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ZEROミッシングリンクⅡ【2】ZERO MISSING LINK2  作者: タイニ
第十三章 交錯するユラスとベガス

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71 心地よい通路



明るく照らされた大競技場の周囲を歩く響。


「響さん、戻んないの?」

ファクトが聞くが、もう少しというのでその後をまた歩いていく。


すると、横の方から声がする。

電話をしているタラゼドだった。


お互い見付け合って足が止まる。


「……だから来たっつーの。うるせえなあ。」

タラゼドは電話に言い放つと、着信を切って2人の方を見た。

「響先生、ファクト!」

「タラゼドさん…。」

ファクトから響の顔は見えないがなんとなく浮き立っているのが分かった。


「もしかして宴会もう終わった?」

「まだです。」

「先に帰るの?俺も帰りたいんだけど、ファイがうるさいから顔だけ出そうかなと。」

「タラゼドさん、最近顔も見ないのに、みんなに会わずに帰るつもりだったんですか?」

「今日、改装屋の方でも会合があって…。」

「………」


高校生の、しかもこんな男子高生から見ても響は分かり易いので、二人を置いて去ることにしたファクト。タラゼドに手だけ振って風に当たりに行った。



「……」

「…………。」

響とタラゼドは、二人で並んで食堂に向かう。

「…今ずっとリノベーションの仕事なんですか?」

「まあ。一応、ベガスや河漢事業の一環だけど。今、河漢からの移動先を作ってる。」

「……。」

「…先生は?」

「私は自分の研究室と病院の薬局と漢方科でインターンもしてるんです。医者になるわけじゃないんですけど、様子を知りたくて。」

「ふーん。忙しいですね。」

「うん…。」

盛り上がりもない会話だが、なんだか心地いい。


食堂に着くと、入ったとたんタラゼドはファイの方に行く。

「タラゼド来たじゃ~ん!こっちこっちー!」

「おい!何度も電話入れるな!社長が鬱陶しいからもう行けって怒ってんだよ!」

「そんくらい、いいのに!1時間以上そっちにいたんだから!」


入口にぽつんと残される響。


かわいそうだとイオニアが見てみるが、響はちょっとほわほわした嬉しそうな顔で、タラゼドやファイの方を見ていた。

はー、かわいいなあ、と思ってしまうし、タラゼドがあの調子なら押せそうな気もしたが、これ以上深入りをする前に帰省への決意を固めようと決めた。




ファクトは競技場でサッカーをしている人たちを眺めながら、デバイスを触る。


『ゴールデンファンタジックス』にログインするか、しないか。

しても「恵蘇乃(えその)」はブロックしているので意味はないのかもしれない。


あれから調べて、『恵蘇星(よそのほし)』がシリウスを指していると知ってしまったのだ。


それは旧教の名残でもある。

アンドロイドシリウスの発想、思想、宗教的ベースは聖典にある。世界の人に分かりやすい話ができるように、会話機能においては全世界で最も読まれ、最も共通とされている旧典部分がシリウスの思考ベースとなっていた。


なぜシリウスは自分にかまって来たのだろう。

開発した父や母に共通するものを感じたからだろうか。それが一番可能性が高い。



空を見上げると、スタンド照明がグラウンドを明るく照らしている。


この風景は好きだ。夜に照らされるライトの下で誰かがスポーツをしている。夜の澄んだ空気と、照明の粒子のような空気が合わさるあの感じ。空よりもグラウンドが明るい。


でも、空をじっと見つめ続けると、あふれかえる程のたくさんの星が見える。その星たちは気持ち悪くなるほど溢れて、距離感が分からなくなり、自分を通過していく。


ログインする前にサラサかチコに相談しようとデバイスを畳んだ。




***




まだVEGAと共通の事務局で打ち合わせをしているアーツ。


今のところ、サラサが顧問もしていることと、事務専門でを統率する人材がまだ弱いため一緒のフロアにいるが、近くのテナントにアーツの事務局を作る予定である。


「最終的には私は、VEGAとアーツの役職から離れる。」

チコが衝撃発言をする。


「サダルさんが戻って来たからですか?」

「それもあるけれど、役職が多すぎる。アーツは最終的にはアンタレスに留まれる人間に任せたい。」

「チコさんは留まれないんですか?」

「それ以前に私も専門性があるわけじゃないからな…。お金も人も動く世界だし、組織が最初のアーツメンバーより拡大したら、組織運営専門の人間に任せるつもりだった。」


サルガスやタウ、シャウラなどリーダーたちがうーんと考える。今日はヴァーゴも来ていた。

河漢とベガスはおそらく大きな事業になる。人はいくらいても足りない。尚且つ、VEGAはアンタレスだけでなく、人材が育ったらどんどん他地域にも派遣されていくので、仕事は終わることがない。


「でも、最終的に河漢は行政に任せることになると思いますけどね。」

街そのものを全部自分たちで作るわけではない。全くの新都市で新移民居住地であるベガスはある程度任されているが、河漢に至っては元々の行政や自治もありその手助けをするだけだ。



