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ZEROミッシングリンクⅡ【2】ZERO MISSING LINK2  作者: タイニ
第十三章 交錯するユラスとベガス

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75 ユラスの端から



「スマートカジュアルってあるけれど、どれくらい崩していいの?」


今夜招待を受けた友好会パーティー。ドレスコードがあるらしく、悩んでいるリーブラ。


リーブラが聴くと、ファイやライが説明してくれる。

「リーブラは普通におしゃれしていいよ。少しかしこまったきれいな感じで。」


響は西アジアの子たちに現代風民族衣装を着せられて、髪を結っていた。西アジア内陸の衣装である。

「ねえ、響はどっちが合うかな?濃色?淡色?どっちもイケるね…。」

「私は普通のゲストだから、洋服でいいよ。浮いたら嫌だし…。」

「ダメです!」

部屋の子たちが許してくれない。


「ムギは?」

「私は行かない。」

「えー?なんで?行こうよ!ファクトも行かないって言うし!」

それを聴いたリーブラが早速電話する。


「ファクト?あんた何のつもり?あんたは強制参加だから!」

『え?行かないよ。俺大学生じゃないし。ドレスコードとかめんどいから。』

「何言ってるの?!!拒否権ないから!簡単なのでいいからスーツぐらい持ってないの?!」

そのとき電話の向こうで誰かが割り込んだ。

『あー!行きます!!藤湾の第3エリアの迎賓館ですよね?!』

目ざとい男、妄想チーム書記官クルバトがキャッチしたらしい。新しいキャラ開拓に行くのだ。


ムギの方にも着信が入る。

「はい。」

何か話していたムギが、突然弾んだ声でいう。

「……分かった!行きます!」

そしてみんなの方に振り返る。

「やっぱり私もパーティー行く!でも、今から行くね!」

「え?」

そう言って、周りが戸惑っているうちにムギは出て行ってしまった。


「どうしたの、ムギ?」

「さあ?」




***




午後6時。


学校で開かれる友好会というから簡単に考えていたが、食事もホテル並みで、想像以上にしっかりしたパーティーであった。料理の半分は移民の学生たちが作っているらしいがプロ並みだ。


ノーネクタイでもOKだが、男性はスーツか民族衣装を着ているし、女性も同じく美しく装っている。

そして、東アジアのノリで言えばこのパーティーは全くもって学生の世界ではなく、完全に大人の雰囲気である。着物で来ても浮かなかったくらいだ。実際招かれた主要な女性ゲストたちは、それそれの地域の民族衣装を着ていて、そこにユラスの長身で秀麗な男女も混ざると、別世界を見ているようであった。


ちなみに大房のパーティーと言えば、大人でもわいわいクラブのノリである。場違いすぎる。



ゲストも外務や交易関係の人物も招かれ、様々な挨拶が終わる頃にはファイやリーブラは少し疲れ切っていた。


そして、乾杯の後に様々な催しが披露される。

楽器演奏やダンスが披露され、その後に1組のカジュアルスタイルの男女が、この前の練習動画で見たようなステップダンスを始めて雰囲気やノリを作り出すと、どこともなく手拍子が起こり、ほどなくして数人が加わりホール中央はダンス会場になっていた。


「しばらくはこんな感じ。踊ったり休んだりして、もっと終盤にラウンドダンスになるの。」

ユラスの子が教えてくれる。

響は大学の先生たちと話していて、助手であるリーブラも手招きで呼ばれ付き合わされている。研究室の学生たちもそれぞれ話しているし、ファイはいろんな民族衣装を間近で見せてもらい、衣装の資料のために写真を撮らせてもらっていた。



少ししてリーブラやファイ、学生たちが合流する。

「先生は?」

「あっちに捕まっている。」

1人が指を指す方を見ると、響はユラス人ナオス族の特徴のある青年男子二人にやけに近寄られて話をしている。

「何だろう?また気に入られたのかな?」

「やっぱり響先生モテるよね。」

「あのストレートの長い黒髪がオリエンタルに見えるとか?」



「そういえばファクトは?あいつ逃げやがって。」

リーブラが怒っていると、簡単にスーツを着たクルバト、ファクトが入り口付近にいた。しかも、誰かに捕まって話し込んでいる。ファクトは少しスーツに着せられている感がある。


「いるじゃん!」


「あ!リーブラ!」

クルバトがリーブラに気が付くと、2人してみんなの方に来た。

「なになに?あんたら、もっと普通にスーツ着こなせないの?」

この二人、ややフォーマルなパーティーというよりは、タイトスーツで完全にどっかのバンドである。アーツは何かのためにという事で、一応全員スーツも準備しておくように言われているが、ファクトは学生の上に成長期なので持っていない。

「レーウに借りた。」

身長180と少しのアーツメンバーからスーツを借りたようだ。少し大きい。

「似合うじゃん!」

研究室の学生たちが盛り上がる。完全にライブハウス上がりだが。




その時、他の民族衣装と少し違う正装をした女子が会場入りしてきた。


ぱっと見た感じ、薄褐色肌で南ユラス人に近いが、服は北西アジア寄りで他のユラス人と雰囲気も少し違う。

「あ!」

リーブラが驚く。

なんとムギがエスコートしていたのだ。


二人が横並びに目を合わせ、笑いあいながら入って来た。ただムギは普段着である。


そのままホール中央に出て行くと、ムギが手を離して見送った。


その女子は一枚の大きなショールを腰から外し、それを手飾りに踊り出した。軽やかに踊るが、北西アジアのきっちり着込んだ衣装に重厚なダンスである。何人(なにじん)か分からない少し風変りな様子に、多くの人が注目していた。


「ねえ、ムギ。あれ誰?」

興味津々のファイ。

「お友達になったの。」

「いつ?キレイな子だね。」

リーブラが見惚れる。


その女子は中盤からショールを離し、腰に下げていた大きな剣を掲げる。非常に美しい線を描きながら、ホールを舞った。

「お!あの剣、本物?」

それまで無関心で料理を食べていたファクトが初めて注目する。


「本物だけど、刃は丸めてあるよ。さすがに。」

ムギがそう言ってじっと眺めている。

「どこの地域の?」

クルバトも楽しい。

「北東ユラス。文化的には北西アジアでもあるかな。」

いや、見た目はレサトたちよ同じ西南ユラス人っぽい風貌だが…と一同は思う。南の強い混血児か?



