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ZEROミッシングリンクⅡ【2】ZERO MISSING LINK2  作者: タイニ
第十三章 交錯するユラスとベガス
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72 次のステップ



『ファーデン・リプス』


「中央区西側のストリートダンス草創期を作った人物の一人です。ウチのダンスチームは全員知っています。」

イータが簡単に説明する。


「正確にはダンサーでなく歌手ですね。

昔は東の方がダンスは強かったんです。でも、移民で受け入れてもらえなくてステージに立てなくて、そしてストリートに入ってたくさん実績を残した…て感じかな?」

「そうだな。ダンスの事はよく分からないが、リプスの子が大房に入ったんだ。パイは女系列のリプスの曽孫だよ。」

エリスの言葉にみんな驚く。

「リプスの時代はまだ全遺伝子情報がないから確定に近い予測としか言えないが。」


「本人は知っているんですか?」

「知られたくない人の子供だったのか、リプスが自分の子供を手放しているからな。その孫は多分知らないだろう。リプスもけっこう若く衰弱死で苦労をしているから。」


「え?そんなのパイのために、わざわざ人に聞いて調査したんすか?」

ヴァーゴは何でそんな事分かるのだと聞きたい。

「親の、親の、親の親…の親辺りまで追った。視えるから…。」

「は?」

「パイの母親から5代ぐらいずっと母一人親で苦労している。男に対する怨みが多いな。」

青ざめる一同。呪われそうで見たくない。



「で、それと俺が何の関係があるんですか?」

疲れ切ったサルガスとしてはそこである。


「リプスの子供の父親の子孫とか。」

「捨てた男の子孫か。」

シャウラやヴァーゴが言ってみるが、冗談が通じない段階に来ている。

「マジやめろ……」


エリスが答えを言うように尋ねた。

「サルガス、君の姓はなんだ?」

「ドラゴです。」

「それはドラゴンだろ?」

「はあ、そうなんっすかね?それが?」

「そんな姓を持っているのは、()()しかないだろ。」


タウが答える。

「マフィア?」


「ご名答。」

「はーーーー。」

遂に顔を伏せる…が反発する。

「一介のしがないサラリーマン家庭です!」

「サルガスの曽祖父の代で離脱している。」

「は?」

「喪と青龍だよ。」

「は??」


「曽祖父がリプスの子を預かって、養子先を見付けてあげた。

で、土木や不動産関係の仕事をしていれば知っていると思うが、だいたい前時代の東アジアはマフィアとかが土地や一部インフラを仕切っていたんだ。サルガスの曽祖父は大房管轄だな。」

「ホントの話ですか?」

「これは組織に確認したので本当だ。」

どこの組織に確認したのだ。恐ろしすぎる。正道教、なぜそんなところに伝手がある。


「それで、その人が結構先進的な人だったらしくて評判も良く、むしろ当時の組から正攻法で行こうと足を洗ってその後大房理事会長になったらしい。だから離脱するときも珍しく揉めなかった。なので正確には元マフィアかな。大房がいいとは言えないが、河漢のようにならないよう、うまくまとめていたらしい。」

つまり、中低所得層地域ではあるが、サルガスの祖父母を中心にスラム化、無法地帯化は防いだのだ。もちろん、もともと商売上手だった移民の質もある。

「え?それうちの親父、知ってんすか?親父のじいさんの話だろ?」

「おじさんからも、ウチの親やじじいからもそんな話聞いたことがないよな?」

ヴァーゴも知らない。


「まあ、今度聞いてみろ。」

「……」

親とは仲が悪いとも言えないが疎遠だ。


「そんな過去があって、狙われたりしないですかね?」

サルガスが心配になる。

「新時代になって、世界中の組織自体の根本的な質が変わってるしな。まあ大丈夫だろ。」

霊性が変わった時代に切り替われなかった組織は、だんだん消滅していくか形骸化していく。


「マフィアが私たちを知らないと思うか?他人の土地に入るわけだからな。アジアに入ってくる前からお互い話はしてあるから安心しろ。」

当たり前のように言うチコ。

銃どころかマシンガンやランチャー、ミサイルを相手にしてきた上に自分たちでも所有し、素手で戦闘用ニューロスを破壊する誰かさんがいるのはこちらの組織だ。話し合いというか脅迫したのではないか。向こうも攻撃してくるわけがない。

「コマや戦車や戦闘機とかもあるから。東アジアに持って来れないのが難点だがな。」

怖すぎる。




「リプスにお店を紹介したり、タダでステージを準備したりもしたらしい。メカマニアが集まる土地から、その代で大房のストリートスポーツの原型ができたんだ。そういうのでパイがくっ付いて来ているのかもな。」

「…。」

霊性に惹かれてきているのだ。


「で、採用するんですか?パイ。」

イータ、そこが最後の核心と聞いてくる。

「……」

しーんとする。


「リプスの曽孫だぞ。すっげースター性があるかもしれんぞ。」

「あいつ、歌はうまいしな。実際。」

「無視したら、あとで『ベガス、才能を見落とした』とか言われそうだ。」

パイはダンスも歌もそつなくこなすが、性格はちょっと能天気で高飛車で男に頼りたいタイプである。


「アーツに来たらサルガスの心労が増えそうだ。」

「タチアナが言っていたが、もうハゲを気にしているそうだな。」

(ひい)じいちゃんに不条理を訴えて霊気を貰っとけ。」

実際、今、サルガスは横でぐったりしている。


折角女性にモテるのに、喜ぶどころか萎えまくって、平均以上に筋力体力もあるはずなのに、お前20代の男なのか状態になっている目の前のリーダーに、さすがにチコも何か感じるのか。