話し合いが続いていた時だった。


頭を抱えてげっそりしたエリスが入ってくる。


「おはようございます。」

「…おはよう。」

サルガスに気が付くと、うらめしそうに見る。

「はあ…。サルガスお前……。」


「え?俺ですか?…………なんかした?」

自分が標的と分かって戸惑うが、それ以上に周囲が驚く。


「は?!分かってないの?」

「何が?」

陽烏(ようう)ちゃん!」

「陽烏…?エリスさんの娘の事?もしかしておじさんたち絡んだのヤバかった?セクハラ?」

自分も含めてセクハラ扱いとかになったのだろうか。


「………。」

全員信じられない顔でサルガスを見る。


「どう考えてもサルガスのこと好きだろ!!」

何をボケているのだと、思わず言ってしまうタウに、何のことだという顔のサルガスである。

「まだ学生の子だろ?お前らまでイオニアやキファみたいな脳になったのか?今ミーティングだろ。少女な世界を勝手に作るなよ。」

呆れて言うサルガスに呆れて反論したい一同。


「昨日、陽烏も大学から河漢に参加したいとか言い出した…。陽烏はミラの学校開発に行ってほしいのに…。」

さらにエリスが落ち込み言い放つ。

「サルガス!絶対に陽烏に関わらないでくれ!」

「なら関わってこないでください。」

何言ってんだとエリスを見る。


「…お前のことが好きらしい…。」

本人ははっきり自覚していないが、見れば分かる。

「………。」

「……………」

「おもしろくないんすけど…。」

「おもしろい話などない。」

こういう冗談を言うタイプではないエリスがどんより言うので、やっと理解する本人。


「…マジすっか?」

頷く全員。


「…なんで…。」

青ざめるサルガスである。ちょっと世界が違い過ぎる。


正道教の人間は結婚まで純潔で離婚率も非常に低い。その中でも敬虔なユラス人にも関わっている、トップにいる牧師一家である。意味が分からない。こっちは大房である。


チコがため息をして口を開いた。

「多分、霊線を整理していた時からこういうことが起きるとは思っていたから…。」

「霊線?」


「まだ絡まっているけれど、霊性が変わると周りを取り囲んでいる世界も変わるからな。サルガスに力があると分かってくると、男女問わず人がやってくる。

普通の世界でもそうだろ?見た目が良かったり権力やお金があれば人が寄ってくる。今、サルガスはいくつかの物を持っているから、見た目で判断して寄ってくるものもあれば、霊性に惹かれて嗅ぎつけたり、無自覚で寄ってくるものもいる。アーツの地盤が固まったしな。」


「そうはいっても、ただの非営利団体だろ?」


「タダのじゃない。」

エリスの一言に、チコがさらに答える。

「私がいるという事は、バックにユラスがあってベガスがある。そして…まあいろいろある。」


決定的一言である。


ユラスは全民族で8億は越える。ナオス族だけも5億越えだ。そこからも人が出入りする。ベガスが成功すれば、第2のアンタレスともいえる存在になるのだ。


言えない部分はSR社やニューロス関係だろうか。考えてみれば、アーツには世界の宗教総師長のカストルもいるのだ。

既にここに、チコ、エリス、そしてアーツは知らないが、「(あか)」と呼ばれるムギやユラスでも信頼を得ていた元諜報員のサラサがいる。元々霊性基準が高いであろう陽烏が惹かれてくるのも、そういうものがあるのかもしれない。周り、強すぎる。


「マジか…。」

頭を押さえるサルガス。1年前は下町のタダのレストラン店長だったのに。


「チコはてっきり大房議員くらいの人だと思っていたから…。」

大房議員は、寝ててもできると言われている。

「お前な?最初ファクトを利用して取り入ったクセに何を言っているんだ?」

ヴァーゴはよく覚えている。


そうなのだ。1年前はファクトをダシにチコにお願いをしたのだ。働き口がほしいと。弟子にしてほしいと。

そして弟子になって、実質1年前とは全く違う自分になったともいえる。



先ほど馬鹿にされていた気がするが、ずっと黙っていたイオニアが口を開いた。

「じゃあ、響さんもなんかあるんっすかね?」

「響?」


「響さんはなんであんなにモテるんですか?」

ここではサイコスのことは言えないが、それも含めてチコに聞く。

「さあ?なんでだ?」

チコも分からないらしい。

「逆に聞く。なんでイオニアは響が好きなんだ?」


「え?かわいいじゃないですか。」

一同その他の答えを待つが、それ以外の話が出てこない。

「それだけ?」

「………最初はかっこいいだったんですけどね。」

「それだけ?」

「…それ以外になんかあります?」

「………。」

みんな考えこむ。キレイ目な普通のお姉さんである。



「その件でも来たのだが…。」

エリスが空間にデバイスを映し出した。

「ファーデン・パイ。」

大房の自称元カノ、サルガス大好きっ子だ。


「多分これかなと。」

映し出されたそこには、『ファーデン・リプス』の映像があった。


南ユラス人より濃い褐色の肌。地毛か分からないが、茶色の長いくせ毛をざっくりまとめている。

「もう亡くなっているが、大房に移民がたくさん流入した初期の人物だ。」


イータが言った。

「ジャズダンサーですね。」




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