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ZEROミッシングリンクⅡ【2】ZERO MISSING LINK2  作者: タイニ
第七章 消えたあなた
9/110

7 突然現れた男

※暴力描写があります。



『今日は遅くなるから、迎えはいい。先に寝てろ。』


学校が終わり、夕食前にこんなメッセージがチコから送られてきた。


『大丈夫?』

『他に誰かいる?』


何通かメッセージを送ったが返信が来ない。その代わり研究員のチュラから、護衛もいるしベガスかSR社に頼むから心配しなくていいとメッセージが来た。

『チコは今日何をしたの?』

と聞いたら、談話、カウンセリングと簡単な検査だけだという。


SR社も最高の警備を持っている。彼らの所有するニューロス自体が既に最高の警備の1つで、軍人並みの警備員もいる。


でも何だろう。ファクトの中では胸騒ぎがした。




***




その夜、チコは結局ベガスの護衛と自宅に帰った。


研究室では、SR社から離れていた間の簡単な経緯を話した後、たわいのないような話もした。研究員たちからは、少しメンタルが不安定だから泊っていくように言われたがチコは帰りたがった。



帰る?どこに?

分からない。


ここは一人だ。


あの人を待つのも苦しい。

でも、今、ムギや響を呼んではいけない気がした。



チコの中で何かが騒めく。



護衛たちにはなるべく勘づかせないように平穏を装って、すぐに寝たいと報告も何もせずにベッドに入る。


でも、何かが苦しい。

落ち着かない。


胸の中なのか、魂の、霊の呼びかけなのか、ドキドキしてくる。


何だろう。あの懐かしい感じ。


皮膚と内臓と、肉と、それから自分と霊と、世界とが分離する感じ。

迫っているのか離れているのか分からないあの感覚。



荒野を走る、あの人は誰?


怖くもあり、でもひどく哀愁も感じる。



もう深夜。チコは簡単にジャケットを羽織って、誰にも見えないように気配を消して窓側から家を出る。

そしていつも一人の時間を過ごしている、廃墟のままの建物群に向かった。




***




今日は星が出ている。


夜空を見上げればいつも安心する。チコは少しだけ植物が生い茂った、廃墟の屋上にバイクを止めて座り空を眺めた。

「布団…」

布団を持って来ればよかったと思う。何かに包まれていたい。


その時だった。


ガジっ!と誰かに後ろ髪を掴まれた。

「!」


「よう、兄弟。ずいぶん大きくなったな。」


兄弟?


若い男の声。

こんなふうに後ろを取られたのは初めてだ。全く気配を感じなかった。

もしくはこの不安が気配だったのか。


動かない方がいいと思ったのか、チコは振り向かずに声を掛ける。

「すごいな。ここまで来るのに音もさせないとは。自力で来たのか?バイクを走らせたのか?」

「さあね。お前が動揺していたから気が付かなかったんだろ。」


チコはザッと振り向いて、頭を掴む男の腕を掴んだ。

「!」

男に攻撃を与えられる姿勢で構えるが、相手はニカッと笑って、全く動じていない。



少し顔が見える。全く知らない顔だった。

暗くて分かりにくいが黒くグレー掛かった髪。底のないような暗さなのに…ギラギラした目。そしてチコより少し背が高い。


「なあ、兄弟。」


兄弟?

チコの兄弟と言えば、ファクトでなければ以前の同僚たちか、SR社の同じニューロスだろうか。


男はいきなり掴んだ髪をそのまま後ろに引っ張り、チコの体を叩きつける。

ダン!

「グっ!」

叩きつけても髪を離さない。


その男の腕を掴み、腕に指を入れるか折ろうとした。が、指が入らない。

サイボーグか?!

右手を男の肘の関節に移し、へし折ろうとした寸でで、男はチコを離した。直ぐにチコは身を屈ませ、戻す反動で男の体を脚でつかみ床に叩きつける。


ドダン!

