

手紙ありがとう、ちゃんと読んだ、何回も読んだ。

でも、俺はずっと友達だと思って居たんだ。

望と遊ぶ事も話する事も楽しかった。

酷い言い方かもしれないが男友達と同じ感じだった。

望を女性として見て居なかった。

ごめん、望の気持ちには答えられない。

もしも俺の事が好きで一緒に居たのならもう一緒には居られない。

友達に成れるなら今まで通りに遊びたい。

きっと酷い男だと思うよね?

望の気持ちに気が付かなくてごめん。

でもこれが本当の気持ちなんだ、望、ごめんね

そう書いて封をした。

リリアに手紙を渡し直ぐに郵便局を出て行った。

「お手紙大切お預かりします」

誰も居ない部屋でリリアは言った。

望がポストを見ると手紙が入って居た。

その手紙を抱いて自分の部屋に行き手紙を読んだ。

何度か読んで望は泣き崩れた。

最初は当たって砕けろと云う感じで手紙を書いたのかもしれない。

だけど、返って来た手紙を見て書いた事を後悔してしまった。

「書かなきゃ良かった」

望はポツリと言って布団に顔を埋めた。

次の日から望と悟は一緒には居なかった。

幼馴染の関係が壊れてしまった。

お互い別の人達と遊ぶ様になった。

望は女の子達と一緒に居る事が多く成り女性らしく成って行った。

そして男子に告白される事も有った。

「可哀想な手紙を届けるのはつらいですね、やはり」

リリアは降って来た雨を見ながら言った。


  第十四話 帰らぬ夫へ


 原愛子は結婚して十年が経って居た、結婚したのは二十五歳の時、夫は同じ歳仲が良いと思って居た

出張が多い会社に勤めていた、海外にも行く事も多かった。

いつもの様に海外に出張に成った夫に

「入れ忘れた物とか無い?大丈夫?」

そう聞くと夫の英二はスーツケースの中を見ながら

「無いと思うよ、大丈夫」

「今回は何日行って来るの?」

「四日位で帰って来られると思うよ」

「そっか、お土産待ってるね」

二人には子供が居なかった、愛子は不妊治療をしたがったが、英二は嫌がった。

「自然に出来たのなら良いけど」

それが口癖の様になって居た。

英二が出張に出かけ一週間が経ち、会社に連絡しても

「出張の予定は入って居なく、無断欠勤している」

と言われる、出張と言って居た国にも行ったが見つけられなかった。

スマホは鳴らずに電源が入って居ない。

事件に巻き込まれたのでは無いかと心配した。

帰らなくなってから二週間が経ち茫然としながら道を歩く

ふと目にした郵便局に入ると

「こんにちわ」

と声を掛けられ慌てて

「こんにちわ」

と返した、便箋を取り手紙を書き始めた。


 「帰らない夫へ」

出張だと言って家を出た彼方は今何処に居るのですか?

何か事件や事故に巻き込まれて居ませんか?

