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ZEROミッシングリンクⅡ【2】ZERO MISSING LINK2  作者: タイニ
第十四章 in ベガス2
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81 窓の向こうの星空



「キョウセンセー!」


研究室から戻って来た響は、アーツが集まっているという事で顔を出しに来た。そこで見覚えのあるツイストスパイラルに呼ばれ顔を向ける。

「えーと、クルバト君のお友達だっけ?大学のお話しっかりできた?」

先、会議が終わった一同が、この話の矢先に何だこの男は?!とウヌクを見る。響さんに話しかけるな!!と。


ソアに様々説教された後、ウヌクは大人しく会議が終わるのを待っていたのだ。

「できましたー!俺も部分学習で大学行こうかなー?」

「アーツの店長さんなんでしょ?向上心強いんですね。」


「………」

少し離れたところで唖然と見ているキファ。本当にこの男はアホなのか。大人しくアストロアーツで巣ごもりしていろと言ったのに、なぜ今、活動期に入るのだ。先あんなことがあったサダルがいるこの時期に。


「何を習うんですか?アストロアーツって行ったことないけど、整備屋もしてるって聞いたから機械のお勉強?…あれ?生物でしたっけ?」

「アーツに来たことないんですか?今度遊びに来てください。奢りますから!」

「ホント?じゃあファクトやリーブラたちと今度行ってみようかな?」

響としては、タラゼドの住んできた地域なので気になるのだ。


戦慄するアーツ。響はあの宴会の時、ウヌクのナンパに気が付いていなかったのか?あれは天然行動だったのか?今まで響の周りにはどれだけいい人しかいなかったのだ。それとも、シンシーのおかげか?


「あーいいよ。キョウ先生だけで。俺が迎えに行くから!あいつらいらない。」

「でも、一人でそういうお店に行ったことがないから…。」

「え、一人でジャンクなお店に入ったことないの?本当にお嬢様学校出身なんだね。いろいろ教えてあげる。」

ウヌクがあんなに喋る生物とは知らなかった一同。イオニア現象が起こっているのか。

「かわいそうだね…。セレブまっしぐらな人生しかなかったのに、講師になる時に大房なんかと時期が噛み合っちゃったゆえに、俺やあいつらに絡まれて…。」

「え?え?」

イオニアより顔の距離が近過ぎ、さすがに後退りする響。


「リップどこのですか?舐めて当てましょうか?」

「?!」

あまりに突拍子もないことを言うウヌクに、「うわ!人前で変態だ!」と思う純情な妄想チーム。なぜあんことを言って通報にならないんだ。

「リップは塗っていません…。」



「どうする?あいつ締めます?マジで警察に突き出します?」

先、とことん話をしたソアがキレそうだ。

キファが動くとひと悶着ありそうだしと、サルガスが動いた瞬間…。


バゴン!とウヌクの頭に、鼻炎でティッシュを持ち歩いているメンバーのティッシュ箱が当たる。

あてっ?という顔をするウヌク。


そして振り向くと、そこにいたのはめっちゃくちゃ怒っているのはムギであった。

「監視カメラさえなければ、ショートショック一発ぶち込むのに…。」

「………」

は?なんだ?ケンカ売ってんのか?という顔でウヌクは睨む。

「この前のガキか…。」

「響もこんな奴、相手にしなくていいよ!」

「……そ、そうみたいだね。」


ムギはウヌクに振り返る。

「本当にお前の体に風穴開けられるからな。」

「ああ゛?」

「蹴りでもいいぞ。」

「はあ?蹴りで敵うと思ってんのか?その短い脚で?」


ウヌクがムギに張り合おうとしたところでタウに引っ張られていく。

「あ?タウ!離せ!生意気だから少し分からせるだけだ。」

「中学生に何を言ってんだお前は!それに、その子には多分お前も敵わない…。」

「は?そんなわけないだろ!」

「こら!そいつどこに連れて行く気だ!」

ムギもムギで怒っている。



そして、サルガスが響のところに来て、少し小さな声で気を遣って言った。

「響さん。申し訳ないのですが、暫くアーツの集会や集まっているところに顔を出さないでほしいのですが………」

「…っ」

少し驚いた顔をするので、サルガスが慌てて弁明する。

「あの!響さんが悪いわけではないんです。こいつらがしょうもないので…。実はサダル総長からも男女問題が緩いという事でお咎めを受けてて。少なくともしばらくは……」

「……」

「響さん?大丈夫?」

サルガスは、少し下を向いてしまった響の顔をのぞき込む。

「響さん…?」

「いえ。自分が悪かったです。イオニアさんやキファ君の事とかで分かってたはずなのに…。ごめんなさい。」

「響さんのせいじゃないから………。」



響はみんなに礼だけすると、サッと会議室から出て行き、ムギが追いかける。


「あ、サルガスが響さんを泣かした。」

「ひどすぎる。」

男子どもがうるさい。

「…泣いていないし、お前ら子供みたいなこと言うな。…リーブラ、フォローしておいてくれ。」

「…うん。」


実は響はアーツの大口の特別賛助会員である。組織申請した時に入ってくれたうえ、たくさん知り合いも誘ってくれたのだ。なので無関係な人間ではないし活動を見守る立場でもある。響の父や母方の会社はVEGAの大型賛助会員であった。