と叩きつける前に腰から銃を抜き、レーザーを入れ込むが男はギリギリで避ける。


おかしい。SR社のニューロスの動きじゃない。

でも、かなり強い。SR社以外でここまで動けるニューロスはそうそういないはず。自分の方が上回っているが、もしかしてユラスの兵でも敵わないかもしれない。

「俺のお里がどこか知りたくないか?」

チコが無視して、サイコスを打ち込もうとした時だった。


「ギュグニーだ。」


「!」

その言葉に、思考が固まる。

それでも動きは止めなかったが、明らかに男が優勢になる。



ギュグニーは『最後の隔離国家』と言われる、荒れ果てた国だった。




***




その少し前。


ファクトも星空の下、以前チコが登っていた、南海広場の競技場の投光器の足場に立っていた。


チコは家に帰って寝てしまったと聞いたが、落ち着かない。

何だろう。同じ感じがする。


チコとシリウスに同じ感じがしたように。


何か重なった変な感じがする。



『ファクト、寝ないのか?どこにいるんだ。』

リゲルから連絡が入る。

「外で涼んでから帰る。」

『この冬にか?』

「うるせー。まだ12時だろ。」

『早く戻って来いよ。』

「ん。」

そう言って着信を切って、また風に当たる。



寮に帰る前に、以前追いかけっこでチコを見付けたあの時のように精神を集中してみた。

チコの霊性を感じ、この不安を解消したかった。


あの紫と、鮮やかなピンクの光。


ラボで父さんがいつも心配していた。

チコは元気かと。


SR社を出る時、無表情だった顔のチコ。でも、大丈夫だよと、父さんに連絡したかった。


「!」


その時、眺めていたビル群の奥の方に、光を感じる。


あちらには人が住んでいないはず。

若者が騒いでいるのだろうか。不法侵入者だろうか?



ずっと眺めていると、その光は紫と…鮮やかな…なんだろう。


チコ?!

でもおかしい。


ターコイズの、でも何か濁ったような…


その光に集中していると、速度を感じさせないような一瞬の時間に、空間の距離感が無くなった。

近付いてくるというのか、瞬く間もない瞬間、そこに飛び込んでしまったかのように光との間が無くなって…


そして弾けた。



パン!

と、また距離感がなくなって一気に空間が元の現実に戻る感覚に陥った。




***




「ガハッ!」

チコは喉に溜まった血を吐いた。コンクリートにめり込むほど、脚に蹴りを受け、左義足を折られる。


「はー!こんな甘い奴だとは思わなかった。」


今は見える。月明りで輝くこの男の髪は濃い黒いシルバーブロンド。男はチコの手脚をつぶしてコンクリートの床に体を蹴り転がした。

「おいっ。血で窒息するなよ。全部吐け。」

髪の後頭部を掴み床に打ち付ける。


「安心しろ。殺したりしない。」

「………」

「やっとお仲間に出会えたのに、すぐさよならする訳ないだろ。なあ?」

もう一度蹴って仰向きにしてチコに乗りかかる。前髪を掴んでさらに言った。

「しかも、こんなに簡単に攻撃をやめるなんて、俺がいい人に見えた?」

「…」


答えないチコに、男は急に真顔になって機械部の脚と体の連結部分に拳を入れた。

「グっ。」

小さな声しか出さないチコを平手打ちする。


「おい、死ぬなよ。殺さないって言っただろ。」

バシっと、もう一度平手打ちをする。

「お前の体はなんでそんなに動きがいいんだ?」

男はチコに聞いた。


「やっぱりSR社だからか?」

「……」

「わりーわりー。歯も折れてないし、顎外れていないよな?喋れるだろ?きれいな顔にごめんな。」


ゴホッともう一度血を吐いたところに…



ズダン!


と強い電流が男の背を走った。


「がッ!!」

と、瞬間のけぞって男が弾かれる。


「チコ!!」

無音でバイクを走らせ、屋上に飛び移ったファクトだった。

「こいつっ!!」

(いか)った男が、ファクトに蹴りを入れようとする。1発目は相手の油断で避けるが2発目が入った。階段出入口の壁に叩きつけられる。


ファクト?!