とても心配で仕方ないです。

会社に問い合わせたら彼方は無断欠勤で出張では無いと言われました。

行方不明で警察にも届ました。

帰って来て下さい。

本当に本当に心配でたまらない、生きているのか知りたい。

事故や事件で無いなら何故帰って来ないのか知りたい。

封をして窓口に出すと

「お手紙大切お預かりします」

リリアは胸に抱きそう言った。

手紙が届いて要ると言われ驚いている英二が居た。

手紙を読むと妻からだった。

英二は数日悩み手紙を返そうと思い外に出た。

振り返ると日本の様な郵便局が有った。

中に入る名札にリリアと書いて有る人が居た。

テーブルに付き便箋を取り書き始めた。


 「愛子へ」

すまない、本当は出張じゃ無かったんだ。

君に嘘を付いた、前に出張で来た国の女性と一緒に居る。

でも、君と別れる勇気も無い、彼女と別れる事も出来ない。

今、彼女は臨月に成って要る、俺の子だ。

前回この国に来て彼女と出会い愛し合った。

そして出来た子供なんだ、許して欲しい。

捜索願は取り下げて欲しい、我儘ばかり言って居るのは分かって居る。

今度家に帰る時はきっと離婚届けを出す時だと思って居る。

君に不満が有ったわけじゃない、ただ彼女を愛してしまった。

本当に許されない事をして居る。

こんな形で君を傷付けて本当にごめん。

俺の実家には言って置くよ

封をしてリリアに渡した。

「良いのですか?」

リリアに聞かれ英二は、はいと答えた。

「お手紙大切お預かりします」

胸に抱きそう言った。

愛子が泣き暮らしている時に手紙が届いた。

本気で事故や事件に巻き込まれていたらと心配していたのに

全く違う内容だった。

「嘘でしょ?ねえ噓でしょ?何で?」

愛子は崩れ落ちた、その時、夫の両親が来た。

手紙を見せると両親は夫に連絡を取った。

愛子と会社からの電話を拒否していたのだ。

悲しみが怒りに変わる。

両親から電話を奪い取り

「帰ってから言いなさいよ、離婚してあげるから来なさい」

その後、夫は直ぐに帰って来て離婚届けを出した。

そして裁判に成り慰謝料の話に成り愛子は億単位を請求した。

その後の事はリリアにも分からなかった。

「こんな手紙は届けたく無いです、女性を不幸にしたらいけませんね」

リリアはそう言って窓を拭いた。


  第十五話 幸せでした


 酒井のり子は郵便局を探して居た、もう五十年前に会ったリリアが居る郵便局をそして一時間経ちやっと見た事の有る郵便局を見つけた。

中に入ると

「こんにちわ」

と、変わらない笑顔で挨拶をされ

「こんにちわ」

のり子も笑顔で挨拶をした、そしてテーブルに行き手紙を書き始めた。


 「達也様へ」

達也さんと一緒にいた時間は本当に早く過ぎもう五十年経ちました。

身体が弱く良く寝込んでいた私を献身的に看病してくれてありがとう。

子供も出来、孫も出来ましたね、とても大切な時間でした。

達也さんと一緒の時間は何をしていてもとても楽しく新鮮で幸せってこういう事なんだと感じました。

二十歳と云うあの頃では嫁に行って居ない女と見合いをし年上の私を妻に欲しいと言ってくれた。

とても優しい人、あの頃言えなかった愛していると云う言葉、今なら言えます。

貴方より早く逝く事を許して下さい。

達也さんは長生きして下さいね、皆が悲しむからお願い。

きっともう少し一緒に居たいと思ってしまうのは欲張りなのでしょうね。

家族が多く成ると本当に賑やかで楽しい時間でした。

達也さんの隣に座り普通の会話をしていても楽しいと感じていました。

まだ逝きたくないと泣いてしまいそうです。

でも、もう直ぐその時が来てしまう。

言えなくてごめんなさい、病気の事隠して居てごめんなさい。

だって普通に話をしたくて、病気だと分かると達也さんは私の身体を気遣ってくれるから。

こんな事をお祖母ちゃんが言うと駄目かしら

次に産まれても達也さんの元に嫁ぎたい。

今まで本当にありがとう、本当に幸せでした。

書き終わり少し深呼吸をして封筒に入れリリアの元に持って行った。

「お手紙大切お預かりします」

「リリアさんありがとう」

そう言って郵便局の外に出て行った。

「お父さん手紙が来てるわ」

「ありがとう」

手紙を受け取り読み始めた。

「馬鹿だなのり子、病気だったっていつもと同じなのにそんな事考えて」

達也はのり子の手紙を抱き締めまた読んだ。

達也は杖を使いながらのり子に妻に成ってくれと書いた郵便局を探した。

少し歩くと直ぐに見つかった。

中に入ると変わらない内装とリリアに挨拶をした。

そして手紙を書き始めた。

 

