表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ZEROミッシングリンクⅡ【2】ZERO MISSING LINK2  作者: タイニ
第十四章 in ベガス2

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

78/110

76 総長、ベガスに現る

※残酷描写があります。



「お前ら裏切り者!」

「………。」


怒っているチコに、返答のないの部下たち。付き合っている暇はないのである。


ただ一人、自称非戦闘員のアセンブルスは仕事をしたまま答えた。

「タニア辺りにでも逃げる気でしたか?」

「………。」

「とにかく、空港に迎えにいかなかった時点で、既に問題になっています。」

「子供じゃないんだから必要ないだろ。それに私が、夫をかわいく待っている人間に周りも思うまい。」

「これがファクトだったら尻尾を振って待ってそうですがね。あ、空港どころか現地まで迎えに行くでしょうか。」

「……」

無言になるチコ。




***




一方、サラサは早朝にアーツを招集した。


「今日から1週間の予定でVEGA総長、総監サダルメリク・ジェネス・ナオス氏が訪問されます。ベガスでは自治区域長。チコさんが代理していた総長でもあります。ユラス族ナオス族の族長に当たり、ユラス民族の全議長でもあります。」


講堂がざわつく。

実はリーダーたちには前もって言ってあったことがある。『とにかく気を付けろ』と。


「全体を確認するまでは、現総長も含めて役職はそのままにするとのこと。ユラスの方もその方針でいるらしいので、今すぐ状況が変わるわけではありません。

そして、きちんと説明していませんでしたが、現総長チコさんの夫で、チコさんはこれまでサダル氏の代理をという立場でここまで来ました。ユラス全議長の立場以外は基本チコさんがこれまで役割を代わってきました。」

このことに関する説明も、サダルが戻ってからリーダーや役職のあるメンバーたちには詳しく説明してあった。

チコが嫌がるからという、至極個人的な理由で全体にはしていなかっただけである。サラサは組織申請する前に説明責任があると言ったが、それなら事務局は任せると断固拒否した。


「チコ個人の名であるものは、エリス氏と連名のこのアーツベガス総事務局長だけです。」

全員が静かになる。

「なのでサダル氏がアーツに関わるかは分かりませんが、チコさんの立場はどれも他と連動して動くかもしれません。もともと、チコさんはサダル氏の全代理という立場でユラスから行動を許されているからです。」


少しややこしい言い方になっているが、つまりチコは本来サダルの代わりでしかないのであり、そうでしかすべきことを許されていないのである。

アーツを立てる時も、カストルをやエリスを通じて、これまでの業績がありアジア圏だから許されただけであった。ユラスとしてはチコの比重をアジアに置き、いざとなったら手放す意図もあったのかもしれない。



「そして………最重要項目ですが………

サダル氏は全く冗談が通じません。」


一同、はい?と思う。


「テキトウとか、不完全とか大っ嫌いです。そういう人は消されるかもしれないのでよろしくお願いいたします。」

「え?」

思わずシグマが挙手する。

「俺ら、ユラス人でないから関係なくないですか?」


「まあ、そうです。ただ、チコさんの下にいますからね。とくにアーツ第1弾はチコに全て従う話で来たでしょ?ユラスではチコさんのものは全部サダルの名義というか…とにかくそういう約束なんです。東アジアでもその約束を取り付けています。」

うーん、そういえば何でも言う事を聞きますという話で来ました、と南海広場で追いかけっこをしたメンバーは思い出す。契約書とか書いたっけ?


「はい!」

また元気に挙手をする。

「どうぞ、シグマ君。」

「どのくらい冗談が通じないのですか?」


「最近見ないので忘れているかもしれませんが、藤湾学校代表のカーフ君。彼の100倍くらい通じません。」

「………。」

「カーフはまだ愛嬌がありますが、議長は愛嬌もありません。」

分かりやすいような………分かりにくいような…。


ジェイは思う。カーフはヤバい……。冗談が通じないどころか、冗談かも分からない笑顔で、一般人にオミクロンやメンカル式接近格闘術を教える男である。カーフよりヤバい奴がいるのか。


「サダル氏のイメージを恐怖に染めるつもりは断じてありませんが………

軍内で不貞を働いた人間を、法的にユラスで最も厳しい刑務所に送ったことがあります。死刑の方がまだいいという場所です。」


全員しーんとする。


そういう世界がよく分からない平和なラムダや一部女子は、刑務所なら死刑よりいいんじゃない?と思ってしまうが、そんなことはない。法治がまともに働いていない地域の刑務所は思った以上に恐ろしい。