チコが声にならない声を上げる。


起き上がるが叩きつけられた腕が動かない。

「アガっ!」

ひどい痛みが走るが構える。

男はさっとファクトを掴んでもう一度打ち付けようとしたが、

「やめろ!」

と叫ぶチコの反応にそれを止めた。


「お?なんだ?元気じゃないか。しゃべれるんか?」

「ファ…その子に手を出すな。SR社ニューロス研究の関係者だ。その子に手を出したら、研究がダメになる……」

間違ってはいない。ファクトに何かあったらミザルは今までのように働けなくなるかもしれない。


「…じゃあ腕か指でも折っておこうかな。いい宣伝になるだろ?」

「やめろ。そんなことをしたら、一生怨まれるぞ…。研究どころじゃなくなる!」

「……ふーん。なんなのこいつ。」

「…」


『助けを呼ぼ…』

ファクトは伝心でチコに伝えるが、チコが止めた。

『カウスは絶対ダメだ。この男、簡単に殺る奴だ…。私たちには条件がある。殺されはしない。』

『でも…』

『手を出すな!』


「おい、聞いてるだろ。」

チコが腫れた目で男を見た。

「先にこっちの質問に答えろ。何が目的だ。」

チコが逆に質問したのが気に入らなかったらしい。少し苛立ってがチコの体を踏みつけた。

「ウグッ!」

「こっちが聞いてんだろ?声を出せ。もっと呻けよ。」

「…体か?合わないのか?」

チコが憐れむ様な目をすると、男はまた蹴り上げた。


「チコ!!」

『絶対に手を出すな!!』

チコが強く伝心した。


「…辛いだろ。」

もう一度チコが憐みのように言うと、全く笑わなくなった男の目が完全に据わっていた。

そして、動かないで腕を垂らしているファクトの方に目をやる。殺されるかもしれないと思ったが、ファクトは相手の目をじっと見つめた。


「俺は弟だ。」

ファクトが言うと、男は少しだけ目を見開いた。

「………。」

「…なんだ?ムカつくな。でもまあ…予想外でおもしろいな。今日は機嫌がいいからやめといてやる。」



突然男がベガスの方角を見た。

「…タイムオーバーか。」


そしてチコの方に向き直る。

「おい。チコ・ミルク。あのことはバレるまでこいつに内緒にしておけ。」

しーと人差し指を口に当てる。


そう言うと、どこからか来たバイクに乗ってサーと消えていった。





「チコ…。なんでまたそんなことに…。」

腕を垂らしたまま、チコの近くに行くファクト。歩くと腕に響く。


暗い中でもチコの手脚が幾つか関節で切断しているのが分かった。構造は分からないが、議題部分だと思いたい。

血まみれで横たわっているチコの胸が、突然激しく動き出す。そして変な、大きな呼吸をしだした。

「チコ?!」

ハッハッハッ…と、胸と呼吸が不自然動悸付く。手を握り抑えようとするが止まらない。ファクトは頭の下にジャケットを敷き、服の首回りをどうにか広げ横向きにさせ、自分のコートを体に被せた。横にしたのは、勝手に動く体が頭を地面に打ち付けていたからだ。自分の腕にも激痛が走る。



そこに、数台のバイクが上がって来た。

「チコ!!」


バイクのローライトが照らされる。


カウスだ。


「チコ!」

一気にチコの元まで駆け寄ると、手から光を流して当てながら、反対の手でチコの目をそっと覆った。同時に周りがヘリを呼ぶ。


「チコ様!!」

ものすごい動揺している声もする。

カウスは呼吸を誘導する。

「大丈夫。一旦息を止めて…」


少しすると、先よりは良くなったが、まだ小刻みにすごいスピードで呼吸していた。もう1人が止血をし、担架を持ってくる人もいる。



ファクトはその様子を唖然と見ているしかなかった。




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