 「のり子へ」

手紙ありがとう、君はいつも俺の事を心配していたね。

そんなに気にしなくても俺は気にして居なかった。

二歳年上の女性に妻に来てくれと手紙を書いた時は本当に手が震えた。

そしてのり子から宜しくお願いしますと返事が来た時は本当に嬉しかった。

のり子は年上だった事を気にしていたみたいだけど

身体が弱い事を気にしていたみたいだけど、両方とも気にしないで良い事だった。

あの時と同じ郵便局で同じ気持ちで手紙を書いているよ。

のり子との生活は楽しく家族も増え賑やかに成ったね。

俺も初めて幸せを感じた、君が居てくれたからありがとう。

そうか五十年も経ったんだね、とても早かった。

あの時は恥ずかしく、男が言う言葉では無いと云われていたが今なら言える。

のり子愛してるよ。

俺もまた産まれたらのり子と結婚したい。

また二人で楽しい生活をしたい。

俺も直ぐに行くから待って居て欲しい。

達也は便箋を封筒に入れ封をし窓口に持って行った。

「リリアさんまた宜しくお願いします」

「お手紙大切お預かりします」

リリアは胸に抱きそう言った。

達也は外に出て家に帰った。

手紙はのり子に届けられその手紙を読んだ。

「達也さんたら、本当に優しい人ね。また結婚しましょうね」

返事が来た一週間後、のり子は亡くなった。

そして一か月後達也も帰らぬ人に成った。

「ずっとお幸せだったのですね、羨ましいです」

リリアは青空を見たら虹がかかって居た。


  第十六話 怪我をさせてしまった子へ


 斉藤佳子、三十二歳主婦は買い物に行こうと車に乗った。

運転して青信号を直線に進む、が、対向車が無理やり右折し圭子の運転する車の横に突っ込んで来た。

対向車はトラック、圭子の車は軽自動車でそのまま押され歩道と渡って居た女子高生に当り少女は倒れそして引きずられた。

圭子は全身が痛かったが先ずは警察、救急車を呼んだ、保険会社にも連絡した。

女の子の所にフラフラと近付いて

「大丈夫ですか?意識は有りますか?」

声を掛けるので精一杯だった。

か細い声で

「はい」

そう聞こえたのを最後に圭子の意識は無くなった。

目が覚めた時には病院のベッドの上だった。

「圭子大丈夫か?」

夫が早退して来ていた。

「身体中痛いけど大丈夫、あの女子高生は?」

「病院が違うから分からないんだ」

其処へ警察の人が二人入って来た。

「お話しても大丈夫ですか?」

「はい、大丈夫です」

「事故の状況とトラックの運転者の方の話が合わないのでお話を聞きに来ました」

「私は青信号で直進していました、反対車線でトラックが右折しようとウインカーを出して居ました、ちょうど私が交差点に入った時、行き成り右折して来て車が押され歩道を渡ってした女子高生に当り女子高生を引きずる形に成りました」

圭子の言った事をメモして

「ありがとうございます斉藤さんのお話だと状況に会いますね」

「あの、女子高生の方は大丈夫だったのでしょうか?」

「引きずられているので全身に傷が出来ていますが命に別条ありません」

「良かった、生きていて良かった」

警察の人が帰った後、夫が保険会社とやり取りしていた。

その事故はトラックが悪く、圭子の車も動いていたので少し悪いと成ってしまったが、

死んで居なかった事だけ安心していた。

退院する日夫は会社を休めず、一人で退院した、帰りのタクシーで見つけた郵便局で止まって貰い中に入り手紙を書き始めた。


 「怪我をさせてしまった女の子へ」

大変な事故に巻き込み申し訳ございません。

警察の方から命は大丈夫だと聞き生きていてくれた事を嬉しく思ってしまいました。

ですが大変な怪我をしてしまったでしょう。

女の子の身体に傷を残してしまった事、本当に申し訳ないと反省しています。

病院も違い貴女の事を知る事が出来ません。

何とか少しづつでも元気に成って居ると良いのですが。

本当にすいませんでした。

圭子は封筒に入れ封をし窓口に持って行った。

「お手紙大切お預かりします」

リリアは胸に抱きそう言った。

「宜しくお願いします」

圭子は待たせていたタクシーに乗り帰って行った。

「エリ、家にあなた宛ての手紙が届いた居たの、持って来たわよ」

「お母さんありがとう」

エリはベッドを起こし手紙を読んだ。

「あの車の人からだ、凄く心配してくれてるし、凄く反省している」

「そうなの?でもその車の人だって被害者でしょ?」

「うんそうなの、事故の時も自分が挟まれて居たのを自力で出て来て私に声を掛けてくれた」

「軽自動車の横にトラックが追突したのよね?」

「そうなんだけど凄く心配してくれてた、手紙書きたいな」

エリは車椅子に乗れる様になった。

病院内に不釣り合いな郵便局が有りその中に入って行った。

テーブルに有る便箋を取ろうとしても上手く行かなかった。

「此方で宜しいでしょうか?」

車いす用のテーブルの上に便箋、封筒、ボールペンを置いてくれた

「リリアさんありがとうございます」

エリはそう言って手紙を書き始めた。


 「大丈夫です」

まさかこんなに心配して頂いているとは思わず、ありがとうございます。

まだ車椅子ですが順調に回復しています。

貴女が悪いのでは無いのに、貴女も車に挟まれていたのに私を心配してくれる優しい人なのですね。

貴女の怪我は大丈夫ですか?

