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カチカチ山 7

『オールワークアンドノープレイ(働くばかりで娯楽はなし)』事務所の竜宮城の亀こと、亀さんから送られて来た資料を、乙姫は、あまり考えることもなく、そのまま乙姫ご勤めるタイムトラベラーの「会社」に送り届けた。


もちろん、出張先の世界における柿の木の果樹園についての乙姫自身の見解も付けた。


乙姫の会社は、乙姫の仕事を評価したようだ。


乙姫のタイムトラベラーの会社は、出張を終わらせて乙姫に会社に戻るように指令を出してきた。


      *       *


乙姫は、会社に戻るように指令を受けてから、疑問がわいた。


果たして、自分の仕事は、こんなに簡単に終わって良いものなのだろうか?


自分の仕事は、何か意味があるのか?


乙姫は、柿の木の果樹園が、勢力を盛り返したという話は聞かない。桜の木の繁殖の勢いが衰えたという話は聞かない。柿の木の果樹園が、消滅に向かって勢力範囲が減少する傾向に変化が見られるという話は聞かない。


「カチカチ山」の話にあるように、心あるたぬきような人たちが、このタイムトラベラー世界を破滅に向かわせている悪い連中に抗議したとしても、かえって返り討ちにあう危険を覚悟するべきである。


「カチカチ山」のたぬきは、たぬき汁にされてしまうという絶対絶命の危機からは逃れられたものの、結局は、黒幕ウサギの口車に乗せられて、殺されてしまうのである。


黒幕ウサギは、プロの殺し屋であり、たぬきを殺すのに使った泥船は、すでに水に溶けてしまい、たぬき殺しの証拠とはなり得ない。黒ウサギを殺人者として告発することはできない。


こんな具合では、桜の木の隆盛の傾向が、止むようにする方策は、当面は期待できないようだ。


乙姫は、自分の無力を実感した。


乙姫は、タイムトラベラーの会社に戻ることを報告化するために亀さんに連絡をとろうとした。


しかし、乙姫は、SNSを使っても、竜宮城の亀こと、亀さんと連絡が取れなかった。


乙姫は、亀さんに直接電話をかけてみたが、亀さんに電話は通じなかった。


そんな時、ずっと行動を共にしていた浦島太郎から乙姫に連絡が入った。


「オトヒメサン、キンキュウジタイデス。オレヤ、カメサンヤ、オトヒメサンニ、キケンガ、セマッテイマス! ボクラハ、モウ、オシマイカモ、シレマセン。セカイジュウノ、テレビ、サマザマナ、タンマツノ、モニターガ、ジャックサレテ、シマイマシタ」


「ジャック?」


乙姫は、浦島太郎からこの言葉を聞いて、いやな予感がした。


乙姫は、早速、浦島太郎から、送られて来た動画を観てみた。


動画では、ひとりの老人が、古風な衣裳を着て、何やら踊っている。彼の衣裳は古風ではあるが、とても派手なものである。烏帽子えぼしが、頭にり、手には日の丸を描いた扇を手にしている。


老人は、腰のかごから、灰をつかんで取り出すと、その灰をそらに撒いた。そして、老人は、宙に撒かれた灰を扇であおぐと、その灰はあたりに一気に広がった。


すると、たちまち、老人のいるあたりの桜の木が一斉に花を咲かせ始めた。


どうやら、老人は、何かを口ずさんでいる。


「枯れ木に、花をさかせましょう」


老人は、腰のかごから、また灰を取り出すと、宙に撒いた。そして、また、灰を扇であおいだ。


今度は、灰は、ずっと遠くまで届き、ずっと遠くの木々が桜の花を満開に咲かせてしまった。


すると、爺さんは、さらに、踊りながら腰の籠から、灰を取ると、……。


乙姫に、声を掛けたのは、一時的に消息不明になっていた、『オールワークアンドノープレイ(働くばかりで娯楽はなし)』事務所の竜宮城の亀こと、亀さんであった。


「これじゃ、一気に日本中が桜の花で、いっぱいになってしまう! 桜の季節は終わり、もうとっくに5月に入っているのに」


老人が、また、声を上げる。


「枯れ木に花をさかせましょう!」






春の推理2022

お題「桜の木」





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