「サダル氏がいた頃のユラス軍上層部は、マフィアより怖いと言われ、彼らが歩く度に周りは頭も上げずに固まっていました…。」

「………。」

なんと答えていいのか分からない。


「はい!」

「どうぞ、キロン君。」

「議長は強いんですか?」

「どういった意味の?」

「フェクダさんたちに近い?カウス級?チコさん並みですか?」

「強さ?強さはアーツのBチームくらいかな?兵役経験はありますが、別に戦闘軍人でも元戦闘軍人でもありません。指揮官ではありますが。」

そうなのか。と一同がっかりも安心する。それだと一般的にはかなり強いが、ユラス軍ではそろばん4級くらいだろうか………とクルバトが分析した。今いる駐在メンバーよりは強くない。ただ、軍の指揮官ってこと?それは軍人そのものでなくて?と、少しヤバさに気が付く者もいる。全議長だろ?


「とにかく皆様、服装を整えて品行方正、無宗教の皆様もこの時だけは何教でもいいので敬虔に天に仕える心で生活………生き延びてください…。」


と、締めるサラサ。踏み絵の反対である。アーツは雑教気味であるが、完全無宗教主義な人間もいないので問題はなし。いちいち世の流れに逆らうほど自己に信念のある者はいないのである。とくに第1弾。



そして、誰かの着信を取る。

「事務所掃除終わったの?!早く!!」

アーツに向き直って挨拶をする、

「ではお仕事学業頑張ってください!!」

サラサは壇上から電話であれこれ指示し、みんなに叫びながら撤収して行った。



内心、「だから、どうすればいいの?」というアーツの皆さん。


「とにかく、こちらは気を引き締めていつも通り過ごせ。それしかないだろ…。」

サルガスが考えながら言う。サダルはアーツの身内になるのか、関係組織のただの一員になるのか。ただ、ベガス理事区域の長でもあるので住民として関係はある。


全員「そうだよね。それ以外どうしようもないよね?」と思いながら、それぞれの週明けをスタートさせた。




***




サダルはその日、ユラスから一緒だったお付きとカウスとレオニスを付け、一番最初に東アジア軍の慰霊塔に向かい、祈りを捧げた。


それから正道教中央教会とユラス教会で祈り、待っていたエリスたちにも挨拶をしてSR社に黙秘で入った。


午後にベガス入り。今度はベガス慰霊塔に祈りに行き、駐屯軍と合流し藤湾学生たちに講話をする。ベガスには現在、400人ほどのユラス軍勤務と元関係者がいる。そして、東アジアのベガス関係者と会合をした。



「……チコ、何してんの?」

思わず聞いてしまうサルガス。

「行かなくていいですか?チコさんの仕事っスよね。」

タウも呆れる。仕事放棄ではないか。


事務局のプライベートブースのソファーの背に、なぜか顔をうずめて寝ているチコ。

「あ、ちょっと体調不良で。」

「家に帰ったらどうです?」

「家はダメだろ。」

なぜ、家はダメなのか。


「あ!河漢手伝おうか?今日、どこ洗う?西南洗うなら手伝うけど?あそこヤバい所だろ?」

「いいです。間に合ってるので、病人は寝ていてください。」

しかも洗うとか、チコの頭はどうなっているのか。確かに河漢西南はヤバいが、今行く場所でもない。


「総長、西区南海自治長やベガス自治区域長補佐がチコさんがいないからと少し困っていましたよ。早く行って下さい。」

サラサが顔を出した。

「サラサは会ったのか?」

「私はまだです。いい加減腹を決め……。チコさん?!」


チコの様子に驚く。本当に蒼白な顔をしていた。

「…大丈夫。少し経てばよくなる。」

家は嫌だったし、家に帰ったら本当に出られなくなりそうだった。

「チコさん、ここにお水と栄養ドリンク置いておきますね。」

イータがそう言って、チコに毛布を掛け少しの間背中を擦っていた。




***





……………



…………ドン!





