87 色の面接
「えー!サルガスとお話しできないんですか?」
「あいつは仕事だから。」
「面談も仕事じゃないんですか??」
「この仕事にサルガスは必要ないので。」
不毛な言い合いをしているのは、チコ、エリスに対するファーデン・パイ。付き添いはウヌクとソア、タウである。タウは大学で既に経理の勉強もしているので、講習から外れてこちらに来た。
「それにしても先週落ち込んでいたらしいのに、よく来たな。パイ。」
サルガスの婚約を聞いてもう諦めたと思ったのに、またベガスに来るとは。
「サルガスの相手を見収めないと結論が出ない!!」
チコの食って掛かる。
「もしかしてそのために来たのか?誰と結婚しようがサルガスの勝手だろ。」
みんな聞きながら、婚約相手に会いに来るなんてすごいな、と思う。ベガスでドロドロしたのはやめてほしいと思いながらも、そのエネルギーに感心する。空気だから会えるわけがないけれど。
「それ以外何のために来るの?!」
「残念ながら、相手はパイが仰ぎ見ることもできないような相手だよ…。」
「…何?私をバカにしているの?!バカだと思ってる?」
「残念なことに私たちもお目に掛かれない…。」
「…。」
真剣に言うソアに、沈黙の後ベガス陣がみんな頷く。何せエアだから。
「何?どっかのご令嬢とか?」
「それは秘密。」
「俺も気になるな、それは。後でサルガスを問い詰めよう。」
ウヌクも気になるところである。チコがタウやソアに「黙らせておけよ。こいつ」とサインを出す。
「ところでパイさん。」
エリスが場の雰囲気を正した。
「少しプライベートの話をしたいのだが、知り合いたちはここにない方がいいか?それとも一緒がいいか?」
書類に目を通してから、エリスがパイの顔をじっと見た。
「そんなに後ろめたい過去もないようだし…。」
「…?よく分からないけど、お二人にひどいことされそうなので一緒がいいです。「そんなに」ってなんですか?後ろめたい過去ってなんですか?私ないんだけど。そんなの!」
謎のベガスと言う場所の事務所で、面談官であるエリスとチコだけにされたくない。嫌なことをされた時に証人もいる。
そこでチコが話し出す。
「…えっと、昔、サルガスへの覚悟の不意打ちキスが失敗して、耳下になって怒って帰ったことぐらいかな。」
「へ?!」
チコが言ってしまうので、驚くパイに、さすがに戸惑うエリス。そういうプライベート過ぎる事をみんなの前で言ったらかわいそうじゃ…。
ただ、その時泣いてアストロアーツにグチりに来たので、ここにいるメンバーはそのことをみんな知っている。まさか当時は付き合っていないとは思わなかったので、「ツィーひでえな」とみんな思っていたが。
そう、パイは付き合っている既成事実を作ろうとして、けしかけ断られたのだ。
「ちょっ!ソア!そんなこと話したの??!ここの人たちに?!」
ソアたちの方を見てパイは立ち上がって怒るが、ソアとタウは否定する。
「私、そんなこと言ってない!他人に話すことじゃないし!」
本当に話していないし、そんなどうでもいい話もう忘れていた。
「見えるので。」
すると、チコが当たり前のように言うので、パイとウヌクは黙ってしまう。「見える」とはまさに「霊痕などが…見える」ということである。過去さえも。
「…うそ…。」
実際見たのは、チコでなくエリスなのだが…。エリスも普段はそこまで強い霊視はできないが、波長が合えば色々見える。
チコは今度はウヌクの方を向いて言う。
「ウヌク。折角なのでおまけで。
…今まで3人彼女を変えただろ。全部が全部はっきりと見えないけれど私はモヤと色で見える。1人目はあまり見えない。2人目は黄色と部分的に青い…かな。3人目は赤で白いのは文字?
それから…、過去に何回かハッパを進められたな。でも断っている。それはよくやった。それがなかったら、アーツ内部には一切手出しさせないし、多分霊線的に私たちと縁もなかった。」
「………。」
ウヌクはアーツと大房の仲介をするという事で、一応履歴書は出してもらっていた。ペンを机に打ちながら履歴書をじっと見ているチコに、パイは大人しく座った。
「何で履歴書を見るの?本人が前にいるのに。」
「生年月日、名前、文体や写真でも分かる。霊とか運周りとか、癖とか、過去とか、先祖とか…。何に取り憑かれているのかも…。」
息をのむエリス以外のメンバー。
「ただ、その当人より強くないと、見えなかったり捻じ曲がって見えたりすることもある。それで、よく世界を錯覚する者がいるがな。自分は霊が見えるので特別な人間だと。それは本来誰にでもある力だ。あくまで自分のフィルターがあって見ていると思うくらいがいい。相性もあるし。」
エリスがもう一度、場を仕切る。
「パイさんは動機がサルガスにある以上、アーツとしては雇えない。多分、そんな動機で来ても直ぐ挫折する。」
パイが警戒している。ウヌクも、霊性の強い人間たちがいるとなんとなく話は来ていたが、ここまではっきり分かるのかと息を飲んだ。大房の学校教育では霊性が開花できる人間が少ないのだ。
先のチコの回答を言えば、1人目の彼女は付き合ってというだけで、最後の深い関係まで行かず自然に終わった。2人目の黄青は多分チアチームの大会で着ていた淡色ユニフォームで、3人目の赤はバスケの濃色ユニフォーム。ナンバーが白だった。答え合わせはウヌクの中だけでしたが、ため息をついてしまう。
なお、ウヌクはフリーの時はそれなりに遊んでいる。
「あと…ウヌク。明るいピンクとレモン色が見える…。まっすぐな…。何だろ?色情でもなさそうだし…。」
「…!」
それは、定規で引いたピンクと黄色の蛍光ペンだと分かったウヌク。小4の時から愛用して、テキストやノートはその線だらけだが、なんだか恥ずかしいので言いたくない。あの頃は定規まで使って、非常にこまめであった。
「珍しいな。男でこんなに色が鮮やかで多いのは初めて見た…。」
チコの言葉に目を丸くする。
「お前、全身黒ずくめなのにな。
まあいい。こんな感じで、ここではけっこう明け透けに見られる。合う合わないがあるけれど、そうだな…。私はパイとは結構気が合っぽい。」
「は?あなたと気が合う??」
パイの方が驚く。なぜチコと合うのだ。
「いろいろ伝えたいことがあるんだ。パイというか…私はサルガス関係と気が合うのかな?」
「あなたとサルガスが合うっていうの?!」
激怒のパイ。
「…勘違いするな。仕事の話だ。縁があるから繋がる。どうする?」
「話をしてみたくないか?ご先祖様とかと。」
チコは笑みを浮かべた。




