カチカチ山 5
柿の木の種子を、浦島太郎は、家賃代わりに「ストップ」法律事務所に納めている!
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そんな事実を乙姫、あなたのリポートからくみ取ることができました。これは、この世界においても「柿の木の種子」が価値を持つものとして、流通しているということです。
これは、喜ぶべきことではありませんか!
この桜が大きな顔をして存在している世界に、桜が貨幣に描かれている世界に、一部ではありますが、柿の木の種子の価値が評価されているのです。
これはまだ、この世界が捨てたものではない、ということを示しています。
これを糸口に、柿の木の種子の価値が再評価されるチャンスは、残っています。
ところで、乙姫、あなたのリポートに対する報酬を約束通りに用意しておきました。
報酬とは、『カチカチ山』における二つの「殺し」の真相についてうちの事務所が用意した報告書であります。
この世界において存在している、理屈に合わないことの、多くの事柄の真の原因がこの報告書に書かれています。
つまり、これが、桜どもがこの世界で大きな顔をしていられる大元の原因であります。
この報告書をあなたの会社に持ち帰り、提出すれば、あなたに課された任務は十分に果たされたことになります。会社の上司はあなたの仕事を評価するでしょう。
以上、
感謝を込めて、
『オールワークアンドノープレイ(働くばかりで娯楽はなし)』代表、
竜宮城の亀より、乙姫様へ
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亀より届けられた報告書を読み終えた乙姫は、大きくため息をついた。
亀の用意した報告書に書かれた内容は、簡潔なものではあるが、容易に乙姫には受け入れられるものではなかった。
亀は、報告書において、乙姫もよく知る「カチカチ山」の話に対して、幾つかの疑問を呈している。
亀が、「カチカチ山」の童話に対して持った疑問とは次のようなことである。
その1
「そもそも、たぬきは悪者だったのか? 」
その2
「そもそも、たぬきが婆さんを殺したのか? 『カチカチ山』には、たぬきが婆さんを殺した、その殺しの目撃者は描かれてはいない! なのに、なぜたぬきが婆さん殺しの犯人になったのか?」
その3
「『カチカチ山』の童話とは、何者かが、善良なたぬきを陰謀に陥れたようすを描いた童話である!」
その4
「『カチカチ山』のウサギは果たして正義の人なのだろうか? ウサギには、悪の匂いがつきまとう。ウサギは、密室殺人のトリックに精通した殺し屋ではないのか? この殺し屋ウサギを操る爺さんは、ウサギを上回る悪者ではないのか?」