一通り終わると、大きな拍手が湧いた。


少し集まってきた人たちと話をした後、その女子はムギの方にやって来た。場の雰囲気が変わったついでに響も戻って来る。


踊っていた女子が響たちの方を見る。

「ムギのお知り合い?」

「うん。学校とか、寮とかの。」

その女性はムギとハグをしてから、響や学生たちの方に向け、きれいに胸に手を添えて礼をした。

「皆さんこんばんは。初めまして、ザイタオス・ニッカと申します。ユラス北東のイソラ出身です。」

「初めまして。ここの講師で響と言います。」

みんなそれぞれ挨拶をするが、ファクトだけ向こうで飯を食っている。


「あいつ子供なの?同じ歳なのに。」

ムギがため息交じりに言うと、あまりの違いにみんなが驚く。

「え?ファクトと同じ歳?!」

「私、ここでは年齢は高3になるかな?」

ニッカが優しく笑うと、幼さに凛々しさも秘めている感じがする。精神年齢がファクトと全然違うのだろう。


「ファクト―!ちょっと来なさい!」

響が呼ぶのでファクトが料理を持ったままこっちに来た。

「こちら、ムギのお友達だって。」

「あ、どうも。ファクトって言います。よろしくお願いします。ムギがお世話になっています。」

「…なんでファクトにそんなことを言われなきゃいけないんだっ。」

ムギが怒るが、ニッカは不思議な顔でファクトを見た。

「………初めまして。ニッカと申します……」

先までのキレイな笑顔でなく、ポケーと見ている。

「…ニッカ?どうしたの?」


「………あなた…。ゲテモノ………あ、うんん。珍しいものに好かれます?」

「は?」

言い換えても聞いてしまった。ゲテモノとは?

「あ、変わったものに好かれやすいタイプですね……。」

クルバトとファクトは顔を見合わす。

「何の事?」

ファクトはそれだけ言って、先の剣が気になったのでニッカの服装をチラッと見て、剣のことなど聞いてからまた料理の方に戻って行く。クルバト的には、ファクト自身が変なのであまり気が付かなかったが、確かにファクトの周りには、珍しい人、変な人が多くいるな、と思った。



ニッカは去って行くその後姿を眺めているので、ムギも不思議そうに二人を見た。




***




その頃、住まいがアーツと近くなってしまったロディアは、バイクで寮に戻って来たサルガスに会ってしまった。


「あ、先生こんばんは。」

「サルガスさん!こんばんは。」

「…あの、この前はすみませんでした…。」

「この前?……」

「あの、父が……」

「………?」

サルガスは意味が分からないようだ。


「この前のアーツさんの打ち上げで…ウチの父が…。」

「……酒飲んで絡んだ時?いいよ、あんなの。もう忘れてた。」

ロディアは軽い様子に驚いてしまうが、サルガスがいいとしても学生にも絡んでいたのも気になる。

「あのキレイな子に父が何て言っていたんですか?」

「キレイな子…?」

エリスの娘の事かと思い出すも、自分の事なので言いにくいサルガス。

「まあ、なんというか、お嬢さんにまだ結婚は早いみたいな話を…。」

言葉を濁す。


ロディアは、父はあの子がサルガスに惚れているのに気が付き、サルガスはダメ、うちに来てほしいから、君はやめなさい、みたいなことを言ったのだろうと確信する。あんなキレイな子になんてことを言うのだろうと思てしまう。しかも子供でなくれっきとした成人女性だ。

「はあ…。」

「大丈夫だよ。酒の場だし。周りも深く考えていないよ。」


そうは言ってもロディアは疲れていた。

「私は…惨めです…。」

「………」


「ただでさえ足がこんなふうで、地味で散々男性に邪険にされたのに、キレイな子に好かれているサルガスさんに話を振ることもないのに…。二人ともお若いし…。」

「………。」

サルガスはなんと言えばいいのか分からない。しかも、あの風景を見て陽烏(ようう)の様子に周りも気が付いていたのかと少し恥ずかしい。


「………あのさ…」

「…いいんです。これはもう私の気持ちの問題ですね…。ただ、父にも分かってほしかっただけです。いつもさらし者みたいで……」

「でも、若い子って言っても、ロディアさんから見たら俺は若いのかもしれないけれど、俺から見たらエリスさんの娘さんもちょっと若過ぎるから…。」

サルガスが笑って、でもすまさなそうに言うと、ロディアも笑って会釈し、アパートの方に帰っていった。




***




その週明け。



アーツ。そしてベガス全体に大きなニュースが知らされる。



本来のこのベガスの総長、サダルメリク・ジェネス・ナオスが突然ベガス入りすると連絡が入ったのだ。


「マジ?何の話?」と思うアーツ。

ユラスでの仕事を処理してたら、早くても3か月後、遅ければ来年辺りに視察に来ると考えていたベガス駐在ユラス人たちも焦る。


既に入国して、アンタレスに入っているらしく、警備のために何人かの人間が先に動く。最初に知らされたユラス軍は命令を受ける前に、護衛という名でチコに付いた。


そしてそれは、アーツの想像以上に緊張した雰囲気に包まれたのだった。




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