傷は残ると思いますが、余り気にして居ません。

だから心配しないで下さい、自分のお身体をちゃんと治して下さいね。

手紙嬉しかったです。ありがとうございます。

そう書いて封筒に入れるとリリアが取りに来て

「お手紙大切お預かりします」

胸に抱きそう言った。

「リリアさん宜しくお願いします」

エリはそう言って郵便局を出た。

少し進んでから振り返ると其処はATMだった。

返って来た郵便を見て圭子は急ぎ家に入る、まだ杖を付かないと歩けない。

中身を読むと元気そうだと分かった。

それだけでも良かったと思った。

そして圭子の事も心配してくれていた。

「優しい子なのね」

圭子はその大切な手紙を引き出しに入れた。

「本当に悪い人は突っ込んだ運転手の方なんです、よそ見は駄目です」

リリアはテーブルを片付けて言った。


  第十七話 大切な人へ


 吉田哲夫、三十歳、会社員、独身、好みのタイプ優しく家庭的な人、又はキャリアウーマン

結婚相談所に行き自分のプロフィールと望む条件を書いていた。

二十歳位の時に彼女が居たが結婚までは行かなかった。

それから女性と出会う機会が無く三十歳に成り結婚相談所に登録した。

マッチングアプリもやったが大体が若い女の子でパパ活で有った。

「吉田さん、好みの女性が極端ですが?」

「はい、癒しを求めるか、尊敬出来る女性かです、両方を持って居る人は居ないと思ったので」

「そうですか、今度の日曜日ちょうど婚活パーティーが有りますので如何ですか?」

「はい行きたいです」

初めての婚活パーティーに出席した哲夫は慣れていないせいか女性に話かけられないで居た。

その時に手助けをしてくれたのが結婚相談所に勤務している多田レイ二十九歳だった。

「吉田さん、勇気を出して声を掛けてみて下さい、普通の会話で良いんですよ」

そして哲夫を女性の輪に連れて行き

「入会したばかりの吉田哲夫さんです」

仕事だと分かって居るのだが、集まって居る女性よりレイに目が行ってしまう。

レイがお膳立てしてくれたのに今回出会う事が出来なかった。

相談所に行きレイの事を聞いてみた。

「この間パーティーに居て世話してくれていた多田さんってどんな方なんですか?」

「多田さんはね家の会社で働いて居てパーティーの時主に出て貰って居る人なんですよ」

「ご結婚されているのですか?」

「結婚相談所に勤めているけど独身ね」

それを聞き相談所を出てレイにラブレターを書きたいと思って居た。

書店や店で便箋などを探すがどれが良いのか分からない、そんな帰りだった。

いつも通る道なのに気がつかなかったのか郵便局が有った。

「こんにちわ」

局員に言われお辞儀をしてテーブルに付き手紙を書き始めた。


 「多田レイ様」

結婚相談所に登録し最近パーティーに出席した 吉田哲夫です。

歳は三十歳です、本来ならパーティーに参加している女性と仲良く成るのでしょうが

私は多田さんの事が好きに成りました。

仕事だからだけでは無いと思います、その優しい人柄、仕事に懸命な姿。

パーティーの間ずっと私は多田さんを見ていました。

相談所に登録する男は嫌かもしれませんが、出来れば多田さんとお付き合いしたいと思って居ます。

これが一目惚れと云う奴なのでしょうね、今は多田さんの事しか考えられません。

振られたとしても大丈夫です。

そうしたらまたパーティーで私の結婚相手を探すのを手伝って下さい。

言葉にして貴女に言えず手紙で告白をします。

多田さんが好きです。

そう書いて封をして窓口に持って行った。

「お手紙大切お預かりします」

リリアは胸に抱きそう言った。

哲夫はお辞儀をして出て行った。

ふと、風が吹き郵便局を見るとシャッターが閉まった店だった。

「多田さん宛に手紙が届いてますよ」

「ありがとう」

レイは手紙を受け取り読み始めた。

「吉田さん、あの時初めてパーティーに参加した人だ」

レイは吉田の事は覚えていた、余り積極的に女性の元に行けなかった人。

心が揺れたのは確かだった。

好きだと言われたのは何年振りだろうか?

仕事で幸せに成る人達を沢山見たし、逆に上手く行かない人も沢山見た。

しかし直ぐに結婚のイメージが湧かなかった。

返信をしようと休憩時間に外に出た、その時目の前に郵便局が有った。

中に入り手紙を書き始めた。


 「ありがとうございます」

吉田哲夫様、お手紙ありがとうございます。

好きだなんて言われたのは何年振りでしょう。

嬉しいと思ったのは事実です、しかし自分の結婚のイメージが湧かないのも事実です。

沢山のお見合いで人の事を世話して来ましたが自分の事に成ると中々上手く表現出来ません。

ごめんなさい、まだお付き合いするには知らなすぎる。

もう少し貴方の事を知ってから結婚を考えたい。

だから友達からで良いですか?

お互いを知りそれでもお互いが良ければお付き合いをしませんか?

