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ZEROミッシングリンクⅡ【2】ZERO MISSING LINK2  作者: タイニ
第十四章 in ベガス2

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84 エア婚約者



久々に大房に来たサルガス。


大房との会合も最近は南海で多く、商工会の時くらいしか行かなかったので、かつてのプライベート空間に行くのは久しぶりである。


「というわけでウヌク。ベガスに関わるならベガスの女性に一切関わるな。そうでないならベガスに来るな。大房で好きにしてろ。」

ふーんという顔の、今日は昼出勤のアストロアーツ店長。

「でもアンタレスは法治国家じゃん?それ以外のルールで裁けないだろ?」

何言ってんだ、こいつ。法治国家だからこそ厳しいのに。

「大人同士の付き合いにすればいいってことね。」

「お前と全く価値観が違うから、ベガスは。」

頭の痛いサルガス、タウ、ソア。


多分あの人たちが本気になれば、ウヌクなど法的に闇に葬れる。


「まあ、これを読んでおけ。他人に送るなよ。」

やはりこれしかない。『傾国防止マニュアル』を渡す。

「ベガスに出入りする以上、こっちの理念も理解してもらう。組織運営の事も分かるから。大房基準では大房を出たら他の地区でも何もできないからな。相手の合意でもお前がアホなことやらかしたら、世界配布のマニュアルに事例として載せてもらう。覚悟しておけ。」


「あと、お前に響さんは無理だから。」

「なんで?」

「性格的にも環境的にも能力的にも持て余す。…てか、なんで響さんはモテるんだ??」

遂にチコと同じことを言い出すサルガス。

「かわいいし。」

「かわいいなら響さんじゃなくてもいいだろ。パイもかわいいだろ!」

「やめてよ!ウヌク嫌い。ウヌクにそんなこと言ってもうれしくない!」

店内にいたパイが怒るが、うれしさも込み上げる。

「はっ!私の可愛さは認めてるってこと??!」


とにかく問題事を起こしてほしくないタウが説得。

「ウヌク。ベガスは実験都市で出入国管理地域だからな。あまり変なことすると入出禁止になるぞ。あそこは軍も特殊公安もある。」

「…そうなの?」

コウアンって何?と思いながらも軍の一言に、何かやらかしてはいないかパイが突然不安になった。ある意味いろいろやらかしてはいるが。



「でも俺は頑張ると決めた。」

「は?何を?」

「大学…。」

「…」

みんななんだと思う。


「…何を?」

「だから大学だって!部分講義。」

「…お前の妹が?」

「俺、妹いないじゃん。何言ってんの?」


「はーーーーーー!!!!」

アーツ3人声をそろえる。知るか!

バゴ!

ウヌクの頭をサルガスはメニューで叩く。妹のためにと響に近付いたのに。


「お前マジで連行されろ!ファクトに頼んで1億7千万のおっさんに連れて行ってもらえ!!」

「なんだよー?勤勉なのはいいことだろ?」

「お前が何勉強すんだ?!」

「キョウ先生の講義…と言いたいところだけど、サイコスっていうの?俺も習いたい。霊性の方でもいい。」

「それは倉鍵辺りの高校でも行って学び直せ。頭は悪くないんだろ?…不純な原動力で生きている奴には多分教えてもらえんぞ。登録もいるし、定期検査必須。霊性も見られる。それも記録に残って匿名でいろんな機関に使用されるからな。」

凶悪犯罪は実名である。


「何の話か全然分かんない。」

最後にパイがつぶやいたところで、ドアからサルガスの元の彼女、ユンシーリが現れた。

「はーい。みんなお久。」

きれいめダンサーではなく、足腰しっかりして力強い、でも色気も出ているタイプの女性。


「………。」

チラッと見て机に伏せ、サルガスは嫌そうだ。会う気はなかった。先に返るつもりだったのだ。

「あれ?タウもいるんだ。はーい!ソアも結婚したんだっておめでとう!」

「あ、どーも。」

「ありがと。」

「ツィーは?」

ここっとみんなが指を指す。


「照れてるの?かわいー!」

こんなサルガス見たことがないのでうれしそうだ。

「そんなわけないよ。なんであんたに照れるの。」

パイが毒づく。知り合いに会うと切った髪を見られる度に反応されるので、それが嫌なだけである。


「ツィー?」

サルガスに触ると、触るなと跳ねのけた。でも伏せてても仕方がないので、観念して起き上がる。

「……。」

「………ツィー?」

みんなが頷く。


「うそー!!年相応だったんだー!!幼い―!」

この反応は初めてである。ただ、幼くはない。

サルガスは間髪入れずに話し出す。

「パイに聞いたけど、今、率直に話す。」

「何?私に挨拶もないの?」

「ない。俺はもう新しい生活をスタートしたから。」

取り入る隙も作らないので、ユンシーリは少し不機嫌になった。


「私が悪かったと思ってる。あの頃は若くていろんなことがまだ分からなかったから。」

ユンシーリの言葉に、なぜこんなベタなセリフを聴かねばいけないのだと思ってしまう。


「向こうでうまくやってんだろ?ならお互いそれでいいだろ。俺も上手くやっている。」

そしてなぜ自分もみんなの前でこんなベタな話をしているのか。サルガスは帰りたい。

「もう私のこと好きじゃない?」

「…好きとか嫌いだけでなくて、別の価値観ができたから。」



ベガスで出会った大切なものをみんな守りたい。

自分はその一環しか担えないけれど、その先は全部に繋がっていくと知ったから。



トラックに押しつぶされていたチコを思い出す。


チコが助けた学生も、チコも絶対に助かってほしいと思った。

命はいつ消えるのか分からないのだ。そして、他人のために楽しいとかうれしいという感情を知った。そういう生き方をこれまでしてこなかったから、残りの人生で少しでもそういうものを残したい。



