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ZEROミッシングリンクⅡ【2】ZERO MISSING LINK2  作者: タイニ
第七章 消えたあなた
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6 うっとおしい見送り



次の週の月曜日朝。



先週のトラックの事故で後回しになっていたSR社に、チコは遂に行くことになった。


けっきょくバイクにするが、今回はなんとファクトの運転。

この前免許を取ったのだ。

「行こう。」

珍しく全くの私服のチコが出てきた。今日は、ミリタリーモッズコートにブカブカのトレーナー。簡単なボトムス。


「チコ、おはよ。」

「おはよう、よろしくな。」

「うん。」

事務局に近い入り口の前。見送りはサラサ、カウスとサルガスやイータなど一部のアーツメンバー。と…

「私も行くー!!」

という誰か。

は?という顔をするチコ。向こうからムギが来た。

「誰がムギに知らせたんだ。」


「私も行く!」

目の前まで走ってくる。

「ダメだ。学校に行け。」

「ファクトも学校は?なんで二人なの!」

「家族の付き添い。」

「ミザル博士だって家族なのに!あっちにいるじゃん!」

「ミザルは仕事だろ。それにファクトだってずっといるわけじゃない。見送りだけだ。」

「いつもファクトばっかり!ばか!」


「ムギ。今日は我慢しましょう。」

カウスが手を引っ張る。今回カウスは行かないが、少し離れた場所で数人の護衛がSR社まで同行している。

「離せー!カウスさんのバカ―!」



騒がしいので朝練をしていたアーツメンバーが遠目で見ていた。

「チコさんが私服っすよ!」

いつも私服なのだが、普段は戦えそうな格好をしているので戦闘服と言われている。ただのスポーツ系ウェアなのだが、チコの場合はなぜか戦闘服だ。同じ服をサラサが着たら先生、リーブラが着たらコンビニ行く用の服とか部屋着、ソアならヨガウェアと呼ばれていただろう。


「え?私服?超センスの悪いチコさん見てみたい!チコさん世の中に興味なさ過ぎて、私服ひどそう。」

「それは見たい!」

イオニアやキファも寄ってくる。

「スーツや制服を脱いだらダサかった系ですか?!めっちゃ興味深い。」

一度大房に帰ったローもまたベガスにいる。

上司を貶めるキファたちに、横でキロンがイヤそうな顔をしているし、なぜか増えている藤湾のユラス系学生たちがどういう顔をしたらいいか分からなくて困っている。


そこにファイがキラキラな感じで見つめてきた。

「ダサいチコさんいる?!そんなの見たら寝れない!かわいい!尊い!鼻血出そう!」

チコをダサいとかかわいいというアーツにさらに恐怖を覚える学生たち。


「別に普通の格好ですよ。女版ファクトみたいな。コートはファーコックだな。」

クルバトが一瞬で分析するので、みんながっかりする。


「本当にアホしかいないのか?」

レサトが寒い目だ。



チコは多分、いや絶対元アーミーなのだが、今日は私服でもプラスちょいミリタリーな格好をしている。

「………」

少し考えて全員合点がいく。


ファクトの趣味……

「プレゼントか!」

「プレゼント!」

みんな声が揃った。


先週ファクトが、プレゼントとか言って持っていた袋はそれだったのかと思うアーツ。父ポラリスがチコにいろいろ買ってあげてほしいとお金を送ったのだ。買い物はしたくないというので、身長だけ知っていたファクトがまとめて買って来のである。メンズ系の店の袋だったので、周りは本人の服だと思っていた。