そう書いてレイは封筒に入れ封をしてため息を付いた。

窓口に持って行くとリリアは

「お手紙大切お預かりします」

胸に抱きそう言った。

哲夫が家に帰りポストを見ると手紙が入って居た。

返事を見て哲夫は笑顔に成った。

そして相談所に行きレイを呼んでもらい

「友達からお願いします」

そう言って二人で握手した。

「徐々に進めば良いのでは否ですかね、焦りは禁物です」

リリアは封筒を作りながらそう言った。


  第十八話 別れた君へ


 会田達彦は一流会社に勤める二十九歳の男だった。

会社の女性や飲み会でも人気があるイケメンでも有った。

しかし達彦は誰とも付き合わなかった。

昔、ふざけて付き合って傷付けてしまった女性が居たからだった。

達彦はちゃんと謝りたかった、謝っても許されない事をした。

しかし、謝りたい人はもうこの世には居なかった。

会社の帰り道、当時の事を思い出し気持ちが沈んでいた

其処に洋館の様な郵便局があった有った。

導かれる様に中に入り手紙を書き始めた。


 「美知子様へ」

俺は貴女に謝っても謝っても許されない事をしました。

只の遊びで貴女と付き合い弄んではその動画や写真を友達に見せて笑って居た。

誰でも良かったんだ、俺に言い寄って来る女なら誰でも良かった。

十一年前高校三年の時、君は俺に告白をしてくれたね。

丁度百人目だった、友達と百人目の女と付き合って弄ぶと決めていた。

君の本当に純粋な気持ちを踏みにじり、泣かせ、初めてを俺に捧げさせた。

純粋過ぎる君の事を俺が穢した。

あの後、俺達が君を弄んでいると知られた時、君は泣きながらそれでも良いと言った。

それでもこんな俺と付き合いたいと言った。

でも、俺は君の純粋な気持ちを何度も何度も踏みにじり人を愛する事を知らなかった。

だからってして良い事では無い。

後悔ばかりしている。

君が命を絶ったと聞いた時、俺は憮然として初めて酷い事をしていたのだと知った。

そして君の純粋な気持ちを忘れる事が出来なくなった。

最低な人間だったと後悔しても遅かった。

君のはにかむ様な笑顔も、優しい思いも俺は気が付かずに失った人の大きさを知った。

きっと君は天使だったんだと思った。

だけど罰は受ける、このまま俺は誰とも付き合わず、君の月命日にお墓に会いに行く。

それだけは許して欲しい。

君が俺を愛してくれた、愛を知ったのは君を失ってからっだった。

俺は確かにあの時、君を愛していたんだ。

これだけは本当の気持ちだ、信じて欲しい。

そう書いて封をして窓口に持って行った。

「お手紙大切お預かりします」

リリアは胸に抱きそう言った。

「達彦、手紙が来てるわよ」

「またかよ」

封筒を開け中を見る、いつもラブレターだった今回も同じだと気軽に見ていたのだった。

しかし手紙は十一年後の自分からだった。

丁度美知子に出会う前に届いた。

友達と百人目に言って来た女を弄ぼうと言って居た時だった。

「何だよこの手紙」

しかし何回読んでも自分の字、後悔している手紙。

混乱していた、言い寄って来る女性が多かった為、天狗に成りしてしまった事。

ちゃんと向き合う事にした。

「あんなに後悔している自分が十一年後の俺」

そして美知子に告白された。

達彦は友達に向かい

「俺は、彼女を本当に大切にするつもりだから、あの約束は無かった事にしてくれ」

「何だよ達彦お前急に真面目に成ってつまんねえな」

「良いんだ、俺は後悔したくない」

友達達は去って行った。

「あの、私で良いのでしょうか?」

「君は信じてくれないと思うけど、俺は君の事を愛した居たんだと未来の自分から手紙が来た、俺は美知子を弄び、それでも良いと言ってくれた君を何度も何度も踏みにじり君は命を絶ってしまった。

