69 フォーチュンズマート
誤字がいつもの如く多いのですが、重要な間違えをしていました。
中心舞台である「南海広場」。初期は「東海」でした。
ある時から突然「南海」になっていましてごめんなさい。このまま南海にします。
東海地方の東海から取りましたので、そのうちまた復活させます…。
南海広場の朝の喧騒を終えた、ジェイのコンビニ。
そこでリーブラ、ラムダは朝の一服をする。コーヒーだ。
ラムダは子供舌でブラックは飲めないが、試用期間にどうにか無糖ラテを飲めるようになった。
次のバイトの子がいるのでレジを任せて自分も一息するジェイは、感慨深く言った。
「ヤバい…。儲かり過ぎてる…。」
「そんなに儲かってるの?」
「この店だけで、1日120万越えてる…。」
「えーーーー!!」
「人口増えたからな…。」
「頑張ったかいがあったね!」
嬉しそうなラムダ。南海に3店舗、ミラに2店舗、藤湾校内にも大小3店舗ある。半分は無人だ。品出しも自動だが、仕入れ確認に行かないといけない。
「ただ、他にすごいニュースも聞いてしまった。」
「何ですか?」
「この前の婚活おじさん…。」
「ロディアさんのお父さんね。」
「『フォーチュンズ』のオーナーだった………」
「え!?」
驚くが聞いてみるリーブラ。
「『フォーチュンズ』って?」
「中央大陸以西の大手スーパーマーケットだ…。」
「中央大陸?」
「あーーー?!!!鬱陶しい!!ユラスとヴェネレ人のいる当たりの地域をそういうんだよ!基本的にはヴェネレから西だけど。」
「怒んなくってもいいじゃん!」
「話ができない…。」
そう、愛想のいいあの婚活おじさん。
娘と2人でアジアに来て河漢に出入りしているので、てっきりシステムや工事関係だと思っていたら、マートのオーナーだったのだ。ただ、本事業自体は兄弟たちと一緒に経営しており、商売向きな弟の子供たちにゆくゆくは任せるつもりらしい。
もともとは、アジア系の祖母が中央大陸や西洋で始めたアジアンマーケット。甥姪が非常に優秀で、他の事をしたくなった婚活おじさんは、旅行で知って楽しかったアジアのカフェ付きコンビニに惚れこみ、アジアに進出できないか狙っていたのだ。
なにせベガスも河漢も、東アジア企業があまり表向きにはすり寄りたくない場所。
ジェイたちのコンビニ以外、まだどこも進出していない。しかもジェイたちの店は、アジア最弱コンビニ…というより部分契約で一部仕入れをお願いしているだけの個人店だ。
けれど、作りかけの街を見る限り、商売の可能性どうこうの前に楽しくて仕方ないロディア父。小学校時代に『レッツ!僕のメイキングシティー!』というショボいタイトルの割に、超込み入った街作りゲームにハマった父は、ここで何かしたくてしょうがなかったのだ。
プライベートブランドは工場があるし、小型マートや駅中店は西アジアに進出しているので、お弁当や総菜は確保できる。デザートはアジアの工場を回って交渉中。それを知ったメンバーは、この婚活おじさんがそこまでの人とは…と驚きを隠せなかった。
そんな感じで、楽しくて仕方ないおじさんは、南海のオーナーやジェイなど数人と、この前少し話し合いをしたのだ。
二つのコンビニブランドを共存させていくか。
フォーチュンズに切り替えるか。
フォーチュンズもコンビニのノウハウをもっと育てるか。
それともとにかく先手を取って、他社が入る前に進出していくか。小型スーパーや駅中店のノウハウはある。
しかもジェイも、店長止まりでよかったのにおじさんの押しでなぜか経営を学ぶことになり、簡単ではあるが店舗経営の専門科に通っている。陰キャなので放っておいてほしいのに。折角なので、アーツの数人も一緒に参加だ。死にそうなジェイを支える役目でもある。実はロディアさんは、こちらでも単発で講師をしていて経理などを教えていた。
「ふーん。」
リーブラはオレンジモカをかき混ぜながら、ジェイたちが忙しくなって、こういう風にお話が出来なくなるのはさみしいなと思った。
***
そんな中、アーツ第2弾の全過程が終わった。
「リゲルー!これでお前とも一緒に仕事ができるなー!!」
超楽しいファクト。
「いやいや、お前は学校に通え。俺も基本は大学だ。」
リギルは顔と雰囲気が、もうファクトの父なのでは?いう出で立ちである。
「やっとシャウラに仕事が任せられるー!!!」
サラサも解放されまくっていた。
しかも、この第2弾は痛快であった。
なぜなら、男子中高生の憧れ、アンタレスのミッション系女子一貫学校。まさに昴星女子学校出身者がいたのだ。
その前を歩く男子は必ずチラチラ振り向いてしまうという、伝説を持つ女子高。それ以前に、敷地が守られ過ぎて校門の前にすら外部者は近付けないという…。倉鍵やその近辺の女子と違って、ハイファッションでも気取ってもいないまさにそんなお嬢様学校。