そしてずっと昔、アストロアーツ(ここ)にミザル博士が来たことも思い出した。


始め彼女は、ファクトを大房に来させないでと言っていたが、よく話し合って認めてもらった。


ミザルはいつも命の瀬戸際を見るような、張り詰めたギリギリの顔をしていた。子供を見てあげたいけれど、仕事はどんな些細なことも避けられない。そして、もうシッターの手元では収まらない小学生。


抱えきれないものを持っているなら、抱えきれない分ファクトたちを預かってあげたいと思った。


ここまで来たなら、大房を手放しても何かに生きる人たちを助けたい。



パイがユンシーリを煽って、ふと現実に戻る。

「あ?何?もう仕事なくなったの?それともいい男いないの?デイスターズなら大房なんかよりいっっっぱいいるでしょ?」

煽るなとソアが横から叱るが、パイは得意そうだ。デイスターズは、東アジアで2番目に大きな都市で、エンタメ、音楽産業は向こうの方が盛んだ。

「仕事は順調だよ。今回も仕事断って来たし。」

顎をついてため息をする。


ただ、ユンシーリは長く気持ちが満たされなかった。デイスターズでの、ただ空いた気持ちと時間を埋め合わせるためだけに男女が付き合うという関係は、なんだかんだ言いながら未来を描いていたツィーの時とは違う。生きる根本的な考え方がツィーは違った。



でも、こういう件をもう終わらせたいサルガスが動き出す。


今は移動が決まった河漢の住民の移転先を整え、引っ越しの調整をしていきたい。


機能性が低い小学校に見切りを付け、教育など積極的にしてくれる層から、河漢中央学校の拡大や、南海の横に新しい学校区画を作り案内していく。住民には一定の生活教育が必須で事前教育に加え、半分は南海でなく移転先で行い、藤湾の学生やOBたちが講師を務めていく。

住宅設備の方も委託会社や行政と調整がいるし、早く他のリーダーたちと打ち合わせをしてタイムテーブルを立て直したい。


現在サルガスは頭の隅まで仕事の鬼であり奴隷なのだ。早くそれを進めたい。ここはもう結論が出ている。2人一度に分かってもらいたい。


「俺さ。もう結婚を決めたから、これ以上はその人としか何もない。」

と、言ってしまった。


「?!!」

驚愕の一同。タウたちですら驚く。初耳だ。


「え?あの話ってほんとだったの?!!」

パイとウヌクが驚く。

「俺らをまくためだと思ってた!」

バレていたのか。それは当たりだ。言わないけれど。


ちょっと目が浮くが、3人に向かって頷くタウとソア。

「誰?!」

パイが泣きそうだ。

「お前らの知らない人。」

自分も知らないけど。


「めっちゃいい人。」

とりあえずソアも言っておく。未来にいるかもしれない奥さんに向かって。

「俺もいい人だと思う。まだこの話、知らない人の方が多いけど。」

エアじゃん…。なんか俯いて笑ってしまうタウ。エア彼女を褒めている自分。


「…………。」

言葉がなくなってしまったユンシーリ。


「最近サルガス、モテるしね。アイドル、モデル顔負けの超美人な子に惚れられてたし。」

決定打を付け足すのを忘れないソアである。

「ぅうう…」

パイがすすり泣きを始めた。


ちょっとかわいそうなので、ソアは泣き出したパイを慰めてあげる。

「パイ。今度歌聴きに行ってあげるから泣かないで。」

そう言うと、余計に本格的に泣き始めてしまった。ソアは、パイが中学生の時からサルガスを好きだったことを知っている。

「パイ…」


ユンシーリは少しの間黙って、何も言わずに外に出て行った。




***




土曜日、チコは非常に痛烈なミスをしてしまった。


ここはVEGAの事務局前。


サダルに会う前に、おまじないのように何度か見直すいつもの折り目だらけのA3用紙。それを念入りに確認していた時、部下に「早く」と声を掛けられた。

そして、それを急いで胸元にしまったとたんに落としてしまったのだ。だが、安心と動揺が合わさって珍しくそれに気が付かなかった。




「ん?」

暫くしてキロンが通りかかり、何か落ちていると拾う。


ゴミかな?と事務局前だし念のため…と、誰かの落とし物かチラッとだけ確認…

…!!え?!


「ああ!!」

硬直のキロン。

「何?」

「なんだ?」

一緒にいたジェイやファクト、リゲルが覗き込み、ラムダも横から顔を出す。


「!」

そして思わず内容を見てしまった全員が、異次元に飛ぶ。


「のわっ!!」


「ちょ!待て!それ畳め!すぐ!!」

ジェイが周りを見渡し慌てる。


「…チコさんマジ?」

心配そうにリゲルがファクトを見るが、ファクトはキョトンと見ていた。

「知らない…。」

「ジェイ………どうしよう…。」

キロンが真っ青になっている。

「これは本人のだよね?本人に返すべき?カウスさん?サラサさん?サルガス?イータ?」


「誰かがチコさんたちを貶めようとしているとか。」

「俺らチコさんの直筆知らないし…見分けられない。」

正直汚い字だ。

「サラサさんに渡す一択だろ。これ、チコさんに返せるか?本人のかも分からないのに…。本人の物としてもチコさんも、俺らにこんなの渡されても困るだろ。」

リゲルの答えにみんな土曜出勤しているサラサを探す。

「いたいた。」

「どうする…?」

「ヤバいだろ。今渡すしかないだろ。」


みんな心を決めて、サラサの方に向かった。



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