未来の俺は君が居なくなってしまって、本当は君を愛していた事を知り後悔している、だから今度はちゃんと君と付き合いたい」

「会田さんが言うのであれば、それは本当に有った事なのかもしれません、きっと今弄ばれても私は貴方と付き合いたいと思ってしまうから」

「信じてくれてありがとう、俺は美知子さんを大切にする本当だ」

「凄く嬉しいです。未来の会田さんにお礼を言いたいです」

美知子に言われ自分のしてしまった事を後悔したくない、この人を失いたくないと思った。

それから何度か喧嘩をしたが仲良く付き合いを続け大学を卒業して二年目に美知子と結婚した。

二十九歳に成った時には子供が一人出来ていた。

未来の自分に手紙を書こうとしたが郵便局が見つからなかった。

「ただいま」

「お帰りなさい達彦さん」

二人は幸せな家庭を築いていた。

「また怒られるでしょうね、でも、あんなに泣きながら後悔して手紙を書いている姿を見たら何とかしてあげたくなったんです」

リリアはそう言いながら窓を拭いていた。


  第十九話 本当の事


 佐々木紗代は在る事を隠して生きて来た。

昔に暴走族し所属し補導歴が何度も有り少年刑務所に入って居た事を。

出所して三年二十歳に成って居た。

就職もして過去を誰にも言わずに目立たない様に生きていた。

「佐々木さん、急で悪いんだけど、これ売上お願いします」

「はい、分かりました」

三島冬生二歳年上の会社の先輩に言われ売り上げ表に打ち込んでいく。

紗代は事務をしているが三島は営業だった。

何か有ると一人で居る紗代を気にしてくれていた。

会社が終わり家に帰ると昔の仲間が来ていた。

「ねえ紗代また走ろうよ、今度は車でチームもまだあるしさ」

那奈は親友だった、だが、紗代と違い少年院上がりを勲章と見ていた。

「行かないし、もう辞めたんだよ、仕事をしてちゃんと生きるって決めたの」

「マジで?だってハクが付くじゃん務所上がりだよ?」

「いいからもう私に関わらないで」

那奈は文句を言いながら帰って行った。

「ちゃんと自分の事を話さないといけないかな?」

紗代は手紙を書こうとして郵便局に入った。

「こんにちわ」

リリアに言われ会釈する。


 「三島様へ」

佐々木紗代です。

会社ではいつも気を使って頂きありがとうございます。

でも、私は三島さんに優しくされる価値のない人間です。

中学校から非行に走り、暴走族に所属し、補導歴、少年刑務所に入って居ました。

だから私に優しく接しないで良いのです。

優しくされると普通の女の子に成った様な気持ちになってしまう。

私は普通の女の子に成ってはいけないのです。

きっと三島さんは他の人にも優しいから同じ様に接してくれているだけだと思います。

ですが、成れていない私にはそれはとても大切な事に成ってしまう。

こんな私に好かれても迷惑だと思います。

どんなに過去が消せたならと後悔しかありません。

三島さんは素敵な普通の女性と幸せに成ってし下さい。

私が勝手に三島さんを好きに成ったのです。

ごめんなさい、この手紙さえ迷惑だと思いますが書かずにはいられなかった。

そう書いた後一粒の涙を零し封をして窓口に持って行き。

「よろしくお願いします」

「お手紙大切お預かりします」

リリアは手紙を胸に抱きそう言った。

紗代は郵便局を出てからやっぱり出すのを辞めようと思い振り返るが其処は空き地だった。

「どういう事?」

「冬生、手紙が来ているわよ」

「これかな?」

自分の部屋に行き手紙を読む。

「佐々木さんからだ」

其処には紗代の過去と思いが綴られていた。

「そうだったんだ」

そして口で言おうと思ったがやはり残る手紙が良いと思い郵便局を探す。

前までは潰れた靴屋が古い郵便局に成っていた。

中に入り、手紙を書き始める。


 「佐々木紗代様」

俺は、佐々木さんの過去を知らなかった。

今、その過去を知り考えたけど、気持ちは変わらない。

佐々木さんが気になって声を掛けていたんだ。

こんな事を書くといけないのかもしれないが、

過去は償いを終えている、これからを考えないか?

