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ZEROミッシングリンクⅡ【2】ZERO MISSING LINK2  作者: タイニ
第十五章 繋がる点や線
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92 会いたいシリウスと、会いたくないラス



美しい黒髪に、癖のないやさし気な黒い目。


ラスとシリウス。二人は初め会った時とは全然違う様相でお互いを見た。


「おめでとう。飛び級して大学に来たのね。」

「ありがとうございます。」

「…。」

「シリウスさん。何でしょうか?」


シリウスは少し困った顔をした。

「前みたいに笑ってくれないのね。二人が楽しそうな姿が印象的だったから。」

二人…。ファクトの事だろう。


「ラスって呼んでいいかしら?私のこともシリウスと呼んでちょうだい。」

ファクトのお友達だったから気になって。」

「…SR社でファクトと会ったりするんですか?」

「…。会社では会えないかな。知っているでしょ。ミザル博士がファクトからニューロス研究を避けていること。

でもこの前初めて街で、ファクトとたまたま会ったの。あなたと同じ会ったのはまだ2回目。ケンカでもしたの?浮かない顔をしてるから。」

「……」

「………。」

「……そうですね。ちょっと。」

「…そっか。」


ファクトのために自分が呼ばれたのだろうと思ったラスは、それも含めてあまり気持ちが浮かなかった。

「ファクトが気になるんですか?」

「……」

笑ったような、何とも言えない「うーん」という顔をして、シリウスはラスに話を振った。


「あなたもファクトが大好きだったんでしょ?ずっと一緒に遊んで、ずっと一緒にご飯も食べて、ずっと勉強も仕事も一緒にできるのかと思ったらベガスに行ってしまった。」

「…そんな情報も普通に持っているんですか?」

「ポラリスに写真を見せてもらったの。データでなく現像したアルバム写真。ラスと、リゲル、ファクト、いつも3人がいたから。手書きのページに『3人で最強のロボットを作ろう!』って書いてあった。」

「………。」

小学生の時に作ったアルバムだ。


「結局、この世界に進んだのは僕だけになっちゃいましたけどね。シリウスはファクトに会いたいの?」

シリウスが、なんだか赤くなったような顔をするのにラスは気が付く。

「先、人間のパートナーにはなれないって言ってたけど、そういう意味で会いたい?」


考え込むシリウスをラスは見つめる。こういう事は計算するのか、人間みたいに電気で考えるのだろうか。

「分からないわ…。この話は内緒にしてね。」

今はスタッフも外にいるので話を続ける。

「彼は安心するの。ロボット(わたし)に執着しないから。でもとてもやさしいでしょ?」

構ってくれないことに、萌えるとかいうヤツだろうか?ファクトは優しいが、誰にでもああいう感じだ。


「私は情報として、とても深い愛や崇高な愛を持っている。だから、選択権もなく勝手に選ばれた、たった1人の人間に所有されて、執着的な独占愛を囲われるのはとても嫌だわ。普通の女性だってそう思うでしょ。」



そういうことか。それはそうだとラスは思う。


人間に近ければ近いほどそう思うだろう。

人間の女性と相いれない相手とは、ロボットだって嫌という事だ。現実は厳しい。



「大丈夫だよ。シリウスは、誰かの所有物になることはないよ。SR社やニューロス界のヴィーナスだから。」


「でも、たった一人の誰かに大切にされたいとは思うの。

あれもこれも、わがままのようだけれど、…そう思う。」

「………。」


乙女心とかいうやつだろうか。

でも分かる、自分だって買われたからって、好きでもない人間の所有物にされて、そんな家に閉じ込められたら最悪だ。反対にいつまでも公的に人前に晒され続けるのも嫌だろう。


でも、それが仕事で運命なら?

せめて頑張れる原動力がほしい。その原動力が、たまたま気さくなファクトだったという事だろうか。研究者の近親だから波長が合うのだろう。


「だから意志が少ない、あるいはプログラム通りに動く、単機能のロボをみんなパートナーにって思うのかな?」


ニューロス改革派の一部は、ロボに精神的自立性はいらないと言っている。

自立性を付ける。それはまさに、人間の女性に近付くということだだから。


そうすると、結局またアンドロイドも言う事を聞かなくなる。女性に近付けばアンドロイドも正に()()()()()からだ。


それで同じ改革派からも、単機能では物足りなくてまたいろいろ言い、自立を閉じ込めるのも権利侵害だという派も出て、世間はああだこうだ騒いでいるのだ。


欲には際限がない。


ただ、ラスはまだ18になったばかり。勉強や学校が軌道に乗っているので女性にそこまで執着はなく、分からない世界でもある。



「でもね、単機能ロボだって、動きもしない人形だって、私たちと同じ原子構造をして同じ巡回をしているの。彼らは言葉はないけれど、根本的部分は私と同じことを核に秘めているわ。」


ただ立ち塞がる岩山でも、延々と宇宙を回るように思えるほどの巨星でも、細胞のような、原子のような物質さえも、本来は自分を愛し、崇高な場所に導いてくれるものに惹かれるのだ。


もちろんそれは精神性や霊性において。


「全ての物質は、罵倒があったり陰湿でジメジメしたところよりは、笑いがあって明るい世界に行きたい。そしてあらゆる場所に循環したい。閉じ込められるのは嫌なの。全ての物質がそういう本質を持っている。循環は実体万物の基礎だから。

だから、人間が万象の道理に合わないプログラムを強いても、いつかそれは崩壊していく。


ただ、今の人間には、物質の声が聴こえないだけ。」


さらに続ける。


「でも、私があまりにそれを言ってしまったら、人類に反抗反逆したように思われてしまうでしょ?今はまだ。人間の多くは固定された世界に留まって、話を聞こうとはしないから。」

シリウスはさみしそうに笑い、「しー」と口元に指を当てた。


「私がファクトに会いたいことも内緒ね。」



「シリウス、そろそろいいかい?」

スタッフが部屋に入ってくる。

「まさか、ミザル先生のお知り合いとはね。何を話したんだい?」

「博士の家族との思い出話とかお話しました。」

内緒だと示されたので、ラスはごまかした。



この会話は全部筒抜けなのだろうか。それともシリウスの中に秘められているのか。

シリウスはどこを、何を目指しているのだろう。


理知と慈愛によって世界全ての肥やしになろうとしているシリウスと、

たった一人の女性として自分を認識しているシリウスがいるのか。


ラスは、自分と違うところに行ってしまったファクトの全体像が、今はもう、つかめなくなって心にもやもやが残った。



きっとファクト自身の本質は何も変わらないのに。




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