しかし…
その昴星出身女子、ミューティアは強かった…。
キックボクシングをしており、ハウメア並みの瞬発力と脚力を持つ。あっという間に接近格闘術をマスター。格闘技の有段を持っていたような人物以外、接近戦は男子も敵わない。しかも、頭もよく大学もさっさと卒業し既に河漢入りするという。
こちらもカウス同僚たちに、むしろ東アジア軍に行った方がよいと勧誘されていた。
思春期男子の玉が縮む様な蹴りを見せられ、昴星女子はなぜかクルバトノートに「キックの女王」の冠を誇ることとなった。
第2弾はそんな剛腕を数人抱えていた。
そしてまたまたなぜか、第3弾も既に40人近く埋まっていた。
「こいつらは何を考えているんだ?普通に就職すればいいのに。」
第3弾メンバーの資料を見ながらイオニアがぼやく。
なぜなら、第3弾は2弾以上に有名どころから来ていたからだ。
「アーツであれこれ学ばなくても、十分いいところで働けるだろ。しかも格闘技をしていたなら、そこのスタジオ通えよ。」
そんな人物たちが結構いる。どこかで軍人直伝の接近格闘術が学べると広がったのか。それ以外になぜアーツに来る必要があるのか。
「いいだろ。将来的にベガスや河漢に関わってくれるってことで。」
サルガスが資料を見ていく。
「これは霊視は全部終わったんですよね?」
「そのはずだけど。」
事務局のお兄さんが言うと、サルガスが少し戸惑っている。
「なんかあった?」
イオニアが資料を横目で見て吹き出す。
「あ゛!これはない!!」
「なんで、パイがいるんだ?!!」
「パイ?!!!」
下町ズが反応するので、事務局員が寄ってくる。
「パイ?」
「サルガスの元カノだ。」
この前「ツィーに会わせて」攻撃を受けたイオニアが引いてしまう。
「ええええ???」
事務局騒然となる。
それはイカン。
「元カノではないぞ。」
と、サルガスが加える。
「しかも、大房でツィー、ツィー言いまくってたからな。夜飲もう、今すぐ会いたいって感じで。」
イオニア、後で大事にならないように丁寧に教えておく。ここに来てサルガスを押し倒されても困る。
何とも言えない顔でサルガスは何か考えていた。
「何で霊視が通ったんだ?チコかエリスさんいる?」
今一番重要な部分にいるサルガスに対してこれはよくない。
事務局が電話をすると、数分後にチコが来た。
ふてぶてしくソファーに座って資料を見るチコ。
「…………」
そして顔を上げる。
「だって、お前ら繋がりないだろ?」
「………?」
繋がり。直接的に言えば、性行為があったかなかったかである。
悟った人から静まり返る、事務局共有スペース。みんなの前で言わないでほしいと思う、イータや自称純情な一部メンバー。まあ、今はリーダーと総務しかいないが。
「………ない。」
サルガスが言うと、下町ズが唖然とする。
「マジか!!!」
「うちによく来てたけど何もしてないぞ。飯とかは食ってたけど、放置していたら怒って去って行ったから。」
「パイは、前の彼女の代わりにされてムカつくから嫌いになったとか言ってたぞ。」
「…それは知らん。」
ここで、イオニアは察する。
サルガスの最初の彼女は、雰囲気が大人でとてもできる人だった。その別れた隙に入ったけれど、相手にされず。別れを切り出したら、追いかけてもらえると思ったのに放置された…。
そんな感じ?
「だからって、今パイを採用するのは馬鹿げている。やめておこう。」
イオニアが言い、サルガスも納得する。あのミニに深すぎるスリット女子をここで歩かせるわけにはいかない。タウも考えている。
「パイか……。」
そんなに賢そうには見えないが、それを言ったらアーツ第1弾も同じである。
チコが無表情で言った。
「でもこの子、いい子だろ。多分ずっとサルガスの事が好きで、それしかない。」
つまり、他の男性のところには行っていないという事だろう。
「ちょっと!そこまでプライベートをここで話すのはやめましょう!」
イータが止める。
「ごめん。個室に移ろう。サルガスの事に関しては、立場上ハッキリしておきたいからな。」
席を移して、もう一度チコが履歴書をじっと見ている。
「でもチコさん。この前大房に戻った時も会いたいってうるさかったんですよ。サルガス狙いっすよ。ベガスやアーツがどうのとか考えてないだろうし、敢えて採用する必要も…。」
「…サルガスは諦めてもらえばいい。サルガス、さっさと他の誰かと結婚してしまえ。」
うわっ。パイ本人の気持ちまで知ってひどい対応である。心ってそういうものでもない。
「エリスの霊視も通ってるからな…なんでだろ?何か入ったのかな…。」
入ったって、何がだ。と、みんな思う。
チコはスッと立ち上がった。
「カストルや他にも見てもらう。」
そう言ってチコは部屋を出て行った。