「ちょっと考えておく…。」

とだけ言った。




***




その週の土曜日のミラ藤湾。

響たちは研究室ではなく、小さなホールの教室を借りて集まっていた。



研究室の学生たちやリーブラ、ファイ、ファクト、ラムダ、ムギの他、呼ばれたキファもいる。土曜なのでクルバトやティガも遊びに来た。


「キファさんを呼ぶのは不本意ではありましたが、うちに来てくれる人で1番ダンスがうまいと聞きお呼びしました。」

学生男子の言葉に、不本意なら呼ぶなという顔をするキファである。


「わー!キファ君ありがとう!」

響がスポーツのできる格好でホールに入って来た。

ブカブカTとレギンスにさらに短パンである。色気もないが、「(くく)ってある髪にチラつくうなじが好き!」とファイはアホなことを言っている。

この前、農家のおばちゃん響を目撃したティガは、西アジアや中央大陸の社交ダンスなのに子供のランニングスタイルみたいな格好で来た響を見て、一人で笑いを押し殺していた。これが見たかっただけである。


「というわけで連絡しましたが、ウチの研究室。文化部の西アジアやユラスの子たちのパーティーに呼ばれまして。なんかみんなでするホールダンスがあるとかで、ステップとか教えていただけたらと思って!」

学生が説明する。

実は最初の指導はファクトにお願いしたのだが、この男。

何も考えずに見たまま動いているらしく、全然指導に向いていない。「こーして、こう」という、その「こーして」を説明してくれ!というのに、「なんとなくやってるから、えっと…分からない…」とか言ってのける。それで仕方なくキファを呼んだのだ。


「先、キファさんたちのCF(コマーシャルフィルム)を見て感動して!!ダンスができるんですね!」

ファクトやファイが、MV(ニュージックビデオ)でバックダンサーをした時の映像を学生たちに見せたらしい。

「ただの変態な響先生の追っかけだと思っていました…。すみません………」

「全然うれしくないんだけど。」



まずみんなでユラスのダンス動画を見る。

ユラスの1番基本のダンスはステップが主流で、手は広げたり掲げたりするくらいだ。


「私はこれならできるかな?」

学生女子は、何度か見ながら真似るとステップはできてしまった。

「スジがいいね。むしろ君が教えられるんじゃない?」

キファが褒める。

「社交ダンスしてたんです。でもすごく型が違うから自信がなくて。」

「社交ダンス…?」

白くなるキファ。


そこにリーブラが詰め寄る。

「キファ、克服するんだ。ダンスに罪はない!」

「あ、ごめんさない。社交ダンス嫌いですか?週2でちょっとたしなむ程度だったんですけれど。」

「ちょっと昔のトラウマが…。」

キファは超過干渉ママに、子供の頃全ての夢を託されて社交ダンスをさせられていた。そして逃げた。


「手慣らしで少し踊ってみたら?」

ファイが言うと、響も反応する。

「見たい見たい!」

「ブランクがあるから…」

「いーから見せなよ!」


リーブラが学生女子とキファをホールに立たせる。しかし、母を思い出ししゃがみこむキファ。

「はい立って!」

引っ張り起こそうとする。

「そんなに嫌ならやめましょう。」

学生女子もそう言うし、響の方を見ると心配そうに見ていた。


しゃがんで伏せたまま悩んでいるが、キファは立った。

「いい。やろう。」

キファ的には、せっかくのこの変わり目だった1年でもう少し何かを変えたかった。体幹はこの1年で大きく変わった。となると、あとは心の部分になる。


「久しぶりなんですよね。じゃあこの短い動画の、基本ステップ…。ワルツでいいですよね。これならできそうですか?」

女性学生と動画を確認する。

「…たぶんいける。」


数回動画を見て、少し練習している。

「音楽流します?」

「流そう。」

ファクトがそう言って準備しようとするが、リーブラがサッサと止めてAIにお願いする。ファクトに任せるとろくなことをしない。


みんながワクワク見る中、Tシャツにパンツスタイルのキファと、スカートタイプのスポーツウェアの女性学生がホールに立つ。キファはいつになく強張っていた。




少し位置と動きを会わせてから、OKの合図。

AIが音楽を流すと、女子学生がリズムに入り流れをリードする感じで始まる。


「…1、2、はい。」

で、構えているキファに3歩で静かに歩み寄って組み合うと、123、123とナチュラルターンを進んで次のステップに入る。


少し緊張しているが、小さなホールに大きくターンが繰り広げられ、ジーと見ているムギ以外の全員から感嘆の声が漏れた。

「すごい!キレイ!」

ファイが手を叩く。同じステップを繰り返すだけの単純な流れであるが、キファが動くとそれなりに形になる。


ダンスが1分を過ぎたところで、キファの動きが変わった。

初めは女性に歩幅を合わせられなくて相手が急いで動いている感じだったが、女子学生が顔を見上げると、もう冷静な顔で明らかにリードがキファに代わっていた。


ノッてきて体が浮くようで楽しい!と、女子学生が思った瞬間、2分もない基礎ステップが終わった。

ワーと拍手が起こる。


「はーーー。」

キファはその場にしゃがみこんで前髪を掻き分けた。




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