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ZEROミッシングリンクⅡ【2】ZERO MISSING LINK2  作者: タイニ
第十五章 繋がる点や線
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94 初めての嫌がらせ

メインキャラクター数人のスケッチがあります。今までリンクできませんでしたが、カクヨムさんに掲載しているものにリンクできるようになりました。活動報告から画像をご確認ください!




南海のいつもの小さめの道場で、大きな歓声が起こっている。


「そこで無駄な回転を付けるな!腕のいい奴が相手だとその瞬間に持ってかれる。」


「はあ、はあ…。」

どうしてもムギに一発も入れられないウヌク。すぐ後ろをとられて背中を蹴られる。至近距離まで入っても腕や足で弾かれる。こんな細い腕なのになぜ?リーチも全然違う。

道着を整えてもう一度構える。が、ムギはメットがずれるからもう嫌だと胴のプロテクターも外した。

「体が大きいと回転にも時間が掛かるからな。懐も大きくなるし、反動を利用しやすくなる。」



その時、入口からチコとファクトがやってくる。

「ムギ―!!」

「チコ?!」


ウヌクも振り向き、道場にいた南海のおっさんやアーツメンバーも入り口に向いた。

「ウヌク!お前何してるんだ?!!」

「ああ、ちょっと教えてもらっている。」

「ムギ家に結婚の挨拶をしたって何のことだ?!!!!」

「はあああああ!!!!??」

驚きすぎる周囲と、ムギとウヌクがチコを見て「あああ゛?」という顔をする。

そして、2人はファクトの方を向いた。


「ファクト、どういう説明したんだ?」

ウヌクが凄む。

「え?家にも挨拶に行って、結婚の話もされていたと。」

バシっと叩かれる。

「いで!」

「全然違うし、そこは重要でもない。」


「違うのか?」

チコが怪訝な顔をする。

「いくら何でも中学生はないっす…。この前何もできなかったから、格闘技習ってるだけです。ファクト、お前順序立って説明しろ!」


「…。」

全員ファクトの方を見る。


「…ムギのお兄さんが婚活おじさんになっていただけです。」

ファクトがそう答えると、ウヌクが付け足しておく。

「ファクトの方が先に結婚進められていたからな。」

チコにも叩かれる。

バシ!

「ファクト!サラサに報告の手順を習え!」

「でも、素っ裸見せてたし。」

「はあ??」

みんなが反応する。

「どっちが?!」

「お前ら小学生だな。その話終われ!」

ムギが嫌そ~な顔でギャラリーを眺めて言った。


チコは少しウヌクを見て考えた。

「ムギに勝てるに越したことはないか、ムギサイズの人間を相手にすることはほとんどないから、格闘技なら他を相手にした方がいい。変な癖がつく。それに…」

ムギは規格外な上にウヌクの体格に合う戦法ではないし、基本武器持ちなので素手の格闘術はあまり参考にならない。周りを見回し、目についたメンバーをあげる。

「クルバト、ロー…ファクトでもいいし。あ、シグマもいるならお前行くか?」

「クルバトの親友なのでクルバトで。」

クルバトが首を振る。

「俺は無理です!ローはAチームだけど…。」

ローも嫌な顔をする。

「ウヌクは強いのか?でも、多分今ならクルバトの方が強いぞ。」

チコの言葉にウヌクが顔をしかめる。クルバトはアーツに来るまで格闘技をしたことがなかった。


「チコ!私、3センチに伸びたんだけど?」

ムギがそう言ってからファクトの方に向かって「ふふん!」という顔をする。ムギもまだやや成長期なのだ。だが、全然相手にしないファクトとチコにむくれる。


「ねえ、ウヌク3弾に入れてあげればいいじゃん。黒持ってるからすぐみんなに追いつくよ。」

「いきなりナンパするような奴も行きずりの女と遊ぶ奴も絶対ダメだ。だいたいアストロアーツはどうするんだ?」

またアストロアーツから店長がいなくなってしまう。

「今度から、スポーツや格闘技したことのない人を店長に迎えよう!」

ファクトは提案する。経営者としてはまだシャウラのままで、ウヌクは雇われ店長である。


「お前はアストロアーツで寝てろ。」

しかし入れる気のないチコ。

「そこまでアストロアーツに思い入れはありません。」

チコに反論のウヌク。ちょっと遊んではいるけれど、そこまで節操がなくはない。少なくとも彼女がいた時は遊んでいない。

「モアがよくてなんで俺がダメなんだ…。」

それは聞きたい!みんなが思った。


が、チコはそれに答える。

「あいつは身内には手を出さない。」


「!」

衝撃な答えである。一同、目が覚める。

「あいつは線引きした相手には絶対手を出さない。」


「おおおおおおーーーーー!!!!!」

「ベガスは私の身内と思っているから。そんな面倒事に手を出さない!!!」

アホな下町ズが感嘆の声をあげている。しかし衝撃的だ。不倫、二股しない以外にそんな理由があったとは!そう思えばモアは、大房でもみんなの知り合い枠には美人であろうと何もしない。