今の佐々木さんは目立たない様に暮らしているのだろうね。

でも俺の気持ちは変わらない、会って話したかったけど

残る方が良いと思い手紙にした。

考え込まないで、俺は平気だから、気にしないから。

俺と付き合って欲しい。

返事を待って居るよ。

そう書いて封をし窓口に持って行くと、手紙を受け取り胸に抱き

「お手紙大切お預かりします」

とリリアは言った。

その後その手紙は紗代の元に届き中を読んだ。

本当は怖かった、けど勇気を出して読んだ。

其処には知らなかったけど紗代が良いと言ってくれた冬生が居た。

次の日、お昼休み紗代は冬生の元に行き

「お手紙ありがとうございます。出来れば」

と行った時だった。

「出来れば俺と付き合って欲しい」

と冬生が紗代の言葉を遮った。

紗代は泣きながら頷いた。

「ラブレターは何時の時代も良いものですね」

リリアはそう言いながら入り口の履き掃除をしていた。


  第二十話 リリアの過去


 明治時代の始め洋館の様な奇麗な郵便局が出来た。

当時には珍しく女性が窓口で働いた。

リリアも同じ様に採用され窓口業務をする事に成った。

当時リリアは十八歳、女学校を出て直ぐに就職先が決まった。

誇らし気に郵便局を背に写真に写る女性達が新聞を賑わせた。

リリアは母親が日本人、父親がアメリカ軍人だった為虐められていた。

母親も蔑まれた。

外国に身体を売った女と言われ貧しい家には石が投げつけられた。

母親は懸命にリリアを育てた。

一度だけ父親から手紙が来た、祖国に婚約者が居たのだった。

僅かなお金が入っていたと聞いた。

その頃、リリアの様な今で云うハーフの子は少なくなく

皆、身体を売って生きていたのだった。

リリアは郵便局に襲職出来たが、母親は色々な仕事をして無理が祟り早くに亡くなった。

リリアの美しさは窓口に並ぶ人の多さで分かった。

皆、リリアの窓口に並んだ、虐められていたリリアはそれが嬉しかった。

でも、やはり他の女性達からは嫌われていた。

在る時、銀行と間違え強盗が入って来た。

郵便局だと分かると籠城した。

「私が残ります、他の人を開放して下さい」

リリアは本気で言って居た、犯人は仕方なく一人ずつ開放した。

最後に残ったのはリリアと、もう一人の女性局員だった。

犯人はリリアを出そうとしたがリリアは拒否した。

もう一人の女性を先にと願ったのだった。

車と引き換えにその女性は解放された。

犯人は最後に残ったリリアと郵便局に火を放った

「止めて、大切な手紙が、燃えてしまう、止めて」

リリアは犯人を刺し殺した。

リリアには手紙がとても大切な物だったのだった。

郵便局は燃え焼死体が二つ出て来た。

リリアは誰も恨んで居なかった、仲良くしたいと思って居たがそうならなかった。

しかしリリアが最後に自分が最後に成る事を選んだのを他の局員は申し訳なく思った。

リリアが人気が有ったからではない、何で優しく出来なかったのか後悔していた。

燃える郵便局に局員が入ろうとして警察に止められた。

「リリアさん、リリアさん」

この時初めて皆が本気でリリアを心配し、バケツを持って何とか火を消そうとした。

「あんなに優しく良い子だったのに、他の国の血が入って居るからって私達は何をしていたの?」

「リリアさん、早く出て来てお願い」

局員達は叫びながら消化しようと懸命だった。

「いや~」

炎で包まれた郵便局からは誰も出て来なかった。

リリアの魂は人を殺した罪で地獄に行き閻魔の裁きで通常の罪では無く郵便局員として働く事だった。

地獄の裁きでは重すぎる人達は思い残した仕事をさせていたのだった。

其処の紙を作る罪人たちの紙で便箋、封筒が出来ている。

リリアは時空、時間を超え手紙を届ける事が出来た。

それがたった一人の郵便局、リリアの郵便局だった。

その郵便局で一人住みずっと局員をしていた。

しかし、リリアはとても幸せだった、時に悲しい手紙が有るが、伝えたいと云う気持ちは昔も今も変わらない、手紙を選んでもらえる喜びもあった。

最後に皆が本気でリリアを心配し消化し助けようとした事を知って嬉しかった。

今はメールや電話など直ぐに相手と繋がれる。

それでも手紙を書きたいと願う人が居る事が嬉しかった。


  第二十一話 お幸せに


 加藤東子三十一歳会社員は二十歳の時から付き合っては別れるを繰り返して居た男性が居た。

佐藤忠彦三十二歳、東子と同じ会社の社員だった。

しかし、別れていた間に忠彦は新入社員の遠野美樹二十四歳と付き合って居た。

そして美樹が妊娠し、結婚が決まった。

東子は会社でその事を初めて知った。

初めて東子は胸の中がポッカリと穴が開いた気持ちに成った。

彼は何故自分を選ばなかったのか?

分かれている間に忠彦が他の女性と付き合う事は良くあった。

でも、いつも早くに別れていた、何に今回は結婚をする事に成ったのか?

彼は本当は東子と遊びだったのでは無いかと思うように成った。

それは、東子の時は避妊をしていたからだった。

だけど、諦めは付いていた、此処で捨てないで何て云えなかった。

自分は強い女だと暗示を掛けた。

東子はお祝いの手紙を書こうと郵便局に入った。

「こんにちわ」

「こんにちわ」

リリアには分かって居た、この人は我慢をしているのだと。


 「佐藤忠彦様へ」

楽しかった時、悲しかった時、ずっと一緒に居たね、仕事が上手く行った時は祝杯を挙げ、

上手く行かなかった時は残念会を二人でしていたね。

付き合った時も、別れた時も、まるで同士の様に仕事や恋を全力で駆け抜け気が付けばどの位一緒に居たんだろう?