「ひどーーい!チコさんたち、試用期間が終わった時、何がほしいか聞いても一切受け取らないって言ったのに!」

ファイが怒っている。事務局への花束しか受け取らなかったのだ。

「超萌える服プレゼントしたかったのにー!!」

どんな服だと思う一同。おそらく、藤湾のまじめな学生たちには想像もつかないようなものをあげようとしていたのだろう。受け取らなくて正解である。



騒いでいたら、ファクトとチコがバイクでこっちに走って来た。

「お前ら何をしている。」

ろくなことはしていないだろう。

「チコさん、どこ行くんですか?」

「ちょっと用事。」

「デートですか?!私も連れて言って下さい!!3人乗りしましょう!」

「違法だろ。」

ファイが壊れている。

「大人しく仕事に行け。」

「チコさんひどーい!私、言いたいことがいっっっぱいあります!」

「私は無い。」

「ばかーーー!」

なぜか泣き出した。


「イオニア、慰めてやれ。」

「いやです。」

「全く。他の場所から出ればよかったな。」

「チコさん、本当に鬼ですーー!!」


「ファクト、AIと安全装置ローにしろ。運転見てやる。」

「ここ?」

「そう。1人で乗る時は入れろよ。」

前に乗り出してチコが指示する。

「ファクトもバカ――!いつもチコさん独り占めーー!!」

「なんで俺たち朝からバカバカ言われているんだろ。」

ただ、送ってあげるだけなのにファクトは納得がいかない。


「ファクトはムギちゃんにも抱き着かれていいね。」

出発間際にソイドがいらぬなことを言う。

「後ろ抱き。」


「!!?」

みんなの視線が一斉にファクトに集まった。チコも思わずファクトを見る。


「抱かれてはいない……」

頭がもたれ掛かっただけである。

()()いない?」


「後ろ抱きとかヤバいな。」

イオニアに叩かれるキファ。

「チコさんの前で言うな。」

チコもキレかけで小声で言う。

「学生の前でも言うな。」

「ごめんなさい…。」


「じゃ!」

しかしファクトは全部無視。ヘルメットを被ると、二人は一瞬で飛んで行ってしまった。

「めっちゃスピード違反ですよね。」


向こうの方ではムギがカウスにまだ怒っている。



何気なく見送ったが、この1日がチコたちの変わり目になるとはまだ誰も思っていなかった。




***




ファクトが思っていた以上にSR社は大騒ぎだった。



「チコ!チコ・ミルク様が本当に来ました!」

受付の連絡の声がおかしい。


ファクトには、おそらくチコにも聞こえているが、裏で、

『絶対に帰らすな。』

『何日居れるんだ?』

『心星ファクトと来ています!』

『どっちもまだいるだろ?』

『第3ラボに連絡しろ!』

など騒いでいるのが聴こえる。


『だから来るって言ったでしょ。』

ミザルの声も聴こえた。

『チコの意志を優先するから。』


表向きは普通に客を迎える感じだったが、波長が合うのかここの声はファクトに聞こえやすい。一応正面玄関からでなく、裏から入ったのだが、それでも目立ってしまった。


そう言えば自分もここの『ジュウシー君』だったと思い出すファクト。正確にはミザルは第3ラボの住人だ。倉鍵の研究所は、宣伝用メインラボの役目も果たしている。それにしても、フェニックスでも鷹でもないのに、ジュウシー君が来たところで何がそんなに騒がしいのか。


「ファクト、おはよう。」

ミザルとも付き合いの長い部下のチュラがやって来た。

「おはよう。」

ミザルがファクトに軽くハグをして、チコの方を向いた。

「チコ、おはよう。来てくれてありがとう。」

「おはようございます。」

ミザルに続いてチュラも挨拶をする。


「おはようございます。」

無表情でチコが返した。

「大丈夫。今日は状態を見るだけ。ファクト、朝ごはんは食べたの?」

「ミルミール入れて牛乳飲んできた。」

ミルミールとは栄養を付加したココアドリンクだ。

「そっちでちゃんとモーニング取りなさい。」

「学校に行くから。チコは食べた?」

「チコはチェックが終わってからね。」

まだ食べられないようだ。


「チコ、体を変えたのね。」

「………。」

チコの目が不安で揺らいでいるのが分かる。

「少しお話をしましょ。これから検査に入っても大丈夫?新しいラボのメンバーを紹介しないと。」

「………」

「大丈夫。前の先生たちも来てくれているし、信頼のできる子たちしか揃えていないから。」



「今日終わるの?」

ファクトがチュラに聞く。

「また来てくれるならね。本格的なことはここではできないから今度第3ラボかな。」

「…終わる頃に連絡下さい。」

「分かった。」

3人が手を振って研究ルームの方に去っていき、ファクトはチコが見えなくなるまで見送った。よく見ると、フロアの横でユラス軍の護衛が待っていた。




静まり返った通路。


『ファクト君の方は帰るのか?』

『なぜ2人が一緒なんだ?』

『今、ベガスにいるらしい。』

など、まだ声が聴こえる。


そして、普段揺れないチコの、不安そうな感情が伝わって来た。


考えてみれば、ミザルが最初から出てくる時点で特別待遇だ。数年間直接見ていないので、状態を見て良くしてあげたいというのが呼ばれた理由だ。


まだファクトも知らないことだが、チコは世界中で最も成功した強化ニューロスサイボーグ完成体の5人のうちの1人だった。ユラスなどの他の強化体は、そのベースを引き継いでいる。その中で戦闘能力はチコがトップとなる。そのうち2人は既に死亡。この5人は一般の義体化とは、根本的に目的も性能も違った。

そして膨大な研究費と人員などが掛かっていた。死んだ場合、遺体も連合国の監視下の元、SR社が回収することになっている。加盟国以外で死んだ場合も全世界国際条例で、基本は統一アジアに引き渡しになる約束だ。

そもそもユラスがここまで関わらなければ、チコは統一アジア連合の研究室所属だったのだ。



もう少し付き添った方がよかっただろうか。


でも後は、ユラスの護衛がいると聞いている。

ファクトは今までまじめに祈ったことはなかったが、少しだけ祈りを込めてSR社を後にした。




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