……。


数か所で大きな爆発音がする。


目の前で誰かの肉片が飛ぶのが見えた。と、同時に「ゼタ!」と声がして誰かがチコを覆う。近くでもう一発何かが小さく爆ぜる。


ゼタはその時の前線でのチコの名前であった。


チコを庇ったその人の頭、肩から背中までが焼けている。

「クソ!」

チコは、自分を庇ったアセンブルスを今度は自分が庇い、爆発の隙に目の前に入って来てナイフを振りかざした男の頭を蹴り地面に叩きつけた。




普段、襲撃以外でこれほどの接近戦をすることはまずない。

それは敵の中心にこちらから入ったに他ならない。


数人の少しおかしな様子の子供と成人男女を確保をし、強化タイプのヘリに乗せる。誰かがサダルにも乗れと指示を出したが「まだ仕事がある」と断った。


第1機が先行出発。

相手の装弾を打ち落とせるメンバーが飛行兼用バイクで安全圏までヘリを保護する。


その他の目的は、この研究所にあるデータの移行と不要な物の破壊。そして保冷室の冷凍設備であった。


「そこはもういい!データだけ取って全て破壊しろ!」

そう指示し、チコは予備作戦に変更の指示を全体に出そうとしたが、もう一人の男がそれを止めた。


そしてその男は、ゴーグルを上げカウスと同じ色の瞳を見せた。一度だけチコをギュッと片腕で抱き寄せ、お互いのファイバーメットの越しにおでこを付けて何か祈る。チコは戸惑う。

「………?」

気が付くと、後はその後姿しか見えなかった。




いつだろう。長い黒髪の男の子が見える。


彼は霊園の中にある、ユラスの人々に愛される木の下で何か祈っていた。

大切な人を亡くしたのだろうか。


そこに遺骨の粉を巻いていた。

悲しみ?


それとも…。


でも、顔が見えない。





……ここは?


荒涼とした土地に合わない立派な施設。

あの頃はこの外がどこかすら知らなかった。


ああ、そう。破壊したはずの研究所だ。ならいつ?時間が戻ったのか?


違う。

どこ?


それとはまた別の場所?でもラボであるのは確かだ。



長い黒髪の男がキレイなバターブロンドの女性とキスをするのを、なぜか自分は黙って見ている。

でも、男はキスそれ以上を拒んだ。




そして見える。


その子供は?

誰?


その長い黒髪の男の後ろに、小さなくすんだプラチナヘアの男の子がひょいひょいくっ付いている。

あなたはだあれ?と聞きたいのに聞くことができない。



()()()は私の夫だから。私には教えて頂戴。



と思ったとたん、振り向いた子供は、吸い込まれるような丸い目をした小さな亡霊だった。


ひっ!

と、差し出した手を引っ込めたが小さな亡霊は歩き出した黒髪の男、サダルをまた直ぐに一生懸命追いかける。時々転んで、服を整えて。サダルは追いかけられていることに全く気が付かない。小さな子は大きな歩幅で歩くサダルに向かって走っていく。


あまりにもかわいくて、あまりにも愛おしくて。

抱きしめてあげたいと思ったら、ガン!と誰かに後ろに押され、壁に頭をぶつけた。




周りを見渡すとたくさんの男女のユラス人に囲まれていた。


何の声か分からないが、自分を罵倒しているのは分かった。飲み物や地面の土を掛けられ気持ち悪い。


かわいそうだと群衆から助けてくれたユラスの夫人たちも、着替えをさせてくれ髪を拭き、場が落ち着くと懇願するように自分に言った。

「お願いです!お願いですから………」


自分は分かっているとしか答えることができない。時が来たらそうしますと。


その時、ダン!と扉を開け、女だけの部屋に入って来たワズンに女性たちが悲鳴を上げる。けれど、ワズンは構わずにチコの元まで来て引っ張ると、外に連れ出していった。





………。



……チ………?



……………チコ…?



「っ!カフラー?!」

ガバっと起き上がる。


「チコさん。大丈夫です?」


チコが目覚めるとイータやムギ、響が心配そうに覗いている。ものすごく汗をかいていたので、響がタオルで拭いていた。

「チコさん、辛かったらまだ寝ていて。」

「いや、いい。」


「チコさん。旦那が帰って来た日に、他の男の名前を呼んで起きるのはやめてくれます?」

「っ?!」

後ろに来たサラサが冷たく言い放つので、さすがのイータや響もビビりまくる。

「勘違いするようなことを言うな!親代わりで教官だった人だ。」

「………。」

イータと響は苦笑いだ。


「サダルは来てる?」

チコが聴くと、サラサはスケジュールを報告する。


「今夜7時にVEGAとアーツは集合です。」

「…。」

少し考えてから、チコはあきらめたように決意した。




●チコに何でも従う弟子と決意した時

『ZEROミッシングリンクⅠ』 15 弟子にしてください×36

https://ncode.syosetu.com/n1641he/16

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