***




その夜、チコは大人しく家にいた。今は夜も外に二人の護衛が付いているし、家の中にも女性兵が控えている。


あんなことがあった後ですら、廃墟の屋上に行きたかった。でも、夜11時以降はどこにも出してもらえない。窓には全部カメラが付けられ、ビーも配置された。


あそこは星もきれいで落ちつく、ただひとつの一人になれる場所。



このマンションにはトレーニングルームもあるが、そんな気にはなれない。でも何もしないのも落ち着かない。


明るい部屋が苦手でいつも電気は消してある。



チコは地位が与えられるまで、このベガスに来るまで、柔らかい掛け布団も知らなかったし、横になる自由もなかった。横になっていいのは決められた睡眠時間と激務の中の仮眠、そして怪我をした時と研究室だけ。

好きなだけ使っていいタオルもなかったし、バスタオルなんて研究所で用意される以外は、結婚後初めて見たのだ。はじめは小さな掛け布団かと思ってしまったくらいだ。食器洗浄機やオーブンレンジなども使い方が分からないし、湯舟の入れ方も入り方も勝手も知らなかった。


結婚してからも一時期が過ぎたら、またほぼキャンプ生活。時々首都などに戻ればハウスメイドが全てしてくれる。


一人になってどうやって暮らせばいいのかも分かららず、ベガスの寮に入りたいと言ったらそれはそれで許されなかったので、少しの間ユラス女性の家でお世話になり、それからこのマンションに戻った。



キャンプをしていた頃が懐かしい。


自由はなかったが、戦時中でなければ夜起きて外を出歩くぐらいはできた。

眠れないと知って、一緒に撃ち合いをしてくれる仲間もいた。



ビターブラウンの髪を持つ、緑の目のカフラー。


彼は時々家族の話をしてくれた。自分は家族というものを知らなかったから、彼の話は昔どこかで聞いた物語のようで楽しかった。軍にいたみんなに自分の家とか、祖父母、父母、兄弟というものを教えてもらったのだ。

カフラーが自分のそんなお父さんとかお兄さんだったらよかったのにと、いつもそう思っていた。



そう言えば…、あの男は自分の弟だと言っていた…。

グレーブロンドの彼はどこにいるのだろう。


暗い部屋で半分横になりながら、ソファーから星を眺める。



その時、玄関が開く音が聞こえた。

「?!」

許可もなく入ってくる人間は彼以外いない。


ばっと体を起こすと、サダルがいる。

「電気も付けないのか。」

そう言ってサダルはリビング入り口で、こちらを見ている。


言葉のないチコ。


「電気は付けた方がいいか?付けない方がいいか?」

「……つけなくていい。目が慣れれば見えるから。」

そう言ってまた外を見る。


「……………」

沈黙が続くが、サダルが先に聞いた。

「……首都でなければ…ユラスのどこかに帰りたいか。」

首都にはいい思い出がない。

「……いや、もうユラスには何もないから。」

自分にいた部隊も、カフラーももういない。オミクロン軍にも帰れない。


サダルは後ろのダイニングの椅子に座った。


「………。申し訳なかった。」

「…………」

「大変な時期を一人にさせたと思う。」


「………死んだら終わりだけど………それでも生き残ったのは私たちだから………。」

チコは窓のどこを見るでもなくそう言った。

サダルも捕虜になり、戦友をそこでも失ったのだ。サダルを責める気はない。



「…それに、()()()手を離したのは私で、謝るのは私だから…。」

「あの時…?」

サダルは何のことか分からない。

「あの時…。ヘリが出た時、………手が握れなかった…。」

「………。」


最後の脱出のヘリが来た時…。サダルは思い出してため息をつく。

「もういい。終わったことだ…。」

「………」

「戦場のような場所ではみんな1つや2つそういうものはあるだろ。」

「………私たちの場合、過ぎたことでは済まされない場合が多い。」

サダルの言葉を否定する。

「……そうだな。」

「………」

「……でも、彼らが敢えて私たちを優先的に生かしたんだ。意味はある。」

チコは何も答えない。



「………今日は戻る。明日会おう。明日、集会が2つあるだろ。ベガスでの集会なら大丈夫か?」

「……」

暗闇で頷いた。


それだけ言うと、サダルは顔を見合わせることもなく去って行った。



窓を見たままチコはそのまま目を閉じた。



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