そもそもユラスの女性に手を出して、アソコをもぎ取られたり殺されたりするのだから絶対に嫌である。今だと霊線の話も分かるし、見えるメンバーもいる。それに、周りの信頼を無くしたくないという思いもある。


「でも、試用期間。用事と称して外に遊びに行く可能性もあったんじゃ………。」

クルバトが最もなことを言う。

「でもモアは行かなかっただろ?」

「………そうなのか…。モアは頑張ったんだな…。」

モアに限らず、ほとんどがそうやって数週間で消えていくと踏んでいた事実を、今更言うか言うまいか悩むチコ。最初から下町ズはブートキャンプでも大半が脱落すると思っていたのだ。


「チコさん。俺らに遠慮しなくても言っていいっすよ。俺らが半年持たないと思ったって…。」

シグマが遠慮がちに言う。下町ズにも自覚はあったらしい。半年どころか最初の2週間でかなり消えると思っていた。

「ごめん…。」

全然期待していなかったという意味での「ごめん」である。

全体に沈黙が起こり、ため息とともに、下町ズを憐れむ見学の南海のおっさんたち。


最初の会話の本筋を忘れてしまった一同であった。




***




「あーあ。男に媚び打って最悪。」

「ちょっとどっかで講師してるからって、学生のクセに先生にセンセイ!って呼ばれて、返事してるし。」

「自分ができる女で、美女だとか思ってんのかね。嫌いな顔なんだけど。」



アンタレス中央区、倉鍵の総合病院。


東医漢方総合科の女子更衣室で、数人の女性たちが服や髪を整えながら響に聴こえる声でそんなことを言っていた。響は何も聞かないふりで用意を整えると退出する。


ベガスはまだ人口的に病院の規模が小さいため、響は倉鍵の提携大学病院にインターンで入っていた。そこの未婚の先生に気に入られてしまったのだ。


響は薬剤師の資格を目指していたが、生活漢方、植物生殖学などは先生たちより知識があったし、ベガスに来る前の高校時代から西アジアのいくつかの漢方院で働いていたため、信頼も大きく施術の場にも見学させてもらっていた。


さらにタイミングというのか、場が悪かったのは歓迎会の時。

末席に座ろうとした響を一人の先生が隣に呼んだのだ。他のインターンも挨拶をするから前にと言われたが、わざわざ響を横に座らせる。既に大学講師という意味ではそこまでおかしくない扱いではあるが、あくまでこの中ではまだ学生。

殆どの人はそれを気にしていなかったが、一部に目を付けられていることには気が付いていたので、響は場が和んできた頃に、他の人と話をするという感じで末席に移った。


が、暫くして遅れて来たもう1人の若手男性の先生がまた響の横に座ってしまったのだ。みんなが先生を上座にと進めても、「もう無礼講状態でしょ?」と響に一杯勧める。


これで、響のここでの生活は決まったようなものだった。


なにせ、ここは天下の倉鍵の大病院。アンタレスのどころかアジアトップクラスの病院である。

そこの先生たちはエリート中のエリート。


老若男女の先生たちに気に入られたが、かわりに一部の女性看護師や医師に不評を買ってしまった。

看護師も上に上にと目指してきた野心のある者。これまでの仕事や実績に誇りのある者が多かったし、医者も医者で親から人生を期待されて重荷を負っている感じの人が多い。彼らは医者としてだけでない、結婚まで期待されているのだ。競争社会なのである。


それなのに、外から来た女性に数人の先生が一気に注目してしまった。

冷たい印象なのに、話すとそうでもない。程よく綺麗で頭も家柄もいい。アンタレス出身ではないので、しがらみも少なく、誰とも関係を持っていない良家のお嬢様。かといって堅そうでもない。先生たちにはそれが良い印象だったけれど、冷たそうな響があまり怖くないと分かったとたん、微妙ないじめの対象になってしまったのだ。そのいじめも先生たちには分からないように行われる。



これまで蛍惑ペテロの守られた環境、巡回してきた旅路でもいい人たちに巡り合い、ベガスでもとくに女性とのこういう形での確執はなかった響が初めて受けた厳しい洗礼である。訳も分からず敵意迄抱かれ無視されるのも初めてだ。しかも、仕事に支障がない程度に嫌がらせを受ける。


響はこの状態がよく理解できなかった。

何せ、ドロドロしたドラマもあまり見ないし、そういうシチュエーションのある小説は読んでも、それは主人公の成長過程程度に考え、そこにそこまで注目がいかなかった。


そして、小さい頃から隣にいたのはあの強烈なシンシー。ケンカはすれど、いじめとかはしない。シンシーがいるので、周りも響に近付かない。なにせ、シンシーをはじめとする友達たちが正統派美人の上にメイク上手でなので、土いじりの方が好きだった響が「キレイ」と言われ目立ってしまうこともとくになかったのである。


こんなふうに注目され、しかも今まで周りにいなかったタイプ人たちにも出会ってしまい、響は残りのインターンを思うと気が重かった。



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