貴方なら私の性格を知って居る、捨てないでって云えない女だって。

だから言わない、飛び切りの笑顔でおめでとうって言える。

男女何て私達には関係なかった、だから飛び切りおしゃれして行くから結婚式には呼んでね。

同士よ、結婚おめでとうございます。

絶対に幸せになれよ。

そう書いて封をした、その後でため息を付き窓口に持って来た。

「お願いします」

「良いのですか?」

初めてリリアが聞いた。

「はい、良いんですこれで」

「お手紙大切にお預かりします」

リリアは胸に抱きそう言った。

東子は颯爽と郵便局を後にした。

「佐藤、手紙が届いてるよ、はい」

「おお、ありがとう」

会社で手紙を読む、東子からだった。

「東子、お前」

そして忠彦は郵便局を探した、不思議と会社の前に郵便局が有った。

中に入り手紙を書く。


 「加藤東子様」

手紙ありがとう、知っていた君の性格、いつも一緒だった。

付き合ったり別れたりを繰り返して今度、東子と付き合ったら結婚を申し込もうと思った。

だけど子供が出来てしまった、大丈夫と言われその気に成った。

俺がバカだった。

君との付き合いはお互いを高め合う本当に同士で本当に愛していた。

君は結婚しても仕事をやるだろう、それでも良いと俺は思って居た。

子供が出来て仕事を辞めさせる様な事は出来なかった。

どんなに言っても言い訳にしかならない、お前が一番嫌いな言い訳だ。

君を幸せに出来なかった分、幸せにするよ、ありがとう東子。

そう書いて封をして窓口に持って行った。

「それだけで良いのですか?」

リリアは聞いた。

忠彦は項垂れた様に頷き去って行った。

会社で東子に会った時、忠彦は東子を呼び止めた。

「俺は東子が好きだった、出来れば元に戻りたかった」

大勢の社員が見ている前だった。

東子は微笑みそして

「終わった話よ、佐藤君、君は幸せにしないといけない人が居る、だけど私は立ち止まらない」

颯爽と去って行く東子が女性達の胸を熱くし、東子の下で働きたいと云う女子社員が増え緊急で役員会が招集され異例の速さでしかも初めて女性で東子は部長に昇進した。

忠彦からの手紙は読まずに破り捨てた。

結婚式当日、東子はタイトな青いドレスに身を包みその姿がまたカッコいいと東子の部署は人が増えて行った。

対して忠彦は、どんどん成績が下がって行った。

前の忠彦とは全くの別人に成ってしまったのだった。

結婚した美樹にも

「なんでこんなに少ないの給料」

と、云われてしまう程に成ってしまった。

忠彦が輝きを放って居たのは東子と高め合って居たからだった。

「仕事に掛ける思いは男女関係なくカッコいいですね」

リリアは封筒を作りながら言った。


  第二十二話 初恋だった人へ


 幸田剛志は初めて恋をした人が居た。

郵便局に勤めるリリアと云う女性だった。

沢山の手紙を書いてリリアの窓口に並んだ、其処に居た男性は皆同じ思いだった。

関係の無い手紙を書き続け郵便局に行って居た。

初めてリリアに

「お友達が沢山居るのですね?」

と言われた時は嬉しくて嬉しくて仕方なかった。

仕事で暫く違う土地に行って居た時に新聞で郵便局が強盗に焼かれたと見た。

心臓が張り裂けそうだった。

死亡者の名前にリリアと云う文字を見たから。

その後、剛志は結婚しなかった、出来なかった。

あの微笑みを見たかった、可愛い声を聞きたかった。

大切に手紙を胸に抱くリリアを見たかった。

そんな思いでホームから脱走して郵便局を車椅子で探した。

そして見た事の有るあの洋館の郵便局を見つけた。

中に入り驚いた。

あの時のままのリリアが居たからだった。

そして手紙を書き始めた。

 

 「リリア様へ」

貴女はあの時のままなのですね。

私は貴女の事が好きで用も無いのに手紙を書き郵便局に通った。

貴女と郵便局が無くなった事を新聞で知り泣きました。

リリアさんは私の初恋の人でした。

初めて声を掛けてくれた時は飛び上がる程に嬉しかった。

私はずっとリリアさんに恋して今に至ります。

私も貴女と一緒にあの日のままで居たかった。

ですが私はもうあの世に行く用意をしないといけないのです。

大好きなリリアさんがそのままの姿で居た、私もあの時に帰った気がする。

こんな手紙を貰っても困らせてしまう事は分かって居ます。

ですが言いたかった。

リリアさんが好きでした。

ありがとう。

そう書いて封をし窓口に持って行った。

リリアは

「今日は一通で良いんですか?」

と聞いた。

あの時に戻ったかの様だった。

「はい、今日は一通で良いんです、でも大切な手紙なんです」

「お手紙大切にお預かりします」

リリアは胸に手紙を抱きそう言った。

老人は嬉しそうに外に出た所を保護された。

リリアは老人が書いた手紙が自分宛だと気が付いて読んだ。

「貴方の事は覚えています。毎日来ていらしたから」


 「幸田剛志様へ」

貴方の事は覚えていました。

毎日の様に郵便局で手紙を出して居ましたね。

何てお友達の多い方なんだろうと思いました。

そして羨ましかった、私にはあの時友達が居なかったから。

私がそのままの姿で居た事に驚いたでしょうね。

死んだはずの私が郵便局に居る事を不思議に思ったでしょうね。

初恋の人なんて嬉しい事を言われたのは初めてでした。

ありがとうございます。

時は余りにも残酷でもうそんなに経ってしまったのかと思いました。

私は大切な手紙を届け続けなければならないのです。

こんな私の事を覚えていて下さり、恋をして下さりありがとうございます。

本当に嬉しい手紙です。

「幸田さん、お手紙来てますよ」

「すまない、ありがとう」

封を切り手紙を読むとリリアからの手紙だった。

「リリアさん、嬉しいなあ。覚えていてくれて戻りたいな、あの時に」

リリアからの手紙を待つように手紙を抱いて亡くなって居た。

「私は本当に初恋って言われて嬉しかったです」

リリアは青空に祈りを